3月に読み終えた本は31冊。
その中からおすすめの10冊を紹介!
第10位。
『巨流アマゾンを遡れ』
クレイジー・ジャーニーで一躍有名になった高野秀行氏による体験記。読むと当時のアマゾン界隈の様子が鮮明に浮かび、そして旅行記として普通に面白い。未知の文化について窺い知れ、そしてブラジル人の陽気な気質やペルー人の妙な生真面目さ等、文体を通じて如何なく伝わり人間描写が巧みだなとつい思う。
道中におけるエピソードも面白く、その土地の魅力を存分に感じた。あとコカインに関する話も興味深く、コカに対するトリビアもあって、コカの葉は確かにガムのようにかみ締めている絵をみたことはあったが、正確には咀嚼なく飴のように舐める。そこに出る唾液を嗜めるものなのだと初めて知る。それが高山病に効き、感覚としては疲れを取るのではなく、疲れに慣れさせる、という感覚であるというのも初めて知った。
また各所寄った町についての記述も興味深く、ピラクルに関心が沸いたり、映画等で見る凶暴なピラニアはフィクションだと知れる。
本書は旅行記と同時に冒険譚。
思わず読み入ってしまう文章は魅力的であり、現地の香りや雰囲気の一端を嗅がせる様な具体性。読み応えはあって面白く、アマゾン川界隈に対する興味が自然と沸いてくる一冊。
期待通りの良本だった。
第9位。
『バーナード嬢曰く。: 2』
バーナード嬢曰く。 2 (IDコミックス REXコミックス)
- 作者: 施川ユウキ
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2015/07/27
- メディア: コミック
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実に好きな作品。その2巻目。
期待して読み、内容としてはやはり面白い。
そしてこの巻を読み終えまず思ったのは、アニメで使われた話が多かったなということ。なので既知感ある話が多く登場。
しかし内容自体としては相変わらずの勢いで、読んだ振りを自負してそれを誇る姿の気高さと滑稽さのバランスが実に秀逸!
あとはやはり神林さんのキャラが良くて微笑ましい。問われてすぐに三大奇書を言える辺りは「すげえな」と思い、本に関するトリビア知識が身に付く一冊。
あと村上春樹ネタがいくつか登場したのが印象的。
年度のSFランキング見て「半分も読んでないよ」といって、一冊も読んでないながらも、4割は読んだような振りをする口調を呈すまさに“叙述トリック”ならぬ“口述トリック”には笑う。
一巻ほどにはインパクトを感じなかったが、それでも充分に面白い。読書家は是非読むべき本で、大いに笑うはず。
第8位。
『男たちの風景』
諸星大二郎特選集 男たちの風景 (ビッグコミックススペシャル)
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2013/10/30
- メディア: コミック
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まず感想としては、凄いの一言。
10編から成り、最初の「彼方へ」はごく短く作品。次の「アダムの肋骨」は少し難解で分かり難く感じたものの、幻想的でありホラー要素を含めた心理学的な作品。ある種フロイト的にも思えた。次の「貞操号の遭難」もまたホラー色が強いながらも異星人を巧みに描き、SF要素も強い。そこでも新生物とその繁殖方法もまた独特であり同時に皮肉的。とすれば、これは貞操のなさを嘆く内容にも見える。次の「商社の赤い花」は傑作。読んでおいてハッとさせられ、そのアイデアには驚愕するとともに見事な結末。するとこの表題の意味もつかめては感慨深い作品で、端的に資本主義社会を批判するようにさえ思えるこの展開は、見事であり読み応えあった。次の「感情のある風景」もまた傑作!そしてこの作品は、以前に読んだ『漫画は哲学する』に紹介されていた作品であり、気になっていたので、本作はようやく読めたといった印象。そして読むとこれまた内容は深く、「感情を外に出して表現し、他人の感情が一目で分かる世界」というアイデアがすでに奇抜であり突出しているが、そのアイデアによって描く一人の男とその結末こそ確かに哲学的であり、感情を失ってまで成る人間は、はたして既知の人間と呼べるのか?感慨深い作品でもあり、そして考えさせられるような作品。「食事の時間」は牛などに習い、新種の微生物を開発して人に住ませ、その微生物にさまざまなものを分解させてはエネルギーを得られるようにし、食糧危機を脱しようとする世界の話。すると上流階級と貧民の格差がさらに広がる世界を描き、そこで貧民は服など、食物以外のものを食べる。酷い格差の世界と迫る食糧危機を描き、最後の結末は微生物、細菌の暴走。そこではベルセルク的でもあり、迫力ある地獄絵図。これまた示唆に富む作品。「生物都市」はエヴァの人類補完計画の元ネタ?と思えるような、生命体が溶け込み一体になる話。オチはまんま補完計画であり、当時としては前衛的では?と思わせた。「失楽園」はハクスリーの「すばらしき新世界」をそのまま描いたような作品でありそれが印象的。おそらくそこの着想を得たのであろうとは思え、不自由なユートピアを描いては端的に自由とは何か?人間とは?と問いかけるような作品。悪くなかった。最後の「眠る男の夢を見る男は夢の中で生きているのか?」は書き下ろしと知り、主に小説テイストの作品。ホラー的であり、夢の中を題材にした作品。最後のどんでん返しは少々意外。世にも奇妙な物語などで採用されそうな話であり、なかなか良かった。
そうして諸星大二郎氏の作品をようやく読んだが、するとその評価の高さにも納得。SF風味も強く、哲学的であって考えさせるきっかけを与えるような作品ばかり。
短編集の名作であり、色褪せることのない内容。
芸術的でさえあるように、思えた。
第7位。
『キック・アス』
- 作者: マーク・ミラー,ジョン・ロミータJr.,光岡三ツ子
- 出版社/メーカー: 小学館集英社プロダクション
- 発売日: 2010/11/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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内容としては、映画を見たことがあるのでおおよそは把握しており、大体同じ。ストーリーは細かい点で異なる部分があるようにも思えたが、何より一番の違いはその雰囲気に他ならない。
アメコミが持ちえる独特の雰囲気とその色彩のセンス。
それが何より目立ちそして光る作品であり、グロテスクな内容ながらも絵に引き込まれ魅了された。
この作品の人気の由来はこの独特ながら妖艶で魅力的な雰囲気や構図、カラーで迫力ある絵にあるのでは、と思う。
設定は、アメコミには珍しく何処にでもいる人間、特殊能力をいっさい持たぬ学生が主人公。そうして描く厭世的な性格はリアリティを感じさせ、だがそのリアリティに蔓延る非現実性、急にヒーロー染みて一変する生活はシオドア・スタージョンの『不思議の一触れ』のように、人をようやく生き生きとして生活させるようであって印象的。そこがまた齟齬的で面白く、非現実性によって現実をようやく生きていると実感する、と言う人間のエゴと我侭が面白い。
なかなかグロテスクながらも、読了後の爽快感が印象的。
アメリカらしくユーモアにも富む作品で、トレーニングでサンドバックを殴るシーン、そこで「マイケル・ムーアと思って殴れ!」のシーンには爆笑。
映画はまごうことなき名作であったが、漫画も同様。
面白かった。
第6位。
『ダンテ神曲 (上)(下)』
永井豪による漫画版。
読むと絵には相変わらずの迫力。
深い内容に思えながらも中身はシンプルで、地獄巡りをする内において地獄の世界と道徳を知らしめる内容。
ダンテの地獄巡りツアー。そこでは人生におけるヒトの業を描き、様々な欲に溺れた人間の末路が。
迫力のあるシーンが満載なのが特徴。迫力と共に身に迫る勢いがあり、読むものを圧倒する。
そして本書の作者、永井豪によるあとがきも印象深く、原本への思いを熱く語り、こうした世界観に幼少期に触れ、それが今の作風にも靡いていると言うのは大いに納得。するとダンテの神曲はやはり道徳教科書的な側面も伺わせ、これを小学校の道徳の教科書に載せてもいいのでは?とつい思う。
そして一読して思うのは、この中で描かれている”地獄に落ちた人間”というのは、誰しもがその可能性を示唆し、誰もに同様の怠惰や欲情に溺れる姿を投影させる。するとこれらに描かれる醜い囚人たちは決して他人ではなく、己の影絵であって、それは己が人間である限り免れない事実に思わせる。
「ああはならないぞ」と嘲笑しようが、人は実に容易く堕落する。そうしたことに対する危惧と戒めを示す内容でもあって、そこらにある自己啓発の本よりもずっと充実している内容。
漫画ながら、漫画とは思えぬほどの内容の深さ。同時に単純であり浅く、その浅ましさこそが人間の真髄であって、ヒト本来の単純性を示すようであって、これはまるで鏡像作品。
人間なる生き物は一般的に鏡像認識ができるものだが、意識的な鏡像認識の能力は乏しいのでは?と気付かせてくれる、
人間の業とは?ということを認識させ、ここでは有名な7つの大罪が登場。「好色」「怒り」「嫉妬」「高慢」「浪費」「怠け」「大食」とするその罪は、人間誰しもが陥る可能性をはらみ、そういったものに陥った者たちを描いては、内面をえぐられた様な気分となる。それはダンテとて例外にあらず、傲慢さを己に感じては呵責の重みにつぶされそうになる。然しそれを他人事、対岸の火事と一笑はできず、誰もがそれに浸り、それに気づいているかどうかの違いに過ぎない。
所詮、平凡であり俗的な人間はこの七つの罪からは逃げられず、すれば誰しもが戒める必要がある。そうしたことを示すような内容であり、解説にあるようにこれは一種のおとぎ話的寓話であって、反面教師たる姿を見せては、省みるようにと喚起する。
人間の堕落性を改めて示し、漫画であるのでより分り易い。
漫画ながら原作に劣らぬ、素晴らしい力作。
あと、他宗教への当たり方は強いな、とは思った。
第5位。
『腸内細菌の話』
新書ながら濃い専門的内容。
内容として特に印象深いのは、腸内細菌が様々なものを生み出すということを前提に、地域によっては、呼吸により腸内細菌がたんぱく質を生み出す、ということ!
そこでは質素な食生活を送るのが特徴であり、たんぱく質をほぼ摂らない生活を送る。然しそうした生活にも拘らず、そこの住人は長寿で有名!それで生態を調べると、体内で独自にたんぱく質を生成。するとそこでは、呼吸による窒素を腸内細菌が分解したんぱく質に変換。そこでたんぱく質を充分に得ており、そこの住人がたんぱく質を摂らずとも十分にたんぱく質を持つ!この結果はなかなか衝撃的で、本当なら凄いなと思う。
そして、この原理、つまり菌について判明すれば、人は容易にたんぱく質不足を解消できるかもしれない!と夢のような提案だが、現実においてまだ一向に実現されぬ所を見ると、どうやら厳しい様子。
内容には他に、腸内細菌と健康についての関わりに付いても述べ、そこではビフィズス菌菌についても述べ、そしてヨーグルト菌による効果の是非も。他には、専門的知識が多々。還元効果により酸素をもたらし、それで腸内といえど菌の生態は細かく分かれ、上部には嫌気性の菌が居る事や、その離れた場所に好気性細菌が居るなどのことや、細菌が生み出す物質について細かく記述しその生成物の名称から、その物質による影響までを記載。つまり生化学的知見が豊富!
例えば、トリプトファンを分解する細菌が居り、それは○○といったものを生み出し、それが癌生成の化合物の片割れで…等といった知見が豊富であり、有名な硝酸塩による発がん性とは何かを具体的に知れ、ニトロソアミン等を生み出しその結果などいったことを知らしめる。あとチミンの毒性についてなどは初めて具体的に知り、たんぱく質からなるチミンは毒性の強さを思わせ、胆汁などの活躍についても。
新書においてここまで濃厚な内容の一冊は稀有。
第4位。
『イワン・デニーソヴィチの一日』
飯テロ小説。
昨今に蔓延るグルメ漫画と比べ物にならないほど、食物に対する慈しみと喜びを見出し、感じさせる一冊。
食べることの意義を改めて知らしめる。
印象的な、この台詞。
「この野菜汁の一杯こそ、今の彼には、自由そのものよりも、これまでの生涯よりも、いや、これからの人生よりも、はるかに貴重なのだ。」
人生における、ある種の金言であるのは間違いない。
改めて内容を簡単に説明すると、
過酷な強制労働作業を課せらている者の一日を綴る内容。
そこにはリアリティがあり、極寒の地での作業における描写は豊かで表現力があり、読んでいて寒気を感じたほど。その場での息遣い、佇み。それらが聞こえ、肌で感じるような雰囲気を呈す文章は巧みであり、情緒豊かに綴る内情は過酷な状況において、いや、過酷な状況だからこそより人間らしさを呈して示す。
こうした作品を読むと、現代人における不自由のない暮らしの贅沢さと、自由を求める盲目さを知らされるようであって自己を咎めたくなる。
”幸福”なる場所の在り処を示し、まるで宝地図のような一冊。
第3位。
『ミリタリーテクノロジーの物理学<核兵器>』
ミリタリーテクノロジーの物理学<核兵器> (イースト新書Q)
- 作者: 多田将
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2015/07/10
- メディア: 新書
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「原子炉とは何か?」
「核融合って?」
「原子爆弾のエネルギーってどういう原理?」
といった疑問をいとも容易く解消する内容。
エネルギーを得る方法、その流れがじっくり解説されており、
想像以上に分かり易い内容。
中性子による役割の重要さ、
中性子爆弾の恐ろしさ、
同時に中性子の取り出し方など詳しく述べ、ウランとの関係はねずみ講的表現も交えてその関係性を上手く例えていた。
一読すれば、原子力発電の仕組みが分かり、単に「原発は危険だ!」と妄信的な姿勢ばかりを呈す人たちには是非とも手に取って貰いたい。
手軽ながら面白く、教養の付く一冊。
原子力などのエネルギーについて知りたければ、おすすめ。
第2位。
『うまさ究める』
思いのほか面白い一冊だった。
内容としては、おいしいとはどういうことか?を科学的に追求し、感情論や経験則でないので説得力あり。
グルタミン酸とイノシン酸における性質の違いから、魚の刺身を尤も美味しく感じるのは絞めた後どのぐらい?や脂肪代替品は本物の油脂と変わり得ることが出来るのか?といった身近な話題にまで普及し、味覚と生体の関係についての知見を深められる一冊。
甘さがある特殊なたんぱく質についてや、腸内環境とアレルギーについての記述などもあって、読み応えある。
生存機械論的にさえ感じる味覚の受容システムは、原理を知れば寧ろ「おいしい」ばかりをもとめる利己的な欲求を咎め得る内容にも思えてくる。
私のおいしいは、他人にとってもおいしい?
おいしいに、千差万別さはあるのか?
そうだとすれば、その要因は?
等と味覚に関して疑問を呈するならば、読む価値のある一冊。
第1位。
『不思議宇宙のトムキンス』
- 作者: ジョージガモフ,ラッセルスタナード,George Gamow,Russell Stannard,青木薫
- 出版社/メーカー: 白揚社
- 発売日: 2001/06
- メディア: 単行本
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とても良かったので、記事にもした一冊。
不思議宇宙のトムキンス - book and bread mania
物理が苦手?嫌い?
そうであっても、その概念を覆すほどの熱を持った一冊であり、小難しいと思われがちな相対性理論や量子論、素粒子物理についてを「ねえなんでそうなの?」と訊ねる子供を諭す如く平易に述べ、物語に添って解説するので分かり易さは著しい。
世界の成り立ちは摩訶不思議。
そう思わせ、同時に面白いなと感嘆する事請け合いで、それはまるで、夜空に広がる満天の星を見た心境。
得られる知識は宇宙の雄大さと慈しみを感じさせ、高揚感と浮遊感を伴って静なる興奮をもたらせる。
老若男女にお勧めできる一冊。
読んで損はなく、寧ろ読まねば損とさえ言える本。
物理が苦手な人ならば、尚更だ。