book and bread mania

-中途半端なサウスポーによる日々読んだ本の記録 + 雑記 + パンについて-

5月に読んだ本からおすすめ10

5月に読み終えた本は32冊。

その中からおすすめの13冊を紹介!

 

 

 第10位。

『なんでもホルモン 最強の体内物質が人生を変える』

なんでもホルモン 最強の体内物質が人生を変える (朝日新書)

なんでもホルモン 最強の体内物質が人生を変える (朝日新書)

 

 新書ながらも基本的なことは抑えており、勉強になる内容。

ホルモン生成には主に二つの形。

それがアミノ酸からのものとコルチゾールからのものであり、双方の特徴についての解説も充実。

アミノ酸からのものは、強力であり即効性がありながらも持続力がないといったことや、コルチゾールすなわちコレステロールから作られるホルモンは遅延性であり、効き目は遅いが長く持続することなど。あと、コルチゾール由来のホルモンは脂質性であって、するとすなわち油脂性の細胞膜を難なくすり抜けれられ効果が出る、などといったこともあり、生化学理解が容易に捗る!

他には、生活するうえで特に役立つホルモン!としてテストステロンなどが紹介されており、愛情ホルモンの効果などを学べ同時に生活する上での重要性についても解説するので、機械的に学ぶのではなく、生きた知識として学べる点がとても良い。

後半も興味深い内容が満載。

アドレナリンがノルアドレナリンから作られることや、女性ホルモンは栄養備蓄に勤め、その結果で太りやすくなるなど。

またメラニンなどの性質についても記述され、新書なので安価であるが値段以上には内容が密であり充実している良書。

 

 

『宇宙を創る実験』 

宇宙を創る実験 (集英社新書)

宇宙を創る実験 (集英社新書)

 

 期待以上に面白い一冊!

これを一読するだけで、ヒッグス粒子の存在意義がよく分かる。

ヒッグス粒子って名前は聞いたことがあるけど…」ピンとこないな、と言う人にはおすすめの本。

ヒッグス粒子の役割、質量ゼロであった中性子や陽子に質量を与えた、という仮説でも凄い発想だが、証明されることの凄さを興奮をもって知れる内容であって、宇宙の歴史を解明する大発見であると分かって、今更ながら本書を読んで興奮!

解説は分かり易く、すんなり理解できる記述も良い。

ヒッグス粒子だけがスピンを持たない」ということや、同様に語られる超対称性の理論は興味深い。

質量ゼロについての謎や、その状態における分子、原子の存在しない状況、つまり「最初の宇宙の状態はおそらくこんなんだよ」ということまでも解説。

そしてこれを読むことで「”統一理論”とは何か」、「”余剰次元”」といった概念についても理解が捗り「”弱い力”と”磁気力”が、温度の低い場では統一されている」ということについても。

線形加速器と円形加速器の違い、X線照射によるがん治療の仕組みについても書いてあり、ミクロの世界が織り成す不可思議さとその恩恵についてまでを学べる一冊。

 

 

アーサー・ミラー〈1〉セールスマンの死

アーサー・ミラー〈1〉セールスマンの死 (ハヤカワ演劇文庫)

アーサー・ミラー〈1〉セールスマンの死 (ハヤカワ演劇文庫)

 

 演劇文庫なるものをおそらく初めて読んだ。

ページ数多くなく文字数も少なめ。

文章としては演劇風に演出面の記述あるのが特徴的。

物語としては、分かり難いかと思いきやそうでもない。

落ちぶれた男たちの挽歌

解説にあるコメント「競争社会から落ちぶれた先にある現状」をまことしなやかに描いており、なるほどと共感を得られるほど平易。

世間体における“成功者”になることばかりを求め、追い続けた果てに成就しなかった場合、その人生はどうなるか…。

それを端的に、そして繊細に描いた作品であって、理想と現実のギャップに思い悩む現代人の葛藤を描く。

スキーマー的思考を非難する内容に思え、あくせくする現代人を戒める作品。しかしこうした姿を描いたのは数十年も昔というのに、昨今においても通ずるのだから、社会的状況の変化は乏しいといえる。

一度でも社会のレールからはずれると落ちこぼれてしまう。

本作品は人間の深く滑稽でどうしようもない部分を鋭利にすくって描いた作品で、スキーマー的作品と評せるものであった。

社会的な価値に、本当に価値はあるのか?

働くことについて、人生についても考えさせられる、

なかなかパワフルな作品だった。

 

 

第9位。

『良心をもたない人たち』

良心をもたない人たち (草思社文庫)

良心をもたない人たち (草思社文庫)

 

記事にもした一冊。

良心をもたない人たち - book and bread mania

人間なる者の中には、はじめから俗に言う“良心”を持たぬ人間は確かに存在していて、その実例を交えて解説する。

対人関係において「あの人はおかしい」とするのは錯誤のように思えてしまおうが、その錯誤さえも良心の一環でもあり、サイコパスという例外の存在を絶対的に認めなければならない。

すると対人関係におけるトラブルの解消や、のしかかる心的不安解消に一役買いそうな一冊ではある。

また「では良心とは何か?」とサイコパスが持たず、一般的な人間が持つその不透明な存在に対して注目する点も読み応えあり。

 

 

第8位。

たんぱく質入門―どう作られ、どうはたらくのか』

たんぱく質についてを解説する一冊で、入門と銘打つだけあって出来るだけ平易に書かれていた。

 

「”分子へリックス”って、よく聞くけどなに?」といった疑問が浮かぶのならば、うってつけの本!

「まったく、あの人はいつも『きみはまるで酵素たんぱく質みたいだね』なんていってくるけど、意味わかんない」なんて人も大丈夫!本書は酵素たんぱく質の解説も充実!その例えの意味も分かるようになるだろう!多分。

ほかには、十二指腸での不活性と活性化による消化吸収のプロセスは解説が見事であって分り易い。酸性をアルカリ性に中和する膵液と胆汁の役割の偉大さについても述べられ、臓器に対して感謝するようになること請け合いだ。

たんぱく質の性質についての解説も詳しくあり、ねじれ状のαへリックスや板状のβシートなどについても。

最後のQ&Aもおまけ程度ではなく、読み応えあり。

人間の体において一番多いたんぱく質は“コラーゲン”とのことはなんとなく察していたが、そのコラーゲン生成にはビタミンCが必要とは露知らず少々驚いた。ほかには長寿と関係があるとされているサーチュインについても触れており、NADから始まるサーチュインによる長寿と関係があるとされているプロセスが述べられており興味深かった。そこではひとつが欠けることによっての活性化がその一因とするのは面白い。

充実した内容で、たんぱく質の1次構造、2次構造、3次構造、4次構造についても述べられており、たんぱく質好きにはいい本だ。

 

 

第7位。

『思想としての孤独』

思想としての孤独―“視線”のパラドクス (講談社選書メチエ)

思想としての孤独―“視線”のパラドクス (講談社選書メチエ)

 

記事にした一冊。

思想としての孤独 - book and bread mania

孤独とは人間に備わる普遍的な概念であると分かり、孤独とは切っても切り離せず存在である同時にこの言葉は言葉遊び的でもある。まさに“孤独”とは、“切れない存在”であり、同時に“切り離せる概念”でもある。

それは心理的と社会的に分けられ、端的にいえば、誰もが心に“自分の分身としての孤独”を持ち飼いならしているのであり、誰しもが心に“怪物”を宿しているのだから。

それは孤独とも呼ばれ、秩序から隔てられた自己の一部であって、自己の分身であり同時に嫌悪されるものでもある。

すると誰しもが孤独を持っているのだとよく分かる。

“孤独”という概念に対する一般的な誤謬について。

孤独とは、社会から隔離された事象であると思われがちだが、そもそも社会が存在し得なければ孤独といった概念も存在せず、すると孤独とは社会的な概念であって文化的な側面も併せ持つ。

つまり孤独とは相対的であり、また文化的な影響が色濃いことが分かる。人は孤独を恐れるが、それこそ自身の中に社会を反映しての孤独といった分身を作り出しているから過ぎない。

要するに、孤独とは社会的な幻影に過ぎない。

言い方によっては「刷り込み」とも呼べ、意識的な洗脳。

 目、鼻、口などの造詣が人間を人間として象る様に、孤独も、それ自体が人を人たらしめるために必要不可欠なものであると知れる一冊で、読み応えあり。

 

 

第6位。

『鏡と仮面―アイデンティティ社会心理学

鏡と仮面―アイデンティティの社会心理学 (SEKAISHISO SEMINAR)

鏡と仮面―アイデンティティの社会心理学 (SEKAISHISO SEMINAR)

 

 この本も記事に。

鏡と仮面―アイデンティティの社会心理学 - book and bread mania

内容としては、特に興味を引かれたのは“他社との相互関係”について。

「他人の行為をすべて理解しきるのは無理である」とするのは納得でき理解の範疇にあったが、「自己の行為も実は、自分ですべて理解しているわけではない」との主張はある意味で衝撃的。

しかし続く説明文「他人の行為をすべて理解できないのに、自分の行為はすべて理解できると思い込むのは誤りである」といった主張で納得。

すると“自分”という存在の不思議さにも気付き、面白いことだなと感慨深くなる。

人は、自分のことは誰よりも自分が理解している。

そう思いがちだが実際にはそれは誤りであり、実際には自分を社会的状況に照らし合わせて、思い描く役割を自分に当てはめて居るに過ぎない。生得でなく習得な性格であり既に象られた人工的なアイデンティティ

そして他者との係わり合い時における、単一性と複数性について述べていたのも印象的。一人同士が話そうとも、その一人が信念や社会、文化的係わり合いにおける存在であるならば、それは一人であると同時に複数人であり、それら群像の代表であって一人であって同時に複数とコミュニケーションをとっていることになる、とする。

他人への理解を深める事は同時に、自分の理解にもつながる。

「人間は鏡像認識できる生き物であるが、それは単に表面的のみであるのかもしれない」と喚起してくれる一冊で、自己を見つめ直すにも良い本だ。

 

 

第5位。

『ゴールド―黄金』

ゴールド―黄金 (ハヤカワ文庫SF)

ゴールド―黄金 (ハヤカワ文庫SF)

 

 『荒木飛呂彦の漫画術』

荒木飛呂彦の漫画術 (集英社新書)

荒木飛呂彦の漫画術 (集英社新書)

 

作品製作の指南書としてどちらも甲乙つけがたく、

まあ実際にはアシモフのほうはエッセイ調であり、独自の発想による指南なので、それほど作品の製作に役立つかといわれれば「う~ん」となるが、含蓄深いのには違いなくそして似た系統の本ということで同率順位に二冊。荒木先生のほうは、単純明快ながら「世に蔓延るヒット漫画とは?」という疑問を見事に晴らしてくれる内容で、音楽で言う”王道進行”のような、ヒットする鉄板的なストーリーの法則を伝授してくれる。

するとジャンプ作品の秘密が容易に浮き彫りとなって、手品の種明かしの如く「ああ、なるほど」とストーリーの類似性に納得するだろう。

アシモフのほうはSF裏話が面白いので、SF好きには必見の内容。プロットの作り方も語られ、感心する内容なのは間違いない。物語を作りたい人、物語を作ることに興味がある人には、どちらも一読して損は決してない内容! 

 

 

第4位。

 『宇宙の戦士〔新訳版〕』

宇宙の戦士〔新訳版〕(ハヤカワ文庫SF)

宇宙の戦士〔新訳版〕(ハヤカワ文庫SF)

 

すげえ面白い。

「好きなSFは?」と問われ、

回答のひとつとして挙げるほどには面白かった。

これは単なる戦争ものSFではなく、むしろ戦争という存在、それに向かう人間についての精神を描いたものであり、内容は想像以上に哲学的で深いながら娯楽性も十二分にある。

特に、退役軍人で教師となった中佐の言葉はどれも確信を突くようなものばかり。

戦争とは何か?その本質を異星物との戦いを軸に描き、また同時に男の在るべき姿も描いており想像以上に熱い内容。

しかし終盤は少し地味だったという印象も。

それでも急激な自体の展開にはハラハラし、臨場感は十分!

中盤までは本当に面白く、食い入るように読んだ。

本書を読むと、権利と責任、その表裏一体となった事象の真理性を知ることが出来、同時にそれらのことを理解しないで大人になった人間があまりに多いことを嘆くようなメッセージ性を感じた。鞭打ちの刑の場面で、体罰と道徳性の会得の関係についてを述べていた箇所が印象的で、そこでの“仔犬の躾に当てはめた例え話”は秀逸。すると体罰を子供のためを思って禁ずる現代社会はまさにこの例が示す誤謬を携えており、体罰に対して懐疑的な立場をとるもの全員に読ませてやりたい部分であった。

なるほど、確かに仔犬に躾をせず、大人になってからも粗相をしたからといって、いきなり頭をぶち抜くのは狂気の沙汰だ。

しかし実際、それと同じことを人間の場合には行っていると諭すのにはハッとした。確かにそうであって、少年法でがちがちに守られたものを、ある一定の年齢を過ぎたからと間引きし、それから起こした犯罪に対して極刑を求めるのではまったくの同じこと。つまりは子犬への躾と同様、幼少期からの躾が重要であって、人間だからと道徳性が本来から備わっているわけではない。故にこの作品では、そうした概念を生得性ではなく、習得性であると説くわけだが、説得力があった。

同時に、人生におけるしたたかさやずる賢さ、また生き易さやそういったものに順ずる叡智を、軍隊という存在を通して示す内容でもあり、戦争小説ながらもそうした部分が特に優れており、啓蒙的な小説にも思えた。引用したくなる逸話や例え話が豊富にあり、人に話す上でも役立ちそうな叡智が満載。

戦争論理や、人的論理に関する説法はなるほどと説得力のあるものばかり。魅力ある人物が多数登場した作品としても印象深い。

描く戦争論が核心を突いていて、読み返す価値あり。

“非行少年”という言葉を矛盾として扱うのも興味深かった。

 

 

第3位。

『神への長い道(ハヤカワSFシリーズ)』

神への長い道 (角川文庫)

神への長い道 (角川文庫)

 

 小松左京による短編集。

掌編小説も含む内容で、一読した感想としては「短編の出来が異常に良い!」

あまりの出来に驚き慄いたほど。

特に『五月の晴れた日に』は秀逸で、その設定の緻密さと模写の正確性に言葉選びと、どれもが一級品の作品。

裸体の賞賛なる言葉の表現は見事で、数学的美しさを当てはめた描写は見事とした言いようがなく思わず「ぐぬぬぬ」と唸ってしまうほど!

含蓄深い描写が生き生きと描かれ、「すごいな…」と読んでいて圧倒される。正直、この短編ひとつでその辺りにあるノベ一冊を優に凌ぐほどには完成度が高く、そして読み応えあった。

この作品は多くを語るとネタバレになるでの敢えて言葉を控え、

思わず笑った作中の印象的な台詞ひとつを紹介。

「ダリの絵を認めるなら、便所の落書きだって評価しなきゃなくなるだろ!」

 

ほかの短編も秀逸ぞろいで、『人類裁判』もなかなか面白く、人類の批判を道徳的にそして第三者目線から語っていたのが印象的。尤も印象的なのは、本来こうした著者の意見をそのまま述べるような作品は青臭くなること請け合いなのだが、この作品にはそうした雰囲気は全くなく、自然な雰囲気を醸し出すリアリティ!拙さを一切感じさせず説得力を持たせるその表現!

物語の内容と構成のみならず、細部にこそ驚かされるものばかり。

 

全体的には人類に対して咎める内容の作品が多いように感じ、ある種には厭世的な作品ばかりにも思える構成。しかしそこには当時の情勢が伺え、核戦争の危機から食糧問題まで世界情勢の不安定さを露呈し、作中に登場するテクノロジーは昨今においても前衛的と感じるものばかりながらも未来的テクノロジーの数々をもってしても当時の危機的状況を描いて読ませては、その凸凹具合というか齟齬さが滑稽ではあり面白い。

 

最高だったのは、表題作『神への長い道』!

宇宙を「○○○○」と定理し、最終的には生命体として○○を目指す、といったテーマは深遠で神秘的かつ魅力的。

濃厚でハードなSF作品で読み応えもあり、引き込まれる展開に目は釘付けであって瞬間接着剤のごとく放れない。

構成がしっかりしている、というよりは思考型の作品で、一種の深い啓蒙を受ける作品。宇宙の起源、神とは?に対するとても面白い発想での答え。

種の起源、生物の発生、宇宙の誕生などについて一種の答えを露わにし、そのスケールのでかさといえば一級品!

短編ながらそのメッセージ性は強く内容の濃さは、もはやラノベ一冊では到底及ばないほどであり、ページ数が少ないといったことを忘れさせる。とてもSFしていて、良い作品だった!

そうしてこの本を改めて思うと、掌編小説は冗談めいたものが多く、短編はどれも一級品のでき。本書はある種の未来日記であり、フィールドノートと自ら評したこの一冊は、なるほど悲観的に見据えながらも今のところはそうした現状にはなっておらず、しかし本書は今に読んでも前衛的。著者は単に、より先の未来を見据えていたに過ぎない。といったことにならないよう、人類はより自重するべきであると自戒の念をこめて最後に思う他にない。良い小説だった!

 

 

第2位。

『生の短さについて 他2篇』

生の短さについて 他2篇 (岩波文庫)

生の短さについて 他2篇 (岩波文庫)

 

『生の短さについて』についてをはじめ、残りの二編は『心の平静について』と『幸福な生について』を述べる人生指南書的内容。

想像以上に良い本で啓蒙に満ち、叡智に富む内容。

とてもいい本でおすすめであり、

生の短さについて嘆く事を止めさせるだけの力を持った書物

すると死の恐怖にさえ打ち勝つ叡智を教授し、

ターミナルケア的な内容とも呼べるほどの内容。

他の二編も金言に溢れ、

「生きる勇気が沸く」というよりは「生きる術を教えてくれる」といった事を示し、哲学書にしては珍しく即実行でき、実行すべきことを良き師の如く教えてくれる。

 

 人生は使い方を知れば長い。

 

 

 

 

第1位。

『タイム・トラベラー タイム・マシンの方程式を発見した物理学者の記録』

タイム・トラベラー タイム・マシンの方程式を発見した物理学者の記録

タイム・トラベラー タイム・マシンの方程式を発見した物理学者の記録

 

読み始めると面白く、つい熱中して一気に最後まで!

内容としては、現存する定理などを使い時間旅行の方程式を見つけた物理学者の自伝的な構成。

というかこのタイトルからして随分と魅力的で、理論上は可能とするタイムマシンの方程式を見つけたというのだから衝撃的である!

 

全体的に学術書と言うよりは、半生を主に綴りエッセイ調とも呼べるものなので比較的平易であり、堅苦し過ぎず読み易い。そして重要な場面ではその発見に関する物理の定理などを述べ、学術的な側面もしっかり備える。その塩梅がちょうど良く、難解にも成り過ぎていないので好印象。

所々にはさむ定理についても、例えを有効活用して読者に配慮し、一般向けの講演を聴くかのような感覚で読み進められる。

この本の著者であり、物理学者の先生は黒人。

ここで述べたいのは、黒人だからと差別を喚起するのではなく、自ら、黒人であることによって受けた差別を露呈する点がまた特徴的であるいうことだ。日本では黒人差別についての認識は本国に比べればどうしても馴染めず印象に乏しいが、現代においてもやはり差別は存在し、社会的情勢に対する苦労話も述べられている。

 

テルソン解析が二面性のベクトルを用いるといったことや、ホーキンス輻射がブラックホール理論に関連して重要な存在、そしてやはりスピンが大きな鍵!そして封鎖的な空間とはいえ、そこに巡回する空間、時間軸を見出したというのは偉大な功績であるのは間違いない。これが本当にタイムトラベル技術確立の萌芽とする可能性は十二分にあり、好奇心をとても刺激された!

あと、文中では時間に関連する魅力的な作品も紹介しており、タイムトラベル物の作品ガイドといった側面も。

 

どうしてタイムトラベルをしたいと志すようになったのか?そうした事も雄弁に語られ、自伝ものとしても単純に面白い。

つい読み入ってしまう魅力があり、それは著者が実に魅力溢れる人物であるからで、そして努力することの大切さを力強く教えてくれる内容!胸が熱くなる展開もあって、論文の発表時にかけられた言葉はとてもよい。

 

著者が述べる、

研究の理論に理系は感動し、研究の動機に文系は感動する。

 

理系、文系とを隔てる事にあまり賛同的ではないにしろ、この本はあらゆる人を感動させる可能性を持つ本であり、

人間の優れた頭脳が見せる理論と情動は必読であって、おすすめ!

 

良心をもたない人たち

 

良心をもたない人たち (草思社文庫)

良心をもたない人たち (草思社文庫)

 

 表題にある“良心を持たない人”とは端的に言ってサイコパスのこと。

この本はサイコパスに対しての解説書。

内容としては序盤から多少衝撃的で、良心をまったく持たない人間の存在を明るみにしては、性善説を真っ向否定するような内容には戸惑う人も多そうに思える。

しかし確かに人間成るものの中には、はじめから俗に言う“良心”を持たぬ人間は確かに存在していて、その実例を交えて解説するのでわかりやすく読み進めやすい。

 

重要なのは、こうした存在のことを認識することで、彼らに対峙することの無為さとそこに付きまとう疲弊の危険性を述べ、つまりは見切りをつけて早く逃げろと警告してくれること。それがまるで自然災害のように。

確かにもっともであり、対人関係において、あの人はおかしい、とするのは錯誤のように思えてしまおうが、その錯誤さえも良心の一環でもあり、サイコパスという例外の存在を絶対的に認めなければならない。すると対人関係におけるトラブルの解消や、のしかかる心的不安要素の除去に一役買いそうな一冊ではある。

そして興味深いのは、サイコパスに関しての生化学的な研究で、それを生得性と捕らえるか習得性と捕らえるかの研究。示す内容としてはどうやら遺伝的な気質が強いらしく、わずかながらも50パーセントを超えていたのが印象的。

すると遺伝的要因、つまり関連するDNAがあるわけで、将来的には“サイコパス遺伝子”なるものが特定されるかもしれない。だが重要なのは家庭環境、つまり習得性も決してないわけではないということで、やはり幼児期の体験なども重要とのこと。

そこでは生後7ヶ月の間に、他者と接触が希薄で愛といった感情の受動がない場合、その後の性格に大きく響くといった研究は注目に値する。また、「では良心とは何か?」とサイコパスが持たず、一般的な人間が持つその不透明な存在に対しても注目する点が読み応えあり。

 

しかし最も印象的だったのは章の冒頭に飾られていたガンジーの言葉。

 

「しあわせとは、思考と言葉と行動が、調和していることである」

 

なんという金言!しかし本書を最後まで読めば、この言葉を載せた意味もよくわかる。

 

 

サイコパスとは常に、異常な存在として扱われる。

確かに本書を読む限りにおいてもぞっとし、彼らは”愛”といった情動を知らず、そして所有しない。彼らにとってすべてはゲームであり、自分のみに関心があり、周りは常に自分を充足させるための道具に過ぎない。

合間見えることの不可侵性を淡々と述べ、サイコパスの有効利用してあげるのは戦争であって、人殺しにおける罪の呵責を背負わぬことを利点とする。まさに悪魔的に聞こえるようであっても、それはあくまで”良心”なる普遍的な概念の存在を自己の一部にするからであって、自己の一部は決して全体の一部ではないと教えてくれる。

たとえ大人であっても、盲目でないとは限らないのだ。

世界は決して、一般人が言う「良心」に満ち溢れているわけでない。

サイコパスに対抗するためとして述べられる13か条などは、社会人としては必見かもしれない。そしてサイコパスの特徴は、明らかに当人に非があるにもかかわらず、同情を引く行為・行動をすること。

すると、知り合いに一人ぐらいは当てはまる人物が思い浮かぶのでは?

サイコパスという異質の存在を知らしめ、人間理解の推進に役立つ一冊。

不条理な人間関係に悩む人には必須の内容。

 

「あのひと、おかしいようだけど、きっとそれを指摘したら自分が不道徳な人間に思われる…」

そうした状態に対し、「直感を信じろ!おそらくあなたの直感は正しい!」と主張する本書としては、サイコパスの特徴としてある”魅力的な人物”といったフィルターがその考えを阻害し、はては周りの人物は同様に「おかしい」と思っていても同様に口には出せない状況を作り出すことを教えてくれる。 

 

 

「しあわせとは、思考と言葉と行動が、調和していることである」

この言葉は端的にも的確にサイコパスの性格すべてを示す言葉でもあり、サイコパス成る存在はただ闇雲に、自身のしあわせを求めて行動する輩であり性分であると、本書は全体を通じて雄弁に語る。

むしろ、サイコパスほど、思考と言葉と行動が調和している存在は居ないのかもしれない。サイコパスは決して醜悪な姿でなければ見た目は一般人と変わらず、彼らは姿を見繕うことには非常に長けている。アメリカでの研究では25人に1人がサイコパスとの報告があり、その存在は身近に潜むものであると警告をする。

もしも、ある他者の不条理さに困るようであるならば、読むに値する本。

しかしそこで仮に、”サイコパス”の判定がその相手でなく、自分に当てはまる!といった危険性も覚悟しなければならない。

人間成る存在は、実に揺らぎやすく、そして自分ばかりを信じたがるものなのだから。

 

 

アイザック アシモフ 『ゴールド―黄金』

 

ゴールド―黄金 (ハヤカワ文庫SF)

ゴールド―黄金 (ハヤカワ文庫SF)

 

短編+エッセイといった内容。

本書としては短編よりむしろエッセイの部分に読み応えあり。

そこではSFに対する思いからSFの存在意義、さらにはSF小説作法についてまでの考えが述べられ、アシモフファンのみならずSFファンにはぜひとも読んでもらいたい内容が目白押し!

 

 

個人的には、小説作法に関するエッセイの中にある

”書き直し”

と題したにエッセイが特に面白く、ユーモアに溢れていた。

ここでは、「はたしてどのような書き方が一番よいのか?」として、

アシモフハインライン流の最初の一回目で正しくタイプする方法や、作家会議で「いい作品を書く秘訣は書き直しだ」と聞いた方法など、自らいろいろと試してみたことを述べる。しかしどちらのアイデアアシモフ氏にはしっくりこず、むしろ効率が悪くなったそうだ。

そこで気づいたのは、

「どんあことであれ、その道の権威(わたしを含めて)が言うことを、そのまま鵜呑みにしてはいけないということだ」

との結論に達し、それを言ったら元も子もないが、実際真実であると思うし金言であるのは間違いない。そして気づいたように、作家もまたそれぞれ独立したスタイルを持っているということであって、そこで挙げたエピソードが面白かったので抜粋

 

 かつて昼食にやってきたオスカーワイルドが、午前中は何をしていたのですかとたずねられたことがある。

「ずっと仕事をしていました」と彼は答えた。

「ほう、だいぶ進みましたか」と相手はたずね返した。

「ええ、だいぶ」とワイルド。

「コンマをひとつ入れました」

  

これだけでも十分に面白いのだけれど、さらに続きがあって

 

 夕食の席で午後は何をしていたのかとたずねられたワイルドは、「ずっと仕事です」と答えた。

「もうひとつコンマを入れましたか」と相手は皮肉っぽくたずねた。

ワイルドは平然としてこう答えた。

「いいえ、午前中に入れたコンマを取りました」

 

 この項は実に面白く、”書き直し” といった行為が作家にとって如何に重要かよく分かり、神経質な性質でなければ無理なのでは?とさえ思わせる

 

 ダニエル・キイス(『アルジャーノンに花束を』の作者)言葉だったと思うが、こういうのがある。

「作家のいちばんの友達とは、よけいな修正を入れる直前に撃ち殺してくれる人だ」

   

 

 

 エッセイでは他にも、プロットについてやキャラクターの名前の付け方、1巻完結ではなく連続物のシリーズが出るのはどうしてか?などといった業界における裏話、トリビア話も満載であり、SFに興味があるならば一読して決して損はない内容!

おすすめ。

 

”初恋”の捉え方

今、放送しているドラマ『あなたのことはそれほど』が面白い。

 同様に、今放送しているアニメ『月がきれい』もまた面白い。

 

この二つの作品、

内容はまるで違うようながらも、共通するテーマが。

それが、”初恋”。

まさかのテーマかぶりで、しかしどちらも面白いので問題なし。 

 

ここで顕著に面白いのは、両作品における、

同テーマながらも見せつけるその差異性。

なにせ作品の内容は180度ちがうのだから!

「同じ”初恋”の扱い方でここまで違う!?」

というほどには内容に差異があって、その落差がとんでもないほどで思わず噴出してしまうほど!

 

”初恋”の扱い方、

それが年齢層によってこうも違うものかと思わず感慨深くなれる作品群なので、ぜひとも見比べてみることをお勧めする。

 

というか、同じ時期、同じタイミングでこの二作品が放送されるのは、ある意味では奇跡的であると思うw

 

マーク・トウェイン『ちょっと面白い話』

 

ちょっと面白い話 (旺文社文庫 568-4)

ちょっと面白い話 (旺文社文庫 568-4)

 

 マーク・トウェイン大先生による本で、エッセイ的であり名言集的な内容。

なかなかの金言ぞろいでもあって、印象的だったものをいくつか紹介。

 

われわれは虹を見ても、

未開人が抱くような敬虔な気持ちをもつことがない。

というのも、虹がどうしてできるか、知っているからだ。

われわれは、そうしたものを詮索することによって、

獲得したのと同じだけのものを、失っている

 

真実は われわれの 持ちものの なかで

いちばん 高価な ものだ

だから 節約して 使おう 

 

彼らに会ってみると この30年のあいだ 少しも変わってはいなかった。

しかしその奥さんたちは すっかり老けこんでいた。

奥さんたちはみんな 立派な人たちだった。

まったくシンドイことなのだ

立派でいるということは

 

 石化した思想に 忠義な者が 鎖を断ち切り

人間の魂を 開放した ためしはない

 

霊魂の不滅性

それを証明する ことがらの一つに

数限りない人間が それを信じてきた ということがある。

しかし彼らはまた こうも信じていた 

地球は平坦だとも

 

人間は みな 月だ

誰にも 見せた ことのない 

暗い 面を もっている

 

裸のモデルが 着物をきてから(ローマでのことだが)

ちょっぴり女らしさを のぞかせた

台をおりるとき くるぶしがむき出しになると

あわててそれを 隠したからだ

 

事実は

小説よりも 奇なり

ある人に とっては そうだ

しかし わたしは ある程度 事実に 精通している

事実は

確かに 小説よりも 奇だ

しかし それは 「小説」が 可能性に

執着して いなければ ならぬ からだ

「事実」は ちがう

 

夢をすててはいけない

夢がなくとも この世にとどまることはできる

しかしそんな君は もう生きることを やめてしまったのだ

 

 

最後に「皮肉が利いていて面白いな」と思ったのがこれ。 

古典

みんなほめるだけで

読みはしないご本

 この言葉を読んで、つい思い出したのは、

ラジオ番組の『伊集院光深夜の馬鹿力』。

そのひとつのコーナー。

それは『テツトモ風に「世の中のなんでだろう?」と思ったことを投稿する』コーナーでの、ネタひとつ。

村上春樹の本よりコロコロコミックのが面白いのはなんでだろう?」

これはある種の、真理なのかもしれないw

 

 

うまいソースは卵ご飯をごちそうに。

 

盛田 トリュフソース 100ml

盛田 トリュフソース 100ml

 

 近所のスーパーで安くなっていたので、購入してみたこのソース。

食べると、なるほどうまい。

しかし実際には「トリュフってなに?」って言えるほどにはトリュフに含蓄なくて、食べたことはない。だから、これが「実にトリュフの味!」とは言えないが、「これがトリュフの味か…うまい!」って洗脳されるに足る味のソース。

その味としては、旨みが濃縮したようなもので、例えるなら「すき焼きのたれの塩気の割合いくらかを旨みに変換したような味」。

旨みばかりが濃厚な味であって、一昔前の中華店で出されたら「ぐえーチャイニーズ・レストラン・ シンドロームにかかるンゴ」ってぐらいには旨みが濃い味。

 

卵ご飯にすると「これはうまいっ!!」と驚いた。

けれどトリュフ食べたことある人がこれを舐めてみて「全然トリュフの味と違うじゃん!」と言われればぐうの音も出ない。

 

「とんかつを食べたことのない人にこの味は…」

「チョコ食べたことない人にこの味は…」

これらと同様であって、このソースの味は「トリュフを食べたことがない人にこの味は分からない」と言えるような味。

そう信じられるほどには、なかなかの鋭いおいしさ。

味には妙なセレブ感も付随する。

 

結局、なにが言いたいかと問われれば、「卵ご飯はうまい」。

  

鏡と仮面―アイデンティティの社会心理学

 

鏡と仮面―アイデンティティの社会心理学 (SEKAISHISO SEMINAR)

鏡と仮面―アイデンティティの社会心理学 (SEKAISHISO SEMINAR)

 

 内容として、特に興味を引かれたのは“他者との相互関係”について。

そこでは他者とのコミュニケーションを取る上で三つの特徴的事象を挙げており、

①他者が相手に示す意識的行為と無意識的行為、

②自己が行う意識的行為と無意識的行為、

③それらを自身がどのように捕らえ、考えるか。

この三つが上げられ、中でも②が印象的で、

「他者の行為をすべて理解しきるのは無理である」

とするのは納得でき理解の範疇にあったが、②の自己の行為も実は、自分ですべて理解しているわけではない、との主張があって多少衝撃的。

しかし続く説明文「他者の行為をすべて理解できないのに、自分の行為はすべて理解できると思い込むのは誤りである」といった主張で納得。

よって本書は、“自分”という存在における不可侵さについても学ぶことができる内容。

 

人は、自分のことは誰よりも自分が理解している。

そう思いがちだが実際にはそれは誤りであり、実際には自分を社会的状況に照らし合わせて、脳裏に描く役割を自分に当てはめているに過ぎない。

”自分らしさ”とは、単にその場に適した偶像的な行動・役割であって、自分が作る空想の人物の真似事。世代や文化の影響があっての性分であり、既に象られた人工的なアイデンティティなのだという。

しかしアイデンティティとは随分と曖昧な概念であると何度も前置きし、その存在性の是非を問うのも特徴的。まさに「自分とは?」の深層を知ろうとするのは、雲を掴むようなものかもしれない。そして他者との係わり合い時における、単一性と複数性について述べていたのも印象的。一人同士が話そうとも、その一人が信念や社会、文化的係わり合いにおける存在であるならば、それは一人であると同時に複数人であり、それら群像の代表であって、相手が一人であろうと同時にそれは、複数人とのコミュニケーションをとっていることになる。

 

読むと納得するのは、自分と相手の境界線がはっきりしようとも、そこは慎重にならなけばならない、ということ。

自分と他人、そこに蔓延る意識的な誤謬と鏡像性について、改めて見直すきっかけを作ってくれる一冊であり、アイデンティティの形成は文化的・社会的、また世代的な影響を多大に受けようとも、一概にそれらがすべての要因とは言えない点に注意が必要である。

アイデンティティ”という、ニュートリノのように脆く正体をなかなか見せないような物の正体を暴こうとする積極的なアプローチは、まさに社会学におけるLHC

きっちりとした社会学観点から述べ、なかなか読み応えある内容。

ジンメルによる考察が好きな人などにはおすすめ。

 

 

人間というのは面白いもので、歳を重ねれば重ねるほど、自分のことが分からなくなっていく。それは、学問における本質を理解し始めたときに生ずる、「分からないことが分かる、分からないことに気付く」といったことに通ずるものであると思う。

それはあたかも、“死”という概念を決して理解し得ないということを理解していくように。