book and bread mania

-中途半端なサウスポーによる日々読んだ本の記録 + 雑記 + パンについて-

ル・プチメックのパン

京都へ用事があって日帰り旅行。

ついでにとパン屋めぐり。

目的は評価の高い『ル・プチメック今出川店』。

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そうして行ってきたのだけれど、道すがらには確認出来ただけでパン屋が4軒も!

さすがパン消費量日本一を誇る京都であって、

パリなら条例違反になりそうなほどの密集度!

 

ル・プチメックには午前中に着き、

まだパンは多く残っており、よりどりみどり状態!

値段はどのパンも良心的であり、東京のベーカリーと比べると安い。

 

購入したのは9個でお土産に4個。

食べたのは5個でクロワッサン、クランベリーショコラ、プチセーグル、バゲットのハーフ、くるみルヴァンの4個。

 

まずはクロワッサン。160円。

 

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見た目。

1個の重量は52g。

濃い焼き目が特徴的。

 

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内面。

層が綺麗に形成。

膜が張ってあるかのように見えるのも特徴的で、細か過ぎない層。

 バターの香り高く、鼻にまとわりついたほど。

 

食べてみると、表皮はサクッ。

味としては、バターの味が前面に出て色濃い。

甘さ控えめ。

クロワッサンは結構甘いものも多い中、これは甘みが強くなくバターと生地の味が主。

普通に美味しく、完成度高い。

糖と脂の織り成す麻薬と成り得る味であって、これで160円は安い。

お買い得の一品。

 

 

 クランベリーショコラ。230円。

 

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ごつごつした無骨な見た目で、

パン・ド・ロデブ、もしくはリュスティックっぽい形。

1個の重量は128g。

 

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内面。
とても密で少し驚く。

ハード生地っぽく、持つと硬くて好印象。

食べると、生地は見た目どおり。

硬くて食べ応えあり。生地にはしっかりと濃いチョコの味。

これは美味い!

クランベリーも多目ながらチョコ味が濃く、ベリーが色褪せて感じるほど。

チョコ味は全体的に濃厚。

これはチョコ好きにはお勧めで、ここまでチョコの味が濃いパンは稀有な存在。

食べていて、喉が渇きやすく感じたほど。

チョコ味の濃さに対して230円は安く感じた。

東京ならおそらく1.5倍の値段のはず。

完成度高い。ただし、チョコ好きに対しては。

チョコ嫌いは毛嫌いするほどの濃厚さ。

 


プチセーグル。110円

 

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全長は約12cmほど。
1個の重量は56g。

 

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内面。
気泡はなかなか見事で、大小あり突出して大きいものもあってワイルドさが覗える。

食感としては、

カチカチのフランスパンほど硬くなく、歯応えあってモチモチした食感。

少し固めのポンデリング

そんな食感であって、モチモチして美味しい。

味としては素朴。

余り単体として味の主張は強くなく、サンドウィッチ向き。

もちろん単体で食べても美味しい。

ライ麦の風味も強くなくて万人向け。

「優等生的なパン」と言った印象。なので特筆しての良さはそれほど感じず。

然し安定したクオリティ。

歯応えのある、モチモチしたパン好きにはお勧め、

 

 

バゲットのハーフ。130円。

 

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ハーフカットで重量は136g
端のほうがとがる様に細いのが特徴的。

 

 

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内面。

見た瞬間、「おおっ!」と思わず感嘆の意が口から漏れ出し、

その美しさときたら!

見事な気泡具合であって芸術的。表皮のクープ浅目なのも特徴的。

食べてみると、食感は硬い。モチッと引きが強く、歯応えあり。

生地自体の味は、麦の味はそこまで主張が強くなく、料理に添えたり何かを挟むにはちょうど良い。

歯応えとしても、硬すぎずクラムはモチモチとして歯切れ良く、サンドウィッチを絶品にする品質。

単体で食べても美味しいけれど、味そのものとしてはヴィロンやロブションのほうが上と思えた。
ただこの価格・ボリュームでこのクオリティはお買い得。

これもお勧めのパン。

完成度の高くて、食事に合わせるバゲットとしては最高峰。

気泡の美しさは見事!

 

 
くるみルヴァンの1/2カット。250円。

 

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重量は147g。

ハーフサイズの大きさながらも重量あり、ずっしりとした感触。

見た目としては無難で、茶色がかった色合いが少し特徴的。

 

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内面。
気泡は大きめ。ナッツは目視の限りではそれほどゴロゴロとしておらず。

食べると、生地の食感は固め。

歯応えあって噛み締める必要あり。

するとそこでよく租借すると、口内にジュワーッと広がる生地の味。

自家製天然使用としての生地の味は、とても濃厚!

麦の味が染み渡り、天然酵母による酸味と生地の甘み具合が絶妙!

プラスにくるみのコクで、これは美味い!!

単独で食べてもその美味さを存分に堪能できるパンであり、

これは買った中で一番の好み!

単体で食べても味は実に濃厚でとっても美味しく、発酵による美味さを「これでもか!」と味わわせるかのような一品。

胡桃の量も少な過ぎず多過ぎず。あくまで生地の引き立て役に徹し、生地の美味しさを強烈にアピール。生地とのバランス具合が実にちょうど良かった。

これはとてもおすすめ!

 

 

 ル・プチメックのパン、全体的に完成度が高い。

そして値段が良心的というのが印象的!

この良心具合が、京都においてパン消費量を日本一にした要因では?と思う。

京都を訪れる際にはおすすめのパン屋さんだ!

 

 

6月に読んだ本からおすすめ10

6月に読み終えた本は32冊。

その中からおすすめを紹介!

 

 

 第10位。

刑務所の中』 

刑務所の中 (講談社漫画文庫)

刑務所の中 (講談社漫画文庫)

 

見聞録のようなものとしては非常によくできた作品。

内容としては刑務所での体験記を漫画にしたもの。

刑務所生活の実情を窺い知れる内容。

なるほど、塀の中でこういう風な生活を営んでいるのかと分かり、昭和的な絵も印象的でそれが作風にマッチし好印象。

食事の描写が多いのは、それだけ刑務所での楽しみであることを思わせ、受刑者同士のやりとりもまたリアル。これを読むと現実世界での自由さを改めて思い知り、塀の中における束縛された世界を知らしめる。

すると世間における自由さの素晴らしさを反芻できる。

そしてグルメ要素に多少なりとも惹かれてしまう。

つまりこれを読むと、色々と食いたくなるような漫画であり、昨今に蔓延るグルメ漫画の数倍の魅力があると感じたほど。

理不尽さを訴える姿勢の監獄エッセイではどうしてもきな臭くて思想的になってしまい退屈さを付属させるが、これはあくまで体験記のようなもの。

なので、刑務所の中をただ淡々と描いたのが実に良い点。

読み応えはあるが、中身には乏しい内容。もっとも、刑務所のなかの生活自体が、中身に乏しいので、それがこうして直に伝わるということは、それだけ再限度が高いともいえる。ルポ作品としての評価の高さも納得。

ただ唯一の欠点としては、これを読み興味がわき、刑務所内へ羨望を向ける輩が出るかもしれない、といったことに尽きると思う。しかしこれもまた、本書の魅力を証明することに過ぎないのだろうけれど。

 

 

第9位。

料理王国―春夏秋冬』

料理王国―春夏秋冬 (中公文庫)

料理王国―春夏秋冬 (中公文庫)

 

内容としては、エッセイ的あり随筆的でもある。

何章かに別れ、なかでも最初の章による食に対するスタンスが特に読み応えあり。

後半は食材や調味料についての一筆書き的内容であり、勉強になったが主観的な意見も多いように感じた。しかし日本料理を見直すきっかけになり、日本料理の良さを再認識。あと鮎がとてもうまそうに思えてくる。そして山椒魚や蛙などを美味しいものと絶賛していたのが意外ではあった。

同時にフランス料理を貶しており、その辛辣さと言ったら!

本書はあとがきの解説が秀逸であって、魯山人という人柄を平易にも的確に表し、なるほど確かに毒舌だったのだとよくわかる。しかしこれもまた解説の言うとおりだが、含蓄深い言葉も本書には多く、味音痴に対する旨い物を食う秘訣を「空腹になること」、知識ばかりの味通には「トリックを用いよ」として有名どころの産地をいえば喜んで食すという。するとこの時代からも既に「情報を食う」グルメ気取りの輩は群れを成し、こうした方法は有効であろう。

また、掌編小説のようなものもあり、目や口や鼻が「わたしこそ美味に対する貢献が一番である!」と言い争う『遊戯 食道楽』はなかなか面白かった。

「茶碗蒸しは固まりすぎて硬すぎない、京都産のものが良い」や「魚は本来、川と肉の境目に旨さがある」などの具体的な知識も。そして蔓延る似非グルメ者を一蹴する意見は爽快。料理人とてしっかりとした料理に対する価値観、含蓄を者を持つ者は稀有であるのだなとよくわかる内容。

「料理とは、理をはかる事である」とする言葉が印象的。

こうした本は、料理人ならば一読すべきであると、思える一冊であった。

家庭料理と料理屋との違いについても述べており、一読すると、決して料理屋の料理こそが最上ではないのだとわかる。その際における、料理屋料理の欺瞞さときたら!多少、衝撃的でもあったが真理的。物事の良し悪しをはかる上での、目安となり価値観を添付してくれるという意味では、なかなか良い本に思えた。

料理が好きな人、食に興味のある人は、 一読して損のない内容!

 

 

第8位。

サイエンス・サイトーク 愛は科学で解けるのか』

サイエンス・サイトーク 愛は科学で解けるのか (新潮OH!文庫)

サイエンス・サイトーク 愛は科学で解けるのか (新潮OH!文庫)

 

 文庫本。さっと読める割には想像以上に面白かった。

内容としては、求愛行動や愛や恋、セックスといった情動を脳科学的もしくは動物学、遺伝学的に視察する。

平易にこうした情動についてが語られ、意外と含蓄深い本。

まずショウジョウバエの研究成果から始まり、このハエを通じてセックス模様を観察。するとハエにおいても、しっかりとした流れがあるというのは少し以外であり面白い。人間的にいえば、ハエも紳士であるということだろうか。

また、遺伝的な欠損やクリーニングによって同性愛のハエ、つまりホモのハエを人工的に作り出せたという結果にも少し驚き、この結果からある種の遺伝子がこうした作用をもたらしているのだと考えられ、すると人間においても同等のことがおきているのではとするのは驚きである。

本書は全4章からなり、どれも思いのほか面白くて楽しめ、勉強にも。

サルやゴリラにおける求愛行動についてや、人間との比べ方、また人間以外では近親相姦の起こる確率が非常に低いという事と、他の動物は性行為を人間のようにひた隠しにしない、というのが特徴的。

また、“愛”の優位性を語っているのも印象的で、恋愛至上主義ではないにしろ、やはり愛とは重要であって関係欲求なるものによると知る。関係欲求の重要さとそれに付きまとう上昇志向が人生においての重要なベクトルを占めやすく、難しいところに思えるところ。しかし何事も人生の糧となるので「考えるよりも行動」「行動してから考える」ことの重要性を説き、いい啓蒙となりそうではある。

「相対的な主観」といった概念葉重要で、つまりは客観性といってもそれを思い書くのは個人であって、個人のフィルター越しの客観性ゆえそれは絶対的な客観には成りえない。それを説明し、登場したのが「相対的な客観」であり、これが一般的な“客観”であり科学らしさについての解説も。

他には、生き物と死に物を比べた際に持ち出した状態であり、それを評して言う「非線形」。つまり死に物は生き物と違って入力と出力が比例せず、非線形であることが特徴であるそうでまた印象的。

あと自己受容の重要性と、人の脳が自己受容を形成していくプロセスを平易的にも具体的に述べているのが分かり易過ぎで凄く、「こうも簡単な原理で自己受容の形成はされているのか…」と感慨深く思えたほど。

人が惹かれるのは結局フェロモン、すなわち匂いであるというのと、それに関わる糖たんぱく質HLAといった存在が印象的。すると、惹かれるといったことも機械的な情動を匂わせ、なるほど面白いなと思う。

 

 

第7位。

『時の矢―あるいは罪の性質』

時の矢―あるいは罪の性質

時の矢―あるいは罪の性質

 

 意欲作。

本作は時間の流れに逆らって展開していくという実験的な作品であり、読み進めるほどに過去へと遡っていく。

文章中の表現も巻き戻りをしているので多少ややこしく、たとえば主人公は医者であるので、医者の行為を時間軸として逆に描くとこうなる。

医者は患者を壊して送り出す。

このように書くので、慣れれば想像できるが、それでもすべての事象がこうした風に逆回転で書かれているので分かりにくい。

こうしたアイデアの小説がなぜ今までになかったのか?そこで思い出すのはネットで見た金言で、「先人は試した上であえてやらなかった」というものを想起させた。

それほどには読み難く、こうした逆に描く作品は著しく読みにくい、といったことを認識した上であえてやらなかったのでは?と思わせた。

物語としては、主人公が事故って病院で横たわり死の淵から始まり、そこからベンジャミンバトンのように時間が巻き戻り始める展開。

解説にもあったように、もうひとつの特徴は語り部の“わたし”が魂といったことであり、自分を俯瞰するようにいるだけで、自分の肉体は操れずただ傍観者に徹している、という点。

その俯瞰者としての“わたし”が自分の肉体を見つめる話で、どんどんと若返っていくさまを回顧的に語る。

展開としては、中盤まではどこか秘密を秘めながらも恋愛情事を主に持ち出し、色情豊かさを思わせながら、後半からは怒涛の展開。衝撃的。

ミステリーものとして秀逸に感じさせた。

全体としてなかなか難解で読みにくく、主人公の思考も湾曲した表現が多かった。

この湾曲表現に逆周りの世界における描写と、分かりにくさの重複であって、ひとえに読み難さを呈していた。だがそれこそこの作品の醍醐味でもあって、訳の微妙ささえも、その一端を担うようにすら感じる。

どんどんと若返り、無垢な時代へと戻っていく自分を眺めながらすべてを語る“わたし”はすべてを知っており、すると読み手にもその感慨深さは自然と伝わり、生とは?といった哲学的な示唆を問われるようで読み応えあり。

本書は意外にもSF感は希薄で、同様にファンタジーさも顕著に示さず、意外にも文学的な面が強いように思わせる作品。

 

 

第6位。

『パンの歴史』

パンの歴史

パンの歴史

 

 パンの歴史についての記述は紀元前からなり、特に中世時におけるパン事情に関しては充実。

パンの成り立ちや当時のパンの役割、社会的位置、パンがどのように思われどのように崇められていたかが良くわかる内容。

パンは宗教的な色合いが強いと知ってはいたが、その具体性を本書を通じてより知り得れた。また、パンの名言や格言なども載せてあって、パンのトリビア的知識に関してもばっちり。

水車を用いての石臼についてなど穀粉に関する知識も充実して載せられ、製粉の歴史についても力を入れていたという印象。

パンの歴史的側面のみならず、パンに関するまじないまでもが知れる内容であり、昔はかびたパンをまじない的に良いものとして食べさせていたというのは、恐ろしい事実。

パンのギルドに関する知識も深めに追求し、組合を形成していたパン業界の光と闇も知れる内容、パンと歩む世界の歴史の流れ。それを学ぶ上でとても勉強になる本だ。

 

 

第5位。

星屑ニーナ

全4巻の漫画作品。

内用としてはSF。

ロボットとニーナという少女による探検記であり冒険譚から始まり、移り行く世界を鮮やかに描く。情緒的な作品であって、時系列をバラバラにしているのが特徴的。

ロボットを通して人間性の是非を問うような作品。

連続する短編小説のような雰囲気を思わせた。

人間とロボットのつながりを大きく認識させる、ある種におけるドラえもん的な作品でもある。色濃いノスタルジーさもその所以であると思う。

未来ガジェットが登場しながらも独特の世界観により、これは未来というよりは別世界を想起させる。すると幻想的でもあって、ノスタルジーさと相まって不思議な酩酊状態のようになって楽しませてくれる。一種の映画的な作品でもあり、世界観にすっと自然と没入できる作品。その世界観の個性とこうした万人性と呼べる没入感のバランス具合がすばらしい!

良い作品であると同時に良いSF。ドラえもんなど人に寄り添うロボットが登場する作品が好きには人にはうってつけ。

 

 

第4位。

パラノイアに憑かれた人々〈上〉ヒトラーの脳との対話』

パラノイアに憑かれた人々〈下〉虫の群れが襲ってくる』

パラノイアに憑かれた人々〈上〉ヒトラーの脳との対話

パラノイアに憑かれた人々〈上〉ヒトラーの脳との対話

 

 上下巻ともに面白く、それでまとめて紹介!

本書は優秀なノンフィクションの作品であり、同系列として思いつく本は『脳の中の幽霊』。パラノイアの患者を通してその現実について知れることのできる貴重な一冊。

 ユーモアさも優秀で、読んでいて飽きることのない内容だ。

 人間成る者のおぞましい一片を知ることができる。

低周波電波が睾丸に影響があるとの説を信じアルミのパンツを履いた男が登場したり、歯が喋りかけてくると言った妄想を持つ女性。失楽した女バレエダンサーに、虫が襲ってくる幻覚に苛まれる男性。

著者本人がをれらパラノイア患者と接触してその模様を描き、どれもがとても強烈。

悲劇的でありながら人間的で情動を揺さぶられるような話も多く、感動的ですらある。

パラノイアとは?という勉強にもなり、コカインなど麻薬の恐ろしさも痛感する内容。しかしパラノイアは誰でもなる可能性があり、そこにさらなる恐ろしさを感じたりもする。そして、見える幻覚にはやはり原因、由来があって、それが徐々に明らかとなっていく様はフィクション作品のようであって、実によくできていた。

ぶっとんだパラノイドは想像していた以上に過激で、常識から逸脱が激しく、その乖離具合はもはやSF!

なかなか凄い本だった。

他には、パラノイアは大脳皮質における辺縁系の異常が原因であることを知れるなど多少勉強にも。エル・トポ。メスマーが作ったとされる幻覚を見せるという蓄電器『バケット』も注目に値する。

パラノイアに憑かれた人々〈下〉虫の群れが襲ってくる

パラノイアに憑かれた人々〈下〉虫の群れが襲ってくる

 

 

 

第3位。

『幸福について―人生論』

幸福について―人生論―(新潮文庫)

幸福について―人生論―(新潮文庫)

 

 ショーペンハウアーによる一冊。

内容としては一読すると、なかなか厭世風味が強く感じ、また自己擁護的な印象も。

つまりショーペンハウアー本人の気質を表すような内容であり、手厳しい内容。

印象的なのは社交クラブを嫌悪する姿勢であり、孤高の孤独を愛しみ崇めていたところ。

なるほど確かに孤独とは、俗人との関係を隔てる上では重要であり過去の偉人も同様のことを唱えている。しかしここに少々の誤謬を感じ、つまり確証バイアス的なものが多少なりとも感じられたりもした。ただ唱える幸福論は多少なりとも納得し、得るものばかりを追い求めるのはきりがなく、外面的ではなく内面的の充実化を唱えるのには大いに同意。

しかし、他者や親しい者とのかかわりをできるだけ避け、「失うものを減らすことによる平穏さこそが幸福」とするのは正論かもしれないが、耄碌した意見にも感じる。

本書は『哲学書』というよりは『啓発書』と呼べる内容であり、賢人として過ごすための知恵や工夫が綴られているといった印象。

やはり特徴的なのは「得ることよりも失うことでの波紋が大きい」ということで、「俗人は外からの刺激がなければ満足できないが、賢人は内面にあるもので満足ができる」とし、これが最大の幸福としての秘訣と主張する事。

また、最初のほうにあった大きな主張「道楽者は退屈に屈し、貧者は忙しさに取り付かれる」といったのが印象的であり、ある種の真理に聞こえた。

貧者はその貧しさから放蕩するが、道楽者は暇をもてあまして放蕩する、といった確信ごとも印象的であり人間の本質を見抜いているようで面白い。また、外からの刺激でなければ満足できない人間の教養のなさを何度も指摘しては手厳しい。

人間なる者の本来の幸福とは、やはり内面性の充実に尽きるのであるのでは?と妄信的に思うようになること請け合いだ。

本書は孤独なることによる賢人性の獲得と、その性質について雄弁に語り、俗人の文化を全面否定する内容。そこに厭世主義者性と、これまた面白いが、そこにこそ一種の妬みの気質を感じるのだから面白い。つまり互いにないものねだりすると言うのはやはり真理であり、低俗が博学者を妬むように、人望あふれる者をまた妬んでいるのでは?とも受け取れる。

 

「賢者は黙ることでこそ、その存在性を示す」

とあるが、するとこの本の存在は何なのだ?といった二律背反にも思えるので面白い。カフカの「知的な作業は人を孤独にする」といった言葉もあるように、カフカショーペンハウアー書物を読んでいたのかもしれない。

本書はセネカの言葉もいくつか引用し、セネカ同様にストア主義的な側面も見せた。

読み応えある内容。

ほかには、「幸福は受動的なのに対し、苦痛などは能動的とする」というのも印象的で、「相手が幸福かどうか知る手っ取り早い手段は、今の不幸を訊ねることだ」とするのは真理だろう。些細な不幸を述べるのであればほかに不満がないので、幸福ということになる。

本書は幸福についての真理を簡潔に述べ、それは古今東西変わらないものであると知らしめる。それは当然であって、同じ人間なのだから!

人間は急に進化した分、原始的な部分は変わらず。人の気質は変化していない。

それが顕著にわかる内容であって、「人間の気質は変わらない」と本文中に何度も提唱していたのも特徴的。

故に、合わぬ気質の者を改善させようとする努力は無駄と説き、合間まみえぬ相手にはそれ相応の対応をとることが賢者とする。

全編を通し、やはり読み応えあった。

本書は晩年に書かれたものからのひとつを文庫化したものであり、解説どおり処世術について簡易にそして細かく描かれ、実用的。

平易であるので読みやすく、理解もしやすく万人向けといった印象。

金持ち喧嘩せず。

この格言に習い、内面の金持ちになれと唱える本書は、やはり叡智に満ちていた。

 

 

第2位。

『さあ、気ちがいになりなさい』

さあ、気ちがいになりなさい (ハヤカワ文庫SF)

さあ、気ちがいになりなさい (ハヤカワ文庫SF)

 

 フレドリック・ブラウンによる短編集。そして訳者は星新一

どれもはずれはなくて楽しめ、とても面白い!

なかでも「電獣ヴァヴェリ」が特によかったという印象。異星人によって電気を奪われてしまい…という話。物語の結末には一捻り。

「ノック」は星新一先生が好きそうな作品。

異星人を描くのがうまいな、と思える作品。

「ユーディの原理」は独特ながら面白い発想。

「沈黙の叫び」なる作品もよく、音に関する議論は読み応えあり。

表題作「さあ、気ちがいになりなさい」は収録作の中では一番長いもので、抜群に面白い。内容としては終盤にかけて急激にシリアスになったりもし、そして衝撃的な展開。最後までハラハラさせる勢いのある作品。

印象として「ひと筋縄ではいかないのがこの作家さんの特徴なのか」と思える作品集。

正気と気ちがいの概念ばかりで転覆しそうになりそうだが、その気ちがい好きさが実に面白い。「さあ、気ちがいになりなさい」はある種のメタファー作品であって、現代の病む人たちへの投影なのかもしれない。そう思うとより深く感じる作品で、どの作品も単純でシンプルながら、教訓じみた要素あり。

「不死鳥の手紙」などもあっけんからんとしながら雄大なことを語りそして人類へのフラットな批判は痛快でユーモラス。自虐的でもあり、なかなか。あと個人的には「シリウス・ゼロ」も好きな作品で、終盤での流れは大好き。

全体的にはずれなく、評価の高さも納得の出来。

そして星新一氏が通訳を買って出た意味もわかる秀逸な短編集だ!

 

 

 

第1位。

『輝く断片』

輝く断片 (河出文庫)

輝く断片 (河出文庫)

 

 内容としては、SFながらミステリーよりな作品を集めた内容。

表題作「輝く断片」は訳者が絶賛していた理由も一読するとよく分かる。

不気味でありながらも哀愁を臭わせ、実に人間らしい作品!言うなれば、人間の普遍的階層欲求を突いて示すような作品。

「君微笑めば」はとても好きな作品。サイコパスを描いた前衛的な作品で、なかでも「人生を楽しむコツは、細部に気を向けることだ」といった台詞もまた印象的。全体的な流れも好き。

「旅する茨」は娯楽性に富む作品であって想像以上に面白かった!

ウィットに飛んだ会話には所々で笑い、また展開もスピーディで飽きさせない。

「ルウェインの犯罪」はコメディ作品。滑稽さはコントに通ずるものさえ感じた。これもまた予想以上に面白く、はまる作品。

まさに名作ぞろいで、スタージョンはミステリーも長けるのだとよく分かる一冊。

スタージョンの描く作品は、やはり人間の内部分を鋭くえぐっており、独特の思想を登場人物を通して語らせる。その見解はどれも示唆深く、熟考する価値があるよう思えるものばかり。

読み終え、体は火照り嬉々した興奮を得られたほどで、良い小説を読み終えたあと特有の心地よい余韻。お勧めの小説だ。

 

 

『月がきれい』というアニメ

今年の春アニメ『月がきれい』。

全十二話であり、先日無事に最終回を迎えたこの作品。

とても良かったので、平易に感想を。

「あらすじとしては」

なんてものは簡略できるほどにシンプルな構成。

ただの中学生における、甘酸っぱい恋愛与太話。

と、それだけならまだしも、最終回の最後には…。

 

まさに近年まれにみる御伽噺性であって、なるほどと思うと同時に

 

「この作品における一番の見所は?」

 

と問われれば、ずばりそれは

 

「視聴者の反応!」

 

である。

 

本作品は各人の「価値観」と言った色眼鏡の度合いが偉く強調される作品であって、同時に、己の内面を映し出しやすい作品。

これを見て納得するか、それとも反対的に見るかは、まさにその人の内面を覗かせ、鏡像認識できる人間にとっては辛い物語でもあり、悦楽をもたらす作品でもある。

性善説を唱える訳ではないのだけれど、大よその人がこの作品の終わり方には満足するのはないのだろうか?

それはつまり、ドラえもんで言うところの重要な名台詞、

 

「あの青年は、人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことのできる人間だ」

 

ということであって、

 

「それが、一番人間にとって、大事なことだからね。」

 

と締めるしずかちゃんのパパの言葉はまさしく金言に他ならない。

 

ここまで純朴な作品は昨今においては稀有であり、作品大量消費時代において目立つのは、その純朴さであって都会における裸の大将が異様な目で見られることにどこか似ている。

本作品を見れば、視聴者は自分の人柄にいやでも気付かされる。

そんな”心洗われる”作品でなく、まさに”心表れる”作品

 

「素直に面白かった!」

と思う心は本心か、果たして欺瞞か。

そうして揺れる心を楽しめる作品であって、揺れる心情、作中の登場人物だけじゃないぞと成る作品。なかなか面白い。

コメントも面白く、まさにコメントを見るためのアニメと言っても過言でない!

自分の中のクソッタレ具合を測るにちょうどいいアニメだ!!

 

ヒトカラ

 

朝起きてまず最初にトイレに行くと、ドアを開けた瞬間に足元、カサカサカサと高速移動。振り向いてバナナに驚き飛ぶ猫のように反射運動。

思わずのけぞり、朝からゴキがいの一番におはようと。

なんとまあ衝撃的な出来事であって、一気に目が覚め体が火照り、高齢ならば倒れていたのでは?と思うほどの衝撃度。もしそうであったら、死因はゴキブリ?コナン君も真っ青な展開であって、出会いがしらは最悪の一日。たとえ食パン加えていてもだ。

 

そうした今日はちょっと時間に余裕があって、ふと思いたってヒトカラへ。

ヒトカラ初体験!

少々緊張感を伴って入店すれば、年配婦人の方の姿がちらほらと。

意外とにぎわっているなという印象。

料金、平日なので安い!

2時間+ドリンクバーで540円なり。

さらに、ドリンクバーにはソフトクリームが!

途端、上がるテンション。歌う前から沸々と。

 

そして案内された部屋。

ヒトカラ用?といった狭い部屋で、ちょうどいい感じ。

実際、ヒトカラは随分と魅力的だった!

友人と来ても楽しいが、

「そういえば、あの曲、歌えなかった」

「あの曲はちょっと控えておくか…」

といった気兼ねは当然なく、なるほどストレス解消にはもってこい。

2時間あっという間に感じたほどで、音痴がクイーン熱唱する場は他にない。

 

あと印象的だったのは、星野源の『地獄でなぜ悪い』という曲。

このMVがとても面白い!

これがすこぶる良かったので、もしMV版があるカラオケなら、ぜひとも一曲、試すことをお勧めする。唄わなくても、MV観るだけで楽しい!!

 

ジュース飲み放題、唄い放題、ソフトクリームも食べ放題。

まさに現代の桃源郷かと錯覚するヒトカラ、嵌る人が多いのも納得である。

顕示欲について、ちょっと思ったこと

togetter.com

このまとめを読んで思ったこと。

確かにこの小学生は凄くて、拍手を送るほどには見事な発明!

素直に感心したのだけれど、ここで少し「んっ?」と違和感が。

それが少しして分ったので、こうして散文的に書いてみた。

 

その違和感は、ずばり顕示欲について。

 

これをこうしてアップしたのは当然これを作った息子さんの親なわけで、

そこで思ったのが、

「この親、顕示欲がすげえな」

 

 

確かに、発想的にすばらしいものを発明したのにもかかわらず、教師に見せても塩反応であって息子さんは落ち込んだと。

ならば、その分を親御さんが十分に褒めてあげれば良いのでは。

周りの評価は当然大事だけれど、それに固執するとまた厄介。

息子さんの才能の素晴らしさを見せびらかせるのを完全に害とは言わない。

けれど、その親による顕示欲が、今後の息子さんの人生に悪影響が出なければいいなと思うのみ…。

 

インストアベーカリーのバタールのカロリーが

 

ふと立ち寄ったスーパー、店内にベーカリーが。

そこではすべてのパンにカロリーが表示されており、現代的だなと感心するのと同時、

「んっ?」と疑問に思うパンが。

 

それがこれ。

 

 

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ミニバタール。

1本108円と実に安価。

しかし注目すべきはカロリーで、

これ丸々1本で、表示は『263 kcal』となっているので驚いた。

 

このサイズでそのカロリー?

 

疑問に思いながらも気になって購入。

けれどやはりそのサイズとカロリーのアンバランスが気になって、重さを測定。

 

すると、1個の重さは132g!

 

ということは、大まかに計算しても、

 

100gのカロリーは約199!

 

いやいやそれはありえないだろうと思う所存。

正直、偽装表示では?と思ってしまう。

というか、スーパー内のベーカリーであるので管理する大元の会社があると思うのだけど、おそらくそこからの指定レシピとは違う分量で作っているのだと思う。

 

こうしたことは案外、ボリュームを出そうとしてどこもやっていることなので悪いとは言わない。むしろ、規定分量より増やして作ってくれているのなら、お買い得であってありがたいことだ。

 

しかし大問題はそのカロリー表示で、分量変えてくれて結構だから、カロリー表記も正確に!と思ってしまう。

たとえば、このカロリーを信じ込んで「おっ!このパン、大きさの割にはヘルシーだな!」と思ってしょっちゅう食べる人が居れば、誤ったカロリーに踊らされて害を受ける可能性は大。

別に分量ちょろまかしてもいいけど、嘘のカロリー表示するぐらいなら、いっそカロリー表示しなくて良いのでは?と思う。

そしてもし、そのカロリーの低さに惹かれて購入したならば、そのカロリーが嘘の場合には詐欺となる。

 

 

大きさとしては直径を計ると36cm!もあり、持った感じも軽くなくてパンが別段スカスカでないことを思わせる。

あと表皮の見た目は結構きれい。*1

 

食べてみると普通においしい。

 

クラストはサクッとしており、クラムはほどほどの弾力。

値段以上には美味しくて、袋パンのバタールの何十倍も美味しい。

それだけに、信憑性に乏しいカロリー表示が残念。

ここでもし「おから・ふすま使用」とでもあればまだ納得だけれど、そんなこともなく小麦粉100%の純粋なバタール。

味・見た目・値段と良いだけに、変なところで汚点をつけては実にもったいない。

 

しかしこう言った意見は食糧事情の豊かさを示すものであり、中世フランスではこれと真逆のことをして叩かれていたのだから、当時のフランス人がこの記事を読んでも「何が言いたいんだこいつはっ!?」と意味不明だろうけどw

 

 

大きさの参照に、ティッシュと並べて撮ったもの。

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*1:店舗差が激しいドンクの、下手な店のバタールよりずっときれい。

冷凍食品の本

 

冷凍食品入門書のような一冊で、内容としてはとても簡易的でライト。

冷凍食品の歴史から、冷凍食品のアレンジレシピや商品カタログを載せた内容。

正直、そういったページは物足りなく感じたが、意外にも面白かったのは専門家による冷凍食品の解説。

そこでは冷凍障害の原理についてを解説し、「急速凍結」の必要性を説く。

 

注目ワードは「最大氷結晶生成温度帯」。 

食品中の水分はマイナス1℃位で凍り始め、マイナス5℃位で凍結します。

この温度帯では食品がほとんど変化しないで、「氷の結晶」がどんどん大きくなっていきます。それで、この温度帯のことを「最大氷結晶生成温度帯」と呼んでいます。どんどん成長する氷の結晶によって食品の組織を壊さないように、国際的にも「この時間帯を30分以内で通過させる」というのが急速凍結の定義になっています。 

ここでは『冷凍前の細胞』、『急速凍結した細胞』、『緩慢凍結』による、それぞれの状態の写真が載せられており面白い。

 

 

そこで冷凍食品の巧妙さを知り、

そして、細胞壁を破壊させない冷凍技術に思うのは

「これって、生物にも使える?」

ということであって、SF的とも言える穿った見方をすると、

一変してSFものとして楽しめる内容の本!

 

冷凍食品としての重要なキーワードのひとつ、「マイナス18℃以下」

この温度下において微生物は増殖しない。

「死滅しない」とはまた別で、「活動停止」状態になるの過ぎない。

 

すると、30分以内でマイナス18℃以下に急速凍結した人間はもしや…と思えなくもない。冷凍食品から始まる新たな人類史。そんな夢の一介を感じられる。

そんな一冊。