book and bread mania

-中途半端なサウスポーによる日々読んだ本の記録 + 雑記 + パンについて-

11月に読んだ本からおすすめ10冊を紹介。

11月に読み終えた本は32冊。

その中からおすすめの10冊を紹介!

 

 

 

 

第10位

『笑いの研究―ユーモア・センスを磨くために』

笑いの研究―ユーモア・センスを磨くために

笑いの研究―ユーモア・センスを磨くために

 

「笑い」とはノンバーバル・コミュニケーションであり、 ノンバーバル・コミュニケーションの定義としては「言葉のように意味を一義的に定義することができないので曖昧さが伴う」。

その定義はジョークにも伴い、ジョークは捉えて分析しようとすると、その本質が逃げてしまう。すると「笑いって実は、物凄く奥深いんじゃないか?」という事を改めて実感させてくれる内容ではあった。

笑いは争いや緊張に効果は抜群。それでいて用いるのは無料!

 これって冷静に考えれば凄い事。

りんごが医者を青くするのならば、笑いは医者は透明にする。

笑って病気が治れば、まさに医者要らず。

本書では笑いと免疫の関係性についての内容も。

そして偉人による「笑い」についての考察も至る所で引用されており、アリストテレスは「笑い」に対し「他人に苦痛や危害を与えない程度の欠陥や醜さがおかしみ」と述べ、ホッブスは「優越感が笑いを起こす」と言う。

カントは「緊張した期待が突然「無」に変わるときに笑うが起きる」。

ショーペンハウエルは「ある人が考えていることと事実の間に、突然不一致が認められたときに笑いが起きる」等、このように様々な「笑い」に対する考え方が提示されていたのも印象的。

あとは小ネタとしてあった「ありがとう」を「アリゲーター」として覚えていたアメリカ人が、いざその場面となってド忘れしてつい「クロコダイル」と言ってしまう話はけっこう好き。

また記号論を交えた考察もあって「記号論では記号が示す実物を指示物というが指示物は必ずしもひとつの記号を持つとは限らない」とのことで、「同じ事物が複数の記号を持つことを同義性といい、反対に違う事物が同じ記号を持つ場合のことを多義性という」。この場合、分かりやすい例は「時そば」で多義性に当たるとのこと(9文と9時)。

あとは英語においても笑うの表現が多種であるのには驚いた。「歯を見せてニヤニヤ笑うグリン」「声を殺すようにしてクスクス笑うギグル」「フフンと冷笑するスニアー」「嘲笑するリディキュル」「声を立てて笑うラーフ」「声を立てず顔をほころばせて笑うスマイル」等々。

本書は笑いの効用についてを学べるのみではなく、笑いとしての複合的な意味についても学べる上に笑い話も添付していて笑えるというお得な内容。悪くない一冊だった。

 

 

 第9位

『太陽ぎらい』

太陽ぎらい (ふしぎ文学館)

太陽ぎらい (ふしぎ文学館)

 

 はじめて読む作家さんの短編集。読み始めてみると詩のような美しい文体ながら読みやすく、一捻りある展開や結末。内容として全12編が収録されており、特に印象的だったのは『観光客たち』、『遠い星から来たスパイ』、『殺さずにはいられない』、『ヒーロー・暁に死す』と言った作品。

『観光客たち』はネタばれを控えて言えば星新一的。

『遠い星から来たスパイ』も同様。最後も結構好き。

『殺さずにはいられない』はミステリー作家らしい作品。

『ヒーロー・暁に死す』はコメディ作品。あるあるな設定ながらも丁寧であって万人向けするであろう面白さ。

どの短編もさらっとしていて読みやすく、表現として自然の描写が美しいのが特徴的に感じられた。あとはあとがきにて紹介していた、著者の

「ミステリーは、人間社会の醜悪を描くのだからその分、美しくなければならない」

といった言葉が印象的。

 

 

第8位

『神様のパズル』

神様のパズル (ハルキ文庫)

神様のパズル (ハルキ文庫)

 

 「宇宙を作り出す!」という大言壮語からいったいどういう展開を見せるのか!?と気になり読んでみた一冊。

平易な感想でいってしまえば起承転結がしっかりしている小説。

ただ中盤から終盤にかけては駆け足気味で、しかしそれが寧ろ良かった。まるで積み上げたぷよぷよを一気に消化していくかのような怒涛の展開。けれど多少安易な人間関係の描写といった印象もあり、やはり一番の読みどころは中盤あたりの宇宙を作り出そうと奮闘し理論をこねくり回しところにあるかと。ここは読み応えあってすごく楽しく、SF隙にはぜひ呼んでもらいたい部分。

ちょっと狙い過ぎに感じるラノベ的設定などは目立つものの(若輩の天才美人物理学少女やアニメオタクなど)、とてもよくできていたという印象の作品。オチまでの流れもスムーズで、小松左京先生が解説で絶賛していたのにも納得の出来。

「人が宇宙を作り出す?!」といった事に興味があれば、一読して損はないかと思う。 

 

 

 第7位

『カラスの教科書』

カラスの教科書 (講談社文庫)

カラスの教科書 (講談社文庫)

 

 カラスについての文庫本。

読むと当然ながらカラスに関しての知識が深まる。

というのはもちろんのこと、こうした本を読むことでの面白さは一重に「知識が増える」事ではなく、意識の変容にあるといえよう。

一読しカラスという生態について学ぶ事で、彼らがどんな生き物でどのような生活態度を取り、そしてどのような事を考えているのか。

身近になる事で彼らに対する思いや見方が多少なりとも変わってくるのは必然で、意識の多様化は思考の多様化につながる。

日本のカラスとしては代表的に二種類。

それが「ハシブトカラス」と「ハシホソカラス」。

まさに「名は体をあらわす」とったもので、名前と合致するというその見た目。ハシブトのほうは都会に住み、ハシホソのほうは田舎と生息地の違いもまた分かり易く、ごみ漁りは主にハシブトのほうと知る。他にも、ハシブトは「声がでかく、よく鳴く」のに対してハシホソは「あまり鳴かない」とのこと。

あとカラスは基本的に天測航法を用いるのであって、磁気利用の避けグッズはあまり意味がないことを知れたり、カラスはすべてが真っ黒なでないことも知れる。

ただそこで面白いのは、カラスが「黒い」理由は不明ということ。

それでも黒さの構造上の理由は判明しているようで、羽が黒いのは「羽の中にメラニン系の色素を含む構造があるから」との事で「羽毛の表面にはケラチン層があって、わずかだが光を錯乱、干渉させて構造色を発生させる」らしい。

これが紫や青に変化するメタリックな光沢を生み、「カラスの濡れ羽色」と呼ばれる所以とのこと。

またカラスは「嗅覚がほとんどない」らしく野営動物としては珍しく感じた。故に、臭いでのごみ漁り対策は無意味な可能性が高い。目で餌を探すという視覚頼りなところは人間と似ているともいえるだろう。

本書では東京都のカラス数は3万6千とあり、「では今は?」と調べてみた結果。すると確かにH13の時点では364000と表記されており、そしてH29ではなんと8600!ここまで減少しているのかと驚き、この成果はどう見たってごみ対策の賜物。しかしこれほどの減少ではカラスに少し同情する気も。

読み終えてみると、なるほどカラスは遊ぶ動物だとわかり、そして遊ぶ様は子猫のように可愛いのだということも。すると多少なりとも愛おしく思えるようになるのもこれまた必然で、カラスに対する見方としては好意的に。カラスはマヨネーズ好き、というのも可愛らしい。

 

第6位

『マッド・サイエンティスト 』

マッド・サイエンティスト (創元SF文庫)

マッド・サイエンティスト (創元SF文庫)

 

 SF短編集。

そう思って読むと、内容的にはホラー色が強かった印象。

それでもSF的な要素もなかなかあって楽しめた。

一人称の語り口調で展開する『サルドニクス』は自伝的な赴きある作品で、その巧みな構成から映画を見るような酩酊感に誘われ気づけば熱中してしまうような作品。

『自分を探して』は掌編並みに短めの作品で、『マインズ・アイ』に載せられてもおかしくないような作品。『エリート』なる短編もまた面白く、医学と金と権力とをモチーフにしたような作品。これ等は何処か既知感ある作品であってあるあるネタ的ながらも人間中心主義ならぬ医者中心主義的な作品。『スティルクロフト街の家』は地球の長い午後的な作品。『ノーク博士の謎の島』は愉快で面白かった。ユーモア抜群の作品であって、根幹としてのテーマが「アメコミ」とは。あとこれに登場した「不思議な実」などは「もしかしてワンピの悪魔の実のモチーフはこれか?」と飛躍的に思ってしまったほど。『あるインタビュー』は有名脚本家の息子の作品とのことで、内容としては掌編ほどの短さで臓器売買に疑問定義するストレートなもの。ただ表面的過ぎる感も。

『粘土』こそまさに”すこしふしぎ”な作品でありホラー的。ただしっかりと抱えていた箱の秘密や手袋の中を明かすあたりは、一流の短編としてのクオリティを感じさせた。『冷気』はラヴクラフトによる短編。内容は中程度。

『ビッグ・ゲーム・ハント』は人以外を主役に据えた作品で、ダイオウイカ物語。

『シルヴェルターの復讐』はでぶばなしで、これは多少ユニークに感じた作品。最後のオチには映画AKIRAのいち場面を想起させたりはしたけれど。

『箱』はリー・ワインシュタインというあまり知らない作家の作品で、短いながらもなるほど落ちはなかなか衝撃的。この終わり方には正直ハッとさせられた。

『アーニス博士の手記』は不老不死を「行動がのろくなる」ことで表現していたことが目新しい。

刮目して読むべきは『ティンダロスの猟犬』という作品。これは印象的な内容で、時間を一次元的ではなく多様性に眺めようとするのがとても魅力的。この作品に関しては摩訶不思議さと共に知見の広がりを感じられるような内容で、本書の中でも特に面白い。

『最後の一線』はかなり独特で、臓器移植についての唯物論的主観としての著者のメッセージをこめたような作品で、死後の後もまた生きる臓器と共に彷徨う意識を表しているように感じた。『サルサパリラのにおい』はレイ・ブラッドベリらしく情緒的な作品で、これもまたふしぎといった印象を抱かせながらも、最後には晩夏の海風の如く何処かさわやかも感じさせる作品。清涼水のような、喉越しのよい作品だった野は確か。全体的になかなか面白い短編集ではあった。

 

 

第5位

『愛のゆくえ』

愛のゆくえ (ハヤカワepi文庫)

愛のゆくえ (ハヤカワepi文庫)

 

 読了後はなんか不思議な気持ちに。

しかし悪くない気分。不可思議な情緒を爽やかに残していく作品。

設定は独特であって、主人公は図書館の引きこもり。

その図書館自体も特殊で、来る人々が各々に持参する本を受け付け管理するという、これまた変な図書館。そこに絶世の美女がふらりと来てなんと…。

こんな作品で、しかし平易なルサンチマン的情念に満ち溢れているかと思えばそんなこともなく、物語としての広がりは一辺倒であり狭いように思える。しかし一読して振り返れば、なんとまあ心情的な広がりは多面的だったのだなあと懐古させるような内容。

暗喩的な示唆を多重なりに感じさせる構造。しかし本作品の読み応えはそういった造詣深さにあるのではなく、むしり感性的な面。考えるな、感じろ。そんな風情を感じさせ、文章が詩的なのではなく、構造が詩的。

コンテクストさが評価されているのだとわかりやすい作品ながら、これこそ本人の解釈を存分に発揮してこそ楽しめるであろう作品。

 それほど長い作品でもなくさっと読める小説なので、気になれば手にとって損はないと思う。そして眠れぬ夜などに読めば一気に読んでしまうような小説。

 

 

第4位

『悪の謎に挑む』

悪の謎に挑む

悪の謎に挑む

 

悪って何ぞや? それについて語るエッセイ集。

アウビッシュや9.11、過去の戦争など現実としての事例を挙げたりする等して悪の本質に迫ろうという内容で、雑誌『タイム』に寄稿したエッセイを集めたものなので各章は短く、章自体の数は多め。

「悪」とする存在の特徴としては、「掴み難い」ことを挙げていた。

悪とは相対的なものであり「悪とは反発から生まれる」として作用反作用を元にその根源を示そうとしていた点なども。

そして悪とユーモアの関連性について述べたエッセイなどもあり、どちらも定義し難くく定義しようとすれば本性からずれてしまう、など関係性はなるほどとつい思う。

そこでの表現、「どちらも爆弾であるが、炸裂すると、ユーモアは笑わせ、悪は死である」という言葉は印象深い。

あとは著者が体験したエピソードなども綴られており、隠遁者が自殺しその後自宅を改築する際に床から大量の少女型人形が見つかった、という話はなかなか衝撃的。

だが著者はそれを「悪」と安直に見ず、寧ろそれによって欲望を抑制していたのでは?と一種の善的行為として捉える見方は面白い。

あとはカートコバーンのやばい面なども紹介していたりと読み応えあり。

後半は二項対立的な見方を強調していたのも特徴的で、「悪がなければ善がない」とするのはもとより、「悪がない世界は生きるに値するか」は誤解を招きそうな表現ながらも、なるほど善悪によって生じる閾値的感情は重要かと思えた。

「悪は、時間である」

この言葉もまたとても印象的。

そして「善は意味を欲し、悪は無意味を望む」という言葉は捉え所が難しい。しかしそれが良い。

 

 

第3位

『宇宙消失』

宇宙消失 (創元SF文庫)

宇宙消失 (創元SF文庫)

 

 今更ながらようやく読んだ。

一見して量子トンネル的話かと思いきや、量子論における観測問題

内容としては何より量子力学を根幹に添えながらも、そのわかりやすさに驚いた!!

多世界解釈におけるご都合主義的ともいえる合理的選択。

こうした「自分の都合のいい世界を選ぶ」というのはシュタゲなどにも通じるところがり、そこでの疑問「主人公の主観的意識が去った後の世界はどうなるのか?」ということもしっかりと捉えて描写、解説しており、可能性のある世界の多様性と、自己意識に関しての拡張性についてよりよく考えられるよう仕向けられていて良かった印象。

それでも少々疑問に思えたのは、はたして択ばれたなかった世界の自分としての存在それらを、はたして「死」と定義していいものかどうか?ということ。それはつまりその世界での自分はまた生き延びている可能性があるからである(それは作中の主人公が自分を自覚できるように)。あとは「モッド」という脳内神経にインストールするソフトのアイデアは面白く、ギブスンっぽさは感じさせながらも多世界論を示す上でのいいスパイス的アイデアになっていたと思う。

それでも驚嘆すべきは、やはりこうした難解なテーマをここまで平易的に読みやすく仕上げた点にあるのでは。同著者による短編で似た作品があったなという印象も。

 

 

第2位

自閉症児イアンの物語―脳と言葉と心の世界』

自閉症児イアンの物語―脳と言葉と心の世界

自閉症児イアンの物語―脳と言葉と心の世界

 

 自閉症の子を通して示す言語の役割とその重要性について。

イアンという少年と親御さんによる成長記録のような内容ながら、その中には言語学的記述など多くあり、脳の発達と言語の関連性についての考察は面白い。

しかし何より衝撃的だったのは、このイアンという子が脳に障害を持ち自閉症としての症状に至った原因であり、それはなんとワクチン接種による予防注射。その予防接種の副作用により、脳幹における一部の成長が阻害されたためとのことで、予防接種においてもこのような副作用があるのだと知って驚いた。

本書での、前頭前野の働きについての見解は興味深く、内容として言語学としてはもとより脳神経科学的考察も多くて勉強になる内容。チョムスキーによる言語学論のみならず、シャノンの情報についての論も用いており、情報のエントロピー性についても解説。そこでの図書館の例えは分かりやすく、概要だけ述べれば「文章や言葉は構造を持つことによって意図的にエントロピーを高くしていて他のものを低くしている」というのはなるほど合理的解釈だなと思えて印象的。

あと著者の考察によると「言語とは幼児の脳の構築を促す要素」であり、自閉症とは精神疾患ではなく器質的なもの、脳の欠陥や神経科学的な要因であると指摘し、チョムスキーなどによる統語論としての可能性を認めながらもそれを絶対とはしてない点などは鋭い意見としてありに思えた。そして本書においては後半、イアンがキーボードのタイプを覚えたことで内情を吐露できるようになり、そのまま順調に回復かと思われたが…。一読後にはなかなか感慨深い気持ちに見舞われた。

 

 

第1位

『ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉』

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉 (岩波現代文庫)

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉 (岩波現代文庫)

 

 上巻に引き続き、とても面白かったという印象。

内容としては、数学に関するエッセイもあって、対数の扱いに関するコツなども。

あとは芸術にも携わっていたのだとは本書で初めて知り、そのチャレンジ精神はもとより多彩には驚かされた。寧ろそこでの芸術に用いたテーマ性が、科学的見地における自然の驚嘆すべき美しさを表現しよう!とする魂胆である時点でもう興味をそそられた。というか、別名義で画家デビューしていたとは驚いた!さらに個展まで開いていたというのだから…。まったく、その多彩さにもまた驚嘆!

他には、ラスベガスでの一幕を語った内容や、初来日の感想を綴ったエッセイなどは印象的であり同時にとても面白かった。

そしてブラジルで教鞭を振るっていたときのエピソードは寓話のようにそこから学ぶことは多く、「科学とは?」何かを指し示す良いアナロジーになっていたと思う。

そして特に印象的だった項は『本の表紙で中味を読む』や『物理学者の教養講座』。

前者は小中学校で採用される教科書をめぐって起こるひと騒動であり、どの会社の教科書を採用するのがいいか?として実際に目を通すとどの数学の教科書も、物理の教科書も酷くて憤りしっぱなしだったのは読んでいて笑えた。そして共感も。何故ならその理由も述べているからであり、教科書に対する批判理由としてたとえば、作用を言葉で示すだけで(「エネルギー」)その原理については触れないことや、星の温度を使って足し算を行わせる問題の不備性など。そこでもまた「学ぶとは?」ということの本質に触れている気がして、妄信的に教科書の内容を信用しその方針にさせ無為に従う姿勢に対しての懐疑性。まあ確かに、とんでも本を紹介する本はそれなりの数があるように思えるが、とんでも教科書を紹介する本は日本においても稀有(もしかすればないのでは?)に思え、教育の重要性を訴えるのならば同時に教科書の内容に対しても目を向けるべきでは?とは感じさせる。

後者の『物理学者の教養講座』は個人的にとても共感、納得そして感慨深く読んだエッセイで、内容として一言で示せば「哲学批判」。それも切実に。内容を伴わない無意味な哲学に対しての不満を綴る。つまり難解な表現を用いておいて、実は大したことを言っていないこと等に対しての憤りなど。ここには共感してしまうことばかり。

あとはドラムセッションで活躍した話や、サンバカーニバルに参加した話などもあって、内容は濃く盛りだくさん。終盤には講演の内容も一部載せてあり、そこでの

「自分で自分を欺かないこと」

という言葉は金言的。それと共に大きく訴えていた「科学的良心」としての姿勢について雄弁に物語っていたのがとても印象的。

他にも過去の文献を妄信するなという話は啓蒙深く、そこでの「時間を関数として結果の齟齬を少しずつ増やしていくもの」といった例え話はとても納得でき、科学的であるという事は謙虚的な疑い深さも必須であると教えてくれる。

とにかく最後までおもしろく、ほぼ一気に読んだ一冊。

物の捉え方、つまりメタ的な見方として教わることが多く、多面的にも勉強になる良書。そして終盤のエッセイ「変えられた精神状態」はある種神秘的内容であり、そうした捉え方は多少意外であった。しかし自我の正体を考え、その自我しての本質(位置)についてを考察しようとする試みは傍目からしても面白く、トリップするかのようにして掴もうとする自我に対してその結果は…。

最後までとても楽しめ、老若男女にお勧めできる一冊だ。

 

 

10月に読んだ本からおすすめ10冊を紹介。

10月に読み終えた本は36冊。

その中からおすすめの10冊を紹介!

 

 

 

 

第10位

『タイムスケープ〈上〉』

『タイムスケープ〈下〉』

タイムスケープ〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

タイムスケープ〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

 
タイムスケープ〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

タイムスケープ〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

 

現在から過去へメッセージを送る。

そんなシュタインズ・ゲートを髣髴とさせるテーマが主軸となった内容で、ハードSFと評せるほどには科学的考察の骨組みがしっかりとしていた印象。

ただそうした本筋となる部分から脱線した場面、いわゆる登場人物の日常やらそうした箇所への筆が蛇足的にあって、マイナス感は否めない。

それでも根本となるSF部分は面白いので、 シュタゲ好きは特に読んで損はない一冊かとは思う。

後これを書いた時点では、上記の「この商品を含むブログ」の数が<上>では8件であり<下>では7件。

上巻でリタイアしたことを示すようであって興味深い。

 

 

 

第9位

『ゼロからトースターを作ってみた結果』

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

 

  自分の力でトースターを作ることはできなかった。せいぜいサンドイッチぐらいしか彼には作ることができなかったのだ

昨今、異世界転生の作品が流行とのことであるが、そこでは主人公が大活躍!何でもこなせる万能性を示し、神であるが如く崇められるといった展開。

こんな感じのものが多いように思えるのだけれど、実際にはトースターひとつ満足に作ることはできないだろう。上記の引用は、ダグラス・アダムスによる有名な『銀河ヒッチハイク・ガイド』シリーズでの一幕で、ある星に上陸した主人公の地球人が、その惑星が地球よりも文明が遅れていることを知り、ならば自分の知識をひけらかし、崇められよう!として試み、挫折した場面を描くもの。これはまさに異世界転生ものの現実性を示しているようであってとてもユニーク。

おそらくタイムマシンで百年前に戻ったところで、自分ひとりで現代の科学技術を示すようなものは作り出すことは難しいだろう。よくよく思う異世界ものへの違和感はおそらくこれに集約される。*1

けれどまあ、トースターを作り出すのが無理と知った主人公は引用のとおり、サンドイッチは作れたわけで。そこで惑星のサンドイッチ大臣に任命される展開は好き。

閑話休題

 本書の作者もこうした言葉に感銘を受け、「じゃあトースターを作ってやろうじゃないか!」と奮起して、実際に素材からトースターを作ろうと試みるドキュメンタリー的内容。読めばわかる、トースターでさえ如何に現代技術の結集によって作られているのか?

素材集めから一から行い、悪戦苦闘しながらも軽快な文体は時にユーモラスで時に風刺的。ものづくりとしての大変さを知るという面でも、トースターの偉大さを再認識するにもうってつけの一冊で、子供にはもちろんのこと、ものをつくる楽しさを忘れた大人にこそ読んでほしい一冊。

 

 

第8位

『ゴッド・ガン』

『カイエンの聖衣』で有名な著者による短編集。

 全10編収録されており、表題作『ゴッド・ガン』は相対性理論が確立された後の思弁的作品といった印象。

次は『大きな音』で、これもまた一つのアイデアで書ききった作品という印象で、解説にあった「一つのアイデアを結晶に…」としたコメントが的確に思えてくるような内容。『地底潜艦〈インタースティス〉』はヴェルヌ作品のオマージュ的作品。

『空間の海に帆をかける船』はユーモラスタッチの文章に、ドキュメンタリーのような描写でサクサク読み易く、最後のオチも好き。そしてこれもまた作者特有の独特の思弁さを持つ作品で、空間と時空に対しての持論を展開しているような作品であってその理論は面白く興味深いアイデアは一読の価値あり。

『死の船』はインナーステラー的作品であり、未来を覗くことでの決定論的な思考と、それに抗うことは果たしてできるのか?とする思考的作品。これはなかなか印象的でお気に入り。面白かった。「因果律」について考えさせられるような内容でもあり、そういった意味ではシュタゲ的でもあった。

『災厄の船』は一変してファンタジー色の強い作品で、エルフによる人間原理を描いているのが特徴的。ただ他の作品群と比べれば、印象は薄め。

『ロモー博士の島』は名前から分るとおりのオマージュ作品で、内容としては予想外。ただユーモア性はたっぷりで、普通に笑える。

『ブレイン・レース』は本書の中では、一番好きな作品だったかもしれない。これは愉快な異星人が登場するもので、その奇抜なアイデアは一言でいって「やばい」。すると途中で作品名の意味も分り、最後のオチも含めて全体的に好き。

『蟹は試してみなきゃいけない』は題名どおり蟹が主役で、蟹目線の作品の内容。昔からよくある、他生物からの目線で描いた世界の話で、味わい深さはあるものの本書の中ではあまり目立たず感じた。

『邪悪の種子』。不死身さんが登場して、イメージ的にはポルの亀。これは本書のなかで一番長い短編で、最後には「不死性」を否定する理由を明らかにするが、その理由はちょっと拍子抜け。全体的には普通といった印象。

全体を総括すれば、思った以上に思弁的かつ科学的な作品が多かった。

あとはどれもが一つの単純なアイデアから発しているのがよく伝わる内容でもあり、思弁的に突き詰めていったという感じ。全体的に悪くなかったものの、インパクトとしては作品間での差が激しかったなという印象も。

 

 

 第7位

 『ハイ・ライズ』 

 J・G・バラードによる有名な作品で映画化もされた。

読んでいて思ったのは、これ現代板『動物農場』的な側面もであるのでは?

ということ。

他にはアニメであった『がっこうぐらし』的なテイストも感じ作品で、分かる人にはこれだけでどんな作品かのニュアンスは伝わると思う。。

でもあくまで登場するのは人間で、ハードSFといった内容ではなく、寧ろ風刺的。

あとはこの作者特有の豊富な表現がまた特徴的な作品ではあり、SFと文学の綺麗な融合!細かい心理描写と巧みな情景模写、歪曲しながらも適切な比ゆなど、どれをとっても切れ味鋭い文章ばかり。

単なる娯楽作に留まらず、その一歩先。人間の内面を端的にもえぐるように書いている辺りは流石。読むと映画版もちょっと気になるかな。

 

 

第6位

『人生の真実 (創元海外SF叢書)』

人生の真実 (創元海外SF叢書)
 

 世界幻想文学大賞受賞作。

(SF叢書)とのことで内容としてSFかと思いきや、そんなことにあらず。

本書の場合、「SF」とはまさに「少し不思議」のほうであり、少し不思議な力を持った末妹を主軸にも起こす一家の家族物語。

というか、久々にこれほどすんなり熱中してしまう小説を読んだのは久しぶり。

実にのめり込んで一気に最後まで読んだ。

家族の絆と人の強さ、生き様を想像以上に見せ付けてくる作品であって、ファンタジー要素を幾分か加えた家族の成長物語。

著者の主張が強く感じるシーンなどもあったが(正直、あざとく思える登場人物なども)、それでも傑作と言えるほどには家族としての、姉妹としての友情や成長に伴う変化、情緒の不安定さや様々な愛がよりよく描かれていて文章に血肉が通っていた。

なかでも、ちょっと頭がおかしいと思われていた末の妹キャシーのある行動を示すシーンなどは鳥肌もので、もうここだけ映像化してもすごいものができるのではないか?と思ってしまったほど。

登場人物が多くて「読み難いかな」なんて最初に思ったのは全くの杞憂で、どの人物も個性がしっかり描かれていて分かりやすく、読了感は爽快。

時間を忘れさせる小説だった。

 

 

第5位

ゲーデルの世界―その生涯と論理』

ゲーデルの世界―その生涯と論理

ゲーデルの世界―その生涯と論理

 

 相手を知るには、相手の人隣を知ることが大切である。

同じように、ある人物が考え出した「思想」を知るには、その人の「人隣」を知ることが、思いがけず理解の手助けになることが多い。

そんな折、このゲーデル先生が生み出したはかの有名な「不完全性定理」。

「不確実性原理」と言葉は似てるが、ぜんぜん違う内容であって、このことを正確に理解している人はどれぐらいいるのだろうか?と疑問になってしまうような、数学に潜む矛盾をまさに数学的に証明した偉大な発見でありその功績についてを理解するためにはまずその人を知れとのセオリーどおり(まさに理論!)。

読めばなるほど、こういった環境で育ち、そうした素地によってかの考えが思いついたのだなと知れば感慨深くなる。

そもそも本書ではしっかり「不完全性定理とは?」に対する解説があって「理論」と「論理」の違いなども含めて数学に存在する不完全性を露呈にし、読めば納得。

すごいなーと思うと同時に数学に対する見方も変わるような一冊で、数学に潜む矛盾性を知って視野を広げたい人にもよい一冊。

数学苦手な人でも楽しめると思うので一読して損はなく、おすすめ。

 

 

第4位

アウトサイダー

アウトサイダー (集英社文庫)

アウトサイダー (集英社文庫)

 

 「真理を追究するにはどのようにすればよいのか?」

なんてことをアウトサイダーと目される人物の作品などから探ろうとする刺激的な内容。

人間としての意思の本質、それに伴う現実性と実用性についてを物語るようなもので、思考の柔軟性をもたらし硬くなった思想をある種、揉み解すような展開を見せる。

一読して思うのは、反“人間原理”的な、メタ的な思考を抽出することで新たな俯瞰を得ようとすることを思わせ「自分とは何か?」を最後まで問いかけていたのが印象的。

また、終盤に記してあった宗教と価額における差異についての考察はまことに興味深く、そこでの例え話には爆笑してしまったのでここはぜひとも実際に目を通して笑ってほしい。

あと「人間はブルジョワ的折束である」といった言葉も何気に印象的。

 

 

第3位

ペンローズの“量子脳”理論―心と意識の科学的基礎をもとめて』

ペンローズの“量子脳”理論―心と意識の科学的基礎をもとめて (ちくま学芸文庫)

ペンローズの“量子脳”理論―心と意識の科学的基礎をもとめて (ちくま学芸文庫)

 

 なかなか難解な内容の一冊。

けれど脳内の一部の器官が「量子論的構造を持つ」として展開する説は、突飛ながらも魅力的であって「なるほどそれで自由意志が―」なんて妄想を走らせるのも面白い。

ただ一読のみでは完全に咀嚼、消化し切れなかった印象。

それでもアイデアとしては抜群に面白く、生粋の数学家が思い描く自由意志についてとAIにおける不可侵領域として示す人間の可能性!

多少SFっぽくさえ思えるそのアイデア、読んで酔いしれるのも楽しいので手にとってみて損はない一冊かと。

 

 

第2位

『困ります、ファインマンさん』

困ります、ファインマンさん (岩波現代文庫)

困ります、ファインマンさん (岩波現代文庫)

 

 すごく面白かったという印象。

ファインマンさんといえば高名な物理学者だとは知っていたが、若くして亡くなった奥さんとのエピソードが実に素敵で、こうもドラマチックな人生を送っていたとは!と驚愕。同時にとても感動できる内容であって、もうこの話だけでも満足。

あとはNASAの事故解明の委員に選ばれての経緯から結果までを綴ったドキュメンタリー的な物も面白く、巨大組織の内部事情を赤裸々にするだけではなく、こうした組織における構造的問題を浮き彫りにしていたりと読み応えあり。

所々に入るユーモアも健在で(青写真についてのやり取りでは爆笑した)、あとは事故の検証として部品的欠陥のみならず、組織的欠陥も見つけるに至った流れはまさに見事であってある種のミステリー本としても読める内容。

他には色々なエッセイが収録されていて、どれもユニークな観点から日常を捉え、『ハーマンとは誰か?』なんかまさにコントでこれにも爆笑。

感動、爆笑と軒並み続くような一冊で、とにかく面白い。

一流なのは物理学のみならずユーモアセンスもなんだな、と納得できる内容で、それでもやはり一番に印象深いのは『ひとがどう思うとかまわない!』。

そして『ものをつきとめることの喜び』というエッセイのなかで最後にあるこの言葉がとても印象的かつ真理的。

「僕のおふくろは科学のことは何も知らなかったが、僕は大いにその影響を受けていると思う。すばらしいユーモアのセンスの持主だったおふくろから、僕は人間の精神の到達できる最高の形というものは、笑いと人間愛だということを教えられたのだ」

この言葉の意味を理解するのに、物理法則はいらないだろうから。

 

 

 

 

第1位

『犬として育てられた少年 子どもの脳とトラウマ』

犬として育てられた少年 子どもの脳とトラウマ

犬として育てられた少年 子どもの脳とトラウマ

 

幼少期の記憶とは、どれほど鮮明に持っているだろうか?

おおよその人が曖昧であると思う。

しかし、そうした幼少期の体験こそ現在のあなたを象っている。それも強固に。

こんなことを何の根拠もなく申せば、怪しい教団もしくは利用されたフロイト思想の一派かなと思われようが、実際にそれは事実であることを科学的にもそして経験的にも色彩豊かに物語るのが本書。

記憶は覚えてなくても、細胞は覚えている。

そんなことを指し示す内容として、 子供の脳における可塑性とその過程についてを述べるもの。幼少期における脳の発育が如何に重要かがよく分かるもので、精神科医として著者が担当したケースを元に解説をする構成。

主に子供のトラウマについてを取り扱い、内分泌ホルモンに関しての勉強にも。

なにより、育児放棄の危険性とそれが成長後に及ぼす多大な影響!

性的虐待が及ぼす脳への誤った経路の作成は、異性に向けて行う行為としての必要性を倒錯させてしまう。

そこでの”脳の仕組みについて”の解説も巧みで、

人間の脳の4つの領域の並び方にはヒエラルキーがあり、下から上、内側から外側。これを理解するイメージとして、一枚のドル札を半分に折って手のひらにおいて握りこぶしを作る。それからヒッチハイクをするときのように親指をたて、それを下に向ける。このときの親指は脳幹を表し、その親指の先、つまり脳幹の先が脊髄につながっている部分。親指の太い部分は間脳。こぶしが握りこんでいる畳まれたドル札が大脳辺縁系。そのお札をおおっている手と指は、大脳皮質を表している。

このように表現しとてもわかりやすく、まるでフレミングの法則みたいな表現方法。

そしてここで表した4つの領域は相互に連結しているが、それぞれの領域で異なる種類の機能を制御。脳幹は体温、心拍数、呼吸、血圧などの基礎的な調節機能を制御している。間脳と大脳辺縁系は恐怖、憎しみ、愛、喜びなど、我々の行動を左右する感情的な反応を動かしている。脳のてっぺんの部分、大脳皮質は言語、抽象的な思考、計画を立てること、意識的な決断を下すことなど、尤も複雑で人間らしい動きを統制している。この4つの領域はオーケストラのように調和して働いているとのことで、総合として機能するとのこと。

ニューロン神経伝達物質を出して情報を伝播していくのは有名だが、シナプスというニューロン同士の接合部分において放出され、こうした神経伝達物質はそれぞれ隣のニューロンにある、正しい形のレセプターにしか合致しない。

そこでのこの言葉

シナプスのつながりは驚くほど複雑だが、美しいまでにシンプルでもある

 

 はとても印象的。

 

典型的な「闘争か逃避か」反応はノルエピネフリンニューロンが集まった神経核である、青班核と言う名の部分から起こり、これらのニューロンは事実上脳の重要な部分すべてに信号を送り、ストレスフルな状況に対処するのを助けているとのこと。

神経活動のパターンが関連付けを好むと言うのは納得でき、最適化することによって消費を抑えようとする本能的メカニズムだとすれば分かりやすい。

「過去の経験のひな型」と言う表現でそれが示されており、情報は脳の下部の原始的な領域から入ってくるため、多くの場合そのひな型を意識することさえないというのは知っておいて損はないと思える。

人によっては読んでいて涙腺崩壊するほどには、紹介されるのには悲惨なケースが多い。ただ、そこで幼少期の接し方、それが以下にその後の人生へと多大な影響を及ぼすのか。一読して分かる、脳が著しく発達、形成していく過程においての周りの環境による影響力の強さ。本書は親や教育の立場にいる人たち以外にも、ぜひとも読んでおいてもらいたい一冊であるのは確かで、寧ろ読むべき本。

 

 

 

 

 

*1:「科学技術が劣る世界にいけたとしても、お前はトースターを作れるのか?」ということ。

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 第10位

『科学は不確かだ!』

科学は不確かだ!

科学は不確かだ!

 

 『ご冗談でしょう ファインマンさん』でも有名な物理学者ファインマン先生による、講演内容を書き起こした一冊。

個人的に印象的だったのは、仏教の寺院を訪問した際に僧侶から言われたという言葉。

「誰しもが天国の扉を開ける鍵を持っている。そして、その鍵は地獄の門も開くことができる」

 

講演では、高名な物理学者とした立場を省みない発言をするとはじめに公言。

すると次には有神論者を疑問視する発言を繰り返すので、当時のアメリカとして考えればなかなか刺激的であっただろうと想像できる。

あとはその悪戯好きの性格が如何なく発揮されている講演でもあり、内容に引っ掛けがあるのには思わず笑う。その辺は実際に読んで体感してほしいので、ここでは詳細を省く。

本書では「科学とは?」として科学の見方とはどのようなものかを解説。

あと、いろいろな人に言いたくなるような言葉として印象深いのがこれ。

「何事にもとにかく行動しろ、とおっしゃる場合がありますが、私に言わせればとんでもない!方向が決まっておらず動き出すほどやっかいなことはないからです」

この発言には、思わず首を縦に振ってしまいたくなるような、思い当たる節がある人も多々いるのではないだろうか?

あとは随所に入る心理学批判にも笑う。それが尚、合理的な反駁が故に。

最初に宗教批判をしておきながら、一貫してそうした主張をするのではなく、最後には大団円的にも上手くまとめるのだから話し上手であることは否めない。

一読して楽しめ、物事に対する見方に関しての復習にも良い。

というよりは寧ろ、ファインマン先生の語りが機知に富みウィットに溢れているので、普通に面白い一冊でもある。

 

 

 

第9位

『宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門』

宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門 (ブルーバックス)

宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門 (ブルーバックス)

 

結構びっくりさせられることが多かった印象。 

暗黒物質は至るところに存在している」

ということや、

暗黒物質は光を透過させるので認識されないが重力エネルギーがあり、静かで冷たい状態」

といったこと等、宇宙物理に関しては疎いので、色々と衝撃的。

あとはニュートリノを観察した機材の壮大さや、実験と観察がやはり物理の根底を成しているのだと深く実感。ニュートリノ発見は、ミュートリノが水分子とぶつかったときに出す小さな光を捉えた光電子倍増管によるものであることや、太陽系は銀河の中で秒速223キロメートル!で動いていることなど。これは光速の約140分の1であって普段意識も感知もしないが、太陽系全体がこのスピードで動いているというのは意外。

あと「重力は光を曲げる」と予想したのはアインシュタインで、後年これが事実と判明するのだけれど(太陽のほうにある星を見ると、太陽の重力で光が曲げられ本当の位置からずれて観測される)、では「暗黒物質は至るところに存在」と「暗黒物質は重力を持っている」とすることから、では今見えている光景もまた、あふれる暗黒物質によりずれて見えているのでは?とした疑問も浮かんだり。

暗黒物質は他の物質とは反応しない」というのも特徴的。あと暗黒物質の分布は”重力レンズ効果”にて、その場所に必要な暗黒物質量を測っているとの事。

内容として話はビッグバン、多次元宇宙にも及び、解説は簡素かつシンプルながらわかりやすい。

ビッグバン宇宙の初期による、「暗黒物質が引っ張り、光が押すとなると、引っ張られ押されて振動する。すると「音」が生じ、ビック直後の宇宙も物質が振動して音に満ちていたことになる」と言うのは驚きである。

そして4章の『暗黒物質の正体を探る』は刺激的な内容であって面白く、暗黒物質の粒子ひとつの重さについての考察ではまだ未知数と示し、ぶつかっても反応せずすり抜けるという特徴としてはニュートリノと似ていると指摘。そして暗黒物質は宇宙全体のエネルギーとしては約23パーセントで、原子は宇宙全体の5パーセントにも満たない!とは驚愕の見解。

6章の『多次元宇宙』も面白い。「多元」と「多次元」と文字ひとつでずいぶんと意味が変わってしまうのも面白いし、次元としての概念を改めて考えさせられるきっかけに。最後には表題どおり「宇宙は本当にひとつなのか?」と挙げ、多次元宇宙のアイデアのひとつの例として「三次元空間がサンドイッチのように何層も存在する」というアイデアも解説。あとは真空の中にあるエネルギーについて指摘したことなどもまた印象深い。あとサイクリック宇宙論についても質疑応答で登場していたのが印象的。全体的には、薄めの本ながらも知的好奇心を刺激されるトピックスが多く、思った以上に楽しめる内容の一冊だった。

 

 

第8位

 『わたしが正義について語るなら』

アンパンマンでお馴染みの、やなせたかし先生による一冊。

新書スタイルで文字数も少なめ。

しかしそれに反比例するように内容は濃厚。

内容はやなせ先生の自伝的側面もあり、そして何よりもやなせ先生がアンパンマンを作ったきっかけについて語るのが特徴的。それは実体験が根強く影響を及ぼしていたのだということがよくわかる。

そこでの言及でハッとしたのは、アメリカには多くのヒーローが居るが、その誰もがひもじい弱者にご飯を与える、ということがほぼ皆無ということ。

なるほど確かにそうだなと深く納得してしまい、そこに日本とアメリカの根本的な違いについて考えさせられた。

独自の正義感については「自己犠牲を厭わない」ことを挙げていたことが特徴的。

自分は落ちこぼれでこれといって秀でたものがなく芽が出たのは40過ぎの晩年だった。

意外だったのはアンパンマンの出版が思ったより晩年であったことであり、さらに出版当初は「売れませんよ」と編集者からは思われていたこと。

本書とは「”正義”とは何か?」を考える場を与えくれるものであり、読めばアンパンマンの歌詞が染み入ってくる構成。

一言で表して、「とてもよい内容」だった。

本書は文字数も多くなく、論理的な考察も少ない。

それでも尚、心に深く残る内容であり、人間としての生き方において大切な物とは何か?を実体験を交えて懇切丁寧に教えてくれる一冊。

老若男女、みんなに読んでもらいたい一冊でもある。 

 

 

第7位

『完本 黒衣伝説』

完本 黒衣伝説

完本 黒衣伝説

 

 なんとも強烈な個性を持つ一冊

これに関しては、あえて多くを語らず。

陰謀論、秘密結社など、そうしたものに若干でも興味があれば、ずいぶんと楽しめることであろう内容。

ただ興味深かったのは、

「どうして魔術なるものの生成には“血”が必要なのか?」

とした問に、ひとつの明瞭な答えを示していた点。

多少勉強になった。ある意味、びっくり箱のような本。

 

 

第6位

『クローム襲撃』

クローム襲撃 (ハヤカワ文庫SF)

クローム襲撃 (ハヤカワ文庫SF)

 

 ウィリアム・ギブスンによる短編集。

全10編収録。

相変わらずの湾曲した表現に、近未来的な趣を感じさせるテクノロジー表現の数々。

やはり”独特”といった表現がここまで似合う作家も実に稀有で、分かり難さに混在する近未来的魅力は底深い。

特徴的なのは、ギブスンのデビュー作が収録されていること!

その作品「ホログラム薔薇のかけら」は他の収録作と比べると掌編のように短めで、しかしその独自の文体は当初からあったのだと認識。稀有で突出さは初めから健在。

全体を読み終え思ったこと。この作品の発売日は1987年。

つまり出版はもう31年も前なのだが、今に読んでも古さを感じさせない!

かといって描写されるテクノロジーは、所謂”ドラえもんの不思議道具”的なオーバーテクノロジーではなく、寧ろ身近に実現されていてもおかしくないようなものばかり。

それでいながら、開発実現されていないテクノロジーの存在が数多く出演。

だからこそ、この作品は今に読む価値がある。かえってその作品性が高まるようにさえ感じた。そう思うと感慨深い作品でもあり、なかなか楽しめた。

あと読み難いのだけれど、読み進めていくと次第に視界が開けるように構文の光景がわかり始めてそれで病み付きのようにのめりこむ感覚。気づけば次に次にとページを捲る手は捗り、読んでしまっている没入感。不思議な感覚であって、それも一種のジャックイン的。

 

 

 

第5位

 いち・たす・いち (脳の方程式) 

いち・たす・いち (脳の方程式)

いち・たす・いち (脳の方程式)

 

 内容としては脳科学を主題に据えながらも、量子力学的などを一般教義的なものとして解説。

印象的だったのは熱力学の第二法則、いわゆる「エントロピーの法則」における解説。

この概念は単に「乱雑性が増していく」ことでではなく、実際には統計学としての機軸があって、本来は「平均回帰的なもの」である。

他に印象的だったのは、ファインマン先生についてのエピソードなど。

有名な本のタイトル「ご冗談でしょう、ファインマンさん」。

これがいったい、誰がファインマンさんに向けて言った言葉なのか?その元ネタを知れたのもよかった。

あと印象的なのは、生体における生成のプロセスについて。

これはエントロピーの法則に従えば乱雑さを増していくはず(乱雑な状態こそが平均状態であるとして)であり、すると物事が収縮してひとつのものが生成される流れというのはエントロピーに反している。比喩的にも極論のごとく語れば、小さな子供から「ねえエントロピーは乱雑さを増していくのはずなのに、どうして身体は自ずと出来るの?」と問われるようなもの。

その答えは、はっきりとあり、そしてシンプル(難題そう見える問題も、真なる答えはどれもシンプルであったりするものだ。ケプラーの法則が受け入れられたのは実際、そのシンプルさにあったように)。

それはつまり、身体の器官、脳などが生成されるのは「開かれた空間」だから。

つまり外部からの影響がって、そこは乱雑さが収縮する。

本書ではそれを、通常の縮んだばねの状態と、手を加えての伸びた状態のばねとの対比にしてのアナロジーにして説明。この例はとてもわかりやすかった。

あと本書はシャノンの情報論についても取り扱っており、情報の乱雑性についての勉強も出来る。脳の構成としての二進法性、つまりバイナリーシステムの利点についての解説なども。

全体的には認知の原理や知能のあり方についての初歩的な解説をする内容。なので多少なりともこれらのことを齧っている人ならば多少物足りなく感じるかもしれないが、所々に入る小話やコラムが面白かったりする。復習にもなるのでのでお勧め。

 

 

 第4位

大腸菌 〜進化のカギを握るミクロな生命体』

大腸菌 〜進化のカギを握るミクロな生命体

大腸菌 〜進化のカギを握るミクロな生命体

 

 「E・コリ可愛い!」

そんな思いさえも読了後には自然と抱けるようになる一冊。

大腸菌という存在についての理解が深まり、その存在としての誤解も浮き彫りに。

大腸菌」といえば、一般的にはあまり良いイメージがなく、それは一部の大腸菌のため(主にO157)であって、他はおおよそ無害。

するとE・コリがもはや可愛く思えてくるほどで、当初における「大腸菌は細菌で単細胞だから群れることもなければ、セックス(情報交換)もしない」とした見識がまったく異なるということが判明した過程などは実に面白い。

他にも、大腸菌の鞭毛をめぐって神学派が進化論と敵対して起こした裁判の話も面白くてぜひ読んでみてほしい。

大腸菌が、サプレッサーとしての存在を明らかにするのに一役買ったこともわかり、生物の進化と構造を理解するのに、これまで大腸菌がよりよく活用されてきたことなども納得できる。自らを破裂させ内部に作った、他の菌への兵器を作り出す固体が居るというのにも驚き、自己犠牲、利他的行為を全体のために行なう固体が大腸菌においても存在するというのには驚かされた。あとは、大腸菌を通してみる、ウイルスの存在性についてはとても興味深く、そこでの一説「生物は、憂いするによって枝分けれし、進化してきた」というものは大変興味深く、そしてより考察の価値がある意見に思えた。

衝撃的なのは、大腸菌にも固体別の性格らしきものがあるという事実!

すると大腸菌もまた人間のような存在であると知って親しみを覚える。

そして遺伝子工学としての希望の花であるということも。

本書は勉強になると同時に、読み物としても純粋に楽しかった。

 

 

第3位

『光速より速い光 ~アインシュタインに挑む若き科学者の物語』

光速より速い光 ~アインシュタインに挑む若き科学者の物語

光速より速い光 ~アインシュタインに挑む若き科学者の物語

 

 本書は光速不変の原理に疑問を投げる内容。

そこでまずは相対性原理についての解説から。

アインシュタインが時間の相対性についてを着想したのは、”牛の柵越え”という一風変わった夢からだったとは初めて知り、ほかにも相対性理論の前期譚的なものはあって、有名な式“e=mc2”は元々、“m=e/c2”であった事なども解説。

その後にはポピュラーサイエンス的内容というよりかは、自伝的内容であるのが特徴的。その理論物理学者としての実情と日常の描写が思いのほか面白い!

学者としての日常、日課については(おおよそは上部にたいする悪口であったが)未知であったので、こういった部分はとても楽しめた。

本書が単なる理論の提唱のみからなるのではなく、イギリスをはじめ教育の場における上層部の問題を指摘するのが印象的。

ほかには、ユーモアある記述によって「ミンコスキー時空」がどのようなものか?がとてもわかりやすく理解できる(それは平坦な宇宙を提唱し、インフレーション宇宙論説者を反駁しようして言った「仮に、どのような条件化によって平坦は宇宙ができたとすれば」そこで口を挟んで「それではつまり、我々はミンコスキー時空に住んでいるってことかね?」。これはミンコスキー時空が完全に対称性かつ重力の存在しない純粋な空間としての意味で)。

あとはやはり、題名においても提言する「光速可変論(SVl)」はとても興味深い説であるのは間違いなく、最後のほうでは「微細振動においても光の可変性の根拠的な観測データが」とする事実にはとても興味を惹かれた。

思いのほか示唆に富み、そして何よりとびきりユーモアに溢れていたのも間違いない。

 

 

 

第2位

『隠れていた宇宙 上』

『隠れていた宇宙 下』 

隠れていた宇宙 上 (ハヤカワ文庫 NF)

隠れていた宇宙 上 (ハヤカワ文庫 NF)

 
隠れていた宇宙 下 (ハヤカワ文庫 NF)

隠れていた宇宙 下 (ハヤカワ文庫 NF)

 

 多世界宇宙の解釈についての内容。

マルチユニバース、超ひも理論についてを詳しく、それでいながら実に平易な形で解説。真摯かつ紳士な態度が伝わってくる好書で、ます印象的だったのは

「”空間”自体は相対性原理の条件に束縛されず、よって”空間”自体の膨張スピードは光速以下に縛られない」

という事実であり、これは衝撃的だった。

何せ不変のものとして光速の存在を思い、それ以上の速度を持つ元はないとしていたからであって、ただ”空間”自体は対象外。

あとはマルチユニバース論としての宇宙創造の原理についても興味深く、すると創造の原初は「ポテンシャル・エネルギー」に定めており、そこでの山頂から転がり落ちる人物像での例え話も実にわかり易い。

そして上巻の最後のほうでは、ワインバーグが提唱した「人間原理」概念に関しても触れているのが特徴的。そこでは人間原理としての意識が起こす倒錯について、つまり人間としての存在理由を特別視するのではなく、寧ろ特別と思い込むその意識における倒錯さを浮き彫りに。

あとはマルチユニバーストとしての考えが数学的にも合理的であると主張し、アインシュタインによる「宇宙定数」に関する一連の流れを解説しているのも上巻の特徴。

ガモフの様々なユーモア逸話も上巻の特徴で、個人的にかなり好きな部分ではあった。たとえばこんな感じ。

当時の共産主義体制に嫌気が差し亡命しようと酒とチョコを積んで妻と筏のようなもので海から出たが海流の影響で戻ってしまった際、「実験に失敗した」と誤魔化した。

 

 一方、下巻のほうではホログラム宇宙論について。

あとはブラックホールについての関連事項としての詳細はとても面白く、勉強になると同時に多大に好奇心を刺激された。そして情報と質量との関連性は重要であり、バイトの許容最大としての大きさが定まっていることや、それに伴い「ブラックホールの情報は内部ではなく、表面積にある」という見解はある意味衝撃的。

そして下巻もまた終盤というか最後のほうでは哲学的であったのがとても印象的。

そこでは現実世界であるこの世界が「シュミレーション世界」である可能性についてを考察。まあ要するにマトリックス的世界であるかどうか?の可能性について。

すると当然ながら、それを完全に証明できることではないながらも、その可能性を大真面目に考える内容は面白かった。

あとは無限に対する諸概念についての解説は面白く、3倍の無限と普通の無限ではどちらが大きいか?などの命題は興味深い。ここはかなり面白いので、実際にじっくり読んで楽しんでもらいたい。

インフレーション宇宙は概要として、ポテンシャルエネルギーを基にして始まったとしているが、ではそのポテンシャルエネルギーの源は?という疑問。これは読んでいれば当然浮かび上がるような疑問で「たとえとして、膨張する宇宙を風船として、ではその風船を膨らませているのは誰?」とするものが内容にはあり、その問いにはっきりと答えており断言さえしている!

その答えはずばり「重力」。

重要となるのがやはり“反排斥的重力”であり、通常の重量くと釣り合いを取るための存在、ニュートン的に言えば「“負”の重力」であり、この反発する重力によって宇宙がぺちゃんとつぶれることなく成り立っているというのには納得だが、そこでも見られる「対称性」の概念の必然性についてなどは、多少人間原理的にも思えたり。

他にもエヴェレットの多世界についての解説までもあって、内容は充実。読めば脳味噌がふつふつと沸騰するかのような興奮が味わえる。いやあ面白かった。

 

 

 

第1位

『カエアンの聖衣』

 あえての1位。

キルラキル好きとしては、遅過ぎるほどだがようやく一読。

すると読書後まず思うのは「……面白かった!」であり、まるで冬場の一番風呂のような満足の吐息が自然と溢れ出た。

内容としては大いに語りたいところであるが、キルラキルを知らず本書に初めて手を伸ばす人のためにも、あえて多くは語らない。

ただ面白いことだけは保障する。

そしてSFの中でもセミハードほどの内容なので読みやすいのも特徴的。

それでいて奥深く、 広大なテーマ性!!

気になったら是非とも一読をしてみてほしい限りである。

 

 

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第10位

『審判の日』

審判の日

審判の日

 

短編集。

どれもピリリと胡椒が効いたような、一癖の刺激ある作品ばかりで楽しめた。

なかでも、バーチャルAIが「意識とは?」を問答のように語り合う『時分割の地獄』という作品は特に面白く、哲学的要素もたっぷりで最後には落ちに一捻りもあって実によくできた作品。他にも、サウンドノベルっぽさを思わせるホラー系作品『屋上にいるもの』、懐疑主義者万歳の『闇が落ちる前に、もう一度』など良作ばかり。

さっと読め楽しめ、小説の面白みをインスタントに伝えられるような短編集。

けれど正直に言えば、表題作は少し微妙だったので残念。

 

 

第9位

『カスパー・ハウザー』

カスパー・ハウザー (福武文庫)

カスパー・ハウザー (福武文庫)

 

基本的な教育をまったく施されずに育った人間とは、どのように成長するのか?

そんな疑問の答案的な存在こそ、このカスパーハウザー。

 『アルジャーンに花束を』の元ネタはこれ?と思えるような内容であって、この人物、発見された当初は青年と思われながらも

動物については、もっとのちまで、これが人間と同じ特質をもっているものと考えていた

なんていう価値観を持っており、

猫が手を使わないで口だけで物を食べることに彼は立腹していた。そこで、猫に前脚で物を食べることを教え、直立させようとし、人間にむかっているように猫に話しかけ、猫が彼のいうことを少しもきかないで、何も学ぼうとしないのが不服であった。

などの行為はまるで幼児。

これは発見当時においての、カスパーの知能指数を示す点としてわかりやすいが、この描写にはどこか微笑ましい印象も正直受けた。

 

まったくもって驚くべきは、この人物は実存していたとすること。

そしてアルジャーノンっぽいさを思わせるのは、このカスパー、最初は話すことすら儘ならなかったにもかかわらず、その後には著しく理性の発達を見せること。

少年期を眠ったかのようにして過ごした彼は、山の上からの絶景を目にし「ほかの子供たちがとっくの昔に知ってることを、これからずっと学ばなければならないのです。いっそのこと、あの地下の穴から出てこなければよかった。そしたら私は、こんなことは何もわからず、別にさびしい思いもせず、自分が子供ではなくて、この世に出てくるのがおそすぎたのだということで、思いなやむこともなかったのに。」

自己としての意識がはっきりと芽生えると、自身の生い立ちについて思い悩むこともあれば、自然に対して詩的に美しい表現までもこなし、優れた知性を周りに示し始める。だがその最後は思いがけず直ぐに訪れ…。 

 

あとちょっと気になり印象深かったのは、カスパーが発見された際に、似た例として紹介された豚小屋で育てられた女性について。

その女性は何でも、

豚小屋で育てられ、今は精神病院にいる22歳の愛嬌のある女性

とのことで、この女性はぶうぶうと豚のように自発的にも鳴くというのでまた興味深く、こっちの詳細も多少気になった。

 

 

第8位

『質量の起源―物質はいかにして質量を獲得したか』 

質量の起源―物質はいかにして質量を獲得したか (ブルーバックス)

質量の起源―物質はいかにして質量を獲得したか (ブルーバックス)

 

 ブルーバックスの一冊。

新書ながら、なかなか濃厚な内容。

有名な式 ”E = mc2"。

この式からして「じゃあエネルギーから質量が生まれるの?」とした疑問。

その答えが、本書にはっきり示されており、曰く「エネルギーは質量に”転化”する」とはっきり記されていたのが印象的。

質量には性質的に「重力質量」と「慣性質量」といった二種があり、それらの違いについても丁寧に解説していて取っ付き易く、「質量?それって”動かしにくさ”じゃないの?」という答えは実際には正確でないとわかる。

そして話は当然のごとく素粒子にまで及び、というか素粒子がかかわるのは必然のことであり、昨今このような

ヒッグス粒子崩壊を確認、物質の質量の起源を解明 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

イムリーな記事も出たばかりなので、本書を読めば「どうしてヒッグス場は光子を毛嫌いするんだろ?」みたいな疑問も浮かべるようになるはず。

あとは相対性原理に対する理解も深まるのは確かで、アインシュタインが一般化として「等価原理」を用いたことなどを知れ、よくある相対性原理に対する反駁本などは「ここを突いているのかな?」なんて思えたりもした。

「深部非弾性散乱」などの面白い現象なども紹介されいるので、素粒子好きになろうという人にも格好の入門書かと。

 

 

第7位

『アンドロイド』

アンドロイド (ハヤカワ文庫 SF 214)

アンドロイド (ハヤカワ文庫 SF 214)

 けっこう古い作品ながらも、予想以上に面白かった!

まるでお手本のように”起承転結”がしっかりと構築されており、一読して素直に「ああ面白かった!」と思える作品。

情緒的なところもあり、SFとしてのユーモアさもあり(アシモフ三原則をぶち破る!)、そして盛り上げるところはしっかりと盛り上げる。

そして最後の衝撃的な終わり方…。

読了感は放心に近く、しかしそれは良い意味でもあって感慨深くなること請け合い。

あとは作品の雰囲気として『すばらしき新世界』に似たところもあり、こうした作風が好きな人にもまたおすすめ。

今に呼んでも古臭さを感じさせず、昨今のSFに比べても劣らぬ面白さ!

あと、印象深いやり取りがこれ。

「ぼくの世界では、労働は一種の挑戦だと考えられていた。ところがその挑戦はもう失ったのだという。その代わりに、何があるんだろう」「余暇というものも一種の挑戦です」と、マリオンAは言った。

このやり取りには慧眼染みた、深い示唆があると思う。

 

 

第6位

『あなたの人生の科学(上)』

あなたの人生の科学(上)誕生・成長・出会い (ハヤカワ文庫NF)

あなたの人生の科学(上)誕生・成長・出会い (ハヤカワ文庫NF)

 

 内容としてはポピュラーサイエンスとしてのものだが物語調に構成されており、その根本としてけっこう行動経済学的。

そして本書は大いに伝えんとした事としては「無意識の役割を知ってもらう」という事であり、要は「無意識は極めて社交的である!」。

物語として構成されている理由は明確で、曰く「理解に実感が伴うため」。

何も本書は心理学的なものではなく、無意識が及ぼす効果と、それに伴う現実への反映性についてであり、なのでより実践的ではあるよう思えた。

本書は物語の折々に科学的解説が入り、「美しい女性」の基準には共通性があると述べたり、相手の知的レベルを知るにはその人のボキャブラリーを手掛かりにするのが手取り早い方法だということ等がトリビア的に物語を読みながら学べる。

あとは「脳と心の違い」についての解説もなかなかで、

脳は一人一人の人間の頭蓋骨に収まった器官で、それぞれが独立をしている。心はネットワークの中にしか存在できない。

つまり切り離された一人一人の心などというものはありえない、というのだ。

そしてニューロン同士の接続プロセスについての喩えが秀逸で、「近所の家に頻繁に電話をしたらケーブルがひとりでに太くなるようなもの」というのはよい例え。

あとは気分や知覚のはたらきは、ホルモンの分泌量に応じて刻一刻と変わっていく、という生化学的知見などもあって、なかなか複合的であるのはもちろんこと、そして「感情」の重要さを第二のテーマにしているのでは?と思えるほどには「感情」といった存在の重要性を挙げていた。また、「勉強ってどのようにするのがいいの?」という教育親を悩ませる質問における明瞭な答えも示しており、つまり勉強の意味とその発展形についての能率のよい仕方も書いてあるので、これは一種の教育本としても実際かなり有意義な内容であると思う。

あと本書では、様々な言葉が至るところから引用されており、その中でも特に印象的だったのがイギリスの作家G・K・チェスタトンによる言葉。

「真に偉大な人間とは、あらゆる人を最高の気分にさせられる人間である」

 

 

第5位

『人間の本性を考える(下)』

人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (下) (NHKブックス)

人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (下) (NHKブックス)

 

 上・中と読み、少し間を空けてようやく下を読む。

本書の内容としては「遺伝か環境か」問題に深く切り込むものであり、ほかには「教育は親か環境か」といった疑問への考察も。

あとは「現代芸術は死んだ!」とする声に対する明確な反駁もあって、なかなか面白い。そして本書は下手な教育論を述べた本よりよっぽどためになることが書いてあり、「ああ良い子になってほしい!良い育て親になりたい!!」なんて育児ノイローゼの人全員に読ませて損のない本であるのは確か。まあ平易にいって親子間における「相互作用」について述べている点などはハッとし、なるほどなあと思わず感心してしまった。なので子育て中でなくても、むしろまったく関係ない立場としても、自身の育てられた環境に照らし合わせて読むとまた違った見方、思いを描くこともできるのでこれまた面白い。「子供は家庭内と外では態度が違うので、一概に“子供の態度”というものは統計が取れるものではない」という意見は至極もっともながら、気付かなかったりすること。そうした見過ごしがちなポイントを実によく指摘する本ではあり、なかなか読み応えあり。その指摘の鋭さに感心することは間違いなく、思わず感心してしまうなかなか楽しい本。

 

 

第4位

『謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』 

 クレイジージャーニーで名を馳せ、一躍有名となった高野氏によるノンフィクション作品。これがとても面白く、読みやすく流暢な文体はもとより、そのユニークさと優れたアナロジーによってソマリランドの現状もまた大変にわかりやすく勉強になると同時に楽しめる一冊。

 分厚いながらも気づけばあっという間に読み終えてしまっている、まさに中毒本。

未知の文化に接することの面白さ。

まるで一緒に現地へ言ったかのような臨場感。

価値観の多様さを味わえる内容であって、一読する価値は絶対にある!

 

 

第3位

『キングダム・カム』

キングダム・カム 愛蔵版 (ShoPro Books)

キングダム・カム 愛蔵版 (ShoPro Books)

 

 正直、それほどCDコミックに対する造詣は深くなく、故に本書に登場するヒーローとしても有名どころしか知らないミーハー。

それでも本書の圧倒的な内容としては、気圧されるような迫力とそれに伴う絵画のような実に美しい画。

あらすじとして、スーパーマンバットマンなどが一線から退き、新世代のヒーローが

台頭。すると従来のヒーローとは違い、スーパーパワーをむやみに使用し、世界を混沌に陥れる。そして人類とヒーロー間の軋轢は広がっていく…。

混沌とした世界において、超越した力を持つものの役目と定めとは?

その結果と選択は、ぜひとも実際に目を通して知ってほしい。

あとはキャプテン・アトムの危険さに少し笑う。

 

 

第2位

『汚穢と禁忌』

汚穢と禁忌 (1985年)

汚穢と禁忌 (1985年)

 

構造人類学としての内容で、平易に言えばレヴィ・ストロースっぽい一冊。

その内容としては、穢れや禁忌における存在意義について。

 

ある宗教が異例なるものないしは忌むべきものを特別に扱い、それらをして善きものを生むための能力たらしめるのは、雑草を鋤き返して芝を刈って堆肥を造るのと同じことなのである。

 

本書は神学的な文化の考察でもであり、宗教考察的な側面も強い。

それでいて文明社会における「汚い」と部族社会における「穢れ」の共通点を見出し、それを今までにないように構築して明快に示すあたりもまたレヴィ・ストロースっぽい。だが、こちらは穢れ等の各々の部族においての「不純」とする物の捉え方の違いについてを明確に示すなどする点は特徴的で、性関連のタブーに対する違い、また制約によってカースト制度にはっきりとした区分をつけているとした社会的要因を示している点なども文化構造の深部を理解する上では実に役立つ。

「処女崇拝は初期キリスト教による布教である」といった事や、部族による一見不可思議に見える儀式や規定にも、ゲーム理論の如く優位性を保つための(それは「部族にとって」であることや、男や女などの部族間における性差においてなど)ものであると理解できるようになることは、文化の多様性としての視野を広げ理解を深めることができる。出版は古めだが、内容としては不変的! 

 

 

第1位

『非対称の起源―偶然か、必然か』

非対称の起源―偶然か、必然か (ブルーバックス)

非対称の起源―偶然か、必然か (ブルーバックス)

 

 心臓はひとつだけなので身体内部の構造は左右非対称。

睾丸の位置でさえ実際には右のほうが少し上部にあるとのこと。

しかしそれらに反するように、外観は左右対称を目指しており、意識としても人は左右対称を好むようにできている。

ではどうして左右非対称は存在する?心臓はなぜ左にあるの?

そんな疑問を投げかけ、その原因や理由を生物学的にも、文化的にも考察していくスリリングな内容。

読めばわかる非対称性の面白さ。

左利きは少数派であって、右利きは世界的に見ても多数。

それってどうしてだろう?として見えてくる、左右としての存在理由。

左右対称非対称については実に深い内容であり、生命神秘に触れられる重要事。

読めば価値観が広がるサイエンス本として面白かったので、お勧め。

 あとは多次元といった存在を用いる理由、「なぜ多次元が必要か?」としての根本的理由としてのアナロジーである三角形の話はまさに目から鱗であり「エウレーカ!」と思わず叫んでしまいたくなったほど。この興奮はぜひ一読して味わってほしい。

 

 

 

 

最近知って驚いたこと。

ソニック・ヘッジホッグ」

という名のたんぱく質が存在しているという事実!!

 

ソニック・ヘッジホッグ - Wikipedia

 

では今後、快楽に関与する新しいたんぱく質が発見された後、その名前を「シェンムー」と名づけることも可能ということか。

 

 

 

 

ドリコレ セガガガ

ドリコレ セガガガ

 

 

 

 

あなたの人生の科学

 

一部を抜粋。

ハロルドははじめの頃、テイラー先生のことを少し馬鹿にしていた。

しかし、やがて忘れられない人になってしまったのだ。

きっかけとなる事件は、ある日の午後に起きた。

それは体育の授業が終わり食堂に行こうとしていた時だ。

テイラー先生がこっそりと後をつけてきた。

しばらくは、静かに辛抱強くタイミングをうかがっていたが、ハロルドの周囲に人がいなくなった時、一気に距離を詰め、彼女は薄い本を手渡した。

「これを読めば、きっとすごいことが起きるわよ」 

 

 

あなたの人生の科学(上)誕生・成長・出会い (ハヤカワ文庫NF)

あなたの人生の科学(上)誕生・成長・出会い (ハヤカワ文庫NF)

 

 

なかなか面白かったのでおすすめ。

 

 

7月に読んだ本からおすすめ10冊を紹介。

7月に読み終えた本は31冊。

その中からおすすめの10冊を紹介!

 

 

 

第10位

『鉄砲を捨てた日本人―日本史に学ぶ軍縮

鉄砲を捨てた日本人―日本史に学ぶ軍縮 (中公文庫)

鉄砲を捨てた日本人―日本史に学ぶ軍縮 (中公文庫)

 

 軍備縮小した国は稀。

そんな稀な例の格好な的というのが日本であり、どうして銃の存在を一時捨てることができたのか?を簡潔にまとめた本。

外国人が書いたということもあって、異国の目から捉えた「日本らしさ」や「日本国としてのすばらしい面」が強調されており、ある程度の説得力を持つ。

本書は「日本ってすごい!」とする昨今のメディア風潮ような、日本人が自国に対してアイデンティティを抱きそれを賞賛と言う名の愛撫することによって日本人を悦ばせるような一過性のものではない。

読むと、日本人と刀の関係について、その深遠な関係の一端を感じ取れることができる。それに関連して本書の目的である、「どうして日本人は鉄砲を捨てたのか」という疑問についても明確かつ鮮明な答えを用意してあり、その理由としては5つほどを挙げて解説。すんなりと読める一冊なので、日本と軍備について興味あれば一読を。 

 

 

第9位

ヒロシマ

ヒロシマ

ヒロシマ

 

 ガルシア・マルケスが本書をノンフィクションの一冊として絶賛しており、それで読んでみる事にした本。

そこまでページ数こそないが、内容として圧倒された。

ヒロシマ原爆が落ちた当時の状況を無機質ながらじっくりと繊細に描いており、当時の状況が繊細に伝わってくる。本書はその場に居合わせた5人(実際には6人)にスポットを当て、彼らにインタヴューなどを決行して紡いだ内容であり、その奇跡的に助かった5人によって語られ示される実情。彼らは、または周りはどのような状態にあり、どのような行動をとったのか?

原発少女」「ケロイド乙女」といった言葉の印象はとくに強烈。これが実際に使われていた表現とは!

あと思うのは、こうした本に対しての先入観的なイメージこそ「とても悲惨な状況を」「思わず目を背けたくなる」ことばかりに思われようが、実際にはそこにある希望的な側面、人間らしいたくましさや図太さ、そういったものこそ人間の本質として描いていることであって、生死に混合する楽観性もまた真理であるのでは?と思わせる実情こそ人間味を肌身に感じさせてくれる。

ノンフィクションとしてお手本のような作品でもあるので、目を通して損はない一冊。

 

 

 

第8位

『ものはなぜ見えるのか―マルブランシュの自然的判断理論』

ものはなぜ見えるのか―マルブランシュの自然的判断理論 (中公新書)

ものはなぜ見えるのか―マルブランシュの自然的判断理論 (中公新書)

 

 なかなか難解な一冊であり、ページ数と読了に用いる時間が半比例するが如く、厚みの割にはじっくりと理解して読むには時間を要する一冊。だがその内容として、「ものが見える」理由をどこに求めるのか?を解説しており、それは抽象的な思考法でありまた”神”といった存在に必然性を容認するあたり「なんだ、また神学的なものか」と思わせながらも、実際には便宜上として以上の意味を孕ませているのだと知ることになる。

なるほどこうした原理や思考は「単なる抽象的な思考に過ぎないのだから、それが現実にどう立つ?」とされがちだが、本書は読み解けばそうした疑問からは一線を画し、むしろ生化学的知見を用いて「見る」という行為を理解する以上に、「見る」事に関して「見える」ものを多くしてくれるのだから、これは皮肉的というよりは寧ろ人間意識を賛美するべきであると思う。そんな一冊。

 

 

第7位

『十蘭レトリカ』

十蘭レトリカ (河出文庫)

十蘭レトリカ (河出文庫)

 

 久生十蘭氏の作品は本書によりはじめて読んだ。

幾分も時代を思わせる描写が目立ちながらも、なかなかどうして面白い!

内容として、短編、中篇と収録されており、なかでも『モンテカルロの下着』『フランス感れたり』『心理の谷』などは特に面白い。

特徴としてはリズミカルな文体。

純文学としての気品を感じさせながらも、ジャズピアノのような爽快さを思わせ、すっと情景が明確に浮かび上がってはなお、ハイカラなストーリーを展開させる。

モンテカルロの下着』ではフランス留学中の日本人娘二人の様子が生き生きと描かれ、『フランス感れたり』ではチャップリン映画のような滑稽さが提示されている。

そして何よりも一番に面白かったのが『心理の谷』という作品!

「これは典型的ラノベ展開の先駆けか!?」とも評せるような、美人お嬢様とツンヤンデレの娘との合間にゆれる主人公を描いた作品。そのツンデレ具合といえば、昨今の作品の読んでいるようであった。けだしその文章力は桁違いで、なるほどラノベに代表される昨今の小説ほどには決して読みやすくはない。だが、そこがむしろ良い点であって、巧みかつ鮮明な表現や描写はアニメ画のような映像を脳裏に想起させ、ひとつの映像作品のような躍動感と、登場人物の溌剌とした姿を読ませるのではなく、見せ付ける!そして所々に見られる著者のセンスは昨今において通ずる粋さで、お嬢様がおほほほと笑うのはレトリックとして「地獄に落ちろ」の意味である、との説明には笑った。

これなどは今にしてそのままアニメ化しても十分に面白い作品になるのでは?と思えたほど。

ただ『花賊魚』や『ブゥレ=シャノアル事件』といった作品はちょっとした史実的なものであり、作風がガラッと変わるのも印象的。この辺は好みが別れそうだなとは思えた。

純文学の名手、と呼ばれるだけあり、入り組んだ構造をしていながら、その細部となる各部品、すなわち文章それらはどれも艶やかで芳醇な文字としての色彩を持ち、まるで画家が絵の具で色彩豊かな絵を描くように、著者は言葉という絵の具を使って、空白の空間へ文字を用いて二次的な作法により読者の頭の中でその絵画を鑑賞させる、といった趣を感じたのは確か。あと『ブゥレ=シャノアル事件』は、フレドリック・ブラウンによる『さあきちがいになりなさい』に似たところを感じたりもした。

 

 

第6位

『S‐Fマガジン・セレクション〈1987〉』

 国内作家による1987年度のSFマガジンによる傑作選。

13編を収録しながらも、柾悟郎氏による『邪眼』の圧倒的完成度!

これには正直言って度肝を抜かれた!

そんな作品であって、この作品だけに限っては別格。

どのような作品化と平易に言えば攻殻機動隊的な「スチームパンク」作品。

すると誰しもが「ニューロマンサーに影響を?」と思うところだが、実際にはジェイムズ・ティプトリー・Jr.の小説『接続された女』とのことで少々意外。

そしてこの作品『邪眼』だが、意識を借物に入れることを可能とした近未来での、ハードボイルド的な作品。この短編だけでも随分と濃厚。豊富な知識を散りばめウィットで下品な会話はイギリス的ユーモア性に富み、読んでいてテンポもよい。

当時、これで早川社が騒然としたというのも納得の出来栄えで、これだけ別レベル。

古典的な「魂とは?」を扱う形而上学的な作品ながらも、「テクノロジーによって意識が取り出せるのだとすれば、自意識と他意識の境界線は?」との問題を取り上げており、読み応えあり。

この作品のためだけにも読む価値のあったといえる短編集。

 

 

第5位

『トリフィド時代―食人植物の恐怖』

トリフィド時代―食人植物の恐怖 (創元SF文庫)

トリフィド時代―食人植物の恐怖 (創元SF文庫)

 

 古典的パニックホラーの名作をようやくにして読む。

その内容としては、正直なことを言えば実際想像していた物とはだいぶ違っていた。

というのも想定していた内容としては、“トリフィド”なる未知の肉食植物が人間を容赦なく襲い掛かるパニックものと思いこんでいたため。

けれど実際には、そうした植物の行動より、人間としてのあり方にスポットを当てた、どちらかと言えばサバイバル的であり、ポストアポカリプスな世界での生き残りを鮮明に描く内容だった。

けれどまあ、だからといってつまらない等と言ったことは一切なく、普通に面白い。

だが本書は古典的名著だけあり巷に感想は溢れ、なのでここではあえて簡潔に。

「便利だからと言って、それをむやみやたらと活用すれば、あとで痛いしっぺ返しを食らうでしょう」

こんな箴言めいた作品と言えよう。

あとは「科学が発展するには“暇”が必要」といった言葉には、含蓄があり示唆するものは多いように感じた。

 

 

 

第4位

プラトンとかものはし、バーに寄り道 ジョークで理解する哲学』

プラトンとかものはし、バーに寄り道 ジョークで理解する哲学

プラトンとかものはし、バーに寄り道 ジョークで理解する哲学

 

 記事にもした一冊。

帰納と演繹の違いについてを説明するならば - book and bread mania

要するに、ジョークと哲学の親和性は深く、 寄り添いあうようなものであって相性がとても良いということである。

言うなれば”笑い”とは少なからず哲学的素養を持つ存在であり、哲学的に言えば「笑いとは意識的な現象である」といったところか。

本書は哲学の諸概念を、ジョークを通じて学ばせてくれる良書。

そして「ジョークを哲学のアナロジーとして」示すのであれば、では「そのジョークは何のアナロジーを?」として考えていくのもまた面白い一冊で、そこには文化人類学的要素も詰まっており、俯瞰的視野を鍛える上でも良い作品。

 

 

 

第3位

『メディシン・クエスト―新薬発見のあくなき探求』

メディシン・クエスト―新薬発見のあくなき探求

メディシン・クエスト―新薬発見のあくなき探求

 

「ヴェノムは棘や針、牙などから注入される動物性の毒である」

この毒をさて有効利用してやろうじゃないか!という経歴などを解説、紹介するノンフィクションとしての内容。

 

想像以上に面白かった!

これを読めば「毒」に対する見方は変容し、毒の存在・概念はまさに言葉通りの「毒」ではないのだなと痛感する。まさにファルマコンであるのだと!

要は、「ものは使いよう」という古来からの金言をそのまま現実に転化したような事例を盛りだくさんにも紹介する。

本書を読めば、一攫千金のチャンスとはまさに「野生」にあるのであって、寧ろ実際にはそこらへんに転がっているのだと知ることができる。それも物理的な意味で!

簡単にその真意を言うのならば、

「動物や植物などの毒素をはじめ、各々の生物に見られる独自の因習が、うまく利用することによって人間に対し実に好意的な作用をもたらす」

ということに他ならない。

すると「シャーマン」なる森の権力者もひとえに時代錯誤とは呼べず、彼らの存在意義は実際、神話的ではなく寧ろ実用的、現実に即していた存在であり合理的なものであったのだと知ることができる!

 

またヴェノムは神経インパルスの伝達経路についての解明にも一役買うそうで、毒といってもその効用は表面的なものならず、こうした諸原理の解明にもつながるというのは奥深い。特定の箇所が反応することでマッピングにも役立つというのも、ヴェノムは特定のレセプタにしか作用しないからとのこと。すると毒とはその名に反する如く、有益であることが見えてくる。

毒に限らず独特な生物の特徴について、たとえば胃の中で消化させずに胎児を育てるカエル!など紹介されており、生き物の不思議さに触れることのできる一冊。これはもう老若男女にお勧めの本で、興味深い事例は盛りだくさんであって読了後には世界の見え方が変わってくる素晴らしい本!

 

 

第2位

『本能はどこまで本能か―ヒトと動物の行動の起源』

本能はどこまで本能か―ヒトと動物の行動の起源

本能はどこまで本能か―ヒトと動物の行動の起源

 

 単なる平凡なポピュラーサイエンス。

なんて思って読むと、これがなかなか侮れない内容。

その主張として「なんでかんでも本能って、それは違うんじゃない?」と疑問を呈すもの。

たとえば定説としてよく言われる「生まれてすぐの鳥は、最初に見た大きな生き物を親と思う」という、刷り込み。

これが実際には誤りだとしたら!

そして実際、本書では「それは違う」と提唱し、その原理には驚かされる。コペルニクス的転回、とまで言えば大袈裟かもしれないが、それに近い衝撃をもたらすことは確かである。

つまりは昨今の常識としての知識を、「それって実は先入観」と気づかせてくれる。

学校で教わること等はさも当然として「それが常識」とみなしてしまって思考停止状態に陥りがちな現状(まさにそうした自体こそもまた「刷り込み」的と言える!)に対し、実際には未知数であることの可能性を示唆する。

視野を広げさせてくれる本としては秀でており、「地球は平たい」と同様のことを我々が言っている可能性を気づかせてくる。

懐疑主義者には好ましい一冊。

そして本書を読み何より得たと思えることこそ

「本当の“本能”とは存在するのだろうか?」

といった具体的さを疑問視できるようになったことに他ならず、“本能”という概念に対して新たなノードを構築できたことにあるのでないかと。

お勧めの一冊。

 

 

 

第1位

『声の文化と文字の文化』

声の文化と文字の文化

声の文化と文字の文化

 

世の中には、読む前と、読んだ後によって、世界の見方がガラリと変わる、もしくは変えてくれる本というのはいくつもある。

それは創作物であったり、またはノンフィクション、学術本、専門書など数多の可能性もまた然り。

けだし小説や漫画などにおける創作的な物語における、意識変革の中軸と言えば、その物語が示す一種のメッセージ性(ここでテクスト論を用いると長くなるので便宜上にも省略)を受け取ることでの自己意識における変革、つまりは価値観の新たな創出であり、物語から読み取った価値観が己の血肉となることによって自身の意識を一新する。

そうした場合においての、物事の見方の変容とは物事が変容したことを意識するのであって、それを齎した事物そのもの、つまりここでは言葉自体(シニフィアンシニフィエに意識を向けたとしても)に対する注目こそ意識しようとも、その言葉が書かれた行為自体に注目することは甚だ珍しい。いいや寧ろ、それは意識的に行うが、あまり意味を持ち得ないことが多い。それは「言葉」に対して「意識」が向くからであり、その「意味」に「意識」が向くからに他ならない。

 

本書の主目的はまさにここにあり、要するに「文字」としての存在その物の効果を問おうとする内容なのである。

故に、本書における「世の中には、読む前と、読んだ後によって、世界の見方がガラリと変わる」というのはメタ的な知識としての認識であり、それがさらに斬新と思えたのは、言語学的といえる、いわゆる「言語体系としての意味」をさらに上から捉え、言語学さえも俯瞰して捉える点にあると言えよう。

 よって本書はソシュールロラン・バルトをはじめ、言語学の基本的体系に対する諸問題を呈する側面もあり、言語学として「書かれた言葉」に注目しようが「書く行為自体」に対しては、言語学の解釈における拡張不足を痛感させるのである。

 

すると本書はレヴィ・ストロースよろしく構造主義に対する考察にも深く関わりを持ち、すなわち構造主義としての思考に欠けているものを指摘し、「構造主義が構造の原理を解体しようとも、構造を”構造”として成し得る過程においての影響力を疎外視している」との、いわゆる構造における「材料」に対しての考察不足を指摘するのではなく、構造における「構造以前に存在するもの」についてを指摘する。 

 

本書を読む上では、構造主義言語学に対するある程度の教養があれば楽しめることは間違いなく、「ああなるほど!」と声の文化と文字の文化が実際にはどれほど事物の生成に重要であり、そして構造主義的思考が一過性かつ傾向的であるかを気づかせてくれる、すごい本。

人生において、一度は読んでおいて損のない一冊であり、同時に読んでないともったいない本でもある。