12月に読んだ本からおすすめ10冊を紹介
師走だけあって雑多なことに時間をとられる日々!!
そんな12月に読んだ本は14冊。
今月はあまり読めなかった印象…
とりあえず、そんな中からおすすめの10冊を紹介!
これもまた後日に感想を更新するかも。
第10位
『死刑囚 最後の晩餐』
正直想像と多少違った構成の内容。
アメリカ死刑因の最後の晩餐が載せられているのだけど、そこにばかりスポットを当てるのではなく罪状のほうの記述にも結構力を入れていたのが印象的。
もう少し最後の晩餐についての記述に対し、詳細を期待しただけに残念。
それでも最後の食事としてどのようなものを選択するのか?というのはやはり興味深い。その罪状と合わせて読むことで、まさに味わい深くなる点もあったといえる。
第9位
『歴史を変えた100冊の本』
本好きとしては読んで損はない本の本。
第8位
『哲学に御用心』
哲学的と言えるものをテーマにした対話式小説。
物が見えるとはどういったことか?独我論を崩せるのか?としたような、普遍性を問うような形而上学を取り扱ったりしながらも対話式に進むのでわかり易く万人向けに仕上がっていると思う。
哲学に興味はあるけど、なんだか難しそう。
そんな哲学初学者にお勧めできる一冊。
第6位
『超越錯覚―人はなぜ斜にかまえるか』
これはなかなか良い本だった。それはあまり類を見ない内容であったから。
その内容、一言で言えば「メタ的な意識の捉え方としての日常さ」。
どういうことかといえば、俯瞰的視線の持ち様であり、メタ的な感覚というものを言語で説明しようとも、それはそもそもの前提となる知識がなければ容認も認識も理解も捗りにくい。
そんな折、本書ではそうした「メタ的な思考」をまさに実践的、というか日常に潜む体験談に結び付けて示すので「ああ、確かに!」と多くの体験談により共感できることは必須的。それと同時に「メタ的な意識の捉え方とは、ああいう場面でのああした気持ちのことなのか!」と理解は早まるはず。
なので学術的な本ながらも感情的。ここまでメタ的な思考、俯瞰する視点の感じ方を平易にも伝わり易く示した本とは稀有なのでは?と感心してしまった一冊。
第6位
『ギルガメッシュ』
絶賛放送中のかのアニメの影響もあって手に取り読んだ一冊。
感想。面白いじゃん!!
ギルガメッシュの話といえば、世界最古の物語とも言われているのに現代にも通じるビルドゥングス・ロマン性!!
とても読み易くもありああ面白かったと思いそして古典を読み終えたことでの満足感。
としながらも読了後に本書について調べた結果、これがギルガメッシュ叙事詩のアレンジ、戯曲版的なものとして少し「うん…」となる。
けれど内容としては普通にとても面白くはあったのでお勧め。
第5位
『映像の修辞学』
映像における記号性について。
意味内容と意味表現の「量的差異」について等の解説もあってなかなか面白い。
これもまた後日にでも詳しく感想をまとめようと思う。
第4位
『哲学と反哲学』
これは素直に面白かった。
哲学的な示唆について、新たに気付かされて得るものも多かった一冊。
第3位
『昼と夜―ジョルジュ・ブラックの手帖』
画家ジョルジュ・ブラックによる名言集のような箴言集。
ページ数も多くなく、載せられている言葉も正直それほど多くはない。
ただどの短いセンテンスの言葉も重みがとても感じられ、箴言であり真言のような至極の言葉ばかり。芸術家だけあり制作に対する志向性な言葉には特に印象的なものが多く、クリエイティブさを知りたい人には一読して決して損のない一冊。
第2位
『ゲーム・オーバー―任天堂帝国を築いた男たち』
ゲーム好きには一読してもらいたい本。
ネットでたまに見かける「任天堂法務部は最強!」なんていう言葉の真意が本書を読めば掴める内容。
本書はアメリカ人が書いたものであり、現地アメリカで任天堂がどのようにして発展、進出して言ったのか?をこと細かく述べる。
すると、というか流石アメリカ、任天堂も散々訴えられていたことがよくわかり、そのめちゃくちゃさなんかも面白いとして(ドンキーコングが「キングコングに似ている!」として訴訟されたり)、任天堂が裁判で連勝していく姿はもとより同時に訴訟側のとんでもない主張とそのありえないようなブラフさも知れて笑えたり。
あとは任天堂の歴史についても創業当時からの様子を知れる内容であり、ノンフィクションとしてとても丁寧に作られている印象。
さらにはセガのアメリカ進出のあたりの話も出てきたりとでセガファンとしては嬉しく、テトリスの版権についての話なども登場。これなどは本当に泥沼であってめちゃくちゃ。そのカオスっぷりが面白く、テトリスに対する見方が変わること必須!*1
あとは任天堂の裏の顔など見れて感慨深い。政治的、とさえ表せるであろうと思えるその手腕と手法。本書はゲーム好きにはもちろんのこと、ゲーム産業に興味ある人にもぜひ読んでほしい一冊!!
第1位
『バットマン:キリングジョーク 完全版』
バットマン:キリングジョーク 完全版 (ShoPro books)
- 作者:アラン・ムーア(作),ブライアン・ボランド(画)
- 出版社/メーカー: 小学館集英社プロダクション
- 発売日: 2010/01/21
- メディア: 大型本
2019年12月の一番お勧めの本はこれ。
アメコミ。今年公開の映画『ジョーカー』の原作でもあり、そして敬愛するアメコミ作品『ウォッチメン』と同じ作者による一冊!!
具体的な感想としては、別記事に仕上げているので詳しくはそちらで。
なのでここでは簡易的に本書についての感想を。
本作品はページ数も少なく、しかし計算されつくされた作品といって過言ではなくページ数に反比例するかのような濃厚な内容。
テーマ性として「悪とは?」といったものを感じ、安易な相対主義批判にも思えれば(それが「相対主義」を批判的に描いている、と読み取る事にこそ意味があるよう思えたり)”勧善懲悪”その概念こそをこらしめるような作品。
11月に読んだ本からおすすめ10冊を紹介
11月に読んだ本は19冊。
色々とバタバタしていてあまり読書できなかった印象…
これも簡潔にまとめてとりあえず公開を。
なので後日、より詳しい感想をと更新する可能性あり。
第10位
『錯視完全図解―脳はなぜだまされるのか? (Newton別冊)』
実践的内容でもあり、実際に錯視となる絵が多数収録。
そして錯視の起こる現象についての解説もあって二度楽しめる内容。
第9位
『The Helvetica Book ヘルベチカの本』
ヘルベチカ!
というか、正直これを読むまでその名称が何を示すのかさえ知らなかった…
ただ、読むと気付く美しさ。それが読んだ感想。
ヘルベチカ!癖になるような、良い名前でもある。
第8位
『夢の検閲官・魚籃観音記』
時かけのセルフパロには思わず笑う。
第7位
少々批判的な視線で綴り過ぎな感もありながら、独特とさえ評せる著名な哲学の捉え方、解説はなかなか面白い。
第6位
『デザイン思考が世界を変える』
見えるもののデザインのみではなく、見えない形のデザインの重要性を語る辺りは悪くなかったかなと思う。
第5位
『西城秀樹のおかげです』
お馬鹿SF(最高の褒め言葉)
個人的にお勧めの短編小説。
笑えた。
第4位
言語学的な内容。
言葉の存在性とは?を発話的な言葉を使わず交流を果たしてきた人物にスポットを当てるなどしてその真意性を探ろうとする。
本書については後日によりまとめようかと思う。
第3位
『ロングテール‐「売れない商品」を宝の山に変える新戦略』
ロングテール‐「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者:クリス・アンダーソン,Chris Anderson
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/05/23
- メディア: 文庫
昨今ではすでに有名となった言葉「ロングテール」。
著者はその言葉の発案者であり、そしてその意味を綴った内容でもあるのが本書。
読むと納得。そしてロングテールの意味を誤解していたのだということもよくわかり、誤解としてはロングテール=「長く売れる商品」と思い込んでいたため。
実際にはニッチ分野のことを指すのだと。
本書ではロングテール理論について解説。ロングテールすなわち低い位置の売れ筋とはずっとゼロにはならず続くものであり、そして在庫など物理的制限さえ軽減できればそうしたゼロにはならない細々とした売れ筋が実際には大きな収益に!
今後の時代、商品の物理的制限が緩和されつつある現状においては(例としてデジタル媒体の配信といえばわかりやすい)こうしたニッチの商品の売り上げこそが重要なのだと。
そこでの後半で引用されていた「べき法則」やパレードの法則に沿い合わせた話がまた印象的ではあり、物理法則を利用しての解説は納得し易く上手い使い方。
第2位
『宴のあとの経済学』
昨今の労働環境に対しても尚、当てはまる事の多い箴言が多くハッとさせられること多数。
マルクスの未来予想など印象的で、機械の進歩により労働力が賄われては「将来の人たちは余暇を増やすであろう」とした発想は自然に思えるけれど実際には逆であってまさに皮肉的。そういうことを考えると「AIがいくら進化しようとも、今の人が考えるような仕事を奪われるなどという事態は生じないのでは?」と思えてくる。
それは実際、AIがいくら進化しようとも人間のほうが進化(意識の変容)をしない限りは、たえず生産の増加は止まないからである。
本書は慧眼的な意見が数多く、労働における問題点をはじめ、そもそも「どうして労働をするのか?」とする労働に対する見方を教えてくれる。そして労働に関して、考えるべきことも。
これはとても良い本で、社会人であれば一読して決して損のない内容。
第1位
『ハヤカワ文庫SF総解説2000』
これは恣意たっぷりな個人的一位の本。
というのも大のSF好きで青の背表紙を見るだけで興奮する輩としては、なかなか至極な内容の一冊。
そして本書は数多のSF小説の概要、あらましが綴られており、それらはずいぶんと昔の作品も多いが今に読んでも「凄い設定!」と驚かされることもしばしば。
早川SF好きには必読の一冊であることは間違いない。
10月に読んだ本からおすすめ10冊を紹介。
その中からおすすめの10冊を簡潔に紹介。
年越し前に清算しようと簡潔にまとめ、後に更新するかも。
第10位
『日本SF短篇50 I (日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー)』
第9位
『日本SF短篇50 IV 1993-2002―日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー』
第8位
『自分の中に毒を持て』
第7位
第6位
第5位
『数学の出番です。―つい人に伝えたくなる数学のハナシ』
第4位
『物理の教室 (ペレリマンの科学の家)』
第3位
『SFアニメで学ぶ船と海』
個人的にもっと評価されていいと思えた一冊。
本書を読めば海に対する興味が深まるのはもちろんのこと、水中で起こる現象について実にわかりやすく解説してくれるのでスクリューによって出来る対流について等、知ることが出来る。
これは知的好奇心を刺激し楽しませてくれる良書で、老若男女にお勧めできる本。
第2位
『一射絶命―禅、弓道、そして日々の行』
禅と弓道、これら二つの存在に関する考察。その実体験と、自らの成長記録を交えて語る内容であり思いのほか興味深く思えた内容。
また弓道についてでは一射の方法がこと細かく解説されていて読み応えあり。
さらに弓道ではその弓の放し方として「葉の隅に溜まった水が落ちるように、自然と手を離すようになる」のがベストとしてたのがとても印象的。
禅と弓道の体験記ながらそこから得た著者の知見とは、この二つのみではなく生活全般に応用できる生活の知恵。それは精神的なものであり、本書を読むことの有意義性とはそこにあるよう感じられた。
第1位
『道徳の系譜』
自己欺瞞への告発書。
正直、内容としては「言語の由来と、そこから読み解くルサンチンマンの原理か」と思いつつ読み進めると少し意外。というのも、なるほど主張する意見としては一辺倒的だが、それでもこうも感慨深さを感じ得るように思えたのは流暢な文章の賜物。
その柔らかくも内心に染み込んでくる表現の仕方は特徴的。親しみさを感じられながらも強烈で、己の思いを忌憚なく主張しているよう感じられた。
さらには「人間の本質とは他人の苦痛を悦とする」といった過激な主張も。
「他人が苦悩するのをみるのは楽しいことである。他人に苦悩を与えるのはさらに楽しいことである」といったような本文中にあるこうした主張はなかなか衝撃的。このような性分が人間の本姓ならば、人の不幸を嘆き他人の苦悩を一緒に苦悩できる人間こそがイレギュラーに思えてくるほどである。しかしなるほど、思えばゼウスなどが登場する神話においても神々は人の不幸を見て楽しんでいるようではあり、さらに「万能な神ならば未来視も出来るはず」という指摘は尤もで、古来からの神の万能性を唱える主張の矛盾点をこうも簡単に見つけ指摘するので驚かされる。
本書は各々が持ち得る隠された性分を明るみに出し、見せ付けてくる内容であり自省にもなりさらなる人間理解にも通じる一冊。
マックでグラコロを食べる。
実に久々。
マックに行く機会があり、期間限定名物のグラコロと言えば「この旨さは戦争をなくす」なんて言葉さえネットで見かけていたので気になり、気づけば注文を。
そうして、なんとなくで食べてみた。
オーロラソースは端に添えられ、憂鬱にバンズの崖から飛び降りようとしているのを救い上げるように口の中へと運び咀嚼すると特殊なバンズは想定外のほどふわふわわたあめ雲のようであり雲の感触は?と問われればグラコロのバンズだよとの答えが一般化する可能性を示唆させパテのコロッケ中身はグラタンであるのは予定調和でありながらもその味は予想外にもホワイトソース濃厚!とはならず味は薄く淡白ぱくぱく無味無臭に食べさせるその白濁した粘りけある味わいはまるで半熟目玉焼きの白身のようであり想像していたような濃厚な旨みは皆無で残念後悔失敗無念の心地で足取りならぬ舌心地の悪さに思わず眉をしかめれば。
うーん、正直微妙だった‥。
なのでこのグラコロに対する感想は、なぞかけで締めようと思います。
「グラコロの味」とかけまして、
「このなぞかけ自体」とときます。
その心は、
どちらも「思ったほどうまくない」。
豆腐グラノーラがおいしい
完全に出オチであってタイトルで全てを語っているのだけど解説を加えれば。
昨今のちょっとしたマイブームが『豆腐グラノーラ』。
それは何かといえば実にシンプルで、フルーツグラノーラをヨーグルトではなく豆腐で食べるといった趣のもの。要はヨーグルト替わりに豆腐!
するってえと、これが思いのほかおいしい!
そもそもきっかけは一時の食欲不振のとき、食べ易いからと豆腐ばかりを食べていたのだけどそのときふと、”あ、グラノーラあるじゃん。でもヨーグルトないな。あるといえば豆腐ぐらい。豆腐…”
そこで試してみた結果。相性は悪くない。
いや、寧ろ良い。フルーツグラノーラの甘すぎる味が、豆腐の淡白さによってちょうど中和しいい塩梅に。
さらに栄養素的にも、豆腐であることによってヨーグルトよりも多くのたんぱく質を摂ることができる。その上さらにさらに、豆腐といえば庶民の味方であってスーパー等で安いものなど1個40円!ほどで売っている。それも40円で一丁300g!
コスパも抜群で、有名メーカーのヨーグルトなどでは400gで150円もしくはそれ以上。
その値段分を豆腐に換算すれば、約1120gほども買えるのだから!
個人的にはグラノーラ、ザクザクとした食感を残して食べたい派なので牛乳などに合わせるのは好きではなく、ヨーグルトでもちょっと柔らかくなるのは「うーん」となっていた矢先。豆腐で食べると汁気がそれほど多くないのでザックザックな食感も味わえ良い感じ。ただ経験上、豆腐といっても木綿では固すぎてあまりグラノーラとは馴染まず、よって豆腐グラノーラにするならば断然絹ごしがおすすめ!
というか歯ごたえが滑らかな豆腐であれば良し!!
この相性は意外で、ヨーグルトでグラノーラ食べるのに飽きた人にも、グラノーラの甘すぎる感がちょっと苦手な人も、試してみて損はないかと思う。
けれどあくまで豆腐。
豆腐であってヨーグルトではないので腸内細菌に好影響が出るわけではない。
だからヨーグルトを摂取した際のような健やかさ、身体の軽さは現れないかもしれないけれど、少なくともその分財布の方は重くなるはずである。
8月に読んだ本からおすすめ10冊を紹介。
その中からおすすめの10冊を紹介!
第10位
『閉じ箱』
短編集。
表題作『閉じ箱』はミステリーにおける可能性を無限論と不確定性原理 によって思弁的に示そうとする作品でSF好きには好まれそうな作品であり個人的にも好みな作品。
ほかには『闇に用いる力学』などが印象的な作品だった。
ただ収録作としては似たような展開が多く、オチが読みやすかったという感もある作品集。それでも後半にかけて載せられている作品は良質で、最後に収録されている「仮面たち、踊れ」はぐいぐい引き込まれる展開であって効果音やシルエットをつけるサウンドノベルなどにしたら栄えそうな感じ。
序盤微妙、中盤から面白いなと思える作品がぽつぽつと現れ、なかなか気持ちよく読み終えられた一冊。そしてこれらはなかなかジャンル分けが明確に付き難い作品ばかりなのも特徴的に思え、ミステリーというよりホラーもあれば阿部公房のようなSFもあって楽しめた。
第9位
『ドグラ・マグラ』
日本三大奇書小説と称されるこの作品。
気にはしていたものの購入後には結構放置しており、 この都度いよいよ読んでみた。
すると想像とは内容が違うことに多少驚き、内容としてカルト一辺倒かと思いきや実際の内容としては推理小説のジャンルで驚いた。
これは精神科医的な話であり、 そして唯物論に反駁しようという展開であるのだと。
感想はちょっとネタばれなので、そういったものを気にする方は下記の文章無視してほしい。
そこでそうした方向けの一言感想、「この小説は推理小説です。ただし推理するのは文章です*1
以下、ちょっとネタばれ感想。
そのうち”世の中はみな狂人”としたテーゼ性が特徴的かつ序盤、後半として個人的に特徴的と思えたのはその空間性であり箱性であっておおよそ閉じられた場所においてほぼ 語り口にて展開されるという構成。そこでの「胎児の夢」などをはじめ、受け継がれる意思的な記憶をキーワードとして挙げており正直最初は「これって単にDNAのことでは?」と思えながらも読む進めていくとこの作品での主張である意思や記憶などの乗っ取り的ともいえる過去の記憶の回帰はなるほど、昨今の作品にも見られるものでありそうと思えば昨今においても多少通用する普遍的な概念なのでは?
あとやはり特徴的なのは二点三転する展開であって、作者目線であれば寧ろそれは推理小説としてのひとつのミスリード的。
多少のメタさも感じつつ終盤に収束を見せる整合性など見事だなと。
そして古事的な文章から の設定なども入り組んでおり完成度として凄いなと改めて思う。
ただやはり文庫本での表紙における禍々しさとは多少なりとも違う内容に思えたのも確か。
それは思いのほか分かりやすかったためでもある。
あとはあまりの思弁的さにチョコレート殺人事件との類似性を感じたりも。
第8位
『黒魔術』
- 作者: リチャードキャヴェンディッシュ,Richard Cavendish,栂正行
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1992/05/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 1回
- この商品を含むブログを見る
現代的にも黒魔術を解釈。解説。
「魔術についてを真剣に語るなんてやベーやつじゃん」
みたいな先入観があるとしても、本書の内容としては論理的。
というのも”魔術”といった概念そのものが、そもそもひとつの形で示された論理形式の一端であるからで、「それは因果関係と相関関係との誤解では?(もしくは相関すらもないのでは)」と思われようとも、ならば現実としての現状としての状態。
それがはたして”必然”であると、どうして言えるのか?*2
無論、それは実際に”そうなっているから”に他ならず、人々は自らの現状から推論し、状態における必然性を考える。
”魔術”としての考え方もいってしまえばこうした考え方には近く、知性のとしての形式性としてそれが”科学的”でないのは当然、再現性のなさにあるのでありオカルティックにも突拍子もないように感じられるのは、ひとえに言ってしまえば「体験したことがないから」である。
でもこれって要は悪魔の証明のようなもので、あるがないからないとも絶対的には言い切れない。
こうして綴ると「じゃあ魔術ってあるというの?やべーやつじゃん」と思われそうなので、言いたい事はそうじゃないとの一言を添付する。
本書ではつまり、「魔術がある・ない」の話でなければ「魔術を行う方法」といったハウツー本でもない。
内容として、「魔術とは、こうした論理形式によって展開されていますよ」という、魔術の存在性を是非とした昔の知見からの認知形式についての解説を行うものである。
よって本書を読めば、ゲームやアニメでよく見られる「詠唱」といった行動などの理由も理解でき、
「なるほど、詠唱という行為にはこうした合理性があったのか!」
と成り、ちょっとした目から鱗状態に。
あと有名なスフィンクスの問答に対しての答えについて、魔術師的な答えは「人間」ではなく、「○○○」というのも面白く思えたり。*3
第7位
『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』
ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを (1982年) (ハヤカワ文庫―SF)
- 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1982/02
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る
「みんながこれを読んだら世の中はもっとよくなるであろう本」というのが増田ダイアリーにあって、その内に挙げられていた一冊でもあり感化されて読んだ一冊でもある。
そうして読んでみるとまず面白い。
確かに本書のテーマには、現代に対する一種のアンチテーゼ性を色濃く感じ、同時にこれ がアメリカを舞台とし聖書の教えを重要とするという環境の中で生まれた事にこそ意味のある作品なのでは?とした思いも読んでいてふつふつ湧き上がって感じ、同時にユーモア要素もたっぷり。
なるほど確かに聖書では「他人に優しく」と説きながらも本当に利他的、困っている人になんの見返りも期待せず要求もせずに「はい100万円」なんて渡されれば、私たちはつい疑ってしまうはずだ。
「この人は、どうしてこんなことを?」
それも赤の他人に行えば「頭おかしいのでは?」と思われること請け合いだ。
本人はただ純粋に、善行を行っているだけなのに…。
面白いのは、そうした理想と現実の縮図を主人子とその父親でミニマムにも描いていることであ って、実にわかりやすいアナロジー化。 あと本作品でもやはり、ヴォネガットらしい巧みで粋な文藻は印象深く、何気ない表現で所々に輝きを見せる。
すると印象的だった表現は、登場する詩人の手紙にあった「批判も自分が表現したいことに対しての批判であるならば、それは自分にとって快い歌のように聞こえるだろう」といったものや、 あと戦争での大砲に吹き飛ばされて死亡の表現を「ハンバーガーになった」というのは大好きな表現。
正直、大いに笑った。
第6位
『シリウス』
ステープルドンによるSF小説。
内容としては「高度な知能を持った 犬の話」であり、そこからどうなるかと思いきやそれだけの話だった。
ただ読んでいて思ったのは、自己としての概念、確固とした精神であるところの存在に目覚めた際には それを『霊』と呼び、少々の宗教的意味も含有させながら も、それを『魂』的な意味も被せている点においては「攻殻機動隊の”ゴースト”の元ネタなんかはここからでは?」等と思えたりも。
そして本作が「哲学的」と賞される理由についても読めばよくわかり、犬という目を通して人間 の不条理さや偽善さを描くものであって、同時にそこで魂や精神について物語るまさに思弁的な作品であって、これこそ「サイエンス・フィクション」ではなく「スペキュラティブ・フィクション」と呼ぶにふさわしい作品!
あとは個人的にはシリウスの口調が好きであって、直訳的な丁寧語を喋るところも好き。
第5位
『善の研究』
出版当時として哲学書にしては珍しくベストセラーにもなった一冊らしく、んでみるとこれが思いのほか面白い。
序盤から終盤にかけては唯物論の解説や意識としてのあり方を説く構成であってそれは寧ろ西洋の哲学のまとめ的内容に思え、しかし終盤となると独自の思想がどっとあふれ出す。
それは特に宗教についてを語りだす時分から色濃く感じられた。
特に「愛とは統一である」という主張にはハッとさせられた。
というのは、なるほど本書を読むことによって著者が西洋哲学によって養った概念から創出された「神」その存在性とその存在場所についてを語り、同時に、著者にとっての「神」とはどのような存在であるのか?をその文脈から理解できたからである。
故に、これはひとつの自伝的趣も強く、一人の人間が「神」なる概念を理解するまでを綴った叙述史のようなものでもある。
個人的に印象深かった点は「スピノザが神を無限の存在として考えていた」この事を解説し、すると
のこのスピノ ザの言う「無限」が何を意味していたのか?
本書により、この意味がより明確に理解できた事。
「無限」それが内面的な存在でありそれが究極たる「質」を示すのであり、スピノザの言う「無限」とは実質提愉であったのだと。
本書、西田幾多郎の主張として特徴的に思えたのは「一は全」とする姿勢。
そこでの神の存在をまた、絶対者でなく己のうちにありそして己自身であると。
そしてその内面に在する神こそ表題作の「 善」につながるのであり、内なる神こそが善を創るのであ って(そのため前章では直感的な倫理などについてを解説 )、「その神に従い善を成すのではなく寧ろその神との統一を目指すからこその行為である」とだという理由付けはわかり やすく意外なほど納得し易い。
故に神とは統一であり、人類愛とはすなわち「統一」を目指し他者他物に対する愛もまた、相手との「統一」をなすことによって生じる 、相手を時分として捕らえることで芽生えるものであるのだと*4。
第4位
『笑い』
ベルクソンによる一冊で、読みたいと思っていた本。
そうして読んでみるとなるほど、印象的な「笑い」に対する指摘は数多く、まずは精神性と肉体との乖離から直ちに引き戻されることによっての空間的ギャップ。
その笑いの構造については経験則にも納得し易いもので、次には「 ひっくり返し」による笑いもおおよその人が納得できるであろうもの。
というのも、これなどは昨今の日本の笑いやコメディ映画においてもよく見かける仕組みであり、
『泥棒が泥棒に遭遇する』
などは分かりやすい例。
そこでの印象深い文章「或る喜劇的場面がしばしば反復されると、それは”カテゴリー”あるいはモデルの状態になる。それは我々を面白がらせてくれた理由とは独立して、それ自身だけで面白いものになる。」といったもので、吉本新喜劇のお約束と見れば理解は容易であり、昨今においても十二分に通ずる仕組みである。
あと「系列の交叉 」に関する笑いについてなどはまさに慧眼的で、これなど昨今の「小説家になろう」をはじめとする異世界物へとまさに当てはめられる考え方であり、現実世界との生活をまさに交叉させて描いているのだと。
言葉の笑いについての指摘では 、
「不条理な観念をよく熟した成句の型の中に挿入すれば、滑稽な言葉が得られる」
この形式は、笑いにおいてなかなか重要に思えた。
他に、社会的修正をもたらすものであるという指摘も面白い。
本書は”笑い”について解説する内容ながら、本書自体が”笑えてくる”ような内容であり、存在そのもの自体もまたその内容を表現しているという狡猾な本。
教養的価値も十二分にある一冊で、これは個人的にとても好きな本。
第3位
『ドラッグは世界をいかに変えたか―依存性物質の社会史』
- 作者: デイヴィッド・T.コートライト,David T. Courtwright,小川昭子
- 出版社/メーカー: 春秋社
- 発売日: 2003/05
- メディア: 単行本
- クリック: 3回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
ドラッグや嗜好品に対する人類の遍歴を、大筋的にも知る事が出来る一冊。
すると意外だったのはマリファナやタバコを生産することによって生じる土地への影響について。
タバコ原料の生成が土地のリンやカリウムなどの養分を吸い取り土地を疲弊させてしまうという事実はもとより、それに対して
「だからそうした嗜好品の生産ではなく、土地は小麦などの栄養あるものの生成のために使用するべきだ」といった食糧不足の状況における当然かつ合理的な主張。
だがこうした意見に対する、
「嗜好品や麻薬が人の寿命を縮めたことのほうが(食糧不足を解消するには)全体的には効用があった」という反論にはなかなか驚かされた。これなどはまるでひとつの寓話的な話にさえ感じ、皮肉さを感じさせブラックジョーク的でさえもある。
他には”コーラの実”なるものが実際にあるというのもシンプルながら驚いた事実で、飲料のコーラにはコカが入っているだけであってコーラとは単なる名称であると思っていたので”コーラの実”がまさか実在するとは。どうやらそれはカフェイン的なものであって、当初においては飲料のコーラにも含まれていたらしく、するとやはり「コーラの名称とはそこから来ているのか!」とちょっと驚く。
あとは煙草や薬における依存性に対する考察や歴史が興味深く、インディアンが煙草に酷い依存性を示した事実としての一文は、常に煙草を欲して行動していたことを示すものながら恐ろしく思えたながらもどうやら他人事ではないらしい。
というのも、その煙草の部分をスマホに変えれば現代人の行動へとまさに当てはまるからであり、すると現代においても人間の本姓そのものはまったく変わっていないことに気づかされ、依存する対象が僅かに異なっただけに過ぎないのだと。
こうした気付きを与えてくれるには十分な内容で、なかなか刺激的な内容。
また支配や労働、奴隷に対してもアルコールや煙草などはなかなか必需で、さらにそれが循環的なこともあると知ってえげつなく思えると同時に、人間の一種の性を見た気にもなった。
若者を招き入れよう!引き入れよう!とするキャンペーンを大々的に行っていたアメリカ煙草産業の歴史など興味深いものがあったが、同時 に昨今においても富を築くためには人が依存し依存し得る媒体を作り出しそれを宣伝すればいいのだという事が非常にわかり易い。
スマホ然り、娯楽作品然りである。
たとえ科学がいくら発展しようとも、今のところ人間の本質に変化はないのだと。
本書は思いのほか、そして期待していた以上に得るものがあった一冊である。
第2位
『放浪時代・アパアトの女たちと僕と』
正直、読むまで知らない作家さんだった。
本書は中篇二作収録。
そのひとつ、『放浪時代』に関して言えば純文学的ながらポップさも兼ね備えた昭和初期の作品で、その軽快さや今に呼んでも古臭さを感じさせぬ風情を感じさせたほど。
表現としても純文学の重く厚かましさを装いながら井出たちとして法被姿のような緩やかさがありなじみ易い。そのため幾分も読みやすく飲み込みやすいので娯楽的な情景も二重な意味で捉えやすく親しみやすい作品であった。
そして軽快さは最後まであり、作中において展開される三角形がどうなるのかと思い読み進めていれば……。
そのあとの作品、『アパアトの女たちと僕』ではプロレタリア小説っぽさを内面的にも表面的にも描く作品であり、マルクス主義批判的な内容も台詞そのままに練りこまれたりしており幾ばくかの読み応えを感じられた作品。
個人的には支弁的に語る通俗批判な場面や台詞に注目が集って感じた。
あと最後の短編的エッセイ 「M・子への遺書」がまた大変興味深く、賛否両論としての反響を呼びやすいであろうと容易に想像できる作品?*5である。
このエッセイ、なかなか過激であり内容としては当時の文芸界批判。
むしろその体制というより作家精神に対するものであり、バッシングの雨あられ。
当時の作家たち、彼らが己自身の不道徳さを隠匿するための便宜的対象としている規律に、矛盾と憤りを示す内容であって、「でもこれって昨今でも同じことが言えてしまうのは?」とちょっとどきまぎしたりも。しかし誰だって、己のことに対しては無知的にも盲目的甘さを見せるものであって効した性分はもう時代など関係なく人間の性では?と思えたり。
だがこうした矛盾体質と対立し 、跋扈して批判する態度は実に芳しくそして珍しい。
その主張には道理があるよう感じたが、後半はむしろ個人攻撃的になっており感情的。
しかし全作品を通してみても、その考え方には共感できる点 が多く、文章としての表現や形容の仕方も威風堂々されど わかりやすくそしてエスプリさを感じさせるウィットな陽気さと器用さがあり、古さを感じさせぬリズムと独特のアナロジー的描写。
正直、知らない作家さんでありしかし読んでみるとこれが大変に面白い。
傑作小説を読めた幸福感は著しく、こうして相性の良い小説と出会えたことは一 種の邂逅に思えたほどだった。
第1位
『短篇ベスト10 (スタニスワフ・レム・コレクション)』
スタニスワフ・レムの海外での人気投票からの作品を集めた短編集。
それだけあって、内容としては期待に十二分と答えてくれる至極な短編ばかり!
収録作どれもが面白かったけれど特に印象的だったのは『航星日記・第二十一回の旅』 という作品。神学的にも通ずる思弁さを示す作品であり、唯物論というかまさに脳物論的な話の流れ。
一見して一辺倒な主張で論駁をするその強硬さにさえ、説得感を感じてしまうような饒舌っぷりを感じられた台詞回しが特徴的で、安易ながらも”哲学的”*6とさえ表せるであろうまさに思弁的作品。
全10編が収録されていながらどれもがたっぷり読み応えあり。
そして解説にあったようにユーモアも豊富。
エスプリ感も申し分ない。
ほかには「探検旅行第一のA(番外編)、あるいはトルルルの電 遊詩人」といった短編もなかなか印象的で、これは特にユーモア感がたっぷりなためである。
この作品は、稀有な詩人を人工的(AIとして)に作るためだけに人類史を再現するという壮大な展開ながらそうした部分は省略され、その完璧詩人の如くの コンピュータが作る数学と愛の詩など印象的で、その後の展開もユーモラスでとても面白い。
あと『仮面』という短編 もなかなか印象的。これなどは他の載せられている作品とは違ってシリーズものでなく、本当にこれのみで完結の短編。ながらも、その完成度は高く、おどろおどろしい展開と夢想的な(読んでいて思うのは、例のかの小説)描写は繊細、読んでいて「うわっ」と思わず引き込まれるような作品 。文章のテンポも良く、これ等は訳者の妙技を感じたりも。
また最後に載せられていた「テルミヌス」といった作品などは人気投票において下位だったらしい ものの、ホラーテイスト+人間味も溢れさせた作品であり、独特ながらとても面白い。時間を超越した部分等はインターステラー的に思えたり。
本書の収録作はどれも読み応えあって、読み終えた後において生じる情動「後々にもう一回読みたいな!」等とそう思わせる稀有な短編集。
SF=「サイエンス・フィクション」とのみ思われがちだが、SFには「スペキュレイティブ・フィクション」といった読み方も存在するのだと想起させてくれるような、そんな素晴らしい短編ばかり。
ある人が「SFとは既存の価値を転覆させ、新たな価値観の創出を促すもの」と言っていたけれど、まさにそんな作品集。おすすめ。
*1:「推理するのは文章です」とは二重の意味で。
*2:帰納法における黒鳥問題のようなものといえばいいかもしれない。
*3:あえてネタバレせず。
*4:こうした考え方にはある種の相対主義性を想起し、あとこうした事をテーマにした漫画やアニメって多いよね
*5:はたしてこれを”作品”と称してよいのやら
*6:だが本当は”哲学的”という言葉は嫌いで、何故なら「哲学的」と言う言葉はそれ自体がとても曖昧模糊としており、巷で見聞きする「それって哲学的だよね」と言う言葉に含まれる命題はおおよそが哲学以前の話であり、ここでの「哲学的だよね」の「哲学」はすなわち=で「わかり難いこと」としての記号的意味を含む表現に過ぎないからであって、熟考を忌避する謂れに過ぎないよう感じるからである。故に本来ならば「哲学的」と言った表現は嫌うものの、ここで用いる”哲学的”とはあくまで意味表現を漠然ともわかり易さを求めてのことであり、ここでの「哲学的」とは=で「形而上学的」という意味である。
9月に読んだ本からおすすめ10冊を紹介。
その中からおすすめの10冊を紹介!
第10位
『月と太陽』
SF短編集。震災後の復興後に書かれた作品集らしく、またその震災を根幹のテーマにしているらしく、その影響はどの作品にも感じられた。
内容として全5編が収録されており、印象的なのは本書内にて一番の長編である『絆』という作品。
これは結合双生児の話であって、作中では「寧ろ結合していない人間のほうが不幸である」としたことをテーマにしておりその独自な着眼点に面白いなと。ただ難点は多少なりとも冗長に感じられる点で、そのせいでテーマは良いのに一般受けしないのでは?とも思えた。
それでも結合双生児による結合双生児独自の内情を語り綴るその文章は魅力的で、他にあまり類を見ないと感じられる魅力的な作品。
他に印象的だった作品としては「AIサイコパスを作り出して、サイコパス特有の観察眼をAIに用いることで犯罪防止に努めよう!」とする短編で、これなどはアニメのサイコパスとアイデア自体が多少かぶっているせいもあって物足りたく感じたりしながらもその発想自体は面白い。あと「ミッドナイト・パス」は衛星の話。というか本書は衛星の話が多いなと思わず感じてしまうほどには多かったのだけど、この作品はその衛星観測をメインにした作品であり、取って付けた感の強い恋愛要素は無粋に思えたものの工学の面白さも熱さも感じられる作品であったので好き。
他の短編、飛行気乗りの話は情緒があって悪くなく、そんな中でも注目すべき作品は本書で一番SFしてる「未来からの声」。これもまたある種、双生児の話のようにコミュニケーションの新形態を感じさせる作品であって、この作品ではよりノンバーバルコミュニケーションの可能性を示していたのが特徴的で最後の落ちとしての、小説ながら「文字によって表現できないもの」をまさに示さんとするあたりが特に面白い!さらに読みやすさと程よい長さの文章量、未来からメッセージが来るというSF性とそのメッセージが言葉以外のものといった折衷二元論的な構成に魅力を感じたこともあって本書のうちでは一番好きな作品。
第9位
『性的人間』
内容としては短編集で、表題作が主にページ数を占めるものの他の二作も案外味わい深かった。表題作『性的人間』は前半、後半にはっきりと分けられている構成で、前半は避暑地のような場所に札名に言った際における、性に対して開放的な状況を描き同時にそれで登場する人物像たちの輪郭を際立たせており、後半は性倒錯のような置換話でちょっと驚いた。なにより痴漢同盟というのはその発想は面白く思えたりはしつつ終盤に迫る主人公たるJの心的状況を心情は一種の免罪的な思惑があるのだとするのは還元的で表面的。
次に載せられた短編『セブンティーン』は、最初コンプレックスの塊であり学生17才になった少年が、右翼になることで自身に自信をつけコンプレックスを跳ね除け生きがいも頼りがいも見につけて変貌していく姿を描くもので、一昔前のなろうに匹敵するサクセスストーリーさを感じさせる秀作!
前半のじめじめを吹き飛ばすほど後半は爽快であり読了感も清清しかった良かったほど。そしてこの作品のメッセージ性としては「自信が自身をつくる」といった、人生におけるひとつの真理を箴言めいて表現されているものでありそれがたとえひとつの悪的なものであろうと(ここも重要に思え、それは”悪”的なものであるのか?と問わせる点にもあるように思える。)自信たる自らの肯定源と成るならば良いのでは?というメッセージ性を感じられた。
そして最後の短編『共同生活』はまさにモラトリウムを描ききった作品で、厭世染みささえも感じさせ働く大人に情景を抱く青年と、それとつるんでいた少年たちの友情の変化を描く作品であって、そのアクセントに”精神病院から脱走した基地外”を用いているのが特徴的で、そのきちがいの描写などは著者が楽しんで書いているようにも思えたり。それはそのきちがいなる者が「地獄とは?」を問うて歩く愉快さにあり、しかし最後の落ちは多少衝撃的。
そうして読み終えた作品最初の印象として、例えそれが幾分もの時代を隔てた青春小説であろうと「面白いものは面白い」といった享楽の普遍性であり、『セブンティーン』は現代にも通ずる娯楽性を含めて傑作であると思う。それは影響を平易に与えやすい、といった意味においても。
第8位
『比類なきジーヴス』
- 作者: P.G.ウッドハウス,Pelham Grenville Wodehouse,森村たまき
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2005/02/01
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 29回
- この商品を含むブログ (126件) を見る
ふと読んでみると、これがまたとても面白い小説で驚いたほど。
ユーモア作家としてイギリスでは代表的であるとの事で期待して読んでもその期待に十二分と答えてくれる作品であった。というのがまず第一に感じた忌憚なき意見。純粋にとても楽しめ、そして実に笑えた。
まず設定として昨今では実にありきたりながら、その王道をまったく謳歌するかのごとく生かしきっており、似たようなキャラクターの設定をまた日本の作品でもあまた見るので「これがもとネタ?」と思えたほど。それは女好きですぐにほれてしまう親友ならびに頼りない主人公と、絶対的に頼りになる執事。個性豊かなヒロインたちに、絶対的権力を持つ恐ろしい叔母さんなど。個性に満ち溢れた面々が繰り広げる劇に、またいやらしい正確のやつも出てきて舞台を盛り上げ、またイギリスらしい風刺や皮肉を利かせたユーモア在る表現がとてもツボであってそうした部分が特に笑え、とても楽しめた。全体的に小分けされた話の連作で、戯曲的な滑稽さを感じられた。
第7位
『猫の伝説116話―家を出ていった猫は、なぜ二度と帰ってはこないのだろうか?』
日本における猫に関する逸話を集めた一冊。
猫好きな著者が逸話を集めまとめただけあって全体的には猫に対し好意的な話が多かった印象。しかし読み進めると「猫また」の項では猫がなかなかえげつない扱いを受けていたという印象も。
全体的には小話の集合で、時代柄か簡単にざっくばらんと切り捨てられてる展開が多かったのも印象的。また猫の死体の上に植物が栄え、急に実を成してそれを食べて当たるといった話が多かったのも特徴的。
本書はまさに猫の古今和歌集のようなもので、猫に関する逸話の小話が集約されている。
”猫”その存在性の見方についても知ることのできる民俗学的価値も感じた一冊。
猫の恨みは恐ろしく、怨念は人に引っ付きまわり、猫またとなって化けて人に害を。大いに可愛がられた反面、こうしたイメージも強いのだと。
あと個人的に印象深かった話としては、寺に長く住まう猫が(主人の住職を三代見守っている!)喋れるようになりそして寺に住んでいるだけあり今までの鼠の殺生を憂いそこで頭を丸めて念仏を教わるようになるという話。
特に印象深かった話は、長く住まう猫が仏壇に供えた仏飯を食べたことによって妖怪になり、次に覗きみると猫は立って踊りだし(猫が踊りだす、といった話が多かったのも印象的で、そして可愛い)、それを見た家の主人が「これが周りの家に知れれば気味悪がられ苛められるだろう」と思い、その猫に実際懇々とこのことを話し猫を家から出て行くように説得し赤飯の握りを持たせると猫はぽろぽろと涙を流しながら家を出て行ったという話。
とりあえず猫好きには良い本。
第6位
本小説の内容としては…まあ、一言で言えば、想像通りの独自性。
物語自体としては、読む前では表題からして「映画のゴーストバスターズをモチーフに?」なんて風に思えていたが、実際に読んでみるとそこに関連性はほぼなく、寧ろここで示す「ゴースト」とは攻殻機動隊の示すような「ゴースト」であり、生命のより根源的な、生命を成り立たせようとするその「生命」たる生命自身の存在を解き明かそうとするなかなか哲学的なテーマであり、そのため場面は様々移り変わって輪廻のような演出多し。そしてやはり著者の特徴とも言えるパロディの多さもまた随所に見受けられ、そのうちでは特にペンギン村の話が印象的。ドラゴンボールの名前もそのまま出てきたりとで著者はどれだけ鳥山明が好きなんだよ!とも思えたりした。
ただ「ペンギン村に陽が落ちて」はギャグ漫画の世界そのものに切れ込むような内容であって、ここは最初、どうかと思うもこの章を読み終えるころには印象がガラッと代わるのだから凄い。
締めさせる命の有限性と、ギャグ漫画における不死性観の逆転は読み応えあり。
あと地震を登場人物として登場させたり急に語り部の視点が変わったりとメタ的な部分も多く、著者が登場人物として登場するのも特徴的。そうした多面的な読み方をさせながら、それで退屈させないのだからこそ凄い作品。
第5位
『謎解き・海洋と大気の物理―地球規模でおきる「流れ」のしくみ』
謎解き・海洋と大気の物理―地球規模でおきる「流れ」のしくみ (ブルーバックス)
- 作者: 保坂直紀
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/07/19
- メディア: 新書
- 購入: 2人 クリック: 29回
- この商品を含むブログ (11件) を見る
ブルーバックスの一冊。
読むと、大気の流れの理由をはじめ気象についての基本的な知見を得られる一冊であり天気予報の見方が楽しくなってくる本。
最初にまず深く印象的だったのは海での流れについて。
つまり対流がどうして起きるのか?とした疑問はなるほどいわれてみればもっともであり、そして明かされる理由は至極単純。それは場所によっての大気圧の差による現象なのだと。これはとてもわかりやすく思わずはっとし合点してはなるほどなあとうなってしまった。と同時に、そこでは再び気圧その存在の面白さとまた大気圧に逆らうため生物に備わった排斥的な気圧への憧憬的な不思議さを改めて感じうるとそれは「では気圧が低いところでは背が伸びやすいのではないか?」となんて疑問も浮かんだり。
これなどは今後に登山した際、実際に検証してみようかなと。
あと「水は4度が一番重い」なんていうのは初めて知り、さらに海水では塩分を含むため2℃が一番重いと知って驚いた。
ほかにエルニーニョ現象についての解説などもあって、そのあとには海流をはじめ海の状態変化は大気の状態とも大きく密接していることを解説。よって海の状態とは気象学とも密につながっており、言い換えれば海の状態もまた大気などの説明によって成すことが出来ることを懇切丁寧に解説。
尤も、そうは言っても事はそう単純過ぎることはなく、終盤には「科学について」をエッセイとして綴り、そこではバタフライ効果などの名も挙げて「計算するコンピュータにミスはなくとも、その指図をする人間に間違いはつきもの」としており、また「科学の正しさは大打数によって決められる」として事物の当面の正当性は「いってしまえば多数決で決まる」とする言葉が印象的。
気象学の入門には適切に思え、想像以上に良本だった印象。
第4位
『光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学』
ファインマンさんによる講演の内容をまとめた一冊で、その内容としては光電磁気学についてを平易に解説するもの。勉強になる内容であるのは当然として、なにより相変わらずのユーモア具合も健在で、読んでいて思わず笑ってしまうこともしばしば。
あと何より特徴的なのは、光子の動きを矢印の足し算と自乗の累積によって計算するように仕掛けられていることであり、方程式を使わずとも正確に光子の動きを計算できる形式を示す当たりさすがの慧眼さであり、本質を理解できているだからこそできる芸当なのかと思う。
方程式やら計算式によるものよりは直感的にも理解しやすい。
文系にもやさしい稀有な理系本。
第3位
『ベルクソン哲学の遺言』
ベルクソンについてのモノグラフ本であり、内容としては最初にベルクソンの残したという遺書の内容から解説をはじめ、それが最後にもつながるといった構成のもの。それはもとより、内容としてはベルクソン哲学の真意からその人隣までを解説しており、読むと納得できることは多く自分は多少なりとも理解が足りてなかったのだなということが幾分にもよく分かる内容。
するとまず印象的なのはベルクソンが哲学に求めていたものについてであり、それは「実証さ」であり古来からの哲学史によくある言葉だけの存在としての哲学を嫌悪し、そのため数学に精通しており理学的な考えに賛同する姿勢にてスペンサー卿の生物進化の哲学に対しての補強を行いたいというのが哲学を志すきっかけであったのだという。
哲学で重要とされている言葉の定義もまたこだわらないという点には特に共感が持て、そしてベルクソン哲学の重要なキーとして「持続」を何度も強調していたがとても印象的。かつ最大の特徴のようなものであり、やはり時間に対する捉えかたにこそベルクソン哲学における重要さがあるのだと改めて実感。
このあとには「直感」という言葉も交えて解説に入り、しかしこの直感なる言葉はカントや従来の哲学者が用いていた意味とは違い、それは持続する時間に対するものであるのだと。するとこの軸と成る「持続」という考え方は、時間と存在の所存を明らかにするものであり時間を「持続」するものであると捉えるのが意識としては必然で、記憶にしても同様であって持続する時間のうちから抽出しているに過ぎないとする。
他にとても同意できたのは、物象的なものと精神的なものとの区分についてであり、そこでの無機物と有機物(特に人間)との違いについてでは「反復」するもの(再現性があるという意味でも)が無機質的な物質であり生物は「持続」するものでありそこに大きな違いがあるのだという主張には目から鱗というより寧ろ腑に落ちた。
よって持続なる人間の精神は分割できる「量」的なものでないからこそ科学的に究明できないのであり、ここで精神が科学的に再現できないのは必然であると証明できるわけだ(再現できるものは反復するものであるから)。ここにベルクソン哲学の真髄があるように感じられた。この思念は言ってしまえば、当たり前。ただその思考を言語化でき、そしてその意味を言葉として表すことに成功していることにこそ、この哲学の本位があるように感じられる。
第2位
『貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える』
- 作者: アビジット・V・バナジー,エステル・デュフロ,山形浩生
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2012/04/03
- メディア: 単行本
- 購入: 20人 クリック: 943回
- この商品を含むブログ (58件) を見る
どうして貧困とは生じるのか?
その研究結果を綴った内容。
内容としては中庸というか、「貧困には援助すべきだ!」と「貧困すべきでない!」とする両意見を考慮し、というか一読すれば貧困の問題とは「援助するべき、もしくは援助せず自立の状況を促すべき」とした二元論的な思考でそう単純に割り切れぬものではないのだというのがよくわかってくる。
とても単純視して考えれば「貧困の原因とは認識不足、つまり勉強不足ゆえに貧困者の行動が適切にならず、その判断の誤りよる結果では?」のように思えなくもなかったのだけど、読み進めると貧困の原因とは貧困者による知見の貧しさからのみ成るものではなく、貧困者が貧困に陥る理由とそのような状況から抜け出せないのには奥深い理由もとより複合的な物の影響であるのだと理解が捗る内容。
個人的に印象深いのは貧困によるストレスの影響について。
そうした状況下ではコルチゾールが過度に分泌されるそうで、貧乏による生活への不安がこうしたストレスホルモンによってもたらさせる生化学的な症状であることを告げる。他に、貧困の状態から抜け出せないのは単に貧困層の人間が堕落しているからでも怠惰だからでもなく(全般的にそうとも言い切れないが)、判断不良や地域の組織的な決まりごとに対する対処の仕方故のことであり、貧困の原因とはきれいに単純化できないものなのだと。また将来性に対する見方の誤謬や適切な金融機関を利用する事の重要性を解説していたのも印象的。
貧困者こそ開業に向いている!とした章は読み応えがありそこでは経済学の勉強にもなり純利益と限界利益の違いについてなどは素直に勉強になった。しかし9章の、学校への支援金横領などを読むと思うのは、貧困たる原因として挙げるのはそうした支援制度の正確な機能が成されていない事にあるというが、そもそもの原因として倫理観の不足もしくは道徳の欠如につながり根本的な問題なのでは?と思えて成らなかった(これを一言で表せば、「支援する側も教育しろよ!」ということに他ならない)。
また「貧困を削減する魔法の銃弾はありません。」といった言葉も印象的。
そして発展途上国の現状が良く分かる内容でも在り、同時に、貧困層がどうして高金利の金融から借りるのか?の理由も合理的に(この貧困者による『合理性』についてこそ、まさに目から鱗であり、彼らにおける「形式」的合理性とはなるほど、それらは私たちが納得できないものではなく、寧ろ彼らの理屈を聞けば納得でき得る合理性があるからこそ、驚嘆すべきものであったとさえ言える)理解できる内容。
本書から得られる知見として面白くもあり重要なのは、こうした本書で語られる内容とは他人事ではなく実際日本のそれも多くの人にもこうした貧困者による「合理性」的な思考は当てはめられそして実行している大多数の人たちが存在する、という事実でありそれは内省を促す価値も在るよう感じられた一冊だった。
第1位
『時間について』
- 作者: ポール・デイヴィス,Paul Davies,林一
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1997/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 9回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
ポール・デイヴィスによる一冊。
構成としてまるごと時間について取り扱っておりこの本からは思うことも多く、時間というその存在性に対し科学的、哲学的にもスポットを当てており「時間」好きには堪らず濃厚な内容。
この本からは得る物と思うことも多く、かつてマッハがその哲学において”絶対時間”と”絶対空間”を否定したことによって相対性理論の発想が生まれたことにも通じるような、時間それ自体に対する多方面のアプローチは、『時間』というその普遍的な存在に対する嫌疑と存在性に対する必然性、それに新しい見方を与える試みであって実に刺激的。
各人が抱く固定概念を瓦解させ得る破壊力を持つ内容の本であるのは間違いなく、今後に時間を作ってこの本について感想をよりまとめようかとは思う。