砂の女
想像以上にエンターテイメントな作品。
文体には血肉踊る躍動感が存分にあり、面白い。
手に汗握る作品とは、まさにこのこと。
読んでいて熱くなる、いや、暑くなるといった方が正しい作品。
それほど砂に対する描写はリアルであり、読み手もじんわりと嫌な汗を全身に掻く。
内容としては、社会批判を含む、人間の労働に対しての付き合い方、在り方について。
人間が働く理由とは何か。
凝固な文体で緻密に尚且つ根源まで問い詰めてくる作品ではなく、絵本のように、ストーリーを通してその理由を問い詰めてくる。
主人公は穴に監禁され、労働を強いられる。
当然、逃げたくてたまらない。
序盤、中盤は、その葛藤が描かれ、脱獄劇のようなスリリングさ。
反って終盤では意味合いが大きく変わる。
生きがいを見つけてしまうから。
『生きがい』。
それこそが仕事、生活をするうえで、尤も重要なのかもしれない。
そう示唆する内容であり展開。
人はただ食う・寝る・交わるためだけに生きているのではない。
いくら偏屈に理由を考えようが、『生きがい』、生きている実感を持つことに幸せを感じる。
それは覆しようのない事実であり、人間のDNAレベルにまで刻まれる事実であろう。
人間は生きる意味を見出そうとする生き物。
それが人間であり、他の生き物との違いであり、発展した理由であると思う。
これこそが進化による産物なのかもしれない。
そう考えされられる作品。
結末も悪くはないと思う。寧ろ良し。
読み終えるとこの作品は非常にifの展開が想像でき、これを原作にサウンドノベルを作れば面白いのになあ、とつい思ってしまった。