サルになれなかった僕たち―なぜ外資系金融機関は高給取りなのか
サルになれなかった僕たち―なぜ外資系金融機関は高給取りなのか
- 作者: ジョンロルフ,ピータートゥルーブ,John Rolfe,Peter Troob,三川基好
- 出版社/メーカー: 主婦の友社
- 発売日: 2007/04/01
- メディア: 文庫
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投資銀行という業種の内部状況を、これでもかとぶちまけた一冊。
”投資銀行”といっても、一般にはどのような業務をしているのかは掴み難いところがある。
だがこの一冊には、その業務内容がこと細かく記されており、その多忙さも、狂気さも遍く暴露している。
トップ・ビジネススクールでMBAを取得した二人の若者を待ち受けていたのは、高給を保障する代わりにサルにならなければ出来ない仕事の数々だった。
高給であることを条件に、クソみたいな仕事を強いられる。
その酷使ぶりと、クソみたいな上司と職場環境、それをアメリカンなノリとユーモアを交えて語る内容。
思わず引き込まれる内容であり、あまりの多忙ぶりに読み手も「うえっ」となりそうになる。
日本でも長期労働によるブラック企業が問題にされているが、当然のように、アメリカにおいてもそのような企業は存在する。
その代表例にすら思える過酷っぷり。
一日4時間の睡眠は当たり前で、家に帰れない事も普通。
無駄とも取れる修正作業の繰り返し。
読むだけでもその場の空気、雰囲気は存分に伝わり、業界のクソッタレぶりが顕著に伝わってくる。
しかし日本のブラック企業との大きな、大き過ぎる違いは、ここではあくまで”高給”ということだろう。
激務ではあるが、それに見合う報酬。同時に、それに見合う労いのパーティーが開かれる。特にクリスマスのパーティーでは、その規模は壮大らしい。
日本にも労う精神はあるが、それは言葉だけというブラック企業は多い。
耐え我慢する事が美徳とされる、日本らしいといえば日本らしい精神。
だがそれは良くない事だ。他人と同調し、輪を崩さぬことが良しとされているが、内なる不満をため続けることでのメリットは皆無だから。
この本、クソッタレどものことに関して書かれているが、それでも楽しめて読めるのは随所にある皮肉なジョークや、下種ながらも笑える比喩の賜物である。
それ故、面白い。
「投資銀行って、こんなことしている会社なんだ。ふーん。よく分かった。とにかくクソッタレの肥溜めってことは」
一読すれば、楽しんだ後にそう思う事だろう。
やはり自分が知らない社会を覗き見し、見聞を広める事は、自分が働く現状を見直すいい機会にもなり勉強となる。
隣の芝生は青い、ではないが、多少マシに思えるところも、劣るところも分かるようになる。
あと投資銀行の草創期を薬屋に見立てた下記の話は面白く、
一九二九年の大恐慌の前には、バンカーはありとあらゆる粗悪なヤクを一般大衆に売っていた。その粗悪なヤクは証券と呼ばれていた。それはまるで小麦粉を小袋に詰めて、上質のコカインだといって売るようなものだった。
客は文句を言わなかった。
買ったものを実際に使いはしなかったからだし、そもそもそれがなんだか知らなかったからだ。
そしていつでもバカに輪をかけた大バカがいて、彼らが買ったものを買った値段より高く買ってくれたりしたからだ。
ところがある日、どこかの誰かがその粉を吸ってみて、それがコカインなんかじゃないことに気づいた。
おかげで大恐慌の起きた理由が非常に分かりやすかった。
忙し過ぎることで狂気に見舞われた世界を垣間見れ、同時に勉強になることも多いので意外とオススメの本。