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book and bread mania

-日々読んだ本の書評 + メモ集 + パンについて-

ああ、生真面目でなくても良いんだなと思えた一冊。

本(小説)

特別お題「青春の一冊」 with P+D MAGAZINE
http://blog.hatena.ne.jp/-/campaign/pdmagazine

 

青春の一冊ということで、社会人になってから読み深く印象に残った作品の紹介。

それが『ヘンリーの悪行リスト』という小説。

あまり有名ではなく、なかなかのマイナー作品。

しかしこの本との出会いは印象的で、ある日ブックオフの105円で見つけ、そのタイトルから何かピーンとくるのを感じた。

それで手に取り直感を信じて購入。

へなちょこである自分の直感が働くことはあまりなく、その珍しさ故に買ったんだけど、購入後は仕事の忙しさもあり手が出ず積読

 

仕事というのは天邪鬼な物で、上手くいない事のほうが多い。

悩みやすい性格故、悩む事も多々。けれど身近にいい相談相手は居らず、悩み心労ばかりが積み重なり、ぷよぷよで言えばゲームオーバー寸前。

 

そんな折、休みの折り合いを見つけて久々実家に帰省。

大学時代の友人と飲みに行き、溜まった鬱憤を発散。ぷよでいえば5連鎖だ!

楽しい時間というのはすぐに過ぎ、飲み会は夜中にお開き。

そして実家、自分の部屋へと久々に舞い戻る。

埃っぽい空気に、独特の臭い。大学以来の我が家は、妙に懐かしく感じて心地良い。

窓の外からは鈴虫のような鳴き声が聞こえてくる。

飲み会で盛り上がり火照った体はなかなか冷めず、寝付けない。

 

夜は暇になるだろう。

 

予想は的中で、この時のために例の『ヘンリーの悪行リスト』を持ってきていた。

それは眠れぬ前の暇つぶし。

読んでいれば自然とウトウトしてきて眠れるだろう。

そんな思いでページを開く。

あらすじはこうだ。

 

主人公のヘンリーは落ちこぼれ。

高校生であり、これといった取り得はなく、絵に書いたような劣等生。

しかしある日、彼に奇跡が起きた。

学校一の美少女と恋に落ちる。

奇跡であると言うからには奇跡があり、それはまさかの劣等生ヘンリーとこの美少女が恋に落ち、両思いになったこと!

当然、ヘンリーは浮かれ、幸せ絶頂な日々を送る。

しかしまたもある日、ヘンリーは突如にして絶望のどん底へ。

彼は振られる。理不尽に、一方的に。

理由は明確単純分かり易く、それはヘンリーがコンプレックスに思う全ての事。

 

華奢ガリで運動できず勉強もできない冴えない男。

 

彼は打ちひしがれる。

いきなり現実を突きつけられたからだ。

自分の全てを肯定された後に、いとも容易く自分の全てを否定されたから。

 

僕は途中で、ページを閉じる事はできなかった。

気付くと心臓の鼓動は高鳴り、興奮している。それはもしかすると、劣等生であった自分の姿と、このヘンリーの姿を重ねていたのかもしれない。

 

 

ヘンリーは復讐を決意する。

ただ直接的にではない。

「理想的な男になって、振った事を後悔させてやる!」

‥数年後。

出勤前、鍛え抜かれ見事な体をさらに磨く、若い男。

彼は「暗殺者」と呼ばれるほどやり手の企業買収屋であり、数万ドルの高級スーツを身に着け、堂々と出勤。

彼は何十億の取引をいくつも成功させ、今や彼は若者の間で憧れの的。

それが誰であろうか明確で、彼こそが大人になったヘンリー本人!

彼は死に物狂いで努力、時には汚い手を使ってまでもして地位と名誉を築いていた。

出勤途中、ヘンリーは羨望の眼差しを送る一人の学生とすれ違い、小粋なジョークを飛ばして彼の前から颯爽に去る。

まさに誰もが憧れるような人物像、そしてヘンリー自身も思い描いていたであろう人物に、彼は成っていた。

 

そしてあくる日、彼は故郷へ帰省する。

目的はもちろん、元恋人への復讐。

「お前が振った男は大物になったぞ!お前はこんな田舎で、冴えない男と冴えない人生を送るだろうがな」

そんなことを言うのが楽しみで楽しみで仕方がないヘンリー。

 

 ‥

窓の外を見ると、いつのまにか虫の鳴き声は止んでおり、静寂な世界が部屋を包む。

それでも僕に眠気は一切訪れず、同時に僕の手が止まる様子もなかった。

 

 

ヘンリーは衝撃の事実を知る。

元恋人、彼女はヘンリーを嫌いになって振ったわけじゃなかったのだ。

彼女は手紙を妹に託していた。

そこには彼女の字で、病気で長くない、とのことが書かれていた。

ヘンリーはそこで初めて知る。あの行為、彼女が突如として別れ話を切り出してきたは、自分のためだったのだと!

すると自分がしでかしてきた、とんでもない愚考に対しての後悔の念がうねりを上げる。

彼の復讐は一瞬にして終えた。

しかし、彼はここまでになるまでに、様々な悪行をこなしてきた。

時には他人を蹴落とし、他人の功績を横取りし、そうして成り上がってきた。

全てはこの瞬間、この復讐のため‥。

それが一瞬にして崩れ去った。彼は唖然とし、そして後悔する。

これまでに犯した、クソッタレな所業に‥。

 

気付けば外はうっすら明るくなり始め、けれど眠気は全く訪れず。

まるでコーヒーの如く、ページの一枚一枚は僕の眠気を振り払った。

僕はそのままページをめくり続ける。

 

 

復讐が虚しくあっけなく終わると、ヘンリーは生きる糧を失う。

復讐の事だけ考え努力し、ここまで生きてきたのだ。

それが突如して復習は予想外の形で終了。

絶望したヘンリーは死のうとする。

けれど死なない。死ねない。彼は一人の少女と偶然出会い、彼女に助けてもらうと次には助けを請う。

彼女はそこで提案する。

クソッタレなことをしてきた相手に謝って回ろう、と。

 

そこから始まる本編ストーリー。

ヘンリーはクールでイカした企業買収屋!

そのためには冷血非道、なんだってする。

そんな彼がその仮面を剥ぎ落とし、本性本音をさらけ出して謝りまわる。

そんな物語。

仮面を外した彼は、昔の彼の姿。

本性、性根は変わっていなく、復讐の鬼と化すことで仮の自分を偽ってきた。

そんな彼が仮面を外す‥。

 

彼は身包みを剥がされ露な姿になると、途端にドジで間抜けな昔の彼を見せる。

そんな姿は滑稽で、読んでいて自分の笑い声が部屋に響いたほど。

ヘンリーと少女のやり取りはテンポがよく漫才のごとき勢いがある。

双方の発言には愉快なジョークやユーモアが多く、笑いが絶えず何度も爆笑。

例えば、ヘンリーと一緒に行動する少女は、酒飲みであるアイルランド人であることを指摘され、こう返す。

「子供のころのわたしは、毎朝ゲロを吐くのは当たり前だと思ってたんです。シャワーを浴びたりとか、歯を磨いたりとか、朝食にお酒を飲むのなんかといっしょで」 

といったブラックめいたものから、

ヘンリーのせいで失脚し、その理由を彼ほど体が丈夫でないからだと思い込み通販でフィットネスマシーンを買い漁り、商品の梱包を開けてもいない物も多数。そんな荷物がごった返すガレージにて、その人物が少女に問う。

「わたしはイカレてると思うかね?」

少女は答える。

「お隣に住んでるお婆さんは、植え込みに向かって話しかけてたじゃない」

そして言葉を続けた。

「たぶん、わたしたちはみんなイカレてるのよ」

 

哲学的であり、すべり知らずのジョークは 読み手である僕の心も解きほぐしていった。

そして裸となったヘンリーは惨めで哀れで、それで情けなくて‥。

小便も漏らすしもう実際にはどうしようもない奴なのだが、それでも彼は生きていて、そして以前よりずっと本物の感情を露にして生き生きとして‥。

彼は成功して此処まで成り上がってきたように思えたが、実際には全然成功なんてしていなく、寧ろ失敗の連続。

だけど実際にはそれが普通で自然の姿。人生なんて成功することの方が稀で、おおよそ失敗するのが常。しかし仮面を被ると誰しもがそれに気付かなくなり、気付こうともせずあえて確認もしなくなる。

しかし世の中は、当たり前のことが出来て当たり前、普通のことを普通に出来て普通。

けれどそれは当たり前でも普通でもない。当たり前も普通も、本当は存在しない事。

世界はどうしたって不平等だけれど、その不平等さを笑い楽しめないことには、世の中を謳歌することは望めない。

人生はコメディだ、と教えてくれる。そんな不思議な魅力を持つ作品。

 

物語は最後の最後、意外な結末が待つ。

詠み終えると僕はゆっくり本を閉じた。

既に日は昇っていて、部屋の戸を開ければ香ばしい匂いが立ちこめてきた。

僕はそのまま部屋の外に出て、朝食へと一階に向かう。

部屋を出る尻目に閉じた本を見ながら最後に思った。

「世界っていうのは随分と、適当と自分勝手とクソッタレが混じり合って出来ているものだけど、それでも、そのクソッタレな世界を楽しんだ者勝ち」なんだと。

 

ヘンリーの悪行リスト (新潮文庫)

ヘンリーの悪行リスト (新潮文庫)