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-日々読んだ本の書評 + メモ集 + パンについて-

突然の勝利の感情!

 

エスプリとユーモア (岩波新書)

エスプリとユーモア (岩波新書)

 

 ユーモアとは何か?エスプリとは何か?

それらを至極真面目に論し、ユーモアを取り扱う物と思えぬほどの生真面目さは、それこそある意味では滑稽であり、一種のユーモアでは?と錯覚してしまうほどにユーモアの解説は詳細に述べられ緻密。ユーモアの歴史について勉強となり、過去の学者がユーモアの解析を試みた事を示す内容ながらも、ユーモアの説明が多少なりとも難解なのは、ユーモアという性質の気難しさ故。

 

しかし堅苦しいユーモア史を抜ければ次にはユーモアの種類についてや、ユーモアの実例が豊富に述べられ、どれもが面白おかしい。

昨今にでも使用したくなる巧みな言葉の使い回しが述べられ、それらは数学の定理同様、過去の偉人が残した遺産であり、ユーモアとは音楽同様、人間の精神が作り出した優れた賜物であると疑う余地もなく思わせる、啓蒙書な内容。

ユーモア至高主義とまでは言わずとも、ユーモアがもたらす恩恵とは甚大で、

 

 「ユーモア感覚はきわめて活動的な知性のしるしではないかもしれないが、最も気持のよい性質の指標であることは確かである。それはどちらかといえば子供っぽい、自己防御的な、怠惰な性質かもしれないが、確かに情けぶかい、融和的な、親切なものである。それは必ずしもきわめて明確に理解されるとは限らない策略や詭計に訴えるかもしれないが、神経のバランスを確保するジャイロスコープを人びとに供給するものである。

それはわれわれの不安な生活における潤滑油であり、われわれの生きている社会とわれわれの関係を調整し、われわれが苦境に傷ついたとき、いつでも傷口に塗る膏薬を持ってきてくれる、優しい友人なのである」 

 

などといった表現は核心を突いており心にグッと響く。

 

 

 また、哲学者や心理学者によって考案された笑いについての四つの主要な公理、その中で紹介されていた一つが

「友人の不幸には常にわれわれを悦ばせるなにかがある」というもの。

しかしユーモアは嘲笑とは違い、故に上記のものが「ユーモアであるか?」の取り扱いは難しいとのことだが、この優越性-劣等性の関係から導きだせる笑いも一概にはユーモアと決別させる事は出来ず、その辺りにもユーモアの気難しさを感じさせる。

しかし何より秀逸なのは、こういった優越性-劣等性の関係から生じる笑い、その感情を示す言葉の表現で、それを「突然の勝利の感情」という言葉で表すのは秀逸と言う他ない!これほど的を得た言葉も珍しく、某掲示板の住人が渇望するものの正体を個々まで的確に表す言葉はないと思う!

 

他人を見下し優勢性を持って笑おうとする卑劣な心情、

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こんなイメージながら、” 突然の勝利の感情”という言葉のインパクトがやはり凄い!

流行語大賞とってほしいほどだ。 

 

過去におけるユーモアの偉人たちが繰り出す言葉の皮肉は辛辣ながら現代においても意味が通じる物が多く、

 

「あの男は金のためならなんでもするよ。善行だってするよ」

 

や、昔からあったのであろう、この難問

 

スタール夫人は、タレーランが、彼女ともう一人の女性とどちらのほうが好きか知りたいと思って質問した。

「もしあのかたと二人で河へ落っこちたら、どちらのほうを先に助けて下さいますか。」

 

それに対する答えが

 

 「わかってますよ、奥さん、あなたが水泳の名人でいらっしゃることは」

 

 

 

ユーモアに対し、その深さを示すこの言葉、

 

もし誰も彼もがユーモアの感覚を持っていたら、ユーモアの方で迷惑するだろう。なぜならユーモラスな冗談が十分にその効果を発揮するためには、それを発言する人と、それを理解する人と、それに気づかない人の三人がその場に居合わせることが望ましいのであって、ユーモアを味わう人の楽しみは、それを理解しない第三者の存在によって倍化されるからである。

諸君は、諸君の話をききながら、心のなかで、《畜生!おれにもわかってたなら》とつぶやいている人たちの不安な目を、苦しそうな微笑をよく知っている筈である。」

 

これらは、ユーモアの存在すべき場所を示す名言だろう。

 

本書に述べられているユーモアには小粋なものや、皮肉ったものも豊富にあり、

 「エリザや、明日の朝は大事な約束があるから七時に起こしてくれ。しかしもし八時になっても僕が起きなかったら、十二時までは起さないでくれ」 

や、

 「人間というものは働くように作られていない。働くと疲れるのがその何よりの証拠である。」

「怠け者というのは働いているように見せかけない人間のことである。」

などは大好き。

 

 本書はユーモアを知る上で重要な一冊であるのは間違いなく、ユーモアの本質を知ろうとする上では必ず役に立つであろう良書!

 内容は多岐に渡ってユーモアとエスプリの解説を行ない、その内容は示唆に富み、笑いとは?という摩訶不思議な概念を説き明かすために文学的、心理的観点からの洞察も各所に述べられ、”アメリカのユーモアとイギリスのユーモアの違いについて”や、”イギリス人がユーモアと愛称が良い理由”なども書かれており、中にはフロイトによる”笑う”という心理的状況の解説等も述べられており、学術書とも言える充実した内容。ユーモアに興味のある人にはとてもおすすめの一冊!

 

最後には、偉大なる皮肉屋バーナード・ショウによるユーモラスなやり取りを。

ある人がバーナード・ショウに、

「金曜日に結婚をすると不幸になるというが本当ですか」と聞いた。

するとショウは

「勿論です。どうして金曜日だけが例外になるのでしょうか」と答えた。