幸福論
ヒルディによる幸福論。
一読してまず受けた印象としては、”ストア哲学”について述べた内容?といったもの。
幸福論。
つまり幸福についてであり、その内容は簡素で簡潔ながらも、真理を突く言葉が多々用意され、読んでいてハッとすること多数。
中には、宗教がなぜ必要とされ、こうも多くの人に支援されているのか?その理由が実にあっさりと発覚する内容で、まさに小説的とも言えるその顛末は滑稽なほど単純。
誰しもが、ただ”幸せ”に成りたがっている
それだけの理由。
しかしそこは一応、高等生物と呼ばれる人間。
宗教にすがりつく人にも、それなりの訳がある。
利己的愚者になることを咎めながらも、「言うは易く行うは難し」とはよく言ったもので、成る程この一言に尽きるのだなと真摯に染み込ませる。
厭世主義者の皮肉さと滑稽さをも映し出す内容は、誰しもが中2病的な思想疫病にかかるように、それは当然と述べる内容。
宗教に救いのみを求める事こそ愚者の所業!などは痛快な本質。けれど、そこにも利己的気質を提示し、各々の不器用さを過去の偉人や古典からの言葉を用いて説き伏せる。
厳密にいえば、ひとは利己主義者であるか、偽善者であるかのほかならない。それなのに、多くのひとがなおそのどちらにもならないのは、自分の哲学の完全な結論を引き出すことを避けるからである。
等といった印象深い言葉も多く、しかし述べられていることは検証せずとも、絵本にも同様の意味を有させた物語があるだろうといえるほどにシンプル。
相対的に求める”幸せ”が如何に無意味で虚しいものかを説き、しかし解脱できないのは人間だからゆえ。その救済を神へ利己的に求めるのだから誤謬と言う。
人の人生を、価値観を変容させるだけの熱量も示唆も含む内容の本であり、一読して決して無駄のない本。
昨今「駄本ばかり手にしているなあ」と食傷気味、そうでなくとも「人生について見つめ直したい…」と思うなら、手にしてみる事を是非オススメする一冊。
これを読めば、宗教に対する偏見も多少和らぐ事があるはず。
そして、人間精神の成長のなさに辟易、絶望する事もあるかも知れないが、そこは人間、「歴史は繰り返す」との名言を定理するための道理とでも思うしかないだろうけど。
しかしそのおかげで本書は「幸せとはいったい?」という普遍的な疑問に、こうしてはっきりと答えを述べてくれているのだから。
また、読んでいてストア哲学はある種、アドラー心理学のようにも感じ、トップダウン式の考え方が特徴的に思えた。
そして時間について述べていた項も印象深く、「真理は驚くほど単純、なのでアカデミックな肉付けを求めたがる」や、「いつでも不幸を慰めてくれるのは仕事と愛である」といった言葉が印象的。そして仕事に対する概念は過去においても全く変わりないのだなと気付かせ、人間本来は怠惰な生き物なのだと先人の例を見て嫌なほどに実感する。
幸福について、述べられている事は示唆にとても富む内容。
しかし挙げられていることは至極当然のことでもあり、故に人々が如何に盲目となって日々を過ごしているのかを思い知らされる!
本書はまさに、俗人にとっての聖書といえるだろう!
最後、読んでいて衝撃を受け、「凄いな…」と思った言葉をここに。
そもそも世の善は、第一に、世の悪を滅ぼすためにあるのではない。悪を滅ぼすことは、悪人が自分たち同士で、すこぶる手際よくやってのけるものだ。善はただ生きて、決然として自分の道を行き、そして自分を示せばよいのである。
現在の世界に欠けているものは、決して善に対する感受性ではない。それは、あらゆる偉業と偉人が熱心に歓迎されているのを見ても分かる。
今日欠けているのは、むしろ善が実行できるという信念である。