book and bread mania

-中途半端なサウスポーによる日々読んだ本の記録 + 雑記 + パンについて-

1月に読んだ本からおすすめ10冊を紹介。

1月に読み終えた本は33冊。

その中からおすすめを紹介!

 

 

 

第10位

モーパッサン残酷短編集』

モーパッサン残酷短編集

モーパッサン残酷短編集

 

正直言って、これまでモーパッサンの作品に触れてこなかった。

そんな折、本書においては衝撃を受ける。

掌編小説ほどに短い作品と、短編が収録されている内容。

ページ数は少なく、価格と見合わせれば割高な一冊。

だが各作品は実に濃厚で、ページ数と内容が半比例するがごとく短いながらも強烈な印象を残す作品ばかり。

『マロカ—アルジェリアの女』は浮気話の一人称物語。

『モン=サン=ミッシェルの伝説』は童話風の作品。

『ためしてはみたけれど』これは読み返すことでより楽しめそうな作品。

そして『ベルト』という作品、これが一番に印象的かつ面白かった。

昨今においても十分通じる内容であって、やはり登場人物は重要と思わせた。

展開として美女が登場し、しかし特殊な環境。そこに感情移入させられるも脅威な狂気を描いてその悲壮さを示すのも実に見事で、その世界に入り込んだかのような没入感を味あわせ、喜怒哀楽を含み十分過ぎるほどに面白かった!

『ロバ』は少々胸糞の悪い作品でありながらも、むしろこうした作品を堂々と、それも狙ったように描けるのだからすごい。ゆえに、これは読んで「胸糞悪い」といわせるために書かれた作品であり、実際そのとおり「胸糞悪い」となるのだからまるで手の中で踊らされているようであり、そしてオチのカラッとした爽快さもまた秀逸。

『猫—アンティーブ岬にて』。なかなか印象的な作品で、猫に対する内面的でもあり外面的な批判も賞賛も、いつになっても変わらないのだなと妙に納得。

最後には『通夜』という作品であって、これは味わい深い作品。

特徴としてはそのミステリー要素。最後の最後のどんでん返し、とした昨今のミステリーのような内容で、娯楽作品としての要素はもちろんのこと、なんとも言いがたい読了感を残すのもまた特徴的。

ページ数、文字数と多くないのでさっと読み終えられる一冊ながらも、各作品の内容は濃かった。小説などでよく言われる「人間を描く」というのはこういうことか!と妙に納得。名声の理由を強制的にわからせるような、パワフルな作品群。

「ああ、読んでよかった」と思えるような一冊であった。

 

 

第9位

『これから正義の話をしよう』

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 有名な哲学者マイケル・サンデル教授による一冊でありベストセラーとして一時期とても話題になった本。

しかし読んでまず思うのは、言い回しのまどろっこしさであり、同じ内容を何度も繰り返す辺りは正直辟易した。

これを意図せずやっているのだとすれば「大丈夫か?」と思えたほど。

しかしカントについての項は読み応えあり、そして良い勉強にも。

なかでも「仮言命法」「正言命法」についてはカント哲学を理解する上では重要な概念に思え、カントが言わんとする善を基にしての基本概念と原理を理解できる。

あと印象的だったのはアリストテレスの善についても取り上げたところであり、またアリストテレス奴隷制度に対して擁護派であったというのは少々意外で面白い。

その擁護派としての主張は「奴隷には、奴隷として従属して生活したほうが幸福な者が居るのもまた事実」でありこれを聞くと多少なりとも納得してしまった。なるほど確かに、このように単純労働にこそ適しており適度な労働に生を見出し幸福を感じる人間というのは一定数居るように思え、それこそ昨今の時代においても表面たって「奴隷」とは言わないが、そうした仕事に従事している人間というのは昨今の日本企業においても一定数以上は実在していると言えそうである。

本書は所々で「そもそも正義という概念は?」というところに立ち返り、そこではリバタリアンつまり自由主義的観点から見るか、それとも一般的な社会主義観点から見るかで意見は相違する。

そうした結論におおよその問題は帰結し、しかし明確な答えは個人的な意見としても明確には示さないので内容として物足りない。それこそ、はっきり結論を出すことに警句を告げる内容だからこその話の進め方ともいえるが(要するに、ヴィドゲンシュタインのようにはならないぞ、と言いたいわけだ)、リバタリアンとしての際限をどこにおくか?とした問題を持ち出すとそこですでに堂々巡りとなって、いたちごっこの繰り返し。なのでおおよそが問題定義後には同等の言い回しを繰り返し、「双方意見のコピペ」といわんばかりに各諸問題に対して同じアプローチを繰り返す。

これが本書を退屈にさせ、そして退屈に思わせる一番の原因に思え、正直に言えば、期待したほどの内容ではなった。リバタリアン、保守的社外主義的な観点から見た場合における、自由さとそこから正義としての裁量をどのように判断するのか?結論として、それが「ない」とするのが結論。というのは残念。ただし、哲学的示唆を問う、社会問題に関しては熟考する価値のあるものもいくつか感じたが、その他のいくつかは、前提もしくは確定ごととするものに誤りもしくはヒューリスティック的な思い込みが感じ取れ、換言すれば視野を広くして捉える点と、狭めて捉える点との差が著しかった。たとえば、同姓婚に関する反対例としての「結婚とは生殖活動のため」とした位置意見に対しては「子供をもうけない夫婦も居る」とした一般的かつありふれた理由がすぐ浮かぶが、そうした意見をまったく掲示せずまるで想像の範囲外、といわんばかりでありすぐに「では正義として、善として捉えた場合、どうであろうか?」と熟考。要するに、熟考するまでが早計で、唯我的に感じてしまった。

故に内容としてわかりやすさを重視する結果、甘い観点が目立ち、同様に客観性ばかりを強調した結果、著者自らの意見は大変乏しく、それもまた本書を退屈にしている大きな原因に感じた。

要は、皮肉なことにも、多くを語れば語るほど、反比例的に内容として乏しいものになっていた。それこそ意見の相違どころか、意見のないところにその要因は帰結している。ただ、過去の賢人の哲学的示唆や、善をもとにする“善い生き方”についてを学ぶ上では良書であると思う。

 

 

 

第8位

 『おいしい数学――証明の味はパイの味』 

おいしい数学――証明の味はパイの味

おいしい数学――証明の味はパイの味

 

料理好きにも、数学好きにも、ぜひ読んでもらいたい一冊。

料理好きには、載せられている魅力的なレシピ(著者の試行錯誤の末に考案された、パンのレシピも!) に惹かれ、数学好きには幾何学的示唆から数学の原理を用いたカードマジックについてなど、楽しめること請け合い。

それらを通じて両者の共通点を提示し、譲歩し合わせそして楽しませる知的ワンダーランドな一冊!

 

 

 

第7位

『奇蹟の輝き』

奇蹟の輝き (創元推理文庫)

奇蹟の輝き (創元推理文庫)

 

 名作SF映画としても有名な『ある日どこかで』。

それと同じ作者による作品。

正直、本作は日本においてあまり有名ではないと思うが、内容としてはなかなか素晴らしかった。

そしてこの作品の最も注目すべき点はやはりその題材であり、繰り広げられる世界観。本書は“死後の世界”をテーマにしており、ここまで死後の世界を妖艶にそして魅力的かつ具体的に描いた作品は稀有。それだけでもすでに十分興味深く、またその信憑性を高めるための演出、構成が巧み。演出の効果は抜群で、ノンフィクション性を匂わせるような構成はすばらしい。物語としてはあらすじにあるように、「妻の魂を救おうとする物語」であり実にシンプル。しかし“死後の世界”といったものが加わると、こうも興味深くそして面白くなるとは!

死後の世界の供述は実に興味深く、本当に死後の世界についてわかったような気になれたのだから不思議な感覚に見舞われる。そうした死後の世界の様子、また魂と肉体の関係性や、輪廻についての供述などもあって興味深く最後まで楽しみながら読めた。

あまり有名でないと思うが、なかなか優れた小説であって隠れた名作。

死後の世界とはどういったところか?

それをファンタジー的に知ることのできる本。

 

 

 

 

第6位

ある奴隷少女に起こった出来事

ある奴隷少女に起こった出来事 (新潮文庫)

ある奴隷少女に起こった出来事 (新潮文庫)

 

 衝撃的な内容。

それがさらにノンフィクションであるというのでいっそう驚かされる一冊。

おすすめ。

人によっては、読めば人生観をいっぺんさせられるであろう、深い内容の本。

すごい熱量。アメリカの当時として奴隷制度が如何に過酷なものであったか、正直言って胸に迫るものがあった。そして主人の迫害から逃れるために、白人の子を身ごもるという衝撃さ。事実は小説よりも奇、というが、まさにそれを地でいくような物語。

本書が海外において、売り上げが古典の位置に並びそれも上位に、という結果も読めば納得の内容。

繰り返し述べるが、これはフィクションではない。

鬼気迫る文章は、まさにこれこそ読ませる文章。

本書の最大の特徴とは”強い女性”を描いたことであり、訳者の気合の入り用も注目に値する。

すごい一冊であるとして誇張はなく、読み終えると読み終える前では、多少なりとも自己が変容したように感じられるほど。

具体的な感想を述べたいけれど、ネタばれになるので多くは語らない。

だからあと少しだけ。

本書は人間の内面をじっくり描き、人間の共通する汚点を描いた本としても、とても秀でているように感じた。後は母性と友愛に満ちた作品でもあって、生きることの意味を問うようでもあり、哲学的側面も兼ね備えていた。迫力のある本。

 

 

 

第5位

マルクス入門』

マルクス入門 (ちくま新書)

マルクス入門 (ちくま新書)

 

資本論って、もしかして泣ける一冊じゃないのか?」

そんなことさえも思わせる、マルクスといった人物と、その思想についてよりよく知ることのできる一冊。

本編は面白く、マルクス思想の概要について一応を学べた。マルクスについて正直余り知らなかったが、本書を読むことで、マルクスが青年期において古代ギリシア哲学に傾倒していたのだと知り、かの有名な資本論もそうしたギリシア哲学の系譜を踏んでいるのだとは初めて知った。そしてマルクスといえば旧ソ連体制において活用されていた概念と思い、要は余り良いイメージを抱いていなかった。

しかし本書を読むことでそうした概念が誤解であるとわかり、こうした政治体系によっての乱用により本来の思想と異なった風に伝わるのは、ナチス政権化によるニーチェ思想の利用を思わせた。そして読み進めればマルクスに対する印象が変わり、本人の思想としては社会をより良いものにしようという気骨が伺え、その真摯な姿勢には感動しそうになったほど。アウフヘーベンとする「止揚」概念は、過去を変形させ現代に包括させるには重要な行為で、それこそ個人を社会に包括しつつ社会もまた個人に包括される…とするような、対立的意識における統合的な解決としてはとても重要。そして、そうしたアウフヘーベンの概念よりようやく歴史は紡ぐのであり、そうした諸概念と歴史の架け橋をするような考え方は独特であり面白いな、と安直にも思えた。

後はイデオロギーしての概念を二つに分けていたのも印象的だった。また、弁証法としてそれを「否定をも含んでいる点が重要」とし、かみ締めれば「なるほどな」と思う。

そして弁証法的哲学を「実践的」とするのが印象的。

けれど自ら仕分けし懸念していたイデオロギー的観念を、まさかそのまま自分の説において使用されようとは。これには本人も驚いていそうである。

まさに悲劇的。 

平易で安っぽく、いかにもな大衆小説を一読しては鼠の小便のような涙を流す輩どもに「泣ける本ってある?」と訊かれれば、今度はこう言ってやりたくなる。

「泣ける一冊?じゃあマルクス資本論を読めばいいよ!」

 

 

 

 

第4位

 『デジタル・ナルシス―情報科学イオニアたちの欲望』

デジタル・ナルシス―情報科学パイオニアたちの欲望 (岩波現代文庫)

デジタル・ナルシス―情報科学パイオニアたちの欲望 (岩波現代文庫)

 

 想像していたよりも、ずっと面白かった1冊。

内容としては、“情報科学”の発見に大きく貢献した偉人について、その功績ではなく人間性にスポットを当てる内容が前半、中盤にあり、そこではノイマンチューリングなどについて語られ、なかなか読み応えあり読みものとしても単純に面白かった。

そこでノイマン機械的天才のみではなく、人間としての処世術にも長けていたことを知り、チューリングは子供らしい性格であり同性愛者と知っていたが、本書を読むことでそれが「過度な自己愛による帰結である可能性」とした新たな観点を知ることもできた。

中盤ではサイバネティックス概念の海の親であるウィーナーについても取り上げ、正直この人物についてあまり深くは知らぬも、一読するとその人柄と業績の凄さに驚かされる。同時に、そうした”知の巨人”と形容されながらも、人付き合いが苦手で、人生の苦労についても描かれていたのが共感を呼び印象深かった。

本書の終盤は表題でもある『デジタル・ナルシス』としての論文があり、ここでは情報学としての存在についてを定義しており面白い内容。

そこでは情報科学を「形式化」を担う媒体であるとし、形式化を望む人間にとって機械(中世から近世初期における物理的機械ではなく)は有意義な装置であり、これによって形式化をより合理化することに成功したことによって、今日ほど機械の需要が高まり普及したのだと唱える。そして誤解しがちだが、機械はあくまで第三者、つまり媒介者であって、それ自体が対をなすものではない、とするのは注目に値する。なので本書における「形式化」の定義と、それに伴う人間との関連性。それは主に「欲望」と結びついており、だからこそ昨今ではここまで情報化社会が進み、携帯やSNSの流行の理由は、「他人と関わっていたい」とする願望に対する直接的な意味合いを持っているため。

そうした着眼点は面白いなと思え、つまりそれは目的の倒置的。なるほどなと思わず納得してしまった。

理論的錯誤や、情報倫理的な内容に関しても示唆は多く、哲学的側面も大きい。

デジタル・ナルシスの項にて

「不完全な人間よりも能力が高い計算機が人間の指示どおり動くという倒錯的な魅惑」

とした言葉はとても印象的。

あとネオテニーとしてチューリングを捉えていたのも面白い。

 

 

 

第2位

もののあはれ

もののあはれ (ケン・リュウ短篇傑作集2)

もののあはれ (ケン・リュウ短篇傑作集2)

 

3位にするのが惜しく、同率で2位にした本書。

 読み終えたてとしての感想として一言、「すげえ面白かった!」。

期待以上の出来栄えと極上の短編が後半には連なり、とても満足の良く読後感。

こうした満足感はイーガンの作品を読み終えたときに生じた情緒を思わせ、サイエンスと形而上学的な事象との相性の良さというか、その融合具合が素晴らしかった!

表題作『もののあはれ』は『たった一つの冴えたやり方』的。

だがそれまでの情景模写が美しい。

潮汐』はユーモア作品。

『選抜宇宙種族の本づくり習性』もまたユーモア作品で、パロディ感も強く、日本人SF作家も好みそうな話。

「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」は高次元的な話であり、数学的要素もありなかなか充実。悪くなかった。そしてこのあたりから、生命とは何ぞや?とするような、形而上学的問いかけが含まれるように感じた。

そのあとの『円弧(アーク)』、『波』、『1ビットのエラー』、『良い狩りを』、

これらはどれもが素晴らしい作品!

この4つに関しては、どれもが何かの短編賞を取って違和感のない作品たちで、これからは深い感銘と感動を受けること請け合い!

『円弧(アーク)』は「もしも死を克服できたとしたら?」を描いた、シンギュラリティとしての生命科学を描いた作品。この短編ひとつで、とても重厚な名作映画が十二分に作れるのでは?と思わせたほど。

『波』は『円弧(アーク)』の連作のような作品で、これまた生命倫理的な内容であって、十分な娯楽性と同時に考えさせられる内容。

『1ビットのエラー』、これがすごい作品だった!一読してふと思い浮かぶは、イーガンの「(ネタばれを考慮してあえて載せず)」であり、多少これに似た展開と思うが、実際には他の作品から着想を得たそうで、最後にそうしたコメントが述べられていたのもまた印象的。これこそSF!と思える魅力にあふれ、そうした一見して形而上学的な現象に対しての科学的示唆はイーガン的であり、SF好きには必読の作品!

『良い狩りを』はこれまた甲乙つけがたいほどの傑作!

最初、「SFよりかファンタジー寄りの作品か」と思わせておいての、中盤からの急展開!これも多くを語りたいが、少しでも楽しんでもらいたく多言は避ける。ただ面白い。この作品も読後感が大変素晴らしく、本書内の作品において『良い狩りを』が日本人読者内では人気1位!というのも大いに納得。

SFファンでまだ味読であれば、ぜひとも一読してほしい短編集。

その妙技を吟味すればこそ、SF作品としての楽しさに再び邂逅するはずだ!

 

 

 

第2位

『天才シェフの絶対温度「HAJIME」米田肇の物語』

天才シェフの絶対温度「HAJIME」米田肇の物語 (幻冬舎文庫)

天才シェフの絶対温度「HAJIME」米田肇の物語 (幻冬舎文庫)

 

なんだか不思議な一冊にさえ思えた内容。

まさに別次元。

そんな位相幾何学のような、どこか別次元の世界を体感させるような物語であって、本書を読み、内なる価値観としての世界が広がったのは確か。

内容としてノンフィクションであり、一人の日本人が夢を叶えるまでの黙示録。

そうした内容であって、当然サクセスするまでの苦労話なども大いに語られ、共感できる部分もある。

しかし「ミシュラン3つ星獲得まで最短!」という世界的名誉を得た日本人が居たなど正直この本を読むまで知らないことであったし、また、このような料理に対する芸術性かつ形而上学的な見方についてなどもまた露知らず。

“料理”といった概念に対する新しい捕らえ方を教授してくれる一冊であり、おそらくそれは、この本においての主役である肇シェフの感性に幾分か共感できる仕様になっているから。

「美味しいとはなにか?」

とする単純ながら深遠のごとく難問。

本書の魅力は、こうした哲学的疑問を持ち続け、その答えを提示していたからに他ならないと思う。

あとは印象深い言葉の数々が印象的で、

「完璧を意識した時点で完璧にはなりえない。存在するのは、完璧を目指す意思のみだ」

といったものや、夢を叶える人とそれ以外の人について、「95パーセントで満足をするかそこで立ち止まらず満足しないか」などは平易的に言って胸に突き刺さる。

読んでいて、この日本人ミシュラン三ツ星シェフが如何にまじめで、そして死に物狂いで挑んだのかがわかる内容。料理に欠ける情熱の凄まじさには、熱量が文章というものから発火しニューロンに熱としての錯覚をさせているようですらあった。

「料理とは自然を文化に変形させる手段である」

としたレヴィ・ストロースのことばもまた印象的で、本書を読めばまさに的の真ん中を射ているよう感じるだろう。

そして肇シェフのお店へと、足を運びたくなる。

芸術と料理の融合とは?

その答えこそ、シェフの店にあるのだから。

 

 

 

第1位

 『世界しあわせ紀行』

世界しあわせ紀行 (ハヤカワ・ノンフクション文庫)

世界しあわせ紀行 (ハヤカワ・ノンフクション文庫)

 

 あえて一位はこの本に。

物質的にここまで豊かになった時代はない。

けれども、じゃあ「あなたは幸せですか?」と問われ、現代の日本人は何人が「ええ!幸せです!」と自信満々に答えられるだろか?

物質的豊かさに精神的な豊かさが付随していないのは明白で、かといって「じゃあどうすればいい?」などといっても明確な答えはない。

価値観の多様化は利益も生んだが葛藤も生み、「各々の幸せは違って当然」と思うのは昨今においては常識だろう。

そんな折、オランダが作成した幸福度ランキング。

その上位国にいる人間は、本当に幸福なのか?

潜入取材のようにランキング上国へと著者は赴き、本当に幸せなのか?検証する。

といった内容の本書。

読めば即座に「幸せって何だ?」とする絶対的な問いに対する、ひとつの答えを得られるはずだ。

これほど豊かな国に住んでいながら、これほど不自由に感じ、そして閉鎖感に心が泣き叫んでいるようならば、本書をぜひとも手にとってほしい。

そして読め!

世界の広さと同様に、おなじぐらいには、幸せとしての概念もまた広さを持つことを、多面的にも思い知ることのできる、まさに凄い本。

単純に旅行記として読んでも十二分に面白く、著者のユーモアセンスが光る内容。

幸せを求める人間としての性を否応なしにに感じ得るのであれば、鎖を解くためにも一読する価値は存分にある。

「自分探しにインドへ」

なんて寝言を吐いて支度する暇があるなら、本書を読んだほうが手っ取り早くてよいかと思う。

お勧めの一冊。