book and bread mania

-中途半端なサウスポーによる日々読んだ本の記録 + 雑記 + パンについて-

8月に読んだ本からおすすめ10冊を紹介。

8月に読み終えた本は35冊。

その中からおすすめの10冊を紹介!

 

 

第10位

『審判の日』

審判の日

審判の日

 

短編集。

どれもピリリと胡椒が効いたような、一癖の刺激ある作品ばかりで楽しめた。

なかでも、バーチャルAIが「意識とは?」を問答のように語り合う『時分割の地獄』という作品は特に面白く、哲学的要素もたっぷりで最後には落ちに一捻りもあって実によくできた作品。他にも、サウンドノベルっぽさを思わせるホラー系作品『屋上にいるもの』、懐疑主義者万歳の『闇が落ちる前に、もう一度』など良作ばかり。

さっと読め楽しめ、小説の面白みをインスタントに伝えられるような短編集。

けれど正直に言えば、表題作は少し微妙だったので残念。

 

 

第9位

『カスパー・ハウザー』

カスパー・ハウザー (福武文庫)

カスパー・ハウザー (福武文庫)

 

基本的な教育をまったく施されずに育った人間とは、どのように成長するのか?

そんな疑問の答案的な存在こそ、このカスパーハウザー。

 『アルジャーンに花束を』の元ネタはこれ?と思えるような内容であって、この人物、発見された当初は青年と思われながらも

動物については、もっとのちまで、これが人間と同じ特質をもっているものと考えていた

なんていう価値観を持っており、

猫が手を使わないで口だけで物を食べることに彼は立腹していた。そこで、猫に前脚で物を食べることを教え、直立させようとし、人間にむかっているように猫に話しかけ、猫が彼のいうことを少しもきかないで、何も学ぼうとしないのが不服であった。

などの行為はまるで幼児。

これは発見当時においての、カスパーの知能指数を示す点としてわかりやすいが、この描写にはどこか微笑ましい印象も正直受けた。

 

まったくもって驚くべきは、この人物は実存していたとすること。

そしてアルジャーノンっぽいさを思わせるのは、このカスパー、最初は話すことすら儘ならなかったにもかかわらず、その後には著しく理性の発達を見せること。

少年期を眠ったかのようにして過ごした彼は、山の上からの絶景を目にし「ほかの子供たちがとっくの昔に知ってることを、これからずっと学ばなければならないのです。いっそのこと、あの地下の穴から出てこなければよかった。そしたら私は、こんなことは何もわからず、別にさびしい思いもせず、自分が子供ではなくて、この世に出てくるのがおそすぎたのだということで、思いなやむこともなかったのに。」

自己としての意識がはっきりと芽生えると、自身の生い立ちについて思い悩むこともあれば、自然に対して詩的に美しい表現までもこなし、優れた知性を周りに示し始める。だがその最後は思いがけず直ぐに訪れ…。 

 

あとちょっと気になり印象深かったのは、カスパーが発見された際に、似た例として紹介された豚小屋で育てられた女性について。

その女性は何でも、

豚小屋で育てられ、今は精神病院にいる22歳の愛嬌のある女性

とのことで、この女性はぶうぶうと豚のように自発的にも鳴くというのでまた興味深く、こっちの詳細も多少気になった。

 

 

第8位

『質量の起源―物質はいかにして質量を獲得したか』 

質量の起源―物質はいかにして質量を獲得したか (ブルーバックス)

質量の起源―物質はいかにして質量を獲得したか (ブルーバックス)

 

 ブルーバックスの一冊。

新書ながら、なかなか濃厚な内容。

有名な式 ”E = mc2"。

この式からして「じゃあエネルギーから質量が生まれるの?」とした疑問。

その答えが、本書にはっきり示されており、曰く「エネルギーは質量に”転化”する」とはっきり記されていたのが印象的。

質量には性質的に「重力質量」と「慣性質量」といった二種があり、それらの違いについても丁寧に解説していて取っ付き易く、「質量?それって”動かしにくさ”じゃないの?」という答えは実際には正確でないとわかる。

そして話は当然のごとく素粒子にまで及び、というか素粒子がかかわるのは必然のことであり、昨今このような

ヒッグス粒子崩壊を確認、物質の質量の起源を解明 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

イムリーな記事も出たばかりなので、本書を読めば「どうしてヒッグス場は光子を毛嫌いするんだろ?」みたいな疑問も浮かべるようになるはず。

あとは相対性原理に対する理解も深まるのは確かで、アインシュタインが一般化として「等価原理」を用いたことなどを知れ、よくある相対性原理に対する反駁本などは「ここを突いているのかな?」なんて思えたりもした。

「深部非弾性散乱」などの面白い現象なども紹介されいるので、素粒子好きになろうという人にも格好の入門書かと。

 

 

第7位

『アンドロイド』

アンドロイド (ハヤカワ文庫 SF 214)

アンドロイド (ハヤカワ文庫 SF 214)

 けっこう古い作品ながらも、予想以上に面白かった!

まるでお手本のように”起承転結”がしっかりと構築されており、一読して素直に「ああ面白かった!」と思える作品。

情緒的なところもあり、SFとしてのユーモアさもあり(アシモフ三原則をぶち破る!)、そして盛り上げるところはしっかりと盛り上げる。

そして最後の衝撃的な終わり方…。

読了感は放心に近く、しかしそれは良い意味でもあって感慨深くなること請け合い。

あとは作品の雰囲気として『すばらしき新世界』に似たところもあり、こうした作風が好きな人にもまたおすすめ。

今に呼んでも古臭さを感じさせず、昨今のSFに比べても劣らぬ面白さ!

あと、印象深いやり取りがこれ。

「ぼくの世界では、労働は一種の挑戦だと考えられていた。ところがその挑戦はもう失ったのだという。その代わりに、何があるんだろう」「余暇というものも一種の挑戦です」と、マリオンAは言った。

このやり取りには慧眼染みた、深い示唆があると思う。

 

 

第6位

『あなたの人生の科学(上)』

あなたの人生の科学(上)誕生・成長・出会い (ハヤカワ文庫NF)

あなたの人生の科学(上)誕生・成長・出会い (ハヤカワ文庫NF)

 

 内容としてはポピュラーサイエンスとしてのものだが物語調に構成されており、その根本としてけっこう行動経済学的。

そして本書は大いに伝えんとした事としては「無意識の役割を知ってもらう」という事であり、要は「無意識は極めて社交的である!」。

物語として構成されている理由は明確で、曰く「理解に実感が伴うため」。

何も本書は心理学的なものではなく、無意識が及ぼす効果と、それに伴う現実への反映性についてであり、なのでより実践的ではあるよう思えた。

本書は物語の折々に科学的解説が入り、「美しい女性」の基準には共通性があると述べたり、相手の知的レベルを知るにはその人のボキャブラリーを手掛かりにするのが手取り早い方法だということ等がトリビア的に物語を読みながら学べる。

あとは「脳と心の違い」についての解説もなかなかで、

脳は一人一人の人間の頭蓋骨に収まった器官で、それぞれが独立をしている。心はネットワークの中にしか存在できない。

つまり切り離された一人一人の心などというものはありえない、というのだ。

そしてニューロン同士の接続プロセスについての喩えが秀逸で、「近所の家に頻繁に電話をしたらケーブルがひとりでに太くなるようなもの」というのはよい例え。

あとは気分や知覚のはたらきは、ホルモンの分泌量に応じて刻一刻と変わっていく、という生化学的知見などもあって、なかなか複合的であるのはもちろんこと、そして「感情」の重要さを第二のテーマにしているのでは?と思えるほどには「感情」といった存在の重要性を挙げていた。また、「勉強ってどのようにするのがいいの?」という教育親を悩ませる質問における明瞭な答えも示しており、つまり勉強の意味とその発展形についての能率のよい仕方も書いてあるので、これは一種の教育本としても実際かなり有意義な内容であると思う。

あと本書では、様々な言葉が至るところから引用されており、その中でも特に印象的だったのがイギリスの作家G・K・チェスタトンによる言葉。

「真に偉大な人間とは、あらゆる人を最高の気分にさせられる人間である」

 

 

第5位

『人間の本性を考える(下)』

人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (下) (NHKブックス)

人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (下) (NHKブックス)

 

 上・中と読み、少し間を空けてようやく下を読む。

本書の内容としては「遺伝か環境か」問題に深く切り込むものであり、ほかには「教育は親か環境か」といった疑問への考察も。

あとは「現代芸術は死んだ!」とする声に対する明確な反駁もあって、なかなか面白い。そして本書は下手な教育論を述べた本よりよっぽどためになることが書いてあり、「ああ良い子になってほしい!良い育て親になりたい!!」なんて育児ノイローゼの人全員に読ませて損のない本であるのは確か。まあ平易にいって親子間における「相互作用」について述べている点などはハッとし、なるほどなあと思わず感心してしまった。なので子育て中でなくても、むしろまったく関係ない立場としても、自身の育てられた環境に照らし合わせて読むとまた違った見方、思いを描くこともできるのでこれまた面白い。「子供は家庭内と外では態度が違うので、一概に“子供の態度”というものは統計が取れるものではない」という意見は至極もっともながら、気付かなかったりすること。そうした見過ごしがちなポイントを実によく指摘する本ではあり、なかなか読み応えあり。その指摘の鋭さに感心することは間違いなく、思わず感心してしまうなかなか楽しい本。

 

 

第4位

『謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』 

 クレイジージャーニーで名を馳せ、一躍有名となった高野氏によるノンフィクション作品。これがとても面白く、読みやすく流暢な文体はもとより、そのユニークさと優れたアナロジーによってソマリランドの現状もまた大変にわかりやすく勉強になると同時に楽しめる一冊。

 分厚いながらも気づけばあっという間に読み終えてしまっている、まさに中毒本。

未知の文化に接することの面白さ。

まるで一緒に現地へ言ったかのような臨場感。

価値観の多様さを味わえる内容であって、一読する価値は絶対にある!

 

 

第3位

『キングダム・カム』

キングダム・カム 愛蔵版 (ShoPro Books)

キングダム・カム 愛蔵版 (ShoPro Books)

 

 正直、それほどCDコミックに対する造詣は深くなく、故に本書に登場するヒーローとしても有名どころしか知らないミーハー。

それでも本書の圧倒的な内容としては、気圧されるような迫力とそれに伴う絵画のような実に美しい画。

あらすじとして、スーパーマンバットマンなどが一線から退き、新世代のヒーローが

台頭。すると従来のヒーローとは違い、スーパーパワーをむやみに使用し、世界を混沌に陥れる。そして人類とヒーロー間の軋轢は広がっていく…。

混沌とした世界において、超越した力を持つものの役目と定めとは?

その結果と選択は、ぜひとも実際に目を通して知ってほしい。

あとはキャプテン・アトムの危険さに少し笑う。

 

 

第2位

『汚穢と禁忌』

汚穢と禁忌 (1985年)

汚穢と禁忌 (1985年)

 

構造人類学としての内容で、平易に言えばレヴィ・ストロースっぽい一冊。

その内容としては、穢れや禁忌における存在意義について。

 

ある宗教が異例なるものないしは忌むべきものを特別に扱い、それらをして善きものを生むための能力たらしめるのは、雑草を鋤き返して芝を刈って堆肥を造るのと同じことなのである。

 

本書は神学的な文化の考察でもであり、宗教考察的な側面も強い。

それでいて文明社会における「汚い」と部族社会における「穢れ」の共通点を見出し、それを今までにないように構築して明快に示すあたりもまたレヴィ・ストロースっぽい。だが、こちらは穢れ等の各々の部族においての「不純」とする物の捉え方の違いについてを明確に示すなどする点は特徴的で、性関連のタブーに対する違い、また制約によってカースト制度にはっきりとした区分をつけているとした社会的要因を示している点なども文化構造の深部を理解する上では実に役立つ。

「処女崇拝は初期キリスト教による布教である」といった事や、部族による一見不可思議に見える儀式や規定にも、ゲーム理論の如く優位性を保つための(それは「部族にとって」であることや、男や女などの部族間における性差においてなど)ものであると理解できるようになることは、文化の多様性としての視野を広げ理解を深めることができる。出版は古めだが、内容としては不変的! 

 

 

第1位

『非対称の起源―偶然か、必然か』

非対称の起源―偶然か、必然か (ブルーバックス)

非対称の起源―偶然か、必然か (ブルーバックス)

 

 心臓はひとつだけなので身体内部の構造は左右非対称。

睾丸の位置でさえ実際には右のほうが少し上部にあるとのこと。

しかしそれらに反するように、外観は左右対称を目指しており、意識としても人は左右対称を好むようにできている。

ではどうして左右非対称は存在する?心臓はなぜ左にあるの?

そんな疑問を投げかけ、その原因や理由を生物学的にも、文化的にも考察していくスリリングな内容。

読めばわかる非対称性の面白さ。

左利きは少数派であって、右利きは世界的に見ても多数。

それってどうしてだろう?として見えてくる、左右としての存在理由。

左右対称非対称については実に深い内容であり、生命神秘に触れられる重要事。

読めば価値観が広がるサイエンス本として面白かったので、お勧め。

 あとは多次元といった存在を用いる理由、「なぜ多次元が必要か?」としての根本的理由としてのアナロジーである三角形の話はまさに目から鱗であり「エウレーカ!」と思わず叫んでしまいたくなったほど。この興奮はぜひ一読して味わってほしい。