紫色のクオリア
『思わぬ収入が!!』という意味がある夢を見て宝くじを買った結果、大はずれ。
夢占いなんて所詮は戯言か。
そう思うし、そうとも思わない。思えない。
少なくとも、この作品を読むと。
- 作者: うえお久光,綱島志朗
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2009/07/10
- メディア: 文庫
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量子物理学やコペンハーゲン解釈までも取り上げたSF作品。
一読した感想として先ず思い浮かんだのは「シュタインズゲート」っぽいということ。
つまりは時間ループを題材にした作品だ。
前半と後半ではストーリーの描き方が急変するのが印象的。
ほのぼのとしていると見せかけ、自体はどんどんと急激に意外な方向へと進んでいく。
たとえ同じ瞳を持っていても、『赤いりんご』に感じた『赤さ』を他人に伝えることはできないし、他人が感じた『赤さ』を知ることもできない、交わらない存在として。
でも、『それ』を『りんごの色』として、共有することは、できる。
同じモノを感じていると、証明することはできなくても、──信じることは、できる。
あたしたちはそれぞれが、平行線のようなもの。
単なる『時間ループ』物のSF作品ではなく、人間の独創性についても問い掛けてくる内容。
よくある哲学の質問に
「自分が見て感じる色は、他人と同じ見え方なのか?」
というものがあるが、登場人物はそれに対し独自の考えを述べる。
SFだが哲学の要素も強い作品。
今自分が存在するこの世界も、限りなく存在する世界線の一つに過ぎないのでは?
そう思わせてくれる。
今自分がここに居て、この世界にのみ存在している。
実はそれは間違いで、そういった常識に囚われているのではないだろうか。
囚われの世界から脱却させてくれる作品。
少なくても意識の中では。
そのような作品。
壮大なスケールの世界観、そう呼べる作品であるが、同時にそれは違う。
あくまで世界は小さな一つであり、その小さな世界が無数にあるというだけなのだから
。
現実世界での可塑性についてなど考えさせられる作品であった。
広大な価値観、と言う表現では正しいかもしれない。
この作品がSFの傑作と評されているのは、固定されがちな『世界』という一つの概念・価値観を崩してくれるからであると思う。
今の世界に何一つ矛盾も感じず退屈に過ごしているようならば、新たな可能性を秘める価値観を教えてくれるこの作品、オススメだ。
そして世界線が限りなく存在すると言うのであれば、宝くじを買い、当たった自分もいることになる。
そう思うと、宝くじは、買った時点で既にもう当選確実なのかも知れない。
大金が当たりウハウハ状態の自分も、何処かの世界線には居る筈なのだから。