志乃ちゃんは自分の名前が言えない
心がギュッとする作品。
映画、漫画、ドラマなどジャンルを問わず、主人公に感情移入してみていると、みていられなく場面というのがある。
それは主人公の行動が滑って白けた場面や、大勢の前で大きな失態をしてしまう場面など。
これはフィクションだって分かってる。そういう演出だっていうのも分かっている。
けれどもみていられず、つい目を逸らしてしまう。
巧みな表現、というよりかはリアルな表現。
主人公は吃音。
吃音じゃない人に、吃音の人の気持ちを完全に理解するのは無理だ。
しかし吃音じゃなくとも誰にでも、思い出しなくない過去はある。
思い出すと「あー」と叫びたくなるような過去もある。
その時の、「あー」と叫びたくなるような過去のトラウマが、主人公が馬鹿にされる場面とは重なり、読んでいて目を逸らしたくなってしまうほど。
この漫画にはグロい模写はなく、口汚い言葉も少ない。
にも関わらず、思わず目を逸らしたくなるマンガ。
表面的ではない、内面的にグロい漫画とでも言おうか。
物語は万事上手くいくわけでもない、カタルシス浄化の要素も少ない。
それはこれが現実的だから。
何事も上手くいけば、誰も苦労しないし誰も悲しまない。
けれど読書後には渇いた感動がある。
渇いた感動は、水を得る時がくれば、ぶわっと湧き上がってくる。
たとえその時には感動せずとも、感動が向こうから押し寄せてくる。
そんな漫画。
内容的には希望に溢れる展開ではなかったが、それがリアルであり作者が描きたい世界観が際立っていた。
終盤の流れは失速したが、それでも希望のある綺麗な終わり方。
そして目を逸らしたくなる場面が多く、過去の羞恥を何度も思い出してしまいそうになる作品。
青春ものでありながらもあまり甘酸っぱさはなく、酸っぱさが目立つ作品。
自分を褒めるのも自分を陥れるのも自分を認めるのも、結局は自分。
「自分から逃げる」というのは、現実逃避ではなく「成りたい自分から逃げる」という事。
そう教えてくれる。
そんな漫画。