調理場という戦場―「コート・ドール」斉須政雄の仕事論 (幻冬舎文庫)
- 作者: 斉須政雄
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2006/04
- メディア: 文庫
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料理人としての哲学、信念を深く感じた一冊。
述べられている内容は料理人であれば感銘を受けるのはもちろんのこと、その他の職業においても当てはまる事が多々あるように感じた。
この本からは、働く上での心構えなど得られるものが多い。
多すぎる故、すぐに全てを実行は難しいと思えるほど。
この本はその都度読み返し、その都度知見が得られる、スルメ的な本。
著者の斉須政雄さんは、フランスの厨房をいくつも転々と歩きわたり、修行をした有名なかた。
フランスのパリの三つ星レストランの中でもひときわ名高い『タイユバン』の厨房でも働いたことがあるとのこと!
その時の体験談もあるので、とても興味深い。
超有名レストランの厨房はこうなっているのか ‥と思わず読み入ってしまう。
他にも名立たるフランスのレストランに勤め、それら職場から学び取った事も、各レストラン厨房の模様も惜しげもなく披露している。
日本人がフランスの一流レストランで働くとどうなるのか‥ということも。
印象的だったのは『ヴィヴァロフ』というレストランの料理長であるペイロー氏。
この方はとても気さくで純粋、ピュアすぎてまるで子供のようだったという。
そのエピソードには
彼はサービスのために、メニューに載っていないものも作る。
ところが、お客さんの中には、「古くなりかけた悪いものを、早めに食べさせたいんじゃないか」というように受けとめる人もいる。
そういうことを言われると、もう子どものように落ち込んじゃう。
「フアァァァ‥‥そんなこと言うなんて、ひどいよ」
そう言いながら、どこかに行ってしまうのです。
といったものがあり、まるで本当に子供のようで、少しほっこりした。
しかしこの子供っぽいというのは決して悪い意味ではなく、純粋であり親しみやすいという良い意味。
また、こういった本を読み思うこと。
どんな分野の仕事においても、新たなアイデアを生み出す事は重要。
アイデア自体は各種様々豊富に存在し、型破りであったり従来の事からの派生であったりする。
なのでアイデアばかり重要とされがちだが、実際に重要なのは、
その”アイデアをどう沸かすか”ということにあると思う。
なのでアイデアを生み出すコツが型に捉われないようにする、ことのように、
アイデアを沸かす方法も型にはとらわれてはいけない、のだと感じる。
著者の斉須政雄さんは、料理のアイデアを本から貰うという。
美しい文章、文字、それらはインスピレーションを喚起させてくれ、本から得たものを”料理”という形で披露する。
その斉須さんがフランスで出会い、尊敬するシェフとして挙げているベルナール氏。
その彼は、斉藤さんから見ると透明無色の人間。
派手さはなく、ただ黙々と厨房で一人、新たな料理を作り出す。
そういったアイデア溢れる姿に驚嘆したとのこと。
アイデアの沸かし方も千差万別。
新たなアイデアを生み出すのが苦手。
そういった人は、自分に合ったアイデアの沸かし方を知らないだけでは?と思う。
アイデア自体ではなく、アイデアの沸かし方についてもっと興味を抱けば、誰しもが最高のアイデアを出せるのでは?
アイデアが千差万別あるように、アイデアの沸かし方も千差万別あるはずなのだから。
あと 斉須さんが大事にしていた理念。
それは『臆病さ』と『柔軟さ』。
臆病さは、自分が天狗にならないこと、気を抜けばいつでも底が抜けるという事を忘れず、常に全力を意識をする事。
柔軟さは、常にチャレンジ精神を持ち、惰性にならず、新しい発見を捜し求め続けること。
臆病さを意識する理由はシンプル、臆病さはなければすぐ墜落する。
なんたって飲食業は激戦区なのだから。そういう意味ではタイトルどおり。
戦火のど真ん中を何も警戒せず何の装備もせず通り過ぎて無傷で居られるのは、
死んだ事に気付いていない者か、逆方向に歩いていった者だ。
柔軟さをもつ理由はもっとシンプル。チャレンジ精神があった方が絶対楽しいからだ!
良い人ばかりで人の顔を覗うような厨房では、決して進歩はないという。
これは厨房のみならずどのような職場においても言えること。
しかし簡単に実行できるものでもない。
理論はシンプルなほど、実行は難しい物だから。たとえばダイエットのように。
そこでこの本を読み、働くことにおいて重要だと思えた点を一つ。
それは”愛嬌”。
男女問わず、この”愛嬌”というのは、実はとても重要なんじゃないか?と思えた。
上記の子供っぽい調理長然り、人は頼りがいと共に”愛嬌”ある人に惹かれるのだと思う。
誰だって自分のミスを人に押し当てるクソッタレ上司より、自分のミスと認めておどけて笑う上司の方が良いと思うだろう。
そう思わせてくれる、そんな本。