自虐の詩
作品自体は知っていた本作。しかし名前を知っている程度。
映画化した際に、そのポスターかCMをチラリと見た程度の印象しか持っておらず。
しかし『マンガは哲学する』という本にて紹介されており、興味が沸き読んでみた。
結果…
まごうことなき大名作!
語彙力なく言うならば、何これすごい!感動する!ヤバい!!といった具合の作品!!
具体的に述べるならば、心の闇と光を描ききった作品。
人を貶し、見下し、差別し仲間はずれにするのが人間の持ち得る心の闇ならば、では心の光とは?
それを見事、卓越かつ情緒豊かに描いた作品で、何が凄いって、この作品においてはこの心の闇も心の光も、言語的表現を最低限のみしか使用せず巧みに表現したところ!
ヒロインが過去を振り返り、描かれる学生時代。そこでは誰しもが経験しているであろう、学校でのカースト制度。カーストによる差別。
小学校、そして中学に上がってもヒロインはカースト下位に居り、同じくカースト下位で不細工な女の子と唯一の友達に。
ある日、その友達が休んでいて、ヒロインは一人でお弁当を食べることに。
その時、憧れでありカースト上位の女の子から「一緒にご飯を食べない?」と誘いを受ける。友達のことを思い出して葛藤するも、結局はその子と一緒に食べることに。
それからカースト上位の子とつるむ様になって、その不細工な友達とは一緒に行動をしなくなる…。
これだけでも心が痛むような展開。
しかし、その先は是非とも実際に読んでもらいたい。
クラスのカースト上位の子になびいてしまうというのは実にリアルであり、その後の友達に対する距離感や、心境の描き方も見事。
それは誰にでも心の奥底では感じ得る葛藤を描き、醜いほどにグチャッとする人間の本性を見せ、人による精神のグロテスクさを垣間見せる日常。
血が出ない、これほどグロテスクな漫画があるだろか!!
終盤はまさに怒涛の展開!
老若男女だれしもが持つであろう普遍的な情動を激しく揺さぶられ、感動というよりは魂が震えたような心地に!理を示すかのような最後、4コママンガながらもその物語の陰鬱さと希望への渇望が目覚ましく、人間の本能のあり方を提示する作品。
先入観では「単にちゃぶ台を引っくり返す作品だろ?」ぐらいにしか思っていかなかったけれど、その先入観を大いに覆された。
これはジョジョにも負けず劣らずの、実に素晴らしい人間讃歌の作品だった!
ここから下記は多少ネタばれなので、未読の方はどうかご遠慮を。
終盤、母親に宛てた手紙の内容がとても素晴らしかったので、その言葉を抜粋。
この世には幸も不幸もないのかもしれません。
なにかを得ると必ずなにかを失うものがある。
なにかを捨てると必ずなにかを得るものがある。
たったひとつのかけがえのないもの、大切なものを失った時はどうでしょう…
私たちは泣き叫んだり立ちすくんだり…
でもそれが幸か不幸ではかれるものでしょうか
かけがえのないものを失うことは、かけがえのないものを真に、そして永遠に手にいれること!
は至極、名言!
そして上記の名文における最後の、締め括りの言葉
なんということでしょう。人生には意味があるだけです。
ただ人生の厳粛な意味をかみしめていけばいい。勇気がわいてきます。
悟りを開いたかのような、叡知に富む言葉!
これら言葉を聞き思い出すのは、
賢人は、左手と右手のように、幸と不幸を利用する。
という過去の偉人による発言。
幸せも不幸も相対的なものでありそして表裏一体。
片方のみが存在する事は有り得ず、実はひとつのものに過ぎない。
ある種の真理であると思う。