book and bread mania

-中途半端なサウスポーによる日々読んだ本の記録 + 雑記 + パンについて-

11月に読んだ本からのおすすめトップ10

 

11月に読み終えた本は40冊。

その中からおすすめの10冊を紹介!

 

 

第10位

 『言葉の誕生を科学する』

 言葉の成り立ちについて、対談形式でその起源を探ろうとする内容。興味深く感じたのは唄う鳥類と人間を比較し語源を探る箇所で、人間と鳥がこうして歌い喋ることが出来るのは”聴覚的ミラーニューロン”が発達しているためとした点。

ミラーニューロンに”聴覚的”と区切った部位があるのも初見で、ならばその聴覚的ミラーニューロンがその他の生物においても発達したならば人のように喋られるようになるのでは?と思うば感心が大いに沸く。

そして昨今の人が言葉を話すのは”内容や意味を伝達する”という本来の役割からはかけ離れ、単に”他者とののつながりを求めての行動”と示唆したのは確信をついているように思えてハッとした。そういった意味合いからは続く「今は栄養過多時代であると共に”情報過多時代”である」と称することにも納得。

特に感慨深く感心したのは、人間脳の理解に関してでありヒトは「aはbである」を「bならばaである」と認識する事で、この帰結は正確には間違いである。にもかかわらず、人間の脳は他の生物と違って早合点してしまい、この二つを真であると思い込む。

だがこの倒置こそが言語を生むきっかけとなった説は説得力もあり興味深く、こうした認識によって相互のつながりを認識して言葉が形成されて使用出来るようになったというのは神秘的でもありロマンチック。

あと虫である蛾も歌うことが分かった、という事実は衝撃的。

然しこれは交尾のためのオスによる詐称的行為であり、こうもりを装った行動。合理的かつ興味深い。

終盤は怒涛の勢い、哲学的示唆は豊富で”哲学ゾンビ”なる有名な概念も登場させてはヒトの意識についてを語り、自我と言語の関連性についての知見は読み応えあり。

言語の起源は実は歌だったのでは?とは案外ありえるように思えてくる内容、意外な発想。興味深かった。

 

 

第9位

『ウォッチャー―見張り』

ウォッチャー―見張り (ハヤカワ文庫JA)

ウォッチャー―見張り (ハヤカワ文庫JA)

 

表題の中篇が期待以上に面白かった!

面白くて引き込まれては一気に読んでしまったほどで、記事にもした一冊。

 ウォッチャー―見張り - book and bread mania

 

 

第8位

社会学の根本問題―個人と社会』

社会学の根本問題―個人と社会 (岩波文庫 青 644-2)

社会学の根本問題―個人と社会 (岩波文庫 青 644-2)

 

 “社会学”と呼ばれる概念についての説明から始まり、その問題点も定義。

確かに社会はミクロに見れば個人から成り立っているのであり、然し、かといってその個人を見ても社会を見た事にはならず。

そこで取り上げられる超越的なものとは共有の無意識層のようで、ユングの心理学を用いているようにも感じ当時としては実に前衛的な説であるように思えた。

終盤においては平等と自由についてを取り上げては、そこで社会主義を批判。同時に社会主義を通して“平等”と“自由”の概念について雄弁に語り、中でも錆びた鎖から開放された自由意志や平等は進みすぎると反って今度は不自由や不平等を求める。

そう唱えているのだが、それはまさに現代の俗人に見られる兆候であるので思わず笑う。そうして他にも自由と平等による両立の不可能さを述べており、なる程と思わず納得。そもそも、完全なる平等も自由も存在しないのだと分かり、尤も不自由がなければ“自由”という概念も発生しないわけで、簡単なことではある。

そして社会主義によって表面上は平等が叶えられたとしても、個人の能力が絶対的に平等という自体は有り得ず、故にこの能力の格差が平等の齟齬を生み出し、優れたものは平等によって損をすることになる。この時点ですでに平等とは言えず、故に能力あるものが上に立つという平等原理に反したシステムがどうしても必要であり、そしてこれが存在する以上はまた平等ではなくなる。

実現不可能な世界を表して“ユートピア”と名づけたように、結局は完全なる平等社会もまた“ユートピア”であるのだと実感。

あと、モラルについての記述もシンプルながら興味深く、特に社交に対しての捕らえ方はユニーク。社交はあくまで形式上の物であり、そこで重要なのは話の内容でなく、あくまで“話をする”という社会的行為であって、それによって各自が恍惚とした思いへ馳せる事に重きを置いている。つまり社交という人間行為の原理も解説。

また、相互作用の形容について深く追求した内容でもあり、そこで人が罪を犯してはならぬり理由を明確に述べており、その一説には性善説的な唱え、人間元来に備わる善的意思が備わると唱えていたのも印象的。

本書はページ数が少ないながらも実に読み応えある一冊。

 

 

第7位

『自殺について』

自殺について 他四篇 (岩波文庫)

自殺について 他四篇 (岩波文庫)

 

 ショーペンハウエル薯の一冊。

人が死を恐がるのは、時間という概念を崩されるからだと想定する考え方は面白いなと思えた。

因果律の崩壊は人生の時間を否定し、自己の存在を脅かしては人を恐怖に至らしめる。人は不幸という幻影を恐れて幸福という幻影を捜し求めて彷徨う。印象深かった言葉は、裕福というものは退屈という名の拷問の手に渡される。

そして人は困難や窮屈などを自ら探し求めては、それを見つけて嘆く、というのは人間が元来持ちえる矛盾性のようでもあって、人間たる種の皮肉さを思い知る。人間がこうして生を悩み死を恐れるのは、時間を客観的に観測できるからであり、他の動物はこれが出来ないが故に死を感じず感知せずそして恐れない、なるほど、と思うと同時に多少なりとも他の動物を見下し過ぎているようにも感じた。あと仏教やらキリスト教やら様々な宗教の概念を交えて語っていたのが印象的。中でも、ユダヤ教をこき下ろしていたのも印象的で、その辛辣ぶりには思わず笑ってしまったほど。

終盤は印象的な記述が多く、特に“自分を全存在と考える卑屈な利己的主義者は…”のくだりは思わず唾を飲み込み、『実るほど頭を垂れる稲穂かな』との言葉を思い出しては自戒になる。

本書は叡智に富みそして分かり易く、感嘆すること数知れず。

最後、“幸福な人生とは不可能なものである”という衝撃的な言葉で終える本書。然しその真摯は、人間の人間たる所以を評した言葉に過ぎず、この言葉を納得できるかは気質によるものと思う。

熱量あり、凄い本。

 

 

第6位

『書くことについて』

書くことについて (小学館文庫)

書くことについて (小学館文庫)

 

 スティーブン・キングによる一冊であり、作家作業に関する啓蒙的な内容と思いきや、序盤はすべて著者の経歴を綴った自伝的内容であり意外。

しかし作家なるものは自分の血肉臓物、培われた経験が文字や物語を生み出すのであり、そういった意味ではこうした幼少期なのどの体験も重要と思え綴られる内容も興味深かった。

そこを抜けるといよいよ作家としての文章の描く方についてで、まずは道具箱に例えて作家が用いる工具箱についての解説。

そこではまず文法や語彙についての解説から始まり、洋書なので当然原文は英語。よって、此処での文法指導は当然英語による物であり、日本語訳においてもそのニュアンスは若干通じたものの、やはり本文にはかなわない。

あと語彙についてはなかなか示唆に富み、余計な副詞を付けることの愚鈍さを指摘。なるほど、なかなかためになる指摘であり、作家志望でなくとも単純に読み物として楽しめる。

稚拙な書き手ほど大きく副詞をまとわせ、それはペットに豪華な服を着飾ざせるようなものであり、その適切な表現は右脳の感覚野を刺激しイメージとして納得させてくれる。

そして語彙は多いに越した事はないが、語彙は少なくても名作が書ける事実は存在すると主張し、娼婦が照れ屋の船乗りに言う「大きさがすべてじゃない、どうやって使うか、それが重要よ」というユーモアは最高。

他にも比喩や暗喩、ユーモアも豊富で思わず感嘆とする文体、筆捌きであって見習いたいなと思えた。

あとプロットについての記述は印象的で、プロットは無理に作らずともよい、とするのは前衛的。然しそこでも物語のアイデアを発掘に例え示す内容は分かり易くて秀逸。

低俗な言葉も言い回しによっては光り輝く物だと実例を読んでは納得。“ドライブスルーはクソしか食わせない”、“片手に希望を置き、もう片方にはクソを乗せる。早く重くなるのはどっちかな”、などといった言い回しはユーモア性に富んでは笑い、見習いたくなるウィットさ。

後半、小説におけるテーマについての解説も注意を引き、物語において如何にテーマが導き出されるのが重要なのかを解説し、その辺りはショーペンハウエルの『読書について』を思わせる内容であり、自身の魂の一部を呈する如くの覚悟と意思がなければ、物語はその真意性を持たないものだと思わせる。

それと、著者の物語論は興味深く、“テーマから物語を作るのでは駄作で、物語にテーマが自然に訪れる”と語っていたのが印象的。

 

そして見直しにおいての公式-2次稿=1次稿-10パーセントと示し、無駄を省く事の重要性を示しては説得力あり、“作品とは誰か一人に当てた手紙である”という詩的な言葉も印象的。

最後には交通事故にあった時のことをこと細かく述べてはまたも叙事伝のような内容に返り咲き、それでも緻密リアルな文章に刺激されては読み入ってしまう魅力が!

書き手、読み手の両者が楽しめ、ためになる内容。最後に載せられているスティーブン・キングお勧めのブックリストもまた参考になり、小説の見聞を広めるにはもってこいの一冊!

 

 

第5位

 『スターダストメモリーズ』

 星野之宣氏による有名なSF漫画作品。

『漫画は哲学する』という本においても紹介されていた本書、読むと想像以上に面白かった。

内容の濃いSF漫画、短編集ながらも粒ぞろいの作品ばかり。

どの話も深く啓蒙的で、SF小説を読んでいるかのようなアイデアの深遠さ!

中でも特に秀逸なのは「セス・アイボリーの21日」という作品。圧倒されるものがありそのアイデアそのと表現力には短いページの作品ながらも鳥肌が立ちそうになったほど!考えさせられる作品であって哲学的。

SF好きとしては買って損のない一冊で、哲学的な作品も含み充実した内容。面白かった。あとパロディ的な作品には大いに笑い、とても楽しめた一冊。期待通りというより期待以上だった一冊。

 

 

第4位

 『ルーティーン: 篠田節子SF短篇ベスト』

 彩り豊かなSFの短編集。

その内容としてはSFであり独自の世界観を用意しようとも卓越した文章力によって読み易く、容易にさあどうぞと独自の世界へ連れ込まれる。

SFながらこうも鮮明に場面の節々が鮮明となって頭に浮かびやすい作品も珍しく、文章の巧さを如何なく思わせる作品集。

故にここで呈す“巧さ”とは、単に模写が緻密や芸術的といった意味あいでなく、その分かり易さ、伝わりやすさが実に凄い!物語のプロットも可憐と呼べるほどには整い感じさせ、然しやはりそれ以上に文章構成と描写にその見事さを感じ、この文体、文章を味わうだけでも一読の価値がある!

なのでSFに見られる敷居の高さや読み難さなどは皆無で、凄い作家さんもいたもんだなと感嘆!

おまけにあった最後の特別対談も面白く、好きな作家がまた一人増えた!

 

 

第3位

トーマの心臓』『半神』

トーマの心臓 (小学館文庫)

トーマの心臓 (小学館文庫)

 

 

半神 (小学館文庫)

半神 (小学館文庫)

 

 同作者ということで、同率三位に。

どちらも甲乙つけがたい大傑作!

トーマの心臓は、

『漫画は哲学する』で紹介されていた作品であり、そこから気になり購入に至った一冊。

読んでみると、想像とは違う内容。想像していた以上に難解であり、詩的でもあり散文的でもある。結末、とても予想外。

然しそれは良い意味や悪い意味と言ったことではなく、単に方向が違っていた。

あと印象的なのは舞台が男子校であり、さも平然として同姓同士の恋が描かれている点。そこは女性漫画家を思わせ、男同士の究極美化された世界をさんさんと見せ付けられた心地。そこにしっとり粘着ある恋模様を見せられ、なかなか鋭利な表現多数。

共感に対する能力に秀でた女性ならではの作品と言った印象。

端的に話のネタバレをしても、それは物語のネタバレにはならない生粋の作品!

人の情緒を探り、学ぶ上では、なかなか良い教材の一つになるのでは?と思わせるほどには深い内容。難解でありそれが同時に人間なる物の面白さを見出させる。

読み応えは抜群、そして一読のみでは奇妙な読了後に包まれ、狐につままれたような、妙な心地。

この作品は漫画であると同時に一つの芸術作品であり、美しさを捉えきるのは至難の業。一読のみでは感受性の乏しさを覚えさせ、読み返すと気付かなかった優美さに目が行きハッとするスルメ作品。凄い漫画だった。

 

半神も同様に『漫画は哲学する』を読んで以来、気になっていた作品。

この表題作である『半神』、内容としてはページ数少なく、それでも含有する哲学的示唆の色強さ!そうも思うが一方、その単純さも目に染み渡り、なるほど確かに哲学的ではあるけれど、哲学ではないのでは?とも思った。確かに深くは思えるが、そこには錯誤的意味合いを含み、深く見せているだけ。または、あえて深く見ようとする事で自身を高く見積もろうとするあざとさを多少なりとも感じた。これこそジンメルの言うところの、“人の元来備える社交の一面”であり、ユングの提唱した集合的無意識に他ならないのでは?

よって、この根源の様な部分をちくちくと刺激されれば「ああ、この作品は凄い、魂の根源の琴線を刺激された!」と感嘆するのだけれど、それは単に意識の奥底に眠る普遍的概念を多少刺激されたに過ぎないようにも思えた。

然しそれでもこの作品は確かに、この数少ないページでこうした人の心の琴線を刺激するのだから、凄い作品と形容して何ら違和感のない傑作。

重要なのは、この短編集は他にも濃厚なSFで占められていること。夢想的、幻想的な作品が多いのも印象的で、夢の中で見た内容をそのまま描いたような作風。夢の中へと誘われそうであり仏教の理念を取り入れた作品もあれば、永続回帰的な発想の作品も。

情緒の描き方に富み、感情の繊細さを描く優れたSF漫画を描けるのはまさしく女性ならではの観点であり、その感性の鋭さを如何なく感じた。漫画だからと侮れぬ、凄いSFの一冊!読み応えあり。

 

 

第2位

『不思議のひと触れ』

不思議のひと触れ (河出文庫)

不思議のひと触れ (河出文庫)

 

 「すべてのものの9割はクズである」という言葉が有名なシオドア・スタージョンによる短編集。

内容としては、“少し不思議”的なSFからサスペンス、ホラー色あるものと彩り豊かで、読み応えあり。

文体としては厳密な模写が目立ち、何気ない日常さえも際立って感じる。その分、湾曲された遠回りの表現には少々辟易して感じるかと思いきや、然しそういった場面に限って端的な表現も添えているので粋。

表題作『不思議のひと触れ』は平々凡々とした男女がある一つの不思議と出会う事によって初めて人生の本物を味わう情緒に富む傑作で、ページ最後の解説に述べられているようにこの作家はSF家ながら心情の描き方がとても丁寧であって特徴的。

本書は短編集であり、『雷と薔薇』『閉所愛好症』『孤独の円盤』が逸脱した面白さでありお勧めの作品。

『雷と薔薇』はまさに当時の情勢を反映した作品であり、核戦争後のアメリカ、無残な状態を描いた作品。然し名言多く、文章も臨場感があって自然に映像が脳裏に浮かんではまるで一つの映画!あと著者は科学的知見を練込む事を好みらしく、そういった趣が幾度となく見られた。

『閉所愛好症』は人類史の発端を描くSFで、よくある設定ながらもそこに目新しさを感じたのは、人間内部を描く厳密さにあり、故にありきたりなプロットにおいても新鮮な気持ちで読めては楽しめる!後はこの作品の解説が秀逸で、“今なら、ひきこもりに夢と希望を与える”、”おたくの願望充足小説としても読める。”との言葉が的を得ており、まさしくそのような作品だった。しかし“幼年期の終わり”のような、宇宙への思いを馳せさせる、教示ある作品でもあった。

そして本書の締めくくりとしてあったのが『孤独の円盤』であり、まごう事なき名作!未確認飛行物体がある女性の頭上に来てはなにか言葉を残し、機能を失う。そこでは「何故、未確認飛行物体が現れた?」といったSF要素も、「どういった言葉を伝えたのか?」というミステリー要素もあり、両者の観点から楽しめた。そして結末は期待に反するどころか、期待以上!

あと初めてスタージュンの作品を読み感じたのは、ジュブナイル作品が得意だということと、オースン・スコット・カードのように少年少女を描くのが上手いように思えた。

名言多しの作品群で、胸に突き刺さり残った。とても心地の良い読了感をもたらせてくれる、生粋の一冊だ!

 

 

第1位 

アルジャーノンに花束を

 大名作。

今さらになってようやく読み終える。

すると今だからこそ思い感じる箇所も多く、思いがけず感動。

五臓六腑に染み渡る内容であり、人間の本質を鋭利に鋭く描き出すその内容は真摯に富み人間の本性を暴いて晒す。

アルジャーノンに花束を - book and bread mania

 

 

読めばふと思い出すのは以前に読んだ本『馬鹿について』であり、そこで最終的に述べられていた結論を持ち出だす他にない。

 

「人は結局のところ、愚鈍となって生きるほうが生き易い」

 

まさにその言葉の臨床結果を示すかのような内容の作品。

大いに感動もするが同時に人の差別のありようを目の当たりにし、この作品がこれほど人々の心に響くのはやはり共感してしまうからであると思う。誰だって知恵遅れを小ばかに、もしくはやさしく接し、結局は極度に差別してしまっている。

差別・偏見をなくす上で重要なのは対等であると思うことであり、故に人に同情してはいけない!との意見はニーチェからの言葉であり、的を得た言葉。

猛烈に感動、というのはこうした差別的な深層心理を浮き彫りにされたためだけなのではなく、初期のチャーリーのような、

 

極めて純粋で純朴な自分、

 

と言ったものを全ての人が失ってしまっているからこそ、その欠損部分を見出しては思い出し、嘆き感動するのだと思う。

 

この作品は人間性の是非に問い欠ける非常に啓蒙深い作品。

とにかくスゴ本。凄い作品だった!