book and bread mania

-中途半端なサウスポーによる日々読んだ本の記録 + 雑記 + パンについて-

愛の衝撃

 

愛の衝撃 (ハヤカワ文庫JA)

愛の衝撃 (ハヤカワ文庫JA)

 

 ホラー系SFの短編集。

正直、あまり期待せずに読んだのだけど、思いのほか面白かった。

ただし、収録されている11作品は当たりはずれが激しい印象。

 

中でも良かったのは、『不安の朝』、『愛のパラダイス』、『闇の中の告白』、『人形のような女』、そして表題作である『愛の衝撃』。

 

『不安の朝』は、ある日突然、世界の法則が急に失われたら?というIF世界を描く作品。一般的サラリーマン視点から描かれる日常の混乱する様は読み応えあり、ページ数は少ないながらも十分に引き込まれる内容。

もし急に重力が消えたら?質量保存の法則が消失したら?

どうなるか。その世界は未知ではなく、想像できる世界。そして、想像したくない世界だと知らしめては楽しませるユーモアSF。

 

個人的には『愛のパラダイス』という短編は一押しで、登場する遊園地の設定が現代のニーズにマッチしては、その当時としては前衛的なアイデアに驚いた。

これは端的に言って、出会い系遊園地をテーマにした作品。

つまり昨今、流行のように行なわれる“街コン”の遊園地バージョンを作り描いた作品といえば話が早い。

ここで登場する遊園地は男女で入園料が異なり、男の方が高く女性の方が安い。

まさに昨今の出会い系のイベントと全く同様!

そしてこの遊園地では、アトラクションへ搭乗するには男女対になっていなければならず、それで各種アトラクションへ搭乗する際には並ぶ男女が故意的に組む必要が。

そこで一時的にもカップルが形成される。

アトラクションを乗り終えると、今後も園内を付き合うかどうかの選択肢が登場し、OKなら一応にもカップルがその場で誕生。NOならば別々に出口を出て、また他のパートナーを探す。

秀逸なアイデアだな!と思わせたのは、この遊園地、カップル成立となれば園内の豪華レストランでの食事が無料に!

ただしこれはカップルになってレストランを訪れた場合に限り、故に男女ともに最終的には誰かとカップルとなって無料のご馳走を頂こうと躍起になれるわけだ。

なるほど合理的であり、この食事代は割高な入園料に込まれているというのも現実的。

こち亀なんかにも出てきそうなほど合理的な出会い系遊園地であり、そのアイデアは現実においても通用すると思わせては「面白い!」と感じさせた。

この短編作品自体のあらすじとしては、クリスマスに女性の主人公とその女友達が彼氏を求めてこの遊園地へ。控えめの性格である女主人公は、アトラクションを回っては理想の彼氏を探す。作品内には出会い系アトラクションのアイデアも様々登場。

これは小説というより、出会い系のイベントを主催する人たちに読んでもらいたいなと思える内容で、おそらく参考になるはず。ただ、物語の結末としては‥。

 

『闇の中の告白』はコメディタッチの作品。結末には予想を裏切られ、古き良きショートショートの流れを汲む作品。過去に放送していた佳作番組、週間ストーリーランドなどで採用されていそうな作品であった。

 

表題作である『愛の衝撃』は、傑作。

ある一家。

そこでは、いつも酷い態度かつ酷い仕打ちを家族から受ける娘が居た。然し娘にそうした態度や仕打ちをするのには理由があり…といったあらすじの作品。

 

ネタばれ的にも端的にいえば、

娘は“親切アレルギー”なるもので、優しくされるとアレルギーで体に悪影響が出る症状を持っており、故に家族は娘のためにあえてそうした態度をしているという設定。

そして主人公は、そんな彼女と結婚。

愛情示せばアレルギー発症しては苦しみ、彼女が親切、つまり猛烈な愛を感じてしまえば最悪、死に至る。

そうした呪われた環境で主人公は彼女と結婚をし、そっけない態度での夫婦生活が始まる。その生活模様とは如何に。

これもページ数多くない短編であるが、綴られる内容は短くとも濃密。

過酷な結婚生活の様をまざまざと示しては、感情を揺さぶるに値する彼らの心情と行動が綴られている。

結末も綺麗に締めくくり、言葉に出さぬ愛の表現に卓越した作品!

然しこの『愛の衝撃』、ネットで評判を見ると否定的な意見が多くて意外。

大方の見方がバッドエンド風もしくは悲観的な物語として読んだようで、然し実際には裏返しの愛情表現は奥ゆかしい日本人らしさを演出しては、感性を刺激される作品。

随分と美しい作品であると思う!

 

 ホラー混じりの少し不思議なSF作品集。

ホラーと言えど然しその読了感は悪くなく、妖美な作品集。

悪くなかった。