今日のごちそう
構成としては短編集から成り、1話1話がとても短くすぐに読み終えられる内容。
何かの合間など、手軽に読むのに適している。
物語としては、
各話、どれもがメタファーに溢れ、食事を情緒に照らす内容。
特に漬物を長く漬けることと、人間関係の円熟味を相関的に示す暗喩は巧く思えた。
どの話も料理と人間の心情を掛け合わせ、料理と記憶を結び付ける表現。
暗喩や比喩ものとしても、悪くない。
食を題材とした小説だけあって、味わい深い話が連なっていた。
あと読み終え思ったのは、感性豊かな作品だな、ということ。
俳句のように季節を感じる内容に富む話の数々。
普遍的な日常を情緒豊かに綴っては、台所での物音を聞かせるような躍動感ある描写。
然しこの躍動感が、物質的動作の少ない人間心理の描写においても如何なく発揮され、読む者の心を同様に靡かせる。
決して派手な作品ではない。
ドラマの主人公のような人物が登場するわけでもない。
日常を象り、一般的な現代の日本の情景を切り取っては優美に見せて表現、
まさに生け花のような短編集。
食べることが好き、もしくは、穏やかな小説が好き、といった方にはお勧めできる一冊。なんだか落ち着く作品だった。