book and bread mania

-中途半端なサウスポーによる日々読んだ本の記録 + 雑記 + パンについて-

新たな試みで読んだ小説一冊。

 

ふとした思い付き。

いつもなら、小説を購入する場合には

評価やあらすじなど、事前情報を知った上で購入。

もしくは、好きな作家である場合に購入。

 

しかし新年早々、ふと「全く事前情報もなしに先入観もなしに一冊選ぶのも面白いかも」と思い、なんとなくの直感で購入したのが

 

背徳のメス (新潮文庫 く 5-3)

背徳のメス (新潮文庫 く 5-3)

 

 

この一冊。

 

検索せず、先入観なしで読み始めた一冊。

するとなかなか面白い。

賞を取った作品らしく、それも納得の展開とその描写。

 

 

ハードボイルド系の文体に、医療ミステリーの内容。

題名どおり人の倫理に焦点を当てた作品。

そして人間の汚らしい部分を、これまたリアリティを追求したように、あえて表面化し切らずに描く部分については、いやらしくも切実に感じた。

暗喩的、それでいて露骨な嫌がらせほど人間の醜さを呈するものはなく、それは悪意の塊であってどす黒く、けれど端的に声を上げて批判は出来ない知能犯的行為。

その厭らしさを存分に見せつけ、さらにサスペンス要素もあって「犯人はどいつだ?」と思考をめぐらせる楽しみも。

人物像や町並みの描写には多少古臭さを感じさせながらも、それはどこか懐かしい駄目人間、色褪せた昭和テイストであって、情緒ある古いポスターを見かけたような懐古さを想起する。

心象描いた作品としては、逆の意味で魅力たっぷり。

歪でどす黒い人の”闇”部分を描いた点に評価という”光”あり。

人間のモラルについてを問う内容でもあって、たとえ傍から見て性的に不埒でも、それが直接は屑となる要因ではない、そう思わせてくれる作品ではあった。

 

 

 簡略し端的に述べれば、

やりチン主人公に、世捨て人となりつつある三十代看護婦長と、威張りつくす科長などによる、病院という封鎖空間によって生じる人間関係のもつれ。

貞操のない主人公に淑女ならぬ看護婦の方々。こうして綴れば青年向けの作品かと思われようが、そこは大丈夫。性に対する扱いはあくまで2次的であり、メインは人の心に潜む闇。ブラックジャックも名前負けする内面の黒さを各々が隠し持っては徐々に種あかし。

医者の倫理も、権威の維持にはひざまずく。

エゴたっぷりで性善説を否定するかのような内容であり、

そんな中で印象的なのは、主人公によるこの発言。

 

人間て奴はね、一つの面だけで生きているんじゃないんだよ。

人間も三十半ばになると、色々な垢を身につける。

だがね、その垢を落とした時、中身まで腐っていたら、その人間はお終いだよ。

 

 

 

 

 

読書とは、ある意味において”恋人探し”に似ている。

自分と実に波長が合い、そして自分にとって安らぎを齎し、成長につながる相手を求める点においては同様であり、そしてそういったパートナーを見つける難しさもまた同様。

 

偶然、手に取った本が感銘を与えてくれて、その後の人生が一変。

有り得ることだが、おおよそ有り得ないのは、己の歯車にピタッとはまる、本がほぼ存在しないが故のこと。読んだ瞬間、感銘を受けてもすぐに忘れたり、影響を受けたように思えても生活リズムに変化が生じないのは、その程度の本に過ぎなかったという証拠。その本が読者にとって大した物じゃなかった、という事に過ぎない。

 

だからこそ、本と出合いは似ている。

人にお勧めされたからとって、実際に試してみると、自分と相性が良くないことが多々ある、といった事実も類似性を醸している。

だからこそ、「これは!」と思える出会いは稀であり、もしも出合えたならば、それは歓喜すべきであり感謝すべきこと。

 

 

 

 

 全く無知の作品一つを事前情報入れずに読書。なかなか良い試みであったと思う。

少なくとも本書に関しては、決してはずれではなかったといえる。