- 作者: ジョルジュバタイユ,Georges Bataille,生田耕作
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2003/05
- メディア: 文庫
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バタイユ、という名は聞いたことあれど、
あくまでその程度。
どういった作風なのかも知らず、
読むと驚嘆するばかり。
内容としては、端的に述べると、
主人公とヒロインであるシモーヌとの色情を綴るものであり、
よもや否定のしようもない変態話。
物語自体が、良くも悪くもぶっ飛んでいる。
ここまでの変態が居るのかと一応に驚かされ、吉良良影が可愛く見えるほどの性癖。
「元気いいねえ。何かいいことでもあったのかい?」という某有名な言葉が思わず浮かぶほどには、作中の彼らは元気いい。
そのやんちゃっぷりは果てしなく、血気盛んな野生動物という表現を当てはめたくなるが、そうしたところで野生生物から「俺たちはこれほど不埒じゃない!」と怒られそうなほど、作中の人物は性に対して獰猛!
そして解説での言葉ひとつがとても腑に落ちた。
この作品では、人の沈黙した部分を描くが、そこに見出すのは嫌悪ばかりでなく、寧ろ秘められた思いであり、故にこれは生命体を躍動感あるように描いた傑作!
との解説は、なるほど的を射ているなと思えた。
こうした禁忌的なものを堂々と描き、人間の獣さ、獣以上の素性を描き、それを本能とするかイカれたものと思うかはそれこそ教育やその読者の人生による思想に基づくものであり、後天的要因も強く影響するだろう。
そこでの道徳的価値観こそが、本作に対して共感を生むかどうかの瀬戸際となりそうではある。
だが本作の凄いところは、こうした局地的な共感はどの作品にも当てはまるものでありながら、まごうことなき不埒で逸脱した内容の本作も、受け入れられる可能性を十分に示唆しているということに他ならない!
それはこうした作品が世界で認められている事実が示すことでもあり、同時に、このあまりの突拍子のない物語に、多少なりとも引き込まれ興味を抱いてしまうという表象に帰結させられるだろう。
それは古来から言う「怖いもの見たさで…」といった言葉にも集約され、
ガタの外れた色狂いにもはや別生物、SFに見えるほど。
人間の思考力とは恐ろしいものだなとある種、実感させてくれる物語であり、生命の色を何で見て、何処で見極めるのか。それを端的に示すような作品。
そして、著者の情緒、まるで脳を鋭利に掻き出して見せるかの如くして描く登場人物たちは、実に丁寧かつ繊細に描かれ、著者の思考そのままを呈し脳髄を見せびらかされたような心地にすらなる。
深い浅いといったカテゴリーの作品ではなく、単純に躍動する肉体を描く作品であり、
そこに深い意味はないように思える。
例えそこに心理学的要素を示唆していようが、その示唆していると思い込む誤謬こそが、心理学的倒置を示し、一種の錯誤的要因なのでは?と思わせる作品。
情緒豊かな変態とは如何に。
いや寧ろ、変態だからこそ感性が豊かなのかも知れなく、常識人に呼ばれる抑圧された人種を隔てる作品。
読み応えというよりは、あまりの非現実性に引き込まれる作品。
しかしそれらが一応に、実現不可能ではないということがSFと一線を引き、そして読者を慄かせる!
球体の神秘性を感じる作品でもあって、禁忌の元ともされる”球”に魅せられる人間心理の描写作品とも呼べるので、心理的傾向のみならず、図形を好む数学好きにも良いのでは、とつい思える作品。
熱量が凄い作品であるのは間違いない。
そして、人間は内でどんなことを秘めているか、思いを馳せれば混沌とさせる作品でもあった。
面白い、というのは弊害あり。
ページ数は少なめで、文字数も決して多いほうではない。
それでも内容は、色々な意味で蜜だった。