book and bread mania

-中途半端なサウスポーによる日々読んだ本の記録 + 雑記 + パンについて-

不思議宇宙のトムキンス

 

不思議宇宙のトムキンス

不思議宇宙のトムキンス

 

 内容は物語調となっていて、その中で物理のさまざまな概念

相対性理論量子論、原子、素粒子物理など)を解説する内容。

トムキンス成る人物が夢の中と現実の両面で学んでいく展開で、「一般の人にも興味を持ってもらえるように」と書かれた内容であるので分かり易さを重視してあり、専門用語が出ようが丁寧な解説が伴い、安心して読める。

 

物語としてもテンポがよく、そして本題から道にそれることがほぼ皆無。

その無駄のなさ!

気づけば惹きつけられるように読み込んでおり、時間の経過を忘れさせては「え!もうこんな時間!?」と高揚しながら思い、本書的に言えば、「精神的な高低さも重力場に影響を与えるんだとすれば、重力ポテンシャルの差が作用した?」なんて思わせる。

けどそれだと、時計経過が遅いことへ驚くことになるのだけど…。

 

また、原子の働きや性質、量子論におけるゆがみやプランク定数における位置と速度によるあいまいさの関係などについても詳しく解説があって、主人公と教授による対話法に展開されていくので、主人公と一緒に理解をゆっくりと、落ち着いて進められる。

 

 

本書は特に原子核からクォークなどの素粒子に関する解説が充実しているように感じ、読み応えあった。

そこでは舞台を粒子加速器がある研究所へ場所を移し、陽子または電子を加速し高エネルギーにして陽子にぶつける、といったことの結果として次の式を示す。

 

p+p→p+p+π

 

パイ中間子が増えてる!?

一見不思議に見えるこの式も、その後の解説ですんなり分かる。

 

 加速された粒子は質量が増えると同時に、より大きなエネルギーをもつようになるのだ。

中略

加速された粒子は、より大きなエネルギーを持つようになるとともに、そのエネルギーに比例した質量を持つようになるのです。粒子がどんどん重く見えるのはそのためです。

中略

この衝突では、入射粒子のもっていた運動エネルギーの一部が、封じ込められたエネルギーに変換されましたーーつまり、新しく生まれたパイ中間子の封じ込まれたエネルギーになったわけです。衝突の前後でエネルギー量はまったく同じですが、エネルギーの一部の形態が変わったということです。

 

つまり余ったエネルギーが生んだ。ただそれだけのこと。

 

他では、クォークなどの粒子における性質についてを平坦に述べ、うっすら聞いたことのある“スピン”などの意味が容易に分かったほど。

また、陽子や中性子がもっていない粒子における特性、”ストレンジネス”や”チャーム”などの概念も説明があって理解でき、なるほど!とすんなり腑に落ちる。

 

それはつまり、

 

p+ + p+ → p+ + p+ + π0

 

p+ + n0 → p+ + p+ + π

 

こうした式も「肩付きの文字は粒子のもつ電荷を表しています」、「π0というのは、中性子を表します」、「電荷というのは物質の特性のひとつでして。反応の前後で一定に保たれなければならないのです」との言葉で、上記の式もすんなり理解できる。

というか、読めば「え?これって、実に小難しそうに思えてたけど、そんな単純なことだったの?」と四則できれば容易に理解できそうな事ばかりで、素粒子に対しての見方が変わること請け合い。

 

しかし素粒子にはさまざまな特性があって、そこにはバリオン数やチャーム、ボトムなども関係してくる。けれどこれらもルールが分かれば至極単純。

 そこを一見、複雑と思わせるのは、やはり検出結果を整合化するために設けた特性のためであって、次々と新たな特性が見つかれば加わり、それを付け加えていくため。

例えるなら、『カードゲームのにおける、新シリーズ登場ごとに追加される新ルール』みたいなもの。

『カードゲーム(粒子の性質)に、新シリーズ(新しい特性)が登場(発見)!そこで新ルール(”ボトム”や”ダウン”の概念)を追加!』とするようなものであって、じゃあつまりは単純に、「そういう新ルールが追加されたのか」と思い、認識すれば理解は容易になる。

 

また、少し難解になるけれどその先にはさらに素粒子についての解説が進み、

クォークレプトンの違いや、そこでの色荷についてと電荷ありなしによって生じる性質の違いなどの説明などあり、難解そうに見えながらも、それをあまり難解に思わせぬ巧みな文章に驚くだろう。一読するだけでその概要がおおよそ理解できるほどの分かり易さ!

 

あと、「クォークが単体で見つからないのはなぜ?」といった素朴な疑問にも、適切かつ整頓された答が。

  

まず、2個のクォークを引き離すことを考えてみます。

クォーク間には一定の力が働いていますから、遠く引き離そうとすればするほど、それに要するエネルギーも増えていきます。そしていずれは、2個のクォークを引き離すのに要するエネルギーが、クォークと反クォークの対を創り出すほどに高まります。そして実際、それが起こるのです。

 

 こうしてクォークは単独では見つからず、いつも反クォークとのペアになってしまう。

そして新誕生したペアの反クォークは取り出されたクォークと共に中間子を形成。

新誕生ペアの残されたクォークハドロン内に取り残されて、かつてそこにあったクォークのあとに埋る、とのこと。

なるほど、分かりやすい。

 

また「強い相互作用をする(ハドロン)」と「強い相互作用をしない(レプトン)」から、カラーチャージといった特性の存在意義から相互間のやりとり、グルオンに8種類ある理由まで詳しく述べられている。

さらにはストレンジネスをもつ新しい粒子をためておくことのできない理由もあり、

弱い相互作用ではクォークのフレーバーが保存されるとは限りません」

と述べ、「崩壊して余ったエネルギーが放出される」、としてからこの式。

Λ0→p+ πー

つまり、それらは生まれるとすぐに、より軽い粒子へと崩壊してしまうため、と解説しては「われわれの世界のほとんどの物質が、uとdという2種類の軽いクォークと電子から成り立っているのには、このような理由があったのです」

と感嘆させる!

他にも、弱い力についての解説などもしっかりあって、

クォークマニアにも納得の内容!!

 

 

 

潜熱といった相転移時において生じるエネルギー。

水が氷になる時に“潜熱”を放つと同様に、宇宙も“潜熱”を放ちそのエネルギーで物質が生まれた、と終盤に何気なく登場人物が話すが、そのことには思わず「ええ!!」と驚愕。するとさらに宇宙と水の共通点を述べ、水が凍りになると体積が増えるように宇宙も冷えて体積が増えて…今日の宇宙が始まった。

何気ない口調でこうして綴られていたが、とすれば、宇宙と水の共通点の多さにまず驚くばかり。水ってすごい…とその不可思議さに陶酔しそうになる。

宇宙と水は似ている?というのは実に面白いな、と思えた。

 

 

もしもかの数学家が、ある証明の間違いに気づかないで代わりにこれを読んでいても自殺をやめていたのでは?と思えるほどには知的好奇心を刺激し、興奮させる。

一読すれば世界の見方を変えるだけの力を持った、凄い面白い本。

あとマクスウェルの魔物も登場するよ!