book and bread mania

-中途半端なサウスポーによる日々読んだ本の記録 + 雑記 + パンについて-

10月に読んだ本からおすすめ10冊を紹介。

10月に読み終えた本は36冊。

その中からおすすめの10冊を紹介!

 

 

 

 

第10位

『タイムスケープ〈上〉』

『タイムスケープ〈下〉』

タイムスケープ〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

タイムスケープ〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

 
タイムスケープ〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

タイムスケープ〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

 

現在から過去へメッセージを送る。

そんなシュタインズ・ゲートを髣髴とさせるテーマが主軸となった内容で、ハードSFと評せるほどには科学的考察の骨組みがしっかりとしていた印象。

ただそうした本筋となる部分から脱線した場面、いわゆる登場人物の日常やらそうした箇所への筆が蛇足的にあって、マイナス感は否めない。

それでも根本となるSF部分は面白いので、 シュタゲ好きは特に読んで損はない一冊かとは思う。

後これを書いた時点では、上記の「この商品を含むブログ」の数が<上>では8件であり<下>では7件。

上巻でリタイアしたことを示すようであって興味深い。

 

 

 

第9位

『ゼロからトースターを作ってみた結果』

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

 

  自分の力でトースターを作ることはできなかった。せいぜいサンドイッチぐらいしか彼には作ることができなかったのだ

昨今、異世界転生の作品が流行とのことであるが、そこでは主人公が大活躍!何でもこなせる万能性を示し、神であるが如く崇められるといった展開。

こんな感じのものが多いように思えるのだけれど、実際にはトースターひとつ満足に作ることはできないだろう。上記の引用は、ダグラス・アダムスによる有名な『銀河ヒッチハイク・ガイド』シリーズでの一幕で、ある星に上陸した主人公の地球人が、その惑星が地球よりも文明が遅れていることを知り、ならば自分の知識をひけらかし、崇められよう!として試み、挫折した場面を描くもの。これはまさに異世界転生ものの現実性を示しているようであってとてもユニーク。

おそらくタイムマシンで百年前に戻ったところで、自分ひとりで現代の科学技術を示すようなものは作り出すことは難しいだろう。よくよく思う異世界ものへの違和感はおそらくこれに集約される。*1

けれどまあ、トースターを作り出すのが無理と知った主人公は引用のとおり、サンドイッチは作れたわけで。そこで惑星のサンドイッチ大臣に任命される展開は好き。

閑話休題

 本書の作者もこうした言葉に感銘を受け、「じゃあトースターを作ってやろうじゃないか!」と奮起して、実際に素材からトースターを作ろうと試みるドキュメンタリー的内容。読めばわかる、トースターでさえ如何に現代技術の結集によって作られているのか?

素材集めから一から行い、悪戦苦闘しながらも軽快な文体は時にユーモラスで時に風刺的。ものづくりとしての大変さを知るという面でも、トースターの偉大さを再認識するにもうってつけの一冊で、子供にはもちろんのこと、ものをつくる楽しさを忘れた大人にこそ読んでほしい一冊。

 

 

第8位

『ゴッド・ガン』

『カイエンの聖衣』で有名な著者による短編集。

 全10編収録されており、表題作『ゴッド・ガン』は相対性理論が確立された後の思弁的作品といった印象。

次は『大きな音』で、これもまた一つのアイデアで書ききった作品という印象で、解説にあった「一つのアイデアを結晶に…」としたコメントが的確に思えてくるような内容。『地底潜艦〈インタースティス〉』はヴェルヌ作品のオマージュ的作品。

『空間の海に帆をかける船』はユーモラスタッチの文章に、ドキュメンタリーのような描写でサクサク読み易く、最後のオチも好き。そしてこれもまた作者特有の独特の思弁さを持つ作品で、空間と時空に対しての持論を展開しているような作品であってその理論は面白く興味深いアイデアは一読の価値あり。

『死の船』はインナーステラー的作品であり、未来を覗くことでの決定論的な思考と、それに抗うことは果たしてできるのか?とする思考的作品。これはなかなか印象的でお気に入り。面白かった。「因果律」について考えさせられるような内容でもあり、そういった意味ではシュタゲ的でもあった。

『災厄の船』は一変してファンタジー色の強い作品で、エルフによる人間原理を描いているのが特徴的。ただ他の作品群と比べれば、印象は薄め。

『ロモー博士の島』は名前から分るとおりのオマージュ作品で、内容としては予想外。ただユーモア性はたっぷりで、普通に笑える。

『ブレイン・レース』は本書の中では、一番好きな作品だったかもしれない。これは愉快な異星人が登場するもので、その奇抜なアイデアは一言でいって「やばい」。すると途中で作品名の意味も分り、最後のオチも含めて全体的に好き。

『蟹は試してみなきゃいけない』は題名どおり蟹が主役で、蟹目線の作品の内容。昔からよくある、他生物からの目線で描いた世界の話で、味わい深さはあるものの本書の中ではあまり目立たず感じた。

『邪悪の種子』。不死身さんが登場して、イメージ的にはポルの亀。これは本書のなかで一番長い短編で、最後には「不死性」を否定する理由を明らかにするが、その理由はちょっと拍子抜け。全体的には普通といった印象。

全体を総括すれば、思った以上に思弁的かつ科学的な作品が多かった。

あとはどれもが一つの単純なアイデアから発しているのがよく伝わる内容でもあり、思弁的に突き詰めていったという感じ。全体的に悪くなかったものの、インパクトとしては作品間での差が激しかったなという印象も。

 

 

 第7位

 『ハイ・ライズ』 

 J・G・バラードによる有名な作品で映画化もされた。

読んでいて思ったのは、これ現代板『動物農場』的な側面もであるのでは?

ということ。

他にはアニメであった『がっこうぐらし』的なテイストも感じ作品で、分かる人にはこれだけでどんな作品かのニュアンスは伝わると思う。。

でもあくまで登場するのは人間で、ハードSFといった内容ではなく、寧ろ風刺的。

あとはこの作者特有の豊富な表現がまた特徴的な作品ではあり、SFと文学の綺麗な融合!細かい心理描写と巧みな情景模写、歪曲しながらも適切な比ゆなど、どれをとっても切れ味鋭い文章ばかり。

単なる娯楽作に留まらず、その一歩先。人間の内面を端的にもえぐるように書いている辺りは流石。読むと映画版もちょっと気になるかな。

 

 

第6位

『人生の真実 (創元海外SF叢書)』

人生の真実 (創元海外SF叢書)
 

 世界幻想文学大賞受賞作。

(SF叢書)とのことで内容としてSFかと思いきや、そんなことにあらず。

本書の場合、「SF」とはまさに「少し不思議」のほうであり、少し不思議な力を持った末妹を主軸にも起こす一家の家族物語。

というか、久々にこれほどすんなり熱中してしまう小説を読んだのは久しぶり。

実にのめり込んで一気に最後まで読んだ。

家族の絆と人の強さ、生き様を想像以上に見せ付けてくる作品であって、ファンタジー要素を幾分か加えた家族の成長物語。

著者の主張が強く感じるシーンなどもあったが(正直、あざとく思える登場人物なども)、それでも傑作と言えるほどには家族としての、姉妹としての友情や成長に伴う変化、情緒の不安定さや様々な愛がよりよく描かれていて文章に血肉が通っていた。

なかでも、ちょっと頭がおかしいと思われていた末の妹キャシーのある行動を示すシーンなどは鳥肌もので、もうここだけ映像化してもすごいものができるのではないか?と思ってしまったほど。

登場人物が多くて「読み難いかな」なんて最初に思ったのは全くの杞憂で、どの人物も個性がしっかり描かれていて分かりやすく、読了感は爽快。

時間を忘れさせる小説だった。

 

 

第5位

ゲーデルの世界―その生涯と論理』

ゲーデルの世界―その生涯と論理

ゲーデルの世界―その生涯と論理

 

 相手を知るには、相手の人隣を知ることが大切である。

同じように、ある人物が考え出した「思想」を知るには、その人の「人隣」を知ることが、思いがけず理解の手助けになることが多い。

そんな折、このゲーデル先生が生み出したはかの有名な「不完全性定理」。

「不確実性原理」と言葉は似てるが、ぜんぜん違う内容であって、このことを正確に理解している人はどれぐらいいるのだろうか?と疑問になってしまうような、数学に潜む矛盾をまさに数学的に証明した偉大な発見でありその功績についてを理解するためにはまずその人を知れとのセオリーどおり(まさに理論!)。

読めばなるほど、こういった環境で育ち、そうした素地によってかの考えが思いついたのだなと知れば感慨深くなる。

そもそも本書ではしっかり「不完全性定理とは?」に対する解説があって「理論」と「論理」の違いなども含めて数学に存在する不完全性を露呈にし、読めば納得。

すごいなーと思うと同時に数学に対する見方も変わるような一冊で、数学に潜む矛盾性を知って視野を広げたい人にもよい一冊。

数学苦手な人でも楽しめると思うので一読して損はなく、おすすめ。

 

 

第4位

アウトサイダー

アウトサイダー (集英社文庫)

アウトサイダー (集英社文庫)

 

 「真理を追究するにはどのようにすればよいのか?」

なんてことをアウトサイダーと目される人物の作品などから探ろうとする刺激的な内容。

人間としての意思の本質、それに伴う現実性と実用性についてを物語るようなもので、思考の柔軟性をもたらし硬くなった思想をある種、揉み解すような展開を見せる。

一読して思うのは、反“人間原理”的な、メタ的な思考を抽出することで新たな俯瞰を得ようとすることを思わせ「自分とは何か?」を最後まで問いかけていたのが印象的。

また、終盤に記してあった宗教と価額における差異についての考察はまことに興味深く、そこでの例え話には爆笑してしまったのでここはぜひとも実際に目を通して笑ってほしい。

あと「人間はブルジョワ的折束である」といった言葉も何気に印象的。

 

 

第3位

ペンローズの“量子脳”理論―心と意識の科学的基礎をもとめて』

ペンローズの“量子脳”理論―心と意識の科学的基礎をもとめて (ちくま学芸文庫)

ペンローズの“量子脳”理論―心と意識の科学的基礎をもとめて (ちくま学芸文庫)

 

 なかなか難解な内容の一冊。

けれど脳内の一部の器官が「量子論的構造を持つ」として展開する説は、突飛ながらも魅力的であって「なるほどそれで自由意志が―」なんて妄想を走らせるのも面白い。

ただ一読のみでは完全に咀嚼、消化し切れなかった印象。

それでもアイデアとしては抜群に面白く、生粋の数学家が思い描く自由意志についてとAIにおける不可侵領域として示す人間の可能性!

多少SFっぽくさえ思えるそのアイデア、読んで酔いしれるのも楽しいので手にとってみて損はない一冊かと。

 

 

第2位

『困ります、ファインマンさん』

困ります、ファインマンさん (岩波現代文庫)

困ります、ファインマンさん (岩波現代文庫)

 

 すごく面白かったという印象。

ファインマンさんといえば高名な物理学者だとは知っていたが、若くして亡くなった奥さんとのエピソードが実に素敵で、こうもドラマチックな人生を送っていたとは!と驚愕。同時にとても感動できる内容であって、もうこの話だけでも満足。

あとはNASAの事故解明の委員に選ばれての経緯から結果までを綴ったドキュメンタリー的な物も面白く、巨大組織の内部事情を赤裸々にするだけではなく、こうした組織における構造的問題を浮き彫りにしていたりと読み応えあり。

所々に入るユーモアも健在で(青写真についてのやり取りでは爆笑した)、あとは事故の検証として部品的欠陥のみならず、組織的欠陥も見つけるに至った流れはまさに見事であってある種のミステリー本としても読める内容。

他には色々なエッセイが収録されていて、どれもユニークな観点から日常を捉え、『ハーマンとは誰か?』なんかまさにコントでこれにも爆笑。

感動、爆笑と軒並み続くような一冊で、とにかく面白い。

一流なのは物理学のみならずユーモアセンスもなんだな、と納得できる内容で、それでもやはり一番に印象深いのは『ひとがどう思うとかまわない!』。

そして『ものをつきとめることの喜び』というエッセイのなかで最後にあるこの言葉がとても印象的かつ真理的。

「僕のおふくろは科学のことは何も知らなかったが、僕は大いにその影響を受けていると思う。すばらしいユーモアのセンスの持主だったおふくろから、僕は人間の精神の到達できる最高の形というものは、笑いと人間愛だということを教えられたのだ」

この言葉の意味を理解するのに、物理法則はいらないだろうから。

 

 

 

 

第1位

『犬として育てられた少年 子どもの脳とトラウマ』

犬として育てられた少年 子どもの脳とトラウマ

犬として育てられた少年 子どもの脳とトラウマ

 

幼少期の記憶とは、どれほど鮮明に持っているだろうか?

おおよその人が曖昧であると思う。

しかし、そうした幼少期の体験こそ現在のあなたを象っている。それも強固に。

こんなことを何の根拠もなく申せば、怪しい教団もしくは利用されたフロイト思想の一派かなと思われようが、実際にそれは事実であることを科学的にもそして経験的にも色彩豊かに物語るのが本書。

記憶は覚えてなくても、細胞は覚えている。

そんなことを指し示す内容として、 子供の脳における可塑性とその過程についてを述べるもの。幼少期における脳の発育が如何に重要かがよく分かるもので、精神科医として著者が担当したケースを元に解説をする構成。

主に子供のトラウマについてを取り扱い、内分泌ホルモンに関しての勉強にも。

なにより、育児放棄の危険性とそれが成長後に及ぼす多大な影響!

性的虐待が及ぼす脳への誤った経路の作成は、異性に向けて行う行為としての必要性を倒錯させてしまう。

そこでの”脳の仕組みについて”の解説も巧みで、

人間の脳の4つの領域の並び方にはヒエラルキーがあり、下から上、内側から外側。これを理解するイメージとして、一枚のドル札を半分に折って手のひらにおいて握りこぶしを作る。それからヒッチハイクをするときのように親指をたて、それを下に向ける。このときの親指は脳幹を表し、その親指の先、つまり脳幹の先が脊髄につながっている部分。親指の太い部分は間脳。こぶしが握りこんでいる畳まれたドル札が大脳辺縁系。そのお札をおおっている手と指は、大脳皮質を表している。

このように表現しとてもわかりやすく、まるでフレミングの法則みたいな表現方法。

そしてここで表した4つの領域は相互に連結しているが、それぞれの領域で異なる種類の機能を制御。脳幹は体温、心拍数、呼吸、血圧などの基礎的な調節機能を制御している。間脳と大脳辺縁系は恐怖、憎しみ、愛、喜びなど、我々の行動を左右する感情的な反応を動かしている。脳のてっぺんの部分、大脳皮質は言語、抽象的な思考、計画を立てること、意識的な決断を下すことなど、尤も複雑で人間らしい動きを統制している。この4つの領域はオーケストラのように調和して働いているとのことで、総合として機能するとのこと。

ニューロン神経伝達物質を出して情報を伝播していくのは有名だが、シナプスというニューロン同士の接合部分において放出され、こうした神経伝達物質はそれぞれ隣のニューロンにある、正しい形のレセプターにしか合致しない。

そこでのこの言葉

シナプスのつながりは驚くほど複雑だが、美しいまでにシンプルでもある

 

 はとても印象的。

 

典型的な「闘争か逃避か」反応はノルエピネフリンニューロンが集まった神経核である、青班核と言う名の部分から起こり、これらのニューロンは事実上脳の重要な部分すべてに信号を送り、ストレスフルな状況に対処するのを助けているとのこと。

神経活動のパターンが関連付けを好むと言うのは納得でき、最適化することによって消費を抑えようとする本能的メカニズムだとすれば分かりやすい。

「過去の経験のひな型」と言う表現でそれが示されており、情報は脳の下部の原始的な領域から入ってくるため、多くの場合そのひな型を意識することさえないというのは知っておいて損はないと思える。

人によっては読んでいて涙腺崩壊するほどには、紹介されるのには悲惨なケースが多い。ただ、そこで幼少期の接し方、それが以下にその後の人生へと多大な影響を及ぼすのか。一読して分かる、脳が著しく発達、形成していく過程においての周りの環境による影響力の強さ。本書は親や教育の立場にいる人たち以外にも、ぜひとも読んでおいてもらいたい一冊であるのは確かで、寧ろ読むべき本。

 

 

 

 

 

*1:「科学技術が劣る世界にいけたとしても、お前はトースターを作れるのか?」ということ。