12月に読んだ本からおすすめ10冊を紹介。
12月に読み終えた本は33冊。
その中からおすすめの10冊を紹介!
第10位
『レインわが半生―精神医学への道』
精神病院を作って、そこに精神異常者と診断されたものをぶち込む。
患者は異常なのだから、処置の決定権はすべて医者が管理する。
それってどうなのよ?と周りの視線に囚われず、声高々に疑問定義したのが著者。
現代においてはさすがにこれほどの横暴さはないものの、精神異常者に対する扱いの酷さにおいては共感できる部分もあるはずで、読んで思うところは多い。
本書を読み驚いたのは、ナチスによるユダヤ人虐殺は歴史的にも有名だが、その陰に隠れて、ナチスは精神病院も襲撃しておりそこで患者を大量に虐殺していたということ!
精神異常者の虐殺に関しては、ユダヤ人の虐殺に比べ、注目されることは実に少なく思え、ホロコーストに関する作品は数多あろうとも同様の虐殺を受けた精神病院の悲劇を描く作品はほぼないのでは?
いってしまえば、人は古今東西を問わず、精神に異常があると判断された者に対してそこには大きな隔たりを抱き、しかし重要なのはその隔たりを一度はじっくり観察してみるべきと言うことである。
本書は著者の体験記的内容で、精神病院での患者の様子や偏見を持つ同僚や当時の医師会の様子が描かれ、医師でさえ偏見大盛りにして患者と接する様子が見え隠れ。
あと印象深いのは、黙り込んでいた精神病患者も正月には陽気になった、という事象や、医者が患者を正常か異常か判断する基準は「相手の話が分かるかどうか」ということ。そこで著者が「ではヘーゲルのいうことが理解できなかったら患者扱いするのですか?」と問うと「そうするでしょうね」と答えたというやり取りなどはユーモアを感じつつ感慨深くなる。
他のエピソードでは、神父が説法の最後に聖書を床に叩きつけ「ユダヤ人を救わなかったこれに何の意味があるのか!」と叫んだというものや、患者の治療に関しては「普通の人と絆を結ぶ」ことが重要と分かったりするなど読み応えあり。
閉鎖病院を試しに開放してみたところ、返って窓が割られたり脱走者も居なくなった、という話は示唆に富むものである。
患者は家族のスケープゴートであると提言したり、反精神医学を掲げたりするなど、なかなか過激なことを提案しながらも読めば納得のその思想。
「人間」としての扱い方などや個性についても考えさせられる一冊で、周りの影響によって新たな自我を確立した患者の例からも、それは強く感じられた。
第9位
『小説の方法』
小説を分析して解説してくれる本。
一読して思うのはその難解さながらも、しかし読み進めて後半になると寧ろ「前半部分は伏線!?」と言わんばかりに意味する内容が伝わりやすくなって「もしかしてこの内容自体も”小説の解説”という小説?」と思わせるようなメタ構造を何処か匂わせる後半の繊細な解説あっての一冊。
よって心情を吐露すれば「これは章の順番がおかしいのでは?」と思えたほど。
そんな折、小説の手法として挙げ特に印象深かったのが「グロテスク・リアリズム」。
その概念に付き添い重要なのが「異化」。
これらが何を意味するのか?言ってしまえば、要するに「生から死への異化」。
そこからはいきなり「糞」について熱く語り出したりもするので「これはもしやディープな世界への導きか?」等と思えばなるほど、ある意味では正解であった。
つまり糞とは見方を変えれば、それは生と死の象徴になるものなのだ。
糞は生きた物の死から成り立ち、そうして出来上がった死からの産物は、排泄されれば肥料となる。その肥料こそが新たな生命を生み出す支えとなって命を紡いでいきやがて…。
これと同様のこと、つまり読者にこうした糞の躍動から成る情動の変化と変革をもたらすもの、それが小説なのだと主張するのだ!
価値観の変容はすなわち、己の古くなった考えを脱ぎ捨て殺すことであり、しかし殺した己の思想からまた新たな価値観が芽を出し花開く。
まさに小説のもたらす役目とはこのような自己改革。
本書ではほかにも、パロディに存在する異化現象についても作品例を挙げて雄弁に解説し、想像の異化に対する有意さとそれに繋がる滑稽さなども示しており面白い。
有名なだまし絵『ルビンの壷』の如く、小説には一読して物事の見方を変える力がある。それはミステリー小説がトリックの正体に見せるような知覚的差異を示そうというのではなく、俯瞰する高さを変えるような、認識的差異を与えてくれる。
「グロテスク・リアリズム」とは一見して受ける印象から乖離するように、この言葉が示す意味は「新たな光を全体に注ぐ」ことに他ならない。
あとは本文中のこんな言葉が印象的。
「文学とは、世界の物質的・内面的根源から分離し、孤立して自分の中に閉じこもる一切の動きと対立する言語のしくみである」
本書を読めばより理解が深まる「小説を読む」という行為と意味について。
これらは別に知らなくても、小説を読む行為は咎められない。
しかし知っていれば尚いっそう楽しめる。
それはある意味で言えば、サッカーや野球のルールを知っていればそれらの観戦がより楽しめるように。
第8位
『われわれはどこへ行くのか―世界の展望と人間の責任 ミュンヘン大学連続講義集』
われわれはどこへ行くのか―世界の展望と人間の責任 ミュンヘン大学連続講義集
- 作者: カール・フリードリヒ・フォンヴァイツゼッカー,Carl Friedrich von Weizs¨acker,小杉尅次
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2004/12
- メディア: 単行本
- クリック: 2回
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4回の講演を文字に起こした一冊。
そして講演を行ったフォンヴァイツゼッカー氏は「ベーテ・ヴァイツゼッカー・サイクル」と呼ばれる核融合理論を1936年に発表した物理学者として有名とのこと。
講演の内容としては、政治、宗教、学科、そして「われわれは何をすべきか」を題材としており、最後に総括として何をするべきなのかを提案する。
政治についてではアダムスミスの思想なども用いて「人間とは共生する存在」として特徴付けていたのが印象的。
宗教についてでは原理主義批判が目立ち、東洋での仏教徒との対話によって得られた影響を物語る。
カントの啓蒙に対する箴言「自分が罪深き人間であるという未成熟な自己理解から開放されること」なども印象に残った。
あと物理学者らしく実証的に世界を捉え解説するあたりは印象的で、「思惟する実体、すなわち接近可能になった記述数学を延長された実態として、知覚し、保持することは妨げにならない」というデカルトのこの言葉を引用しており、科学的にも新たな知見は融合可能と示し盲信となって偏見を持つことを咎める。
もちろん、こうした姿勢さえもまた固執すれば同様に偏見となり、よって「いったい”外から観察する”とは何を意味するのでしょうか」と問いかける。
そこで示す答えとして「外から観察をするとは、行為に移る前の段階で言語化し得るものを対象として関連づけ、考察することなのです」。
あと金言的に思えたのはこの言葉。
「『わたしが信奉している宗教のみが本物だ。真理はこちら側にだけ存在するのだ。他のすべての宗教は偽りである』という主張は、実はそう主張すること自体が宗教的不安心理から生まれた産物であるといえるでしょう。不安な心からは真実なものに対して信頼を寄せる姿勢など出てこないものです」
この言葉は、まさしく真理的に感じた。
哲学についての意見も鋭く、
「哲学は個々の事例の解明を重要な問題とはしません。哲学は例えば、原子について科学的側面からの構造分析はいったいどうなっているのか、という問いかけは一切しないのです。その代わり哲学は、つねに全体における相互関連性を問うことを自分の主たる使命としています。同時に哲学はつねに真理性の問題をとり上げるという性格の学問なのであります」。
本書は鋭い示唆に溢れていて、一読して損はないなと思わせた魅力ある一冊。
第7位
『力学入門 - コマから宇宙船の姿勢制御まで』
新書でも内容はとても濃い。
表記どおりの水分量に対し、カレールウだけ倍にして作ったカレーみたいに濃っ!と感じる角運動についての本。
というのもこうした力学に疎かったのでより充実して思え、しかし新書だけあり丁寧さが伝わってくる内容。
本書では主に力学における角運動についてを平易に解説しており、よって「角運動とはどのようなものか?」という事に対するひとつの答えとして「回転」という現象に対する理解を深められる。
あと読めば納得、「ジャイロスコープ」ってどのようなもので、どんな原理で動いてんの?といったことが腑に落ちるように理解できるので「作ったやつの発想力!」と驚くこと請け合い。どんな原理かと省略して言ってしまえば「スピンに対するトルクの反応によって生じる現象を逆手に利用して、そのずれによって位置や体勢を把握するシステム」であってその応用力と汎用さはまさに異常。
あと物理の基本的な勉強にもなる内容で「スカラー」と「ベクトル」の違いについてや「平行四辺形の法則」が便利なものなんだなと読んでいて実感する。
他にも角運動においては三つの角が重要な要素であること、それでx・y・zの三つの座標、軸としての慣性モーメントについてなども知ることが可。
トルクとは実際、慣性モーメントつまり回転し難さと角加速度の乗法によって定まることなどを知ると、案外単純であって親近感が湧くほどである。
といってもこうして理解が捗ったのはひとえに著者の卓越なる解説のおかげであり、角運動を学ぼうとする上での入門書として最適では?と思えたのでここにお勧めするしだいである。
第6位
『アインシュタインの宿題』
相対性理論とは、実際に理解をしているのはごく少数。
こんな話を聞いたことがあり、本書はそんな難解と言われる相対性理論(もちろん特殊と一般の二つを取り扱っている) をできるだけ噛み砕いて実に平易に解説をしてくれる。なんだか難しそうだな…なんて思いを杞憂にしてくれるほどには「なるほど!」と理解する楽しさを提供してくれる。
所々にガンダムネタやエヴァネタあるのも(e=mc2がポジトロンライフルでも使用されている!と表現したり)特徴的。
あと本書は相対論のみではなく、「光電効果」についてなんかも解説していて、光子の証明になったことや、超有名な「e=mc2」の式に対する認識もスッと深まる解説が秀逸。前提として光子ひとつのエネルギーが「e/c」と認められており、ああそうかこれを基にしているのだと理論の理屈の理解がパッと花開く。そこで簡易的にも示す「e=mc2」の証明はエレガント。
あとは相対性による、見る立場の違いから時間経過の違いについても語り、ここでは「移動している物体の中にある光反射鏡は停止しているものから見れば光は動きの分長く移動する」という思考実験の解説がオッカムの剃刀の如く無駄がなくスッキリ納得できる出来栄え。その原理がピタゴラスの定義のみで証明できてしまうのだから理解はとても容易くシンプルさが著しいので楽しくなってきたほど。
あとミンコスキー時空も解説してるので、よく聞く(聞かないかもしれないけど)「光円錐」ってなんぞや?と言う疑問もこれにてスッキリする内容ではあるので、相対論に興味がある人はもとより、むしろ興味のない人にも手にとってぜひ読んでみてほしい一冊。するとおそらく、物理の楽しさが伝わってくるはず。
これほど分かりやすい!となる相対論の本は珍しく、相対論玄人さんには物足りないかもしれないけれどそれ以外の老若男女みんなにおすすめできる本。
相対論 吟味できると 楽しいよ
第5位
『人類が知っていることすべての短い歴史(上) 』
以前から気になっていた一冊ではあり、上巻のみながらようやく読めた。
内容としてタイトルのような『人類史』というよりは、ある一部の科学者にまつわる伝記的な記述も結構あった印象。
それでもまあ面白い事には変わりなく、フロン社の発明家はやべえ奴だなと納得したり恐竜化石発掘にまつわるエピソードは下種さもあって「ああそういった意味での人類史も含むのね」と妙に納得させてくれる。
あと初の恐竜化石が見つかったのが1787年というので「意外と最近じゃん」と思ったり、そこで登場する目利きのアマチュア化石ハンターの少女すげえ!と感嘆したりと読んでいるほうも大忙し。
あとは今更ながらも原子や中性子、電子の性質についてや大きさを考察すれば「実際、世の中よく成り立っているよな」と感慨深くなる流れであって、「人は椅子に座っているようでも電子によって反発しあい完全には接触していない」と頭では理解してたが、それがどの程度(約1オンスミクロン)離れているのか具体的な数字を知ることによってよりイメージし易く、つまり握手は存在しない!といって過言でないのだから狐につままれたような気分になる。
本書に内容としては他に、地学が多めだったのも特徴的。
地殻については雑学的にも良い勉強になる構成。そして面白いのは、読むと「専門家で身近なことを知らないことが多い」のだということが身に染みて分かることであり、研究すべき対象などと言うのは、実際とても身近にあるのだと知れる。
よって科学的な好奇心を充足してくれるのと同時に、好奇心という樽の深さをいっそう広げてくれるような一冊でもある。
「知らないこと」を「知る」のは楽しい。同時に、「知らない」ことを「知る」のも楽しい。そんなことを実感させてくれる良書。
第4位
『空へ―エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか』
空へ―「悪夢のエヴェレスト」1996年5月10日 (ヤマケイ文庫)
- 作者: ジョン・クラカワー,海津正彦
- 出版社/メーカー: 山と渓谷社
- 発売日: 2013/07/31
- メディア: 文庫
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ジョン・クラカワーによるノンフィクションの一冊。
著者は『荒野へ』で既知しておりその一冊も良かったので本書も期待。
そうして読んでも期待を裏切らず、十二分に面白い内容だった。
まず意外だったのは、著者はあくまで取材として同行し、取材する側としての体験記を綴ったものかと思えばがっつり登山していて驚愕。
実は登山家、それもベテランの。そうした時点で意表を突かれ、しかし突かれた意表は軽症だったと知る。
それほどまでには読み進めていくと過酷な状況、逸脱した状態を事細かに、情景を映像となって浮かばせる巧みな文章であり思わず同じ場面に引き込まれる思いになった。
1996年でのエヴェレスト登頂の集団に参加。その顛末を細かく綴った内容。
詳細な描写は丁寧で、臨場感は抜群。読んでいてこちらも寒くなって身震いを覚えたほど。同じ集団の参加者には、日本人女性も。
何よりも読み応えがあったのは登頂における過酷さ。
一読すれば「ああ、登山はいいや」と思ってしまうようなその厳しい環境には、読むタイミングを間違えればトラウマになるのでは?と感じるほどの強烈さ。
そしてエヴェレストが如何に攻略困難かということはもとより、興味深かったのは標高六千メートル越えから生じる体の異常についての記述。とても具体的で、あと登山における酸素ボンベの重要性とその存在がもたらした問題、皮肉さも綴っており酸素ボンベひとつでもこれほどまでに影響を考える必要があったのかと目から鱗。
あとは本書が「ノンフィクション」という絶対的事実。
読むと思うのはやはり、「こうも過酷なのにどうして人は登るのか?」といった単純かつ究極な疑問。しかし本書を読めばまた同時に、その理由がわかる気がするのでなんとも感慨深くなる。
第3位
『みんなの進化論』
- 作者: デイヴィッドスローンウィルソン,中尾ゆかり
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2009/04
- メディア: 単行本
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進化論ってあれでしょ、ダーウィンのやつ。
そんな片手間な知識にきれいな補助線を引いてくれるのが本書の内容。
構成としては短いエッセイ調の章がいくつも連なる内容で、どこからでも読める仕様であり敷居をできるだけ下げて読み易く、わかりやすさを心がけているなと分かる内容。
個人的には、妊婦さんにおける「つわり」の現象を、進化論的に考察しその意味を示したのは面白いなと思えたり。詳細を刻々と書けば読むときの楽しみを邪魔してしまうので、どのようなことかは読んでもらうとしてこれに関しては一言だけ。「つわり時に、泥を食べるのは合理的だった」。
本書では、進化論とは実際どのようなものか?数多の例を交えて懇切丁寧に解説し、多方面から攻めるアナロジーは理解を助け同時にユーモラス。
読めば進化論における基本的概要や、「相互作用効果」と言われる「特定の遺伝子が特定の方法で特定の環境要因と相互作用することによって、ある行動が生じる」ことなどさまざま学ぶことが可能。
あとは形状と進化(適応)との関連性は実に興味深くて、犬の尻尾が巻いている理由として、人懐っこい狐を作ったら同様に尻尾が丸くなるという形状を発現。他にもいくつか共通の身体的特徴を挙げ、つまり性格と見た目との相関関係を示すこの結果はとても面白く感じ、こうした実験結果は後々より注目されることなのでは?と思えた。
そして進化論といえば安易に適者生存を思わせようが、実際には「自然選択は時間がかかり進化史の過程で形成された適応はその時点の環境と合わない場合もある」と言う自体も当然あり、それは人体が脂肪を溜め込みやすいことがよく知られた例であると思う。こうした時代にそぐわない過去の名残を「幽霊とダンス」と表現するなどその言葉センス(過去の遺産とダンスするという意味において)も本書の特徴。
人が他人を「美しい」とルックスで惹かれる要因について述べているのも印象的で、そこで関わるのは免疫系。「MHC」とヘテロ接合性についてが関与するという。ルックスに惹かれる要因と共に、免疫系についてのちょっとした勉強にも。
終盤には自伝的なエッセイもあり、著者は進化論を専門に扱う学者ながら数学音痴を告白。そこで学者になる秘訣なども披露し、学ぶこと、研究する事とはどのようなことか?を教えてくれる。
本書は読めば、進化論がずっと身近なものであると感じ取れる。
そして同様に、観察すべき対象は未だ数多満ち溢れているのだと言うことも。
可能性を広げるに適した一冊ではあり、それは二重の意味で。
第2位
『結婚式のメンバー』
すげえ作品だな。
読み終えてまず思ったのはこんな感想。
といっても内容とすれば、別段どんぱちなる派手な戦闘があるわけでもなく、荒唐無稽なトリックがあるわけでもない。
本書は片田舎の、地味な町に取り残された一人の少女の地味な物語に過ぎない。
けれどびっくりするのはその感受性の豊かさや、彩りある問いの干からび具合、そうした現代の日本人にとって馴染みの薄い、異とした環境によって生じる精神のなんとまあ華やかさとどす黒さ。コントラストは人工物でありながら、人工物であると思わせない。言ってしまえば本書に対して「面白い!」なんていうのは野暮で、まさに感嘆とすべきは、言葉で書かれたものを読んで得たことを言葉で表すことの難しさをもたらすこの非均一的な情念さこそ、本作品において感じた一番の凄みと言えよう。
けれど過度に期待して読めば拍子抜けしそうではあるので、肩の力を抜いて、そうっとリラックスして、じっくりと読んでもらいたい小説。
正直に言えば、これはもう学校の現代文などの教科書に載せたほうがいいのでは?と思える作品ではあった。
第1位
哲学ファンタジー:パズル・パラドックス・ロジック (ちくま学芸文庫)
- 作者: レイモンド・スマリヤン,高橋昌一郎
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2013/07/10
- メディア: 文庫
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ものすごく面白い。
内容としては簡単に説明すれば、哲学的戯曲のオンパレード。
短編集のようにしていくつもの哲学的討論を描いた小話が連なり、意識や認識についてを取り扱い、論理学的な戯れを幾分も練りこんだ甘くて切なくはない問答の数々。
そして著者はユーモア具合が抜群で、途中に挟まるエッセイ集の章においては爆笑もすれば心踊る楽しい倫理パズルもあって、一冊で一味も二味も存分に堪能できる豪華な仕様。
それでいて後半には「死とは?」についてをじっくりと考察。真面目に死と対等に向き合い、尚且つ「死」といういう概念がもたらすイメージについて考える。こうした思弁さの先に立とうとする「死生観」、その思いは一読の価値あり。
本書は数学家の大物が、大真面目にふざけて書いたような内容で、これはもちろん最大限の賞賛であり思考の柔軟さとユーモアの大事さを、捉え所のないものとして捉えようとするまさに不確定性原理をおもちゃにしたような一冊。
知的好奇心を満たし、考えることが好きな人にはぜひとも手にとってもらいたい一冊!
他にも、「すべての哲学に対する普遍的な反論」となる魔法のような言葉も載せてあって楽しめる。あとハルトマンという哲学者の『無意識の哲学』といった本の内容が紹介されており、その突飛かつあっと思わせる独特の思考は大変面白く興味深いので、このハルトマンの哲学の要約を読むだけでも価値のある一冊。
最後、印象的だった箇所について。
それは著者が仲の良い哲学者に対し、自慢の手品を披露しその際に「偽の命題がすべての命題を導く」としての原理を用いて手品で生じる不可思議な現象に神の証明を付随させたとき。そのときの相手の反応、
「ペテンによる証明!神学者たちが使うのと同じ手法だよ!」
には爆笑した。