book and bread mania

-中途半端なサウスポーによる日々読んだ本の記録 + 雑記 + パンについて-

7月に読んだ本からおすすめ10冊を紹介。

7月に読み終えた本は31冊。

その中からおすすめの10冊を紹介!

 

 

第10位

『子供たちは森に消えた』

子供たちは森に消えた (ハヤカワ文庫NF)

子供たちは森に消えた (ハヤカワ文庫NF)

 

次々と子供が殺されていき犯人の手がかりさえもつかめない!

そんな映画みたいな本当の話を本にした一冊。

 何より驚くのは、こうした殺人事件が起こったのが1970年代!!とさほど遠い過去ではないことで、無論この時代では既に科学捜査なども行われていた。

にもかかわらずである。

舞台は当時としてソビエト連邦であり、読めばわかるは殺人鬼の異常さのみではなく当時のソビエト連邦の社会的背景。文化的道徳などもそうであって、けだしなにも「おかしい社会だった」とたんに言うのではなく、そこにある隠れ蓑としての理想と現実。

連続殺人が生じ容易に逮捕へといたらなかった経由こそ、本書のもうひとつの読みどころであり、社会的情勢による影響とひとえに言い切れぬほどの深爪を残す余韻は、ぜひとも実際に呼んで味わってほしいもの。

おどろおどろしいながら、これがノンフィクションというのにはやはり驚かざるを得ない。

小説『チャイルド44』の元ネタでありこちらのほうは映画にまでも。 

 

 

第9位

『ねじの回転 -心霊小説傑作選-』

 回転の話。

というのは大嘘で、ジョジョならびにスティール・ボール・ランが好きであるとどうしても回転のほうに目が行きがちになってしまうのだけど、内容としてはホラー。

というかある種のホラー文芸としての地位を気づいた有名な一冊で、どのようなホラーの小説なのか?前情報を仕入れず読めば納得、その独特さ足る所以はその独創性にあるのだと(2重の意味で)。

というのもまず読んでぽかんと置き去りにされ、読んだ後で反芻するようにじっくりと思い直せば「ああそういうこと」と表題作の意味も見えてくる作品であり、そして精神的な、倒錯さを表立たせた二重三重の文章構造はまさに本から手が伸びて掴んでくるようなメタ具合を感じさせる。

ということで本書は立体絵本みたいに恐怖の概念を本自体から浮き上がらせ迫り来るような怖さがあり、確かにこうした系統のホラー小説は稀有で『ねじの回転』なる作品が評価されていることもわかりやすい。

本書では他にも短編など収録されており、そちらもなかなか。

 

 

第8位

『マイナス・ゼロ』

 日本タイムとラベル文学の傑作!と名高い本作品は、その高名こそ存じ上げていたものの手付かず状態が続き、ここに来てようやく一読を。

 するとその評価の声にサムズアップを転覆させる必要はなく思え、いいね!とひとえにも二重にも思えたのは過去の、戦時前における銀座の町並みを鮮やかに描いたことでありその情景は見ず知らずでいるにもかかわらず妖艶に脳裏に浮かんでくるような艶やかな文章。

 タイムトラベル作品のまさに醍醐味とも言える時代変化の驚きとそして、もうひとつの醍醐味である時間軸に対する挑戦的表現としましては、これはまあなんと言おうか見事。

そう。確かに見事ではあるのであるのだけど、申し訳なくも思うのは今にして読んでしまうと多少古いなと思うのは仕方がないとして、その伏線回収的な展開には多少驚きもしましたけれど……。

こいつぁわ、すげぇや!ってほどまでには驚かず、ああなるほどと思うのはおそらく当時と比べればこうしたタイムトラベル物語が大量に発生し多くの跋扈したそれら作品のうち幾ばくかには目を通していたからであって、そこまで終盤の展開にも驚かず。

それでも最後の点と点がつながるような流れはやはり読んでいて気持ちがよく、ゾクッとしかけたのも事実。

 

 

第7位

『救い出される』

救い出される (新潮文庫)

救い出される (新潮文庫)

 

 アメリカの小説で、まさに中年版スタンドバイミーみたいな作品。

都会暮らしに辟易しては「そうだ、京都へ行こう」とはならず行くのは南部のリバーで川くだり。

四人連れ添っての遠出となり、発案者であり仕切るのは肉体的にも精神的にも優れる主人公の友人で、彼に誘われたわけで主人公はついてきた訳だ。さあカヌーでの川くだりを楽しもうぜ!とはじめるのだけれど、男四人何もおきないはずもなく…として生じるハプニングの数々。

この作品が当時のアメリカにおいて流行し、今においても感心してしまうのはおそらく、登場人物から物語の展開、用意した場所から場面にまで実に多くのものがわかりやすい”示唆”としての機能を果たしているからであり、これはまさに大人の童話。

教えられることが多く得るものが盛りだくさん、といったような作品というよりかは寧ろコンテキストの多様さを示すことで最後にメタ的にもハッとするような、そんな衝撃さもある作品。

あとは荒々しい自然の描写も特徴的かつ躍動的。

様々な小説のジャンルが入り混じっているのも特徴的であり、こうも多様な読み方をさせるのか!と読んでいてハラハラする事も受け合い。コンテキストの多様さは垣根を飛び越えそれはジャンルの分野にも飛び火する。

 単純に面白い小説でもあるのでお勧め。

 

 

第6位

『毒入りチョコレート事件』

毒入りチョコレート事件【新版】 (創元推理文庫)

毒入りチョコレート事件【新版】 (創元推理文庫)

 

この小説が面白いのは、従来の推理小説のごとく推理を読ませる作品ながらも他の推理小説とは一線を画しているのは、それが直接的ではないところにあって、それこそがまた読者との位置づけを確証付けている点にあるのだと思う。

推理クラブの面々が、実際に起きた事件に「では推論大会を開こうか」という内容の小説。

そこで語られるのはメンバーによる各々の推理で、 独創的なものから突飛なものまで様々。

 まさに思弁さにこだわりを感じる作品で、それこそ推理小説読者を意識している構成と言うのは直喩的にわかりやすく、メタ的な視野を没入させるような構造が面白い作品。

 

 

第5位

『現代マンガの冒険者たち』

現代マンガの冒険者たち

現代マンガの冒険者たち

 

 漫画の表現の可能性についてを、多くの漫画作品を例に挙げながら解説する一冊。

漫画ってこれほど表現に幅があったのか!とまさに目から鱗の一冊であって、文学で言うところの筒井康隆のような、漫画における表現の可能性について示唆する実験漫画作品の数々を紹介。

それ故にメタ的な解説も多く、ここで思いついた例えで言えば「漫画のコマである□それ自体を、重ねることで”ロロロロロ”という”ろ”という擬音としての文字に用いる」ようなもの。

つまり意識する表現としての遠近感、パースペクティブの概念を近づけたり遠退けたりしてくれるので読者のほうとしてはゆらゆら概念が揺らいで新しい地平が見えてくる。

意図された視覚効果として漫画がまず示すのは”絵”。

そして聴覚に訴えるのは擬音や台詞だろう。

しかし漫画に備わる表現効果はそれのみにあらず。

漫画はアニメに比べれば静止画でありボイスやSE、BGMなどもない。

だが、そうして制限されたうちでだからこそ、表現できる表現があるのだ。

そういった表現への挑戦を試みた作品や、または文学的な表現手法を用いている作品の紹介などもあって、本書はなかなか読み応えあり。

漫画好きの人にはもちろんのこと、漫画をよりよく楽しみたいという人にはお勧めできる一冊。

  

 

第4位

エッシャーの宇宙』 

エッシャーの宇宙

エッシャーの宇宙

 

著者がエッシャーの友人、ということもあってエッシャーの人どなりについてはもちろんのこと、様々な作品に対する思いや構成についてなども記述されているので各々の作品に対し「すげぇ!」と視覚で楽しみ「まじか!そこまで考えて作られていたとは!」と製作秘話を知って知覚的にも楽しめる一冊。

 収録されている作品はおおよそモノクロであったりはするものの、エッシャーの作品についての理解を深めるのにはなかなか最適な内容。

 読めば改めてわかる「エッッッッ!シャー凄い!」ということに他ならない。

ジョジョの荒木先生も影響受けてるなとわかる絵の数々もあって、無限的表現のあどけなさ。

 

 

第3位

『最終戦争/空族館』

最終戦争/空族館 (ちくま文庫)
 

個人的に好きで贔屓なSF作家である今日泊亜蘭(なんと素敵でセンスあるペンネームだろうか!!)による復刻短編集であり、内容としては掌編的な作品も多くショートショート的 。

時代を感じさせる作品や、シンプル過ぎるのでは?といったもの、または星新一との類似性を感じさせる作品などもあるが、しかし流石日本SF聡明期の大家!と唸るような作品もあって、収録作の中ではSF戯曲『怪物』が特に面白く感じ、その発想などは今に読んでも古臭さを感じさせず設定も展開も秀逸。

あとは表題にもある『最終戦争』などは味わい深く、これなどは一捻りも二捻りもある内容で最後には読者が「おおっ」唸ってしまうような作品。

そして異星人ものが多いあたりは時代性を感じさせたりも。

 

 

第2位

『スティーヴ・フィーヴァー ポストヒューマンSF傑作選』

スティーヴ・フィーヴァー ポストヒューマンSF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

スティーヴ・フィーヴァー ポストヒューマンSF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

 

良質なSFオムニバス。

人類の姿が(精神の形としても)将来的にはどのようになるか?を描いた12作品によって構成。

どれも安定した面白かったのだけど個人的に特に好きだったのは「人間の尊厳とは一体どこから生じる?クローンの自分もまた自分であるのだとすれば人権ってどうなるの?」と人間における個の存在性についてとその尊厳についてを思考実験的にも思弁するロバート・J・ソウヤー脱ぎ捨てられた男』は、ある種禅問答のようでもあり、また「SFってよく人間のクローンを容易に出すけど、それって実際になったらどうなのよ?」と従来のSFに対して皮肉的でもあって面白い。

時間の存在を存在性にへと還元させて示すのはデイヴィッド・マルセクによる『ウェディング・アルバム』で、これもまた素晴らしい作品。

カメラで撮って写真に写る像が、もしも写像それのみではなく写された時分のときの自分の存在性も記録できたとしたら。とするのは本作品の設定であって、今風に言えば被写体をバーチャルユーチューバーみたいにして保存しておける(それもその人物の人格も同時に保存!)技術がある時代の話で、過去のバーチャル体の時分と対面して今の自分と対談して「どうよ?」とする作品。

過去の自分と会うものながらタイムトラベルものではなく、そうした状況をファンタジーでもなくSFとして技術的に表現している点がまたすごい。まさにアイデアの勝利!

あとキャスリン・アン・グーナンによる『ひまわり』も特に良かった作品で、本作ではある能力が進化した人間の姿を描く。退行的な主人公の世界観。しかし希望を感じさせる未来への姿を彼らは浮かび上がらせ、読者には涙を滲ませるような目の作品。

マイクル・コーニイ『グリーンのクリーム』は意識を機械に移植させるという攻殻機動隊みたいな世界において、その意識を移植させた機械に旅行をさせる話。その観光地を運営する人たち視線から作品で「実際の体でなくて旅行するってどうなんだろう」として身体と意識について語る二元論的さはあるものの哲学さはライトで主はユーモラスさ。夕方にやってそうな30分アニメ並みのほんわかさある作品。

本オムニバスは他にもアイデア溢れる作品ばかりでどっしりSFしてるSFばかりながらも読み易さも相まって万人にお勧めできる良書。 

 

 

第1位

『ヒトはなぜ笑うのか』

ヒトはなぜ笑うのか

ヒトはなぜ笑うのか

 

今年に入って既に200冊以上は読んだけど、その全体からしても「第一位!!」と思えた圧倒的内容の一冊!!!

それほどに内容としては奥深く啓蒙あり、現代の聖書的な役割さえも抱く可能性を感じさせるパワフルな本。

どんな内容か?といえば表題がすべてを示しており、人が笑うのはどうしてか?を科学的にも哲学的にも考察していく。

そこでは「笑い」に対する様々な理論が語られていることはもちろんのこと、その都度に理論の例となるジョークが載せられており理論に学びジョークに笑うという意図的な情緒不安定さをもたらしてくる構成であり「ああ!なるほど!」と理論に感銘受ければ次にはジョークで笑っているという繰り返しに脳は飴と鞭のごとく有意義に刺激され、まさに「アハ体験」ならぬ「アハハ体験」。

笑いとは、実に身近で、身近過ぎるゆえ軽視されている重要な存在のひとつに思うので、この本はそうしたもやもやした部分を湿らせ、窘めてくれるのに良い一冊だった。

 「笑うのは体に良い」なんて言葉はよく聞くけれど、本書を読めば「笑うのは脳にも良い」なんてことも、難解さに見せる理論の全容を笑いが先導して示してくれるのでよくわかるはずだ。