『未来人の服装』
ほろ酔い状態にふとした思い付きあり。
勢いそのままにショート・ショート化してみた。
『未来人の服装』
コロナの収束は政府の想定どおりには進まず、自粛や規制を強制しようとも人類の完全なる勝利には未だ時間が必要なように思われた。
だがそうなるとより深刻な影響を受けるのは経済情勢であり、このままでは財政破綻は免れない。
こうしたトレードオフの状況下において、コペルニクス的転回的とさえ言えるひとつのアイデアが提示された。
「他人との完全なる断絶が不可能ならば、逆に接触しても良い環境を作ればいいのではないか?」
このアイデアを元に推し進められたのは他人との接触を考慮した、人々の変革である。
そしてこのアイデアがこれまでのものと大きく異なるのは、人々の意識を変革させようとしたのではなくまさに物理的な点にあったといえる。
科学者たちはコロナ対策として新たな服を作った。
服の材質には殺菌作用を持たせ、無論ウイルスに対抗するためには素材自体に付着しないことも必須であり特殊な人工繊維によって作られたその服にはたとえ飛沫して迫ろうともウイルスを引き離す作用が備えられた。
服は隙間なく全身に着込まれ、顔の部分だけが開けられるとそこには視界をクリアに保つため透明なフィルムが顔全体を覆うように宛がわれた。
そうして人々はこの服を着ることにより、ようやく感染の恐れをなくして自由に外へ出ることが可能となった。
経済活動は少しずつ回復し、環境産業も従来の賑わいを見せるほどに復興を見せた。
人類はコロナの収束を焦らず、じっくりとその脅威を減らしていく選択を選び、彼らはコロナとの一時的な共存を選んだのだった。
そしてこれが、「銀色の全身タイツを着た未来人」が蔓延った本当の理由である。