book and bread mania

-中途半端なサウスポーによる日々読んだ本の記録 + 雑記 + パンについて-

平凡な日常に変化を望むことの狂気性

常日頃、

変わらぬ毎日に嫌気が差しては口にする「何かないかな?」

そんな折、目にした言葉に、ハッとした。

 

アインシュタインによる、この言葉。

「 同じ方法を繰り返しながら違う結果を期待することは狂気である」

 

 

変わらぬ日常を自ら行いながら、そこからわくわくする未知の出来ごとに

会おうとすることの狂気性!

 

狂気、なる言葉の意味を広義に変えそうなほどのインパクトあるお言葉。

とすれば世の中には、想像以上に狂人が多そうだ。

「行動起こすべし!」

との囁きにも取れるし、僅かでも変化を起こしていく重要性を促すようでもある

短いながらも含蓄ある言葉!まさに経験者の叡智。

トップバリュグリーンアイの食パン『Free From pain de mie with olive oil パン・ド・ミ』

 

トップバリュのPBでこだわりある食パンを発見!

「マーガリン、イーストフード・乳化剤不使用」という、

消費者が喜びそうな謳い文句の連なりに魅力を感じ、思わず購入。

 

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マーガリン、イーストフード、乳化剤不使用という、

安価な袋食パンとしては珍しい仕上がり。

はたして、その味は?

 

 

 直に味わおうと、トーストせずに生で頂くことに。

 

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見た目。

普通。

けれど色合いは純白ではないように思え、

微かにオリーブオイルの色が出ているようにも見える。

気泡は随分と細かい。

そして手に持った感触として、クラム部分は弾力に乏しく、

柔らかさは目立たず、ずっしりと骨格を成して感じる。

 

 

食べてみると、

食感としては、そのまま食べると時間経過を思わせモサモサしている。

肝心の味について。

特徴はそれほどなく、けれど甘さは控えめ。

それでもリーンなパンと比べればやはり砂糖由来と思わせる鋭い甘さが舌につき、これ自体も一種の菓子パンかと思わせる。

然し他の市販されている食パンに比べれば幾分か甘さはおとなしく、そのまま食べても小麦の味は希薄だが、食事パンとして並べられるほどには甘さ控えめ。

 

 

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脂質控えめなのも食事に合わせるパンとしては優秀で、

微かに感じるオリーブオイルの味を堪能したければ生で食べるのも悪くない。

 

 

総括。

値段の割にはとてもしっかりとした食パン!といった印象。

 味のクオリティ的には他の袋食パンと大差ないが、マーガリン不使用でオリーブオイル仕様とのことで、栄養面では格差を感じ、この価格での栄養面を考慮すれば、お買い得でありお勧めできる食パンかと。

 

パン屋のおやじは考える

 

パン屋のおやじは考える (1979年)

パン屋のおやじは考える (1979年)

 

 新書サイズの本であり、一瞥して「自己啓発系の本かな?」との思いも過ぎるが、

パン屋主人の著書とあって興味が沸き、一読することに。

すると内容としては、注目に値するパン関連の含蓄があり、

なかなか読み応えあった。

 

著者である望月継治氏は『神戸神田精養軒』の社長であり、

事業拡大に成功した功労人!

そうした経歴の中、パンに対する思いを述べる際、

情緒的な思想を主立てず、健康や栄養に関しての観点から述べる内容であり客観性を多少なりとも感じさせる構成。

 

その中でも注目なのは、『クネッケブロード』と呼ばれるスウェーデンのパンに注目している点。これはビスケット状のパンで、ノルウェースウェーデンでの学童給食に採用されたパンとのこと。

その理由が注目に値し、結論から述べれば、

良く噛む食習慣を小学生時代から身につけさせるため。

 

それでは別にこのパン以外でも良いのでは?

との疑問がわき、然しこのパンの魅力は固さのみならず。

虫歯予防でもあり、その理由に訳がある。

 

虫歯にならない理由は、

①噛むことにより歯に圧力が加わりエナメル質を丈夫にする。

②噛むと唾液のアルカリ度が強まり、口中に残る炭水化物が発酵酸化して歯を損うのを中和する。

③全粒粉製品は酸化を抑える働きがある。

ライ麦にはふっ素が含まれている。

⑤噛むことにより唾液腺ホルモンが分泌され、

⑥ふすま、胚芽が入っていてビタミンBやEなどが豊富

 

つまり、『クネッケブロード』は健康長寿の一因とされる要素を兼ね備えている、ということだ。

著者は 本場の工場を見て周り、着想を得て日本での生産も実現させたそうだが、このパンのことはあまり耳にしたことがない。どうなってしまったかは気になり、著者が思惑したようには昨今の日本で見られず、残念ではある…。

 

ノルウェーでの朝食、通称『オスロの朝食』は世界一と呼ばれるのだと、本書を読み始めて知った。

この『オスロの朝食』では、クネッケと20種類の副食のあるバイキングスタイル。

冷たい料理で予め準備ができるため多種類であり、食べる人がそれぞれ選択し組み合わすことができる。その内容は決して肉に偏していなく、漁業国なので当然魚も利用する。脂肪摂取量がアメリカとあまり変わらないのに、冠動脈硬化疾患がアメリカの3分の1!

つまり当時からノルウェーは国民栄養政策が進んでおり、先進国であった模様。

その影響と衝撃を詳細に綴り、本書内ではその和食版をぜひとも日本において普及させるべき!としている。

 

 

昨今では一般に向けても徐々に有名になりつつある

 『シュタインメッツ粉』

をいち早く取り上げているのも印象的。

その解説も充実しており、

 

1890年ドイツ人シュテファン・シュタインメッツは、穀物の命を守るために立ち上がった。彼は穀物の微毛と果皮だけを除去して、穀物の生命力を全て利用する方法を考え出した。

微毛と果皮は穀物の生物的栄養統一体には属さない。

それは本来の種実を保護する外壁にすぎない。

では種子を傷つけずに保護器官だけ除去できるのだろうか。

それを彼はやってのけた。水と空気の力を借りて。

果皮は吸水性があり、種子は耐水性がある点に彼は着目した。

穀物に一定の時間一定の水分を吸収させる。

果皮は水分を吸収してふやける。

種子はまだ水を吸収していない。

その間に穀物穀物を揉み合わせ、ふやけた果皮をほごす。

圧縮空気を吹き込み、果皮の離脱を促進させ、逆に空気を吹き出して果皮を種実からはぎ取る。かくて乾燥状態で種皮以下の本来の種実が取り出せる。

それをひいたものがシュタインメッツの完全穀粒粉なのです。

 

この完全穀粒粉なるシュタインメッツ粉を生み出すための歳月には十年を要したという!さらにこの方法は栄養面に優れるのみならず、公害汚染排除に極めて有効であることが判明したそうである!

穀粒全部をひいたパンでは、栄養に優れているが汚染除去にはならず、そのまま全てを食べてしまうことになる。

そうした観点においても、シュタインメッツ粉が当時においても如何に前衛的であるか

を知らしめた!

これらを包括し、シュタインメッツ処理した国産小麦におけるパンが、日本において最も安全で健康的なパンであり、それが一種の理想のパン!とのこと。

同時に、国産小麦は貯蔵するとき殺虫剤の燻蒸をしていないことを褒め称え、日本小麦を使用することの重要性と、パンとは本来、地産池消のものを使用して作るものだと訴える。

 

パン用小麦というとすぐ蛋白質の良し悪しを論ずるのが通説。

強力小麦はグルテンがよく伸びるのでボリュームが大きくなる。

だが蛋白質は味がない。

味は澱粉の良し悪し。

だからパンの良し悪しをボリュームで決めるか、味で決めるかという根本的な問題にぶつかる。

 

これも印象的な言葉で、一方では未だに大きいパンを良しとする風潮も。

けれど、当時と比較すれば、随分と味のほうへと着目されてきているのは確かであり、ハード系のパン専門店が軒並み増え続けているのは喜ばしいこと。

 

 

他には、一般層向けに綴られた内容が大半を占め、栄養素に対しての概要を述べ、食生活における注意点、当時から既に蔓延り始めた欠乏栄養素による弊害を次々にあげる。

アメリカのような偏りある生活によって引き起こされる生活習慣病についての危惧を語る内容は、当時からすれば随分と前衛的であり、現代ほど健康習慣についてや食生活に関してのガイドがなかったと思うと、パン屋という枠に捉われない先見が計り知れる。

また、家庭での食卓においてしっかりしたものを出さないのに、給食にはけちをつけるとは何事か、との主張は尤もであり、現代においても同様のことがあると思えば苦笑しそうになる。

 

最終的に、作物とは米にしろ麦にしろ、それらを食べるのではなく、「その土地の土を食べている」としたのが印象強く感じ、風土という物の概念を忘却しつつある現代人への戒めにも聞こえた。

 

他に印象的なのは、迷い箸の推奨。

迷い箸とは元来、行儀の悪いものとして非難の対象であるが、

「迷わなければ学べない」とし、

 

食べる人自身が色々と組合せて味を創り、味を発見する能力を高めることが、自らの場、食べる場を作る前提条件だと思うのです。

 

と主張する。

既に味を付けられた出来合いのものばかりを選び、ただ愚直にそれを食べるのではなく、自分の意思を持って、食材を組み合わせて食べることの必要性。

 

つまりは食卓においての自立性!

この重要性を幾度となく主張していた。

 

本書は食に対する概念や価値観、また農村や田畑に対する思念も語っており、

パン屋だけれど思想はパン食についてのみならず。

幅広い含蓄を露呈し、健康な食とは何か?また、健康な食卓とは何か?までも語り、

食という行為の意味と付随する栄養に関しての意見が満載。

思いのほか収穫のある内容の一冊ではあった。

 

眼球譚(初稿)

 

眼球譚(初稿) (河出文庫)

眼球譚(初稿) (河出文庫)

 

 バタイユ、という名は聞いたことあれど、

あくまでその程度。

 

どういった作風なのかも知らず、

読むと驚嘆するばかり。

 

内容としては、端的に述べると、

主人公とヒロインであるシモーヌとの色情を綴るものであり、

よもや否定のしようもない変態話。

 

物語自体が、良くも悪くもぶっ飛んでいる。

ここまでの変態が居るのかと一応に驚かされ、吉良良影が可愛く見えるほどの性癖。

「元気いいねえ。何かいいことでもあったのかい?」という某有名な言葉が思わず浮かぶほどには、作中の彼らは元気いい。

そのやんちゃっぷりは果てしなく、血気盛んな野生動物という表現を当てはめたくなるが、そうしたところで野生生物から「俺たちはこれほど不埒じゃない!」と怒られそうなほど、作中の人物は性に対して獰猛!

 

そして解説での言葉ひとつがとても腑に落ちた。

この作品では、人の沈黙した部分を描くが、そこに見出すのは嫌悪ばかりでなく、寧ろ秘められた思いであり、故にこれは生命体を躍動感あるように描いた傑作!

との解説は、なるほど的を射ているなと思えた。

 

こうした禁忌的なものを堂々と描き、人間の獣さ、獣以上の素性を描き、それを本能とするかイカれたものと思うかはそれこそ教育やその読者の人生による思想に基づくものであり、後天的要因も強く影響するだろう。

そこでの道徳的価値観こそが、本作に対して共感を生むかどうかの瀬戸際となりそうではある。

だが本作の凄いところは、こうした局地的な共感はどの作品にも当てはまるものでありながら、まごうことなき不埒で逸脱した内容の本作も、受け入れられる可能性を十分に示唆しているということに他ならない!

それはこうした作品が世界で認められている事実が示すことでもあり、同時に、このあまりの突拍子のない物語に、多少なりとも引き込まれ興味を抱いてしまうという表象に帰結させられるだろう。

 

それは古来から言う「怖いもの見たさで…」といった言葉にも集約され、

ガタの外れた色狂いにもはや別生物、SFに見えるほど。

人間の思考力とは恐ろしいものだなとある種、実感させてくれる物語であり、生命の色を何で見て、何処で見極めるのか。それを端的に示すような作品。

 

そして、著者の情緒、まるで脳を鋭利に掻き出して見せるかの如くして描く登場人物たちは、実に丁寧かつ繊細に描かれ、著者の思考そのままを呈し脳髄を見せびらかされたような心地にすらなる。

 

深い浅いといったカテゴリーの作品ではなく、単純に躍動する肉体を描く作品であり、

そこに深い意味はないように思える。

例えそこに心理学的要素を示唆していようが、その示唆していると思い込む誤謬こそが、心理学的倒置を示し、一種の錯誤的要因なのでは?と思わせる作品。

 

情緒豊かな変態とは如何に。

 

いや寧ろ、変態だからこそ感性が豊かなのかも知れなく、常識人に呼ばれる抑圧された人種を隔てる作品。

読み応えというよりは、あまりの非現実性に引き込まれる作品。

 しかしそれらが一応に、実現不可能ではないということがSFと一線を引き、そして読者を慄かせる!

 

球体の神秘性を感じる作品でもあって、禁忌の元ともされる”球”に魅せられる人間心理の描写作品とも呼べるので、心理的傾向のみならず、図形を好む数学好きにも良いのでは、とつい思える作品。

 

熱量が凄い作品であるのは間違いない。

 

そして、人間は内でどんなことを秘めているか、思いを馳せれば混沌とさせる作品でもあった。

面白い、というのは弊害あり。

ページ数は少なめで、文字数も決して多いほうではない。

それでも内容は、色々な意味で蜜だった。

 

2017年 北欧倶楽部のパン

 久々に1個95円と安価が売りのチェーンベーカリー、

北欧倶楽部でパンを購入!

 

二つを購入し、

まずひとつ目は、

新作と書いてあった『たまごパン』。

 

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惣菜生地にタマゴサラダを入れ、パン粉をまぶして焼き上げた一品、とのこと。
大きさは20cmほどあり、なかなか大きめ。

持つと生地はふんわり柔らかく、容易にへこむ硬さ。
見た目にはトッピングにケチャップとマヨネーズ。
食べると生地はふんわり柔らかく、長く捏ねて最大限に膨らませたような味の生地。

風味は希薄で、あるのはボリュームのみの日本らしいパン生地。

フィリングには一口で到達せず、ケチャップマヨネーズで味わう仕様。しかしそれらの味が案外濃い。

食べ進めて中央部分にようやくタマゴサラダ。
角切り卵白が見える、具だくさん感を示すタマゴサラダで、

マヨネーズ主体のまろやかな味。

ドッグパンに挟まれているタマゴサラダとほぼ同一と言って過言でない味だ。

全体的にはチープながらも普通に美味しく、甘めの万人向けタマゴサラダフィリング。
しかし量は少なめで、中央部分に片寄っており、

中央部分においても生地の両端には入っていないほど。
パン自体の大きさはあっても膨らませた生地なので食べ応えは薄く、見た目の割にはボリュームはない。

それでも全体としては味が濃い目でまあまあ美味しい。
値段を考えれば、一応はお得かと。

しかしやっぱりタマゴサラダの少なさが目立つ!

名前に”たまご”とあるだけに、もう少しタマゴサラダが入っていればより良かった。

 

 

二つ目は、

『クリーミーロール(ミルク)』。

 

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フランス生地に練乳クリームが入っており、

練乳フランスのような一品。

 

1本はけっこう長さがあり、おおよそ30cmほども!
生地は手による感触として固めで、ソフトフランスよりも強固な印象。

 

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中身のクリームは練乳とあるけど黄色を帯びカスタードっぽい。

あと生地の内層としては気泡が目立たず、フランス生地としての見た目にはイマイチ。

食べるとクラスト少々硬く、サクッと感は微々。

クラムは柔らかくもちっとしているけれど、ソフトフランスのようにねっとりもしていて歯切れは微妙。

生地全体としてソフトフランスより歯応えはあるけど、それだけであって生地自体の味は薄く主張に乏しい。

フィリングのクリームは色合いどおりにカスタード風味もあるクリーム、甘めで普通の味。

全体的には整ったB級、といった印象。

バランスは悪くない。

市販の袋パンと比べれば当然美味しく、

値段をみれば納得の出来。
生地に対するクリーム量のバランスはとれている一品なので、

万人向けに仕上られた、価格安い優等生的パン。

あと生地の引きは意外としっかりあり、

もちもちとした食べ応えは多少あり。

お買い得の一品であるとは思う。

  

笑ったラジオねた

 

 

爆笑したラジオでの投稿ネタ。

 

 

前前前立腺を攻め立ててくれた風俗嬢に「君の名は?」と尋ねる。

 

JUNK 伊集院光 深夜の馬鹿力

 

 

もう一つも深夜の馬鹿力において、

投稿ネタの 

「移民の歌のような喘ぎ声の女…」

の一文にやられて爆笑。

 

移民の歌  レッド・ツェッペリン

 

 嫌過ぎるw

けれどネタAVで、

このラジオネタを入れた作品あれば、観てみたいww

 

 

 

ビゴさんのフランスパン物語

 

ビゴさんのフランスパン物語

ビゴさんのフランスパン物語

 

 日本に本場フランスのパンを伝えたのがカルヴェル氏なら、日本に本場フランスのパンを普及させた功労者こそフィリップ・ビゴ氏。

本書は、そんな彼についての半生を綴った内容であり、

フィリップ・ビゴというユーモラスなフランスパン伝道師の人柄を知れる一冊!

 

 本書は氏の半生のみを綴るのではなく、平行して日本におけるパンの歩みも紹介。

そこではパンに関する本質的な解説も成され、粉の違いによる出来栄えの違いについて、また、本場フランスではどの程度の灰分比率の粉が、パン用として適切とされているか?

蒸気入りの窯が登場したのはいつ頃か?

など記載されており、なかなか興味深い。

よって本書はパンの勉強にもなり、

同時にそれはビゴ氏が日本のパンの発展に大きく関与している事と相関する。

 

そして、本書の芯である、ビゴ氏の半生について。

そこで見えてくるはパンを慈しむ姿であり、そして意外なのは洋菓子の発展にもビゴ氏が貢献をしていたということ。

パン職人であると同時に、優秀な菓子職人でもあったビゴ氏。

当時の日本においては、まだ洋菓子に馴染みが薄く、黎明期であったことを示す象徴的な、当時の現状が述べられている。

 大きなエクレアを焼き、底にカスタードクリーム、その上に生クリームを絞り、間に皮のついたメロンをはさみ、上にチョコレートをかけ、アーモンドスライスを散らすといった具合だ。

おいしいものをぜいたくにお客さんに食べてほしいというサービス精神のあらわれなのだが、これではいったい何を食べてもらいたいのかがわかりにくい。 

 

これに対してフランスでは、

 チョコレートのエクレアには、必ずチョコレートのカスタードが詰められ、きちんとチョコレートのフォンダン(砂糖、水、水あめを煮つめて、ペースト状に練り合わせたもの)がかけられている。 

 フランスでは素材それぞれの持ち味を損ねないように工夫されており、

すべての素材に協力させて、全体の完成度を高める。

そうしたことに、当時の日本人は気付かずに居たとのこと。

 

そこでビゴ氏が語る印象的な言葉は、

 フランス人はまず「おいしくするために」と考えるが、日本人はまず「目に美しいもの」、だから若い職人はすぐにデコレーションを担当したがる。 

こういった現状を目の当たりにし、

「おいしいものと基本を大事にすること」を、言い続けたそうだ。

 「目に美しいもの」を求めがち、というのは日本人の気質が表されているようであり、感慨深い。

 

  

また、本書内にはバゲットのレシピも記載され、さらにパン・オ・ルヴァンやクロワッサンのレシピも!

クロワッサンでは、由来の小話に少し驚く。

それは、クロワッサンが三日月由来の形であり、ウイーン生まれとは知っていたが、このときのクロワッサン、なんと今のような折込の発酵生地ではなく、ただの発酵生地を使用したパンだったとのこと!

現在の、折込生地使用のクロワッサンを考案したのが、パリの職人!つまり現在の、軽くて繊細かつバターの風味がたまらなく美味しいクロワッサンは、フランス生まれ!

 

 

本書を読み、

一読して思うのは、ビゴ氏は古風な職人気質であるということ。

「時間」と「味」を問われれば、迷わず「味」のほうを選択し、

それに伴う長期労働はなんのその。

 一見すれば、とことん質にこだわる立派な職人で、

もちろん、そうした姿勢は素晴らしく、賞賛以外の言葉を送れば咎められるだろう。

けれど長時間労働を全肯定し、

「これこそ一流!」

と謳われようが、

そこの部分を一概に褒め称えるのは、果たしてどうなのだろう?ともつい思う。

 

仕事の量と質、このバランスがどうかという問題は難しく、そんなジレンマに浮かぶ解決案としてひとつ。

結局重要なのは、

長時間労働を苦と見るか、それとも「長時間労働だった?」と時間を忘れられる仕事かどうか」

であると思う。

職に対する向き・不向きの適正の見極めは、結局ここに帰結するのでは?

そういった意味では、一読するとビゴさんにとってパン職人はまさに天職!

こだわりが著しく、そこに楽しさ見出す姿勢から、そう思える内容であった。

 

 

 最後に、

氏の人柄を表す、なだいなだ氏との粋なやり取りが引用されており、

その部分が特に印象深かったので紹介。

 

ここのお菓子も、日本風になったフランス菓子でなく、

パリの街角で見られるお菓子である。

 

省略

 

目を楽しませるお菓子もある。だが、これは芸術品に近い。菓子職人が、時間をかけて、ファンタジックなもの作るのだから。夢を買うみたいなものだ。

「高いのだろう」と言ったら、

フランス人の職人君、答えた。

「原価は安いものだがね。だがあんたは、作家だが、紙とインク代だけで、原稿を売るまい」。

なかなか味のある返事だった。

 

言うまでもなく、この職人君こそフィリップ・ビゴ氏のこと。

ユーモアとエスプリの効いた心地よい返し。

ここにも、氏の魅力的な人柄が表されていると思う。

パン職人も菓子職人も、クリエイターであることを再認識させてくれる。

 

おおよその物は、原価が安い。

そこに付加価値つける者こそ職人で、白紙の中には無限の可能性。

それは、パン職人然り、ということだ。