ふと思い付いた、ちょっと落語のような小話
ある男が、一級品の肉がありうまいと評判の店に足を運んだ。
しかしステーキが運ばれいざ食べてみると値段ばかりが高級で、その味は至って普通。
値段と釣り合う味ではなく、不満を抱いた男は我慢できなくなってとうとう給仕に尋ねた。
「ここは肉がうまいと聞いてきたんだが」
「ああ、それでしたら」
給仕は尋ねられ慣れている面持ちで壁のほうを指差した。
そこには一枚の絵画が飾られており、写実的に描かれたステーキが丸皿をモチーフにした額縁によって収められている。
「見事な肉の絵でございましょう」
「なるほど、上手い肉とはあれのことか」
「そのとおりでございます」
「まるで頓知だな」
真相を知った男は感心するようにも、呆れたようにもなってそう感想を漏らした。
それを聞いて給仕が最後にこう言った。
「いっきゅう品の店ですから」