book and bread mania

-中途半端なサウスポーによる日々読んだ本の記録 + 雑記 + パンについて-

烏有此譚

 

烏有此譚

烏有此譚

 

人は犬にはなれないのだから、犬の気持ちはわからない。

しかし、犬の気持ちをわかろうとすることはできる。

そこには、はたしてどれほどの齟齬があるのだろうか?

当然、それもわからない。

犬にはなれないのだから。

 

この小説はそう言った概念の限界を試す、思考実験的小説でもある。

 

端的に言えば、『穴』

 

自分が『穴』になったら、あなたは何を思い、何を感じるか?

そして、何を考えるか?

 

未知の世界を経験させてくれるのであって、

未知の体験をさせようとしてくる。

難解に思えるのは、それが理解できない物だからであり、

人間なのだから理解できないというのは当然。

 

故に、理解できたのだとすれば、そこであなたは『穴』になる。

 

そんな小説。

摩訶不思議ながらも、その不思議さが痛快ならずとも実に愉快。

読み応えあり。

個人的には好きな作品。

けれど、おすすめはできない。

 

歴史は「べき乗則」で動く

 

歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

 

 なかなか複雑な内容。

だが面白い。

 

べき乗則」とは物事の臨界状態から生ずる結果における、統計的規則。

 

カオスという概念は、単純な物事が複雑である事を教え、

臨界状態という概念は、複雑な物事が単純な振る舞いで成り立っていることを教える。

統計的法則である「べき乗則」は、地震や災害を“いつ起こるか?”を、

明確に示す事はできない。

けれど、“なぜ起こるか?”

ということならば明確に示す事ができる。

 

一見してカオス的、ランダム的な物事であっても見方を変え、フラクタル的観点から検証すると、そこにはある一定の規則性が見出される。

 

 

そこで思うのは、

この二つの近似性。

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これは、脳の神経細胞と宇宙の画像を比べたもの。

一見して似通っており、この近似性を思えば、

もしかすると人の脳の神経細胞と宇宙は、

構造こそ違えど、そこには共通の規則性があるのかも。

とするとここにも「べき法則」を当てはめられるかもしれない。

 

そうして思えば、脳の細胞と宇宙、実は共通の単純な規則性があって、将来、この「べき法則」の発展によって、宇宙の謎が解ける日がくるかもしれない。

 

 

あと、この「べき法則」は様々なところで見ることができ、地震の頻度や火事の発生率、株の動きにまで応用が出来るもの。

この「べき法則」、物語などの製作分野においても活躍が期待でき、大ヒットの要因こそ明確に分からずとも、”なぜ大ヒット作が生まれたか?”は解明できるはず。

エンタメ方面での活躍も、期待したいところだ。

 

複雑である物事は、実際には実に単純。

そんなことを述べる内容に対して思う印象、複雑な内容だな。

相反する意見は、それこそカオスなのかもしれない。

そこにまた単純性を見出し…。

メビウスの輪だけれど、その輪を逸脱させてくれる物こそ、

トーマス・クーンが言うところの「革命」なんだと思う。

 

スキエンティア

 

スキエンティア (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

スキエンティア (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

 

 絵が綺麗めで、人情メインの、藤子・F・不二雄の短編作品といった印象。

「そこまで違うなら、それはもはや藤子・F・不二雄風と言うのは間違いでは?」とも思うが、最初の話「ボディレンタル」の内容が、藤子先生の「未来ドロボウ」に似ていたため、ついそう思う。

 

読み終え先ず思ったのは、シンプルに「面白かった!」ということ。

内容としては7編からなるSF短編で、どれもが感動をテーマにしていると言えるほどには、涙腺を刺激させるツボを突こうとしてくる。

 

その内の一作「ボディレンタル」は、

世にも奇妙な物語の原案として採用された作品でもある。

あらすじ。

絶望して死を意識した若者が、自分の体の自由を他人に譲り…。

よくある ”年老いてから体の自由がきかず、そこで気付いた、自由に動ける体って凄い!若いって素敵!” というのを訴える作品。

シンプルな展開ながらも万人向けの絵と、テンポの良さによって引き込まれ、歳とって涙腺が膀胱と一緒に緩くなった中年なら、号泣するであろう内容。

 

ほかの作品も一応に完成度高く、

「媚薬」という作品では人の繋がりが齎す幸福を描き、

「人間の幸せってやつは物では満せない、心だろ(ドン!)」なんて某漫画みたく主張する内容、嫌いじゃない。

 

「クローン」、「ドラッグ」という作品では親子の愛をテーマに描き、それぞれ”母親による子への慈しみ”と、”毒親と娘による話”。実に両極端。

極端すぎて、互いにシーソー乗せれば均等とれるであろうほど!

 

「覚醒機」成る話は、けっこう印象に残り好きな作品。

アルジャーノン風の物語で、違うのは、天才になるのが主人公でなくその友人、といった点。

「天才になれる機械があるぞ!」とマッドサイエンティストが提唱し、しかし副作用は寿命が大幅に縮まるという、ダイジョーブ博士でも真っ青の欠陥。

そこで戸惑い断念する主人公。

友人は反対に「使う!」となって、ヒュー!と見送る主人公。

それから疎遠となっては天才友人いきなりメジャーデビューし、ヒット曲連発!

主人公、自分の才能を信じて、夢は散る。

かなり字余り川柳ながら展開そのままで、夢を諦める。

そうしてバンドは諦め、高校デビューならず社会人デビュー!

恋人と普通に結婚、一般的な幸福を手に入れたところ、

残り寿命が僅かとなった天才友人と再会。

そこで交わす会話はクールで、さあてこの場合、幸せなのはどっちかな?

というのを示す結末。

 

あと「ロボット」という作品もあって、マグロ作品。

けど情緒深いよ!これはこれで。

 

総括。

どの話も短いながらも、綺麗にまとめられており綺麗な終わり方。

丁寧な折鶴の如く見事に折られ畳まれた内容の作品。

伏線を広げ過ぎて、ぐちゃぐちゃとなったのを最後、無理やり折鶴にしたような折り目の汚さなく、伏線ただっ広げては最後に無理やりまとめるお前の事だよ○○!

 

なんてことはこの作品にはなく、

絵本にしようと違和感ない美しい話ばかり。

奇をてらい卑しく感動を狙うのではなく、あくまで正攻法。

優等生的人情SF作品。

評価が高いのも納得の一冊だった。

 

傷物語

 

傷物語 (講談社BOX)

傷物語 (講談社BOX)

 

 正月に映画『傷物語Ⅰ 鉄血篇』を観ては、そのあまりの短さと内容の乏しさに失望。

 

「もう映画じゃなくていいや…」と原作本に手を伸ばし、ようやく読んだ一冊。

 

感想。

 

一概に「とても面白かった!大名作!」とまでは言えないが、

上手い具合にまとまっていたな、という印象。

 

中盤までの流れは正直ありきたりで、会話劇もあまり広がり見せず読ませず。

登場する刺客三人とバトルは、その顛末までを含め、あまり盛り上がりを見せず、高揚感は希薄。

 

しかし終盤からはグッと持ち直し、盛り上げる内容。

本書は倫理観に問い掛ける部分が多く、故に従来の物語シリーズと違い、登場人物同士の会話を楽しむのではなく、倫理について主人公と読者が会話を繰り広げるような、読者に対する問い掛け多いのが特徴的。

主人公に感情移入と同時、その思想を吟味し会話の如く反駁すれば、読み応えあり。

 

 

話の結末には色々な意味で意表を突かれた心地。

 

 

然し内容を反芻すれば、そもそも最初に○○すればいいのでは?との疑問は当然浮び、そういった理不尽さこそが元○○、という設定を生かしているのだろうか、とつい思う。

 

よって、この物語はストーリーに整合性ばかりを求める読者には茶番に映るの請け合いで、結末までの顛末に含まれる面白さには気付き難いのでは?

ただ最終決戦の描写は分かり易く迫力あって、誰しも楽しめるハチャメチャ具合。ここは是非とも映像で見てみたくなる内容だった。

 

 

主人公が最初に語る、“この話はバッドエンド”。

然し ”バッドエンド=後味悪い” といった概念を良い意味で払拭、もしくは”何をもってバッドエンドとするか?”と問い掛けるような内容。

それこそ作中において幾度も語っていたように、結局、物事の良し悪しは、見る立場によって大きく変わるのだと体感させてくれた。

見事。

読み応えのある作品であったのは間違いなく、なかなか楽しめた。

けれど、妙な卑猥描写はいらなかったのでは?と誰もが思であろう事を、思わずには居られなかった。

古典名作『シュリ』が、「一ヶ所として軟弱なところ、冗漫な文章、陳腐な表現もない」とジッドに言わしめたが、もしこの傷物語を読ませれば「冗漫な文章ばかり!」とジッドに言わせるだろう。

尤も、それは物語シリーズにとっては、褒め言葉でもあるのだけれど。

 

2016年に読んだ本でのお勧め

 

去年2016年に読み終えた本は436冊。

 

乱読ゆえ、良い本もあれば、当然に駄本もあるし、屑本も。

さすれば良い本という定義は千差万別で、どれもが甲乙つけがたい内容。

よってここでは順位式ではなく、印象に残り「面白かったな!」と思う、良本をいくつか紹介。

 

 

 漫画

『半神』

半神 (小学館文庫)

半神 (小学館文庫)

 

  内容の哲学的示唆の強さ!

「ああ、この作品は凄い!魂の琴線を刺激された!!」

等と俗的な感嘆をしそうになる作品の数々がぎゅっと収められた短編集。

特に表題作がおすすめで、読み応えあり。

 

 

 

童夢

童夢 (アクションコミックス)

童夢 (アクションコミックス)

 

 想像以上の迫力に、ただただ圧巻された。

世界観はもちろんのこと、超能力の暴力的表現に当時の漫画業界は激震したそうが、その理由も納得。

画、のみで見せ付けるその圧倒的な力!とんでもない迫力、それでいながらコマの流れはスムーズで、漫画なのにまるでアニメを見ているような錯覚さえ感じるほど。

”とても良い作品”ではなく”とても凄い作品”。衝撃的。

 

 

 

スターダストメモリーズ』

 想像以上に面白かった。

骨組みしっかりしたSF漫画で、短編集でありどの話にもはずれなし!

どの話も深く、SF小説を呼んでいるかのようなアイデアの豊富さ!

SF好きとしては買って損のない一冊で、哲学的な作品も含み充実した内容。

中でも「セス・アイボリーの21日」は圧倒されるものがあり、そのアイデアと表現力には短いページの作品ながらも鳥肌が立ちそうになったほど!

考えさせられる作品であって哲学的。

 

 

 

トーマの心臓

トーマの心臓 (小学館文庫)

トーマの心臓 (小学館文庫)

 

 想像していた以上に難解、詩的でもあり散文的でもある。

中身の深さ、繊細な心理模写も豊富でもあり漫画とは思えぬ作品。

凄い漫画だなと思ったのは確かで、漫画であると同時に一つの芸術作品にさえ思えた。一読のみでは理解し切れず、己の感受性の乏しさを覚えさせ、後々になって読み返すとまた別のことが分かるスルメ作品。スゴ漫画だった。

 

 

 

自虐の詩

自虐の詩 (上) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)

自虐の詩 (上) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)

 

これはジョジョにも負けず劣らずの、実に素晴らしい人間讃歌の作品だった!

 

 

 

『ぼくらの』

ぼくらの コミック 全11巻完結セット (IKKI COMIX)

ぼくらの コミック 全11巻完結セット (IKKI COMIX)

 

 人間としてのモラル、善悪の概念を問いただすかのような内容、読み応えあり。「『死』を考えねば、『生』を考える事も出来ない」といった言葉は使いなさられた言葉に思えながらも、毎度聞いても響くのは、そこに真理があるためだと思う。

人の死や生について、考えさせる一つの手段、手法として実に見事な作品だったと思う。良い作品だった!

 

 

 

 

パン本

『パンの世界 基本から最前線まで』

パンの世界 基本から最前線まで (講談社選書メチエ)

パンの世界 基本から最前線まで (講談社選書メチエ)

 

 パン作り手にとって、実に読み応えあり内容。

特にこの著者である志賀 勝栄さんの作るパンは特殊であり、パンによっては加水率が100%以上なので驚いた!そんな生地、まとまらないだろうと思い読み進めると、そういった生地は20分以上も捏ねると書いてあるでまたも驚く!

これまでの常識を覆されるアイデアの数々、パン作りに関して新たな視点を持てるようになる一冊!

 

 

 

『パン (文庫クセジュ 389)』

パン (文庫クセジュ 389)

パン (文庫クセジュ 389)

 

 古書の分類。

時代柄か、パンの衛生についての項目がけっこうあり、当時のずさんな衛生状況を思わせ興味深い。

後半にはフランスでの、パンに対する法律も述べられており、如何にパンがフランスでは身近で重要なものなのか分かる内容。

あと、今現在と名称が違うパンがけっこうあり、それが印象的。特にバゲットなどの細長いパンを“フィンガーロール”や“ウィナーパン”と称していたというのは面白い。

 

 

 

『パン入門』

パン入門 (食品知識ミニブックスシリーズ)

パン入門 (食品知識ミニブックスシリーズ)

 

 新書サイズの本ながら、内容は随分と本格的に製パンについて述べてあり、驚嘆した!

中でも、製パンにおける“グルテン凝集物”に関する解説が細かくあり、実践的な製パン知識が豊富に述べられている。

これを読み理解すれば、パンチの効能やモルダーへ生地を通す際の厚さなども理論的に調整し、その行為の意味を理解できる内容。

故に、これはパン入門とあるが、パンの教科書のようなものであり、製パン理論が豊富でパンつくりには実に役に立つ一冊!

あと「パンとは気泡膜を食べること」と定義していたのは個人的に少し衝撃的。

そしてホイロについての記述も充実しており、イーストフードの解説もこと細かく、還元剤や酵素材などその名称から機能、仕組みまで詳しく解説してあり一読ですべては把握しきれないほどに内容は充実!

他にはパーベイクや生地玉冷凍法などについても述べており、それら手法の解説のみならずメリット・デメリットも記してあり、とても勉強になる。是非とも手元に置いておきたいと思わせる製パン本。とても良書!

 

 

 

『人間は料理をする・下: 空気と土』

人間は料理をする・下: 空気と土

人間は料理をする・下: 空気と土

 

 これは上下巻のうちの下巻だが、独立しているので下巻のみでも問題なし。

そして下巻は内容にパンがあり、全粒粉パンについての視察・解説が実に充実。

小麦を精製する際における、胚芽とふすまの関係、酸化による影響について等を詳しく述べており勉強になった。

そして、アメリカの大手パンメーカーの現状を描いている点も興味深い。

精製されたホワイト食パンを、還元的方法で栄養添付する姿勢は文化を反映しているようでもあり面白かった。

パン作りにおいては、その感情を表す言葉が秀逸で、

著者は実際にパン作りへトライし、

「パンつくりが官能的だとは知らなかった」

といった名言も。

「良いパンとは何か?」との定義にも、一つの明確な答えを呈し、

「良いパンって言うのは、食べたときに、口の中がパサつくか、もっと食べたいと潤うかで分かる」

と向こうのプロが語っていたのが印象的。

 

 

 

 

ノンフィクション

『書くことについて』

書くことについて (小学館文庫)

書くことについて (小学館文庫)

 

 作家なるものは自分の血肉臓物、培われた経験が文字や物語を生み出すのであり、

そういった意味では語る幼少期におけるどの体験も重要と思え、綴られる内容も興味深かった。

あと語彙は大いに越した事はないが、語彙は少なくても名作が書ける事実は存在すると主張し、

娼婦が照れ屋の船乗りに言う「大きさがすべてじゃない、どうやって使うか、それが重要よ」

というユーモアには一杯やられ大笑い。

あとプロットについての記述は印象的で、プロットは無理に作らずともよい、とするのは前衛的。

低俗な言葉も言い回しによっては光り輝く物だと実例を読んでは納得。

“ドライブスルーはクソしか食わせない”、

“片手に希望を置き、もう片方にはクソを乗せる。早く重くなるのはどっちかな”、

等といった言い回しはユーモア性に富んでは笑え、見習いたくなるウィットさ。

“作品とは誰か一人に当てた手紙である”

という詩的な言葉も印象的。

最後に載せられていたブックリストを参考になり、”小説”という存在に対する、見聞を広げる上ではうってつけの一冊!

 

 

 

『ソロモンの指環』

ソロモンの指環―動物行動学入門 (ハヤカワ文庫NF)

ソロモンの指環―動物行動学入門 (ハヤカワ文庫NF)

 

 内容としては、エッセイ調であって想像以上に読み易い。

同時に、想像以上に面白くて驚いた。

というか、ごく身近に居る動物の、如何に人間らしいことか!

それほどに動物は人情豊かであるのだとこの本を読んで知り、思わず興奮したほど。

コクマルカラスは人に懐き、一夫一妻をとり、夫婦としての日常を描いた視察は感心と共に驚愕的。カラスの離婚や略奪愛の報告も興味深く、嫉妬や引越しまでも人間と同様の心情を垣間見せ、その類似性にすごいなとつい思う。

あと宝石魚についての記述も好奇心を刺激され、宝石魚も種類によっては夫婦で子育てに専念するというのは意外。特に宝石魚が子供に対する愛情を持ち、行動をするという点には多少なりとも感動を憶えたほど。

ウサギなどの草食動物はおとなしく、逆に狼など肉食は凶暴。

然し実際の喧嘩を見るとその結果は反対で、ウサギの方が凶暴に喧嘩をし、狼では相手に致命傷を与えるような事はしない。

それは致命傷を与えられるからこその行為であり、狼や犬などは喧嘩に負け服従すると相手に急所を見せ付け差し出す、というのは大変に興味深く、勝利した方も急所を目の前にし、噛みたいけれど決して噛むことはできない、というはとても興味をそそられる行動!

それは自身の防衛機構でもあり、噛みたくとも噛むことのできない、そういった状態を脳が作る事によって繁栄に成功、よって先祖の遺伝を引き継ぎ噛む事はできない。

まさに合理的な解釈。

特に注目に値するのは、そのような行動が人間においても行なわれているということで、人も敗者となって服従する際には急所を相手の目の前に出す。さらにお辞儀などもそうした行為の一端で、急所を自ら相手の前に呈す事で、相手に信頼を示すと同時、攻撃できないという事を思わせている。そう考えると、お辞儀などもある意味では攻撃的なのだなと思えた。

著者による言葉、

「人間が大きく二分して争う事になった場合、ウサギのように戦うか狼のようになって戦うか。それによってその後は大きく変わるだろう」といった風に語っていたのが印象的。

 

 

 

『放浪の天才数学者エルデシュ

放浪の天才数学者エルデシュ

放浪の天才数学者エルデシュ

 

 偏狂(褒め言葉!)な天才数学者の生涯を綴った本。正直、この本を読む前ではエルデシュなる人物を知らなかった。然し内容は俄然として面白く、その面白さに気づけば時間を忘れ読み入ってしまったほど!

決して常識人でなく狂人の様だが、尊敬し愛すべき狂人でであり変人だった。

人生の変わった生き方の一つを示してくれた本。とてもいい一冊だった!

また、不死になる方法も述べており、思わずハッとさせられた。

 

 

 

『だからすれ違う、女心と男脳』

だからすれ違う、女心と男脳

だからすれ違う、女心と男脳

 

 男女間の価値観や意識の違い、それを神経科学的に解き明かしたサイエンス書!

この本は、世界平和の一端を担えるであろうスゴ本であり、間違いなく良書!!

男性脳と女性脳、構造の違いについて詳しく解説しており、とても分かり易く述べられている。

男女の仲違いを解決すべき立ち上がった科学書であり、それは原理を教えてくれるのだから坊主の説法よりも残念ながら効果がある。

むしろ裏技のような本でもあり、まさに『男女における違いを呈す大技林』。

異性に対して呟く常套句、

「男性(女性)の考えている事は分からない…」。

然しそれは当然で、脳の構造に違いがあるのだから!

それを解説、解明してくれる本書は解体新書のようなもので、現代人にとって脳の中身についてはかなり有益な情報。

一読して損はなく、必読と示せば昨今におけるカップルの崩壊や、離婚率も減るのでは?とさえ思えてしまう本書。一応サイエンス書ながらユーモアもあって文章も簡易的に書かれており、読みやすかったのも好印象!

 

 

 

『なぜ、あの人がリーダーなのか?―科学的リーダーシップ論』

なぜ、あの人がリーダーなのか?―科学的リーダーシップ論

なぜ、あの人がリーダーなのか?―科学的リーダーシップ論

 

 リーダーになるにはどうすればいいか?と指南する自己啓発書は数多あれど、リーダーの支援者、つまりフォロワーに焦点を当てた本は珍しい。

しかしそこにこそ、リーダーとは何たるかを示唆する要素に富み、重要である。

能力でなく、見た目で選別してしまっているというは過去の脳の名残。

人が何故、地位の高い人のゴシップを好むのかの説明もされており、それはもまた過去の脳の名残。脳の状態が昔のままなので、リーダーを選ぶ基準も昔のまま。

現代ほどの急激な進化に脳がついてきていないため、

今でも “身長が高く、端整な顔などの見た目要素に惹かれて選んでしまい、能力を度外視してしまう” などは過去の脳の遺産とのこと。

人間が200万前から始まったとしてそれを1日の時計にたとえ、現代を表すとすれば、それは午後23時59分を過ぎたところ。人類が誕生し昨今ほど進化したのは本当にごく最近のことと言え、故に昔の脳の本能を未だ存在させてしまっているというのも納得。

あと、女性を一人でも役員として入れている会社では、そうでない会社と比べて20パーセントも倒産の可能性が少ない、とする研究結果は特に衝撃的だった!

本書は“進化学的リーダーシップ論”というものを用いて独自にリーダーシップについての視察を行い、科学的つまり生化学的にもその概要を究明し、そこでは人の脳のミスマッチ性を大いに指摘。人間の脳による錯誤を本能の名残として捕らえ、解説する様は実に分かり易く、共感の得られるものであった。

 

 

 

『エスプリとユーモア』

エスプリとユーモア (岩波新書)

エスプリとユーモア (岩波新書)

 

 ユーモアとは何か?

その歴史を序章でこと細かく述べ、ユーモアの本とは思わぬほどまじめな内容。

そこすら皮肉でユーモア的に感じる本書は、ユーモアとは何かを過去の研究者からの供述を抜粋する手法で解説し、多少なりとも理解が困難なのは“ユーモア”という存在自体が雲のように捉えがたく、また時代によっても変容するからだと思い知る。

ユーモアやエスプリに関する引用も多く、笑える小話多数。

またアメリカとイギリスでのユーモアの違いについての知見も興味深く、「アメリカのユーモアは悲観・批判的に対し、イギリスのユーモアは現状を過大に評価する表現」との解説は分かりやすい上に「なるほど…」と思わず唸ってしまったほど。

笑える上に、叡智が身につく良本!

 

 

 

『博士と狂人』

博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話 (ハヤカワ文庫NF)

博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話 (ハヤカワ文庫NF)

 

 ものすごい端的に言うと、昨今アニメ化もした『舟を編む』の英国版。

読み終え、先ず思ったことは、まさに「小説は事実より奇」ということである。

バタフライエフェクトのように、細かい事象の積み重ねが、この世界最高の辞書と称される『オックスフォード英語大辞典』の開発に係わり、もしも○○が起こらなかったら、こうした辞典は完成していなかったかもしれない。

そう思うと感慨深く、読書後には暫し不思議な気持ちに苛まれた。

まさに奇妙な人生。それも実話なのだから、やはり凄い。

ノンフィクションとしては十分に楽しめ、そして辞書に対する概念を変えるだけの影響力ある本だった。

 

 

 

『壊れた脳 生存する知』

壊れた脳 生存する知 (角川ソフィア文庫)

壊れた脳 生存する知 (角川ソフィア文庫)

 

 思いのほか感動した一冊!

著者は患者本人であり、脳に障害を負った後の症状を綴った内容。

しかしこれが一般的な闘病記と異なるのは、著者が医者ということであり、よって自身の症状をほぼ正確に把握(現存する医療知識として)し、自分の状態をそうした知見に照らし合わせて客観的に記した点にある。

しかし主観的な客観であるのは間違いなく、完全な客観が存在しないのと同様、主観感が豊富であるが、脳に障害をおったとは思えぬほどに自分の症状へ対する表現は分かり易く、そして神経心理の医者が認めるほどに、その表現は的を得ている。

この本を読むと、病気でない人々は、如何に病状にある人々のことに対して無知であるかを思い知らされ、情報過多となった昨今の中、このような情報に対してどれほど知識が乏しいのか!それを大いに実感させられた。

人間の脳に関する摩訶不思議さを十二分に感じられる体験記であり、それはもはや神秘的ですらある。

失う事で初めて、当たり前にできた行動の尊さを知る。

著者は自らの症状からそれを知り、同時にこと細かくそして出来るだけ正確に、そのことを述べてくれている。この本を読み、新たな発見があるとすれば、先ず挙げるべきはそこであり、我々をわれわれと認めるため働いてくれているそれら器官に、感謝すべきだと教えてくれる。

一人の人生を追体験させてくれる、といえるほど内容には迫力があり身に迫るものがあっては同時に独創的。想像以上に影響を受けるほど、示唆に富む本であった。

 

 

 

『なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか』

なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか (ハヤカワ文庫NF)

なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか (ハヤカワ文庫NF)

 

 著者はあくまで懐疑主義であり、科学的見解から誘拐されたと主張する人々の症状を追及する。

先ず興味深く思えたのは、記憶とは、実に簡単に偽装されるという事だ。

人間の記憶の曖昧さについてはある程度知っていたが、これほどとは露知らず。

人は皆、催眠状態に関わらず、いとも容易く自分にとって都合の良い記憶を形成してしまう。特にこういったエイリアンに誘拐された、という強烈な偽りの記憶の場合、強烈だからこそ当の本人はそれを真実だと思い込み、自身の中で真実にしてしまう。

最後の6章目では

“なぜそのような妄想を持つに至ったのか”

を述べており、その結果がなかなか深い。

人は皆、何かに寄り添って生きている。

自身の悲観を、何かに擦り付ける事によって、一個人の悩みや思い込みやしがらみは軽くなり、解き放たれる。

特に印象的だったのは、エイリアンに出会った人というのは、最悪の出来事にこのことを挙げながらも、最高の出来事としてもこの体験を挙げている事!

著者の経験上、最悪な出来事と最高の出来事を同じと言う人に、今までに出会った事がないという。そしてその例えのユーモアは秀逸だった(交通事故にあった人で、最高の出来事が中央分離帯に逆さまになって時速120キロで突っ込んだことと言う人は居ない)。まとめ方も、締め方も綺麗であり、なかなかの良書だった!

 

 

 

『顔の本』

顔の本

顔の本

 

 ある種ネタ本。

顔のパーツの特徴を見ることで、その人の内面性を明らかにする本。

信憑性は完全ではないにしろ、話題の提供には一役買いそうである。

この本を読み、最も有益だとする点は、この本を読んだことで人の顔を見るのが興味深くなり、そして面白くなったこと。

述べている顔の特徴にまつわる性格、それを友人知人の顔に当てはめてみると案外当たっている気がしたのもまた面白い。

ネタ本ながら、生活が楽しくなる一冊ではある。

通りすがりの人を見て、「おっ、あの人は性欲強いな」等と分かるようになるのだから。

 

 

 

 

哲学

『自殺について』

自殺について 他四篇 (岩波文庫)

自殺について 他四篇 (岩波文庫)

 

 人が死を恐がるのは、

時間という概念を崩されるからだとするのは面白い考えだなと思った。

因果律の崩壊は人生の時間を否定し、自己の存在を脅かしては人を恐怖に至らしめる。

人は不幸という幻影を恐れて幸福という幻影を捜し求めて彷徨う。

印象深かった言葉は、”裕福というものは退屈という名の拷問の手に渡される”。

そして、人は困難や窮屈などを自ら探し求めては、それを見つけて嘆く、というのは人間が元来持ちえる矛盾性のようでもあって、人間たる種の皮肉さを思い知る。

人間がこうして生を悩み死を恐れるのは、時間を客観的に観測できるからであり、他の動物はこれが出来ないが故に死を感じず感知せずそして恐れない、なるほど、と思うと同時に多少なりとも他の動物を見下し過ぎているようにも。

あと仏教やらキリスト教やら様々な宗教の概念を交えて語っていたのが印象的。

中でも、ユダヤ教をクソだとこき下ろしていたのも印象的で、少し笑った。

最後、“幸福な人生とは不可能なものである”という衝撃的な言葉で終える本書。

然しその真摯は、人間の人間たる所以を評した言葉に過ぎず、時間を隔てて納得できる言葉。

すごい本であり、何度かは読み直そうと思い、読み直したいと思える本であった。

 

 

 

『幸福論(1部)』

幸福論 (第1部) (岩波文庫)

幸福論 (第1部) (岩波文庫)

 

 ヒルディによる幸福論。

といっても中身は”ストア主義”について述べられた物であり、しかしその内容は趣旨どおり簡素で簡潔ながらも真理をつくようなものであり、読んでいてハッとする事多数。

「真理は驚くほど単純でアカデミックな肉付けを求めたがる」

や、

「いつでも不幸を慰めてくれるのは仕事と愛である」

といった言葉が印象的。

衝撃受ける格言、名言多数で、この本も人生の一冊に成り得る濃厚さ。

本書はまさに、俗人にとっての聖書といえるだろう!

特に読んでいて衝撃を受けた言葉は、

『そもそも世の善は、第一に、世の悪を滅ぼすためにあるのではない。悪を滅ぼすことは、悪人が自分たち同士で、すこぶる手際よくやってのけるものだ。善はただ生きて、決然として自分の道を行き、そして自分を示せばよいのである。』

というもので、その後に続く

「現在の世界に欠けているものは、決して善に対する感受性ではない。今日欠けているのは、むしろ善が実行できるという信念である」

というもの至極名言。

神の存在についての言葉、「神は説明できないこと事態が、神の存在の説明である」というのは言葉遊び的真理に感じ、その後に述べられていた「人は誰しもが無神論者である」という言葉も併せては実に深い。あと、ローマの大守がパウロに対し「お前は気が狂っている」と言ったという、小話には思わず爆笑した。

 

 

 

『馬鹿について―人間-この愚かなるもの』

馬鹿について―人間-この愚かなるもの

馬鹿について―人間-この愚かなるもの

 

 成る程、人間なるものは結局その思考には限界があり、神の存在を証明できぬように、その逆もまた然り。故に人は宗教を作り、心のよりどころを作る。

その思想も宗教も歴史を見れば繰り返しであり、結局はアリストテレスの現実主義、プラトンの理想主義、そして神秘主義の三つに大きく分類されるのだと歴史が証明。

浅はかさことが人間の英知であり特徴。

序盤の強烈な馬鹿批判はもはや痛快であり、馬鹿を白痴扱いするところなどユーモアのセンスすら感じたほど。

人はみな馬鹿だが、馬鹿を隠したがる。

その理由の一端を知れる本書は、なかなか刺激的。

「分裂症者は戦場にて役に立つ」という言葉は印象的。

人間の滑稽さを謳い「愚鈍最高!」とする一冊。

実に啓蒙深い内容であった。

 

 

 

『読書について』

読書について 他二篇 (岩波文庫)

読書について 他二篇 (岩波文庫)

 

匿名を用いて批判する行為、を批判する内容が痛烈。

ショーペンハウエル」が現代に生きていたら、「2ちゃん書き込み」にマジギレしてただろうな…」と思わせるほどには匿名による批判をけなし、罵倒する姿は大袈裟で少し笑ってしまったほど。

表題”読書について”は最後のほうにあり、ページ数は意外なほど少し。

然し内容は濃く、ためになる内容。

重要なのは、何十年も前に書かれたこの内容が、今現在においても全く同様のことが違和感なく言え、さらに今でも十分に真理を付いているといえる点!

また、駄文や駄書を生み出す諸々の作家批判も痛快でユーモア感じるほど辛辣。

印象深い言葉も主張も多く、読んで良かった、出会えてよかった、と思える一冊。

迷う事無く”スゴ本!”と人へ評せる一冊で、名本だった!

 

 

 

 

 小説

『不思議のひと触れ』

不思議のひと触れ (河出文庫)

不思議のひと触れ (河出文庫)

 

 最高の一冊!

人はなぜ小説を読むのか?

人はなぜ映画を見るのか?

人が娯楽作品を嗜む理由を端的にも示す表題作は真理的であり、余韻が長引き衝撃を受けた!

 

 

 

『われはロボット』

 有名な古典的SF作品で、去年にようやく読んだ。

内容としては娯楽作品らしく読みやすく、アイロニー的であり感慨深くもあってユーモアも効いている。

有名なロボット三原則を逆に手玉とし、それらを利用して作り出すトラブルや世界観、ロボットのジレンマによる事件事故はまるでミステリー小説の如く筋書きがあって楽しめ、謎解きをも楽しめるSF推理小説であり、娯楽作品としてかなりの上質具合!

SFは、最後にどんでん返しがなくとも、このようにミスリードをすることで十分名作になると呈す、手本のような作品!

これが半世紀以上の前の作品だというのだから、驚嘆以外の何物でもない!

そして、所々に何食わぬ顔で出現する学術造語も近未来間を適度に強調し、これぞSF!的な雰囲気を醸しだす。

“不朽の名作”と大打つのも納得の作品であり、間違いなくスゴ本。

あと、この作品の舞台となっている年代を、現代が既に通り越しているのは、感慨深いものである。

 

 

 

『月は無慈悲な女王』

月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫 SF 1748)

月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫 SF 1748)

 

 フリーランチ!

インカム・ディンカム!

 内容・文体は予想外に比較的ライト。

政治的観点を重要視しながらもあくまで娯楽作品として深入りし過ぎず、ストーリーを際立たせるためと一線を引いていたのは秀逸。

個人的な感想としては、とにかくマイクの存在感!まさにアメリカ版の“ドラえもん”といった具合で、その万能さは半端ない。

そのユーモアあり親しみある口調は特徴的で、すぐにこのキャラクターが気に入った。あとは自由主義を強く主張する内容なのはさすがアメリカ、といった具合で、独立心の強さが随所に垣間見えた。

タイトルの美しさに引けを取らない内容の作品。

名作だった。

 

 

 

『冷たい方程式』

 古典的名作SFの一冊。

読むと実に面白く、然し好みが分かれそうでもあった。

『過去へ来た男』、これがとんでもなく面白くては、思わせるのは昨今に蔓延る異世界に行く物語であり、ラノベでもよくある何世紀も前の世界を描いては、そこでの生活を史実に沿うように綴る内容!

実にリアリティがあって、現実的には現代の人間が当時の世界に行こうと無力であるという現実を知らしめる。これは文句なしに面白い作品だった!

これはベストSF集だが、そのSFは単にサイエンス・ファクションなのではなく、そのSはサイエンスの他にサスペンス、も含有しているように思えた。

故に娯楽性の高い作品が多く、読むごとにハラハラさせられては楽しめた。

そして、どれもが完成度高かったのも事実であり、期待通りのクオリティ!

 

 

 

『SFベスト・オブ・ザ・ベスト (下) (創元SF文庫)』

SFベスト・オブ・ザ・ベスト (下) (創元SF文庫)

SFベスト・オブ・ザ・ベスト (下) (創元SF文庫)

 

 収められている作品は、どれもが想像以上に個性的。

超心理学をテーマにした物から、日常を象った作品まで多種多様。

バリバリのSFというよりかは、幻想的なSFが多いように感じたのも特徴的。

そして印象的なのは、どれもが面白くてすぐに世界観へ引き込まれ、あっという間に各短編を読んでしまっていた事!

巧みな文章の際立つ作品多し。

さすがベストオブベストと銘打つだけある一冊に思えた!

 

 

 

『NOVA 1---書き下ろし日本SFコレクション』

 先ず感想を一言で表すなら、想像していたい以上にSFしていて実に面白かった!

「黎明コンビニ血祭り実話SP」、題名からして「ん?」と思ったが、内容はなかなかハード!素晴らしいのはその表現力であり、難解な設定を見事に生かして描き、ミスリード的内容を錯視するが如く読ませる文章には感嘆し、これぞSF!と読みながら思え存分に楽しめた!

そしてこの作品は“小説”という媒体を巧みに利用し描いた作品で、その辺りの工夫にも関心し、さらにグロテスクさを表現する巧みな文章が目立ち、気持ち悪くおぞましさを感じさせるその文章力は素直に凄いなと思った。

円城塔の「Beaver Weaver」も面白かった。

特有の難解さは健在で、相変わらず鉛筆でボールペンを作ろうとするようなその文体は癖が強く、けれどその癖の荒さゆえに説得力も魅力も混在。相変わらず引き込まれ、癖になるような文体。話の内容としても多少難解ながらも、意外なほど今回は容易にその話の内容が理解でき、一読で素直に楽しめた。

全体的には当たりはずれが激しいながらも当たりが多く、特に「黎明コンビニ血祭り実話SP」や「Beaver Weaver」あたりは面白く、しっかりと「SFを読んだ!」という充実感に浸れるものであり満足できた。

 

 

 

ゼロ年代SF傑作選』

 心に響いた名文。

 

「エロい本であるところの二次元‥が男子を三次元的立体として屹立させるとしたら‥本物の女の子=三次元は、男子の全身を四次元的に昂ぶらせることが可能ではないかと‥」

 

 

 

 

アルジャーノンに花束を

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

 

 最高の感動作!

人間の本質を鋭利に鋭く描き出すその内容は真摯に富み人間の本性を暴いて晒す。

とにかくスゴ本。

この作品は人間性の是非に問い欠ける非常に啓蒙深い作品。

期待にそぐわず、いや期待以上の、凄く良い作品だった!

今ならブックオフにおいて108円でもよく見かけるので、未読の方には是非ともお勧め!

 

 

 

 

 

去年はけっこう読書ができた。

 

そこで思うのは、

 

読書は食事に、そしてパートナー探しに似ている、ということ。

 

 

読む本の内容、しっかり咀嚼し反芻して飲み込めば、其れは己の血となり骨となり肉となる。

 

たかが本。されど本。

 

その魅力に魅了され、無限の叡智を持つその存在は、偉大でありながら身近に居てくれ、スパイダーマンの如く親しい隣人と思わせる。

 

そして、読書は最高のパートナー探しにも似ている。

 

数多ある文字群に埋もれた一文を、
己の、己のためにある、その一文を生涯においていつか見つける。

そこで人生は大きく変わる。

 たかが本。

されど、本なのだ!

 

そんな風に思える、去年は読書習慣を身につけた一年だった。

 

新たな試みで読んだ小説一冊。

 

ふとした思い付き。

いつもなら、小説を購入する場合には

評価やあらすじなど、事前情報を知った上で購入。

もしくは、好きな作家である場合に購入。

 

しかし新年早々、ふと「全く事前情報もなしに先入観もなしに一冊選ぶのも面白いかも」と思い、なんとなくの直感で購入したのが

 

背徳のメス (新潮文庫 く 5-3)

背徳のメス (新潮文庫 く 5-3)

 

 

この一冊。

 

検索せず、先入観なしで読み始めた一冊。

するとなかなか面白い。

賞を取った作品らしく、それも納得の展開とその描写。

 

 

ハードボイルド系の文体に、医療ミステリーの内容。

題名どおり人の倫理に焦点を当てた作品。

そして人間の汚らしい部分を、これまたリアリティを追求したように、あえて表面化し切らずに描く部分については、いやらしくも切実に感じた。

暗喩的、それでいて露骨な嫌がらせほど人間の醜さを呈するものはなく、それは悪意の塊であってどす黒く、けれど端的に声を上げて批判は出来ない知能犯的行為。

その厭らしさを存分に見せつけ、さらにサスペンス要素もあって「犯人はどいつだ?」と思考をめぐらせる楽しみも。

人物像や町並みの描写には多少古臭さを感じさせながらも、それはどこか懐かしい駄目人間、色褪せた昭和テイストであって、情緒ある古いポスターを見かけたような懐古さを想起する。

心象描いた作品としては、逆の意味で魅力たっぷり。

歪でどす黒い人の”闇”部分を描いた点に評価という”光”あり。

人間のモラルについてを問う内容でもあって、たとえ傍から見て性的に不埒でも、それが直接は屑となる要因ではない、そう思わせてくれる作品ではあった。

 

 

 簡略し端的に述べれば、

やりチン主人公に、世捨て人となりつつある三十代看護婦長と、威張りつくす科長などによる、病院という封鎖空間によって生じる人間関係のもつれ。

貞操のない主人公に淑女ならぬ看護婦の方々。こうして綴れば青年向けの作品かと思われようが、そこは大丈夫。性に対する扱いはあくまで2次的であり、メインは人の心に潜む闇。ブラックジャックも名前負けする内面の黒さを各々が隠し持っては徐々に種あかし。

医者の倫理も、権威の維持にはひざまずく。

エゴたっぷりで性善説を否定するかのような内容であり、

そんな中で印象的なのは、主人公によるこの発言。

 

人間て奴はね、一つの面だけで生きているんじゃないんだよ。

人間も三十半ばになると、色々な垢を身につける。

だがね、その垢を落とした時、中身まで腐っていたら、その人間はお終いだよ。

 

 

 

 

 

読書とは、ある意味において”恋人探し”に似ている。

自分と実に波長が合い、そして自分にとって安らぎを齎し、成長につながる相手を求める点においては同様であり、そしてそういったパートナーを見つける難しさもまた同様。

 

偶然、手に取った本が感銘を与えてくれて、その後の人生が一変。

有り得ることだが、おおよそ有り得ないのは、己の歯車にピタッとはまる、本がほぼ存在しないが故のこと。読んだ瞬間、感銘を受けてもすぐに忘れたり、影響を受けたように思えても生活リズムに変化が生じないのは、その程度の本に過ぎなかったという証拠。その本が読者にとって大した物じゃなかった、という事に過ぎない。

 

だからこそ、本と出合いは似ている。

人にお勧めされたからとって、実際に試してみると、自分と相性が良くないことが多々ある、といった事実も類似性を醸している。

だからこそ、「これは!」と思える出会いは稀であり、もしも出合えたならば、それは歓喜すべきであり感謝すべきこと。

 

 

 

 

 全く無知の作品一つを事前情報入れずに読書。なかなか良い試みであったと思う。

少なくとも本書に関しては、決してはずれではなかったといえる。