
- 作者: 西尾維新,VOFAN
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/05/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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正月に映画『傷物語Ⅰ 鉄血篇』を観ては、そのあまりの短さと内容の乏しさに失望。
「もう映画じゃなくていいや…」と原作本に手を伸ばし、ようやく読んだ一冊。
感想。
一概に「とても面白かった!大名作!」とまでは言えないが、
上手い具合にまとまっていたな、という印象。
中盤までの流れは正直ありきたりで、会話劇もあまり広がり見せず読ませず。
登場する刺客三人とバトルは、その顛末までを含め、あまり盛り上がりを見せず、高揚感は希薄。
しかし終盤からはグッと持ち直し、盛り上げる内容。
本書は倫理観に問い掛ける部分が多く、故に従来の物語シリーズと違い、登場人物同士の会話を楽しむのではなく、倫理について主人公と読者が会話を繰り広げるような、読者に対する問い掛け多いのが特徴的。
主人公に感情移入と同時、その思想を吟味し会話の如く反駁すれば、読み応えあり。
話の結末には色々な意味で意表を突かれた心地。
然し内容を反芻すれば、そもそも最初に○○すればいいのでは?との疑問は当然浮び、そういった理不尽さこそが元○○、という設定を生かしているのだろうか、とつい思う。
よって、この物語はストーリーに整合性ばかりを求める読者には茶番に映るの請け合いで、結末までの顛末に含まれる面白さには気付き難いのでは?
ただ最終決戦の描写は分かり易く迫力あって、誰しも楽しめるハチャメチャ具合。ここは是非とも映像で見てみたくなる内容だった。
主人公が最初に語る、“この話はバッドエンド”。
然し ”バッドエンド=後味悪い” といった概念を良い意味で払拭、もしくは”何をもってバッドエンドとするか?”と問い掛けるような内容。
それこそ作中において幾度も語っていたように、結局、物事の良し悪しは、見る立場によって大きく変わるのだと体感させてくれた。
見事。
読み応えのある作品であったのは間違いなく、なかなか楽しめた。
けれど、妙な卑猥描写はいらなかったのでは?と誰もが思であろう事を、思わずには居られなかった。
古典名作『シュリ』が、「一ヶ所として軟弱なところ、冗漫な文章、陳腐な表現もない」とジッドに言わしめたが、もしこの傷物語を読ませれば「冗漫な文章ばかり!」とジッドに言わせるだろう。
尤も、それは物語シリーズにとっては、褒め言葉でもあるのだけれど。