アイザック アシモフ 『ゴールド―黄金』
短編+エッセイといった内容。
本書としては短編よりむしろエッセイの部分に読み応えあり。
そこではSFに対する思いからSFの存在意義、さらにはSF小説作法についてまでの考えが述べられ、アシモフファンのみならずSFファンにはぜひとも読んでもらいたい内容が目白押し!
個人的には、小説作法に関するエッセイの中にある
”書き直し”
と題したにエッセイが特に面白く、ユーモアに溢れていた。
ここでは、「はたしてどのような書き方が一番よいのか?」として、
アシモフはハインライン流の最初の一回目で正しくタイプする方法や、作家会議で「いい作品を書く秘訣は書き直しだ」と聞いた方法など、自らいろいろと試してみたことを述べる。しかしどちらのアイデアもアシモフ氏にはしっくりこず、むしろ効率が悪くなったそうだ。
そこで気づいたのは、
「どんあことであれ、その道の権威(わたしを含めて)が言うことを、そのまま鵜呑みにしてはいけないということだ」
との結論に達し、それを言ったら元も子もないが、実際真実であると思うし金言であるのは間違いない。そして気づいたように、作家もまたそれぞれ独立したスタイルを持っているということであって、そこで挙げたエピソードが面白かったので抜粋
かつて昼食にやってきたオスカーワイルドが、午前中は何をしていたのですかとたずねられたことがある。
「ずっと仕事をしていました」と彼は答えた。
「ほう、だいぶ進みましたか」と相手はたずね返した。
「ええ、だいぶ」とワイルド。
「コンマをひとつ入れました」
これだけでも十分に面白いのだけれど、さらに続きがあって
夕食の席で午後は何をしていたのかとたずねられたワイルドは、「ずっと仕事です」と答えた。
「もうひとつコンマを入れましたか」と相手は皮肉っぽくたずねた。
ワイルドは平然としてこう答えた。
「いいえ、午前中に入れたコンマを取りました」
この項は実に面白く、”書き直し” といった行為が作家にとって如何に重要かよく分かり、神経質な性質でなければ無理なのでは?とさえ思わせる
ダニエル・キイス(『アルジャーノンに花束を』の作者)言葉だったと思うが、こういうのがある。
「作家のいちばんの友達とは、よけいな修正を入れる直前に撃ち殺してくれる人だ」
エッセイでは他にも、プロットについてやキャラクターの名前の付け方、1巻完結ではなく連続物のシリーズが出るのはどうしてか?などといった業界における裏話、トリビア話も満載であり、SFに興味があるならば一読して決して損はない内容!
おすすめ。