ブランジュリタケウチ どこにもないパンの考え方
有名なパン屋さんである『ブランジュリ タケウチ』のシェフ、竹内久典さんによる本。
そしてパンの本では珍しく、レシピ等は一切記載していない。
この本はシェフのパン作りに対する姿勢、思想。
それを述べた本。
中身にはカラー写真が多く使われており、鮮やかなパンの姿を数多く眺めることができる。
読んでいて思うのは、そのパンにつくりに対する真面目さ。
例えばオリーブを使ったパンを開発する場合、生地との相性はもちろんこと、オリーブとあわせる副材料、生地の最適重量、それらにも気を配る。
それでいて、主役であるオリーブが最大限、生かされるものを作り出す。これだけでもいくつもの段階があり、思い描いたものをそのまま実現化させるのは難しい。
凄いのは、その思い描いたものを妥協せずそのまま実現化させるところだろう。
そして太っ腹なのは、細かい分量のレシピは載せないとしながらも、こういったパンの開発秘話、作り方等は大っぴらに公開しているところ。
しかしただ書いてある通りに作ったとしても、それは別のものが出来上がる。
それは細かいレシピが無いためであるのはもちろんだが、仮にこと細かいレシピが載っていたとしても、ここと同じものは作れない。
それほどに、パンというのは繊細だから。
例え全く同じDNAの人間がいても同じ性格にはならないのと同様、パンも外部からの影響にとても左右されるからだ。
本書では、新たにパンを作る際に生まれた課題、その解き方も述べてくれている
例えばこの様な場合。
ハード系の小さなパンは焼くと固くなりやすい。
その解決策。
焼き上がりにオリーブオイルをぬったら?
そのアイデアを試すと、効果は覿面。
すると生地に油がしみ込んで表面のパリッとした食感は増し、時間をおいても固くならない。オリーブの香りもいい!
ためになるアイデアも満載。
そのうえ、製作過程でのエピソードにはどれも臨場感があり、試行錯誤の繰り返し方は、それだけでも参考になる
また、小さな型で焼くというブドウパンにおいては、
小さい型を使う場合、しっとり柔らかく仕上るには、焼成時間は出来るだけ短いほうがいい。
そこで、熱の入り方を均一にするために型の内側にテフロン加工をほどこしたり、焼き色が早くきれいにつくようにレーズンを増やして生地の糖度を上げるなどして、焼き時間を15分から12分に短縮した。
また、型に生地をパンパンに詰めることも大きなポイント。型に対して9割程度、この大きさの型に食パン1斤分くらいの生地が入っている。そして生地があふれ出ないように最終発酵をごく短時間で切り上げ、230℃前後の比較的高めの温度で一気に焼き上げる。
こうすると中はしっとり、皮も薄く焼き上がる。
という、ある決まった形に焼き上げる際のポイントを、これでもかと述べている。
経験則による情報は環境により左右される事が多いが、その上でもこれは応用が効きそうであり十分に有益な情報であると思う。
また、原材料に対するこだわりも随所に見られ、原材料の良さが品質の良さにそのままつながる実例と言ってここのパンは良さそうに見える。
読んでいて少し驚いたのは、ここのバゲット、クープを入れたものと、クープを入れていないバゲットの2種類を焼いているという事。
普通、バゲットにはクープを入れるのが普通であり、クープなしでは生地の表面がパンパンに膨れ上がってしまい本来の美しい姿には仕上がらない。
しかしクープをあえて入れない事で、皮が薄くふわっとしたバゲットが完成。
これを「ガリッと固いところがなく口どけがいので、レストランいは向いてるのでは?」とするのはまさに逆転の発想.
ただそれら素晴らしいバゲット、そこの記述には
自分でもなぜうまく焼き上がるようになったのか不思議で、説明できないのだけど、経験の蓄積と熟練した感覚が頼りだから、うちの店でも僕と森君か作れない。
これを人に教えるのは正直無理だと思う。
とするのは残念。
パン作りには神秘的な部分が在るのも大きな魅力ではあるが、理屈が分からないまま行う時代錯誤的な部分が多いのも事実。
時代が経ち、これまどまでに発展した現代の化学。
その力をより活用しても良いのではないか?と常々思ってしまう。
その中でも、イーストフードを敵対視する姿勢にも疑問を持ってしまう。
どんな物質であろうと摂り過ぎてしまえば毒になるのは当然の事。なのでその許容範囲に収めれば、問題はないはず。
パンにイーストフード等の添加物は不要。だからといって、無添加のパンそのものを多く食べてしまえば、当然体には害が生じる。
さらに最近の研究では、野菜などが体に良い理由は、その微量な毒性が体にストレスを与え、その抗原抗体反応による恩恵との結果も示されている。
つまり毒素であっても安全の範囲内であれば、それは逆に体にとって良い影響を与える事もあるということだ。
漫画バキの、勇次郎が語るこの言葉、
「防腐剤…着色料…保存料…、様々な科学物質、身体に良かろうハズも無い。しかし、だからとて健康にいいものだけを採る、これも健全とは言い難い。毒も喰らう、栄養も喰らう。両方を共に美味いと感じ、血肉に変える度量こそが食には肝要だ。」
これは正しい模様。
えらく脱線したが話を戻すと本書、内容はパンに対する事のみならず後半にはお店に対するコンセプトやディスプレイに対するこだわりも述べられており、さらに後々半にはパンの粉についてやその形、さらにはお茶に合うパン、お酒に合うパンなどについての商品の紹介もあり、思いのほか読み応えのある一冊。
パンレシピが無くとも、パン好き・パン作りに興味がある人にとっては、なかなかの良書であると言えるだろう!
パンに関わりを持つ人には、一読の価値が在ると思う。