料理の科学
- 作者: ロバート・L.ウォルク,Robert L. Wolke,ハーパー保子
- 出版社/メーカー: 楽工社
- 発売日: 2012/12
- メディア: 単行本
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「真剣に料理に取り組んでいる人なら、必ず手元に置くべき一冊。
料理の基礎原理を噛み砕いて説明してくれる本書を読めば、自信をもって整然と料理を進める力が沸いてくる」
リディア・マティチオ・バスティアニッチ
料理や調味料、または料理をする上で疑問に思ったことが質問として投稿されており、著者がそれに答えるQ&A方式の内容。
質問は事細かくあり、興味がある分野からでも読めるので手軽であり、そしてどのやりとりも面白い。
料理における科学的プロセスはためになり、理論立てて料理する事はすなわち失敗を減らす事になる。
なにより面白いのは著者の軽快なノリ。
科学、と名が付くと難しく堅苦しいものだと思われがちだが、この本にそのような心配は皆無。
ジョークを交えながら出来るだけ専門用語を使わずに科学的要素を述べる文体は、単純に読み物として面白く、そして楽しめる。
それでいてしっかりとためになる知識も身に付くのだから、まさに一石二鳥。
例えば一つ、印象に残ったやりとりが、
「一晩寝かせて」って何時間?
という問いと答え。
確かに「一晩」という表現は色々なレシピでよく見かける。
「一晩マリネします」「一晩浸けておきます」「一晩寝かせます」等だ。
著者はこの「いったい「一晩」ってどれくらいの時間なの?」という質問に対し、こう答える。
まったく同感です。なぜ一晩なのでしょう?日光がマリネの進行を妨げるとでもいうのでしょうか?
(省略)
色々と配慮してレシピを書くのなら、読者が自分のスケジュールは自分で決められるような配慮もしてほしいものです。
一晩ではなく、何時間かを書いてください。私たちはもう大人ですから、寝る時間くらい自分で決めたいものです。
ジョークを交えた秀逸な回答。
こんなやり取りが繰り返されるのだから、読み手も飽き難い。
当然、ジョークのみで終わる事はなく、この質問に対してもしっかり回答はしている。
いわく、一般的に「一晩」は8時間から10時間の意味で使われ、12時間でも問題ないとのこと。
しかしこの様な疑問は誰でも気付きそうでなかなか気付かず、言われてハッとする。
そのような質問が多くあり、著者の回答のみならず、質問側の鋭さも見事。
ある程度にまで料理を嗜むようになると、まるで料理に対し全てを知っているかのような傲慢さを得がちだが、料理における科学的プロセスを理解しながら料理をする人はごく少数に思える。
それはレシピ通りに作ればできるからであり、また料理は慣れることで何とか作れてしまうからでもある。
しかしそのレシピのその手順、なぜそうするのか?
何故そのような工程がいるのか?本当に必要か?
科学的な理由を知ることにより納得でき、より効率的にそして科学的に”美味しい”というものを作り出せる。
科学的に”美味しい”とは、すなわち”万人に対する美味しい”である。見栄やお世辞で”美味しい”と評された、焦げ付くそれら料理では決して無い。
つまり客観性がない料理ではいわば”主観による美味しさ”であるが、科学と言うメスが入る事により、ようやくそれら素人の料理は客観性を帯び”美味しい”ものとしての定義ができる。
そう、素人料理では結局、”美味しい”の定義が曖昧なのだ。
家庭ではお金を取る訳ではないので極端にそしてストイックに”美味しい”ものを作り出す必要はない。そして自分が作る料理は自分の一つの作品であり、誰しも自分の料理を「美味しい」と贔屓目してしまう。
そんな状態の料理を、誰が胸を張って「美味しいもの!」と本気で主張できるだろうか?
当然、誰しも作るのならば美味しいものを作りたいと思う。
そこでレシピに従い、レシピそのままのものができる。
しかし原理も理由も知らずただレシピに従い闇雲に作るのはもはや料理、自分の作品といえるだろうか。それは本物を作るのではなく贋作を作り出すようなもの。
贋作でなく、自分の作品として”美味しい”ものを作るには、やはり知恵がそれなりに必要なのだ。そうでなければ、偶然にもそこに出来上がった”美味しい”ものは、もはや”雨乞いのために踊る”ような結果的な偶然に過ぎないのだから。
フランスのバターが美味しいとされている秘密も本書では明かされており、目から鱗。
フランス本場のクロワッサンは美味しい!とされているのは、そのバターに秘密が在るのでは?という読みは、決して外れてはいなかったようだ。
また、人間の味覚は嗅覚ほどには鋭くない、ということや、油と小麦粉を混ぜた物をフランス語で「ルー」と呼ぶ事など、雑学的な知識も得ることができる。
料理をしない人でも、単に読み物としてだけでも面白いのでお勧めできる一冊。
なので料理をする人にとっては必読の一冊だ!