ヘンテコピープルUSA
世界はやっぱり広い。そう思わせてくれる本。
奇人変人に著者が直接取材に行き、そのやり取りを収めた本。
あまり取っ付きやすい内容には思えないが、気付くと集中して読み入っている。
そんな本。
それは自分では気付けていないだけで、 奇人変人の彼らによる異様な熱量に引き込まれるからだと思う。
本に出てくる人たちは誰もがとても個性的であり、個性が在り過ぎるほど。
日本で俗に言う“個性的な人”とはレベルが違い、さすが本場、と思えるほど。
向こうの言葉で平たく言えば “ぶっ飛んでる” ということだ。
しかし、だからこそ注目に値する人たちでもある。
読み終えて先ず思った事。
それは「世界は広いな‥」ということであり、
ネットやラノベの作品では最近よく “異世界で…” みたいなものがあるが、現実世界においても十分に現実染みてないぶっ飛んだ奴らは居るんだな…と実感させられる!
百聞は一見にしかず。
これは真理であろう。
しかしそれでも、この本を読むと、その場に居ないにも関わらず、その場に居るような感覚に陥る。まるで自分が全く知らない世界に旅をしている気分になる。
実際にこの目で見ているわけでもないのに、実際に見聞が広がった気になる。
だからこの本はドキュメント本であるのと同時に、旅行記であるとも思う。
あとエピローグによる、まとめがとても秀逸であった。
著者はこうした奇人変人たちと合って話し、彼らの心底に張り付くあるものに気付く。
それは『信仰』だ。
彼らは自分を信じられていない。故に彼らは、心の拠り所を求めているのだ。
結局、人間は弱く、弱いからこそしがみつく。
それは強い人も弱い人も関係ない。
だから人は誰しもが何かに寄り添いしがみつくのだが、
本の中の彼ら奇人変人は、しがみつく拠り所が他の人とは違って陰湿であったり不可解であったりするが、それは彼らにとっての『信仰』であり『神』だったと言うだけの事なのだ。
その上ではそれが真実かどうかなど、些細な問題に過ぎない。
そう捉えると、どの人物のエピソードも興味深い。
内容に関していえば、アメリカの一部では売春が合法であると知って驚いたし、その州では売春がしっかりビジネスとして確立しており、さらに大学へ通う女性にはその学費の半分をサポートするという生活支援完備の売春施設があるというのも興味深くて面白い。
そしてハイになっている黒人ラッパーの実情も興味深かった。
彼らはすべてが真実ではなく、一部はキャラクターであり、一部は本物。しかしその本物すら、実際に自分でも“果たして本当なのか?”わかっていない。心の闇をこれでもかと見せられた心地。
そして熱心な人種差別主義者。これはもう、日本人には分かり難い感情であると思う。彼らの狂人染みたその思想は恐ろしいのだが、それが彼らにとってのアイデンティティであり彼らの信仰なのだから一目に文句は言えない。
それを否定する事は、実際に彼らがやっている事と変わらないのだから。
この本はイギリス人ジャーナリストらしくユーモアを含む本であるが、人間の本質について、強烈な示唆を述べている本でもある。
なかなか強烈な本であり、良い意味でも悪い意味でも引き込まれる内容だ。
そして世界観が広がる本でもある。
自分さがしをしている人は、今手に持っているインド行きのチケットを捨てて、代りにこの本を取ってみてはどうだろうか?
少なくとも、あなたの周りの人物は随分とまともに見えるようになるだろうから。