玩具修理者
けっこう有名な作品。内容は表題作と、『酔歩する男』という中篇小説。
感想は表題作ではなく、より印象的だったその『酔歩する男』について。
簡単にあらすじを紹介すると、男がバーで摩訶不思議な事を言う男に声を掛けられ、
気になり、事の詳細を聞き始める。すると…。
ほんの少々ネタばれで書くと、時間ループ物として有名とされる本作。
その評判を知り、今回読んでみた。
もう少々ネタばれ気味の感想。
全く無知の状態のまま読みたい人は、読まないことをおすすめする。
時間ループもの、それも意識のみが飛ぶというアイデアはシュタゲを思わせた。
尤も、時期的にはこちらの方が断然早く、結構似ているので「シュタゲはこのアイデアを参考にしたのでは?」と思えたほど。
意識を飛ばすアイデアもシュタゲと似ており、脳を題材にしている点は面白いが、いっぽう方法が少し短絡的であり単純過ぎる気もした。
そして量子論のくだりは悪くないが、著者が少し無理をして書いている感は読んでいて否めず、その辺りに少しチープさを感じたのは残念。
それでもSFとホラーの融合は魅了があり、そして過去・未来へ行くというのは元来からある人の希望なのか、読み進めるとやはり引き込まれる。
あれ?こんなとこあったっけ。この店、ここにあったっけ?
無意識のうちに意識だけが別世界に飛んでいる。
そのような可能性、決してないわけじゃない。ただ、自分が気付いていないだけ。
別世界に飛んでいる事に気付かない。そんな可能性を示唆させてくる。
ホラーであり、しかしある意味ではロマンかもしれない。
もし世界は本当に多世界で出来ており、多世界での自分は全く違う人生を歩んでいるのだとしたら。
それはそれで面白い気がする。学校でのクラスメイト、職場での人間、現実では希薄な人間関係であるあの人と、別世界では深い親交をしているかもしれない。
現実の自分では全く考えられない生活をしているかもしれない。
しかしそれは間違いなく自分なのだ。
ただ、意識や生活が少し違うだけで、全く違う世界を生きている。
全く別の自分を想像するのも面白いものだ。そしてふと、とてもリアルな夢を見て「これはもしや別世界?」と思うと楽しく面白く興味深い。
脳の研究、そして夢の研究がより進めば、今後大きく新たな発見が見つかるかもしれない。
あらゆる可能性を示唆してくれる本作は娯楽としてはもちろんのこと、人間の意識の神秘さを感じさせてくれる。
自分の世界にひきこもりがち、または世界は一つのみと思っている方々には、新たな見聞を存分に与えてくれるだろう。
可能性についても、人生についても考えさせられる。
広義的に考えていくとより面白い作品。
シュタゲの元祖とも言えるかもしれない。
時間ループ物が好きな人は一読して損はないと思う。